伊豆高原へいらっしゃい[22]オジサンがネトゲやってみた
── 松林あつし ──

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ネトゲ(ネットゲーム)、オンラインゲームと呼ばれるものが、PCゲームの主流となって久しいのですが、みなさんやったことはありますか? ゲームなんて年じゃないけど、息子が今ネトゲにはまって困っている……というお父さんもおられるかもしれません。50歳60歳でもバリバリにネットの世界に浸っている、という方もおられるでしょう。私もAround45となってしまいましたが、やはりドラクエ、FF世代ですので、RPGの行方には興味を持っています。

そんなオジサンが、ネットゲームをやってみた体験談をお話したいと思います。ただ、ネットゲームと言っても、今ではあらゆる分野が存在します。テーブルゲーム、シミュレーションゲーム、アクションゲーム、育成ゲーム、RPG……一昔前テレビゲームと呼ばれていた頃に熟成されたゲームは、ほとんどネットゲームとして存在します。

今回はそんな中、MMORPGに絞り込みたいと思います(MMORPG=マッシブリー・マルチプレイヤー・オンライン・ロール・プレイング・ゲーム)。簡単に言うと、多人数参加型オンラインロールプレイングゲームですね。テレビゲームにおけるRPGと、ネットでのRPG……最も違う点は、モンスターやNPCを除くほとんどのキャラが、その世界に参加しているユーザである、という事でしょう。



テレビゲームではおおむね以下のようなゲーム展開になります。
▼プレーヤーがその世界を救うキーパーソンとなって、決められたストーリーやイベントを見つけながらキャラクターを成長させる。
▼自分を攻撃してくるのは、決められたクリーチャーや敵である。
▼物語の進行具合で数種類のエンディングが用意されている。

これがオンラインRPGになるとこうなります。
▼プレーヤーはその世界の一住民でしかない。
▼自分を攻撃してくるのは、決められたクリーチャーの他に、意志を持った敵ユーザである。
▼初めて出会う味方ユーザと協力し、クエストをこなしたり、ギルド(組合)の構成員になり、コミュニケーションを取りながらゲームを進める。
▼キャラクターはテレビゲームと同じく成長するが、決められたエンディングは存在しない。

エンディングがないのですから、いつまででもプレイすることができます。では、何を目指してゲームをするのか、という事になりますが、これは人それぞれ違うでしょう。

僕の場合、ファンタジーの世界を体感できるという楽しみに浸っています。PCの性能が良くなり、ネット環境ではADSLや光ケーブルが当たり前になった事で、リアルタイムでのグラフィックも非常に美しいものになっているのです。

僕もそれほどのめり込んでやった訳ではないので、その神髄や醍醐味をイマイチ踏み込んで説明できないのですが、このMMORPG、のめり込んだらドラクエ中毒が話題となったのと同じで、中毒症状を起こします。ですので、やはり仕事や勉強の息抜きとしてやると割り切った方がいいでしょう。

●世界観が狭い無料MMORPG

しかし、初めてこの世界を体験した時は、そんな余裕はありませんでした。かなり昔の話ですが、Shadow Bane < http://www.shadowbane.com/us/
>という欧米系ゲームが全盛を迎えていた頃です。それまで、ネットゲームと言えば「東風荘」< http://mj.giganet.net/
>というオンライン麻雀をやるぐらいだったのですが、何気なくShadow Baneをダウンロードし、フリートライアルをやってみて、ショックを受けてしまいました。

中世を思わせるファンタジーの世界にいきなり放り出され、右も左もわからない……周りの人たちはみんな英語で話している……魔物を倒せばレベルが上がるぐらいしか解らない。街を出れば、行けども行けども延々と続く草原や森、砂漠……さんざん彷徨ったあげくに、遠くに微かに城の城壁が見え始める。近づいてみたところ、突然中から出てきたキャラ(プレーヤー)に殺される。

そうこうする内、日本人にも出会うようになります。コミュニケーションを図リ、ギルドに誘われ、入隊する事になります。ここで初めてこの世界の広さと仕組みを教えてもらえるのです。

このShadow Bane、今思えば特に殺伐としたゲームだったようです。しかし、その不毛で殺伐とした世界観が良いという場合もあります。行けども行けども新たな世界が展開する雄大さと、いつ殺されるかわからないという緊迫感が、中毒症状を誘います。考えてみれば、映画「ロード・オブ・ザ・リング」も「ベオウルフ」も魔物との戦いで沢山人が死にます。そんなファンタジーフィクションの世界に投げ出される訳ですから、キャラの生死をかけた戦いもあり得るのかなと思います。

このプレーヤーがプレーヤーを殺す行為をPKと言います。ファンタジー世界の一員として、戦争や抗争での戦いなら本来の姿なのですが、これが無秩序な世界での、感情的殺戮に置き換えられてしまう場合があるのです。Shadow Baneは無秩序な無法地帯となってからは、ユーザの数も大きく減ったようです。実際、僕がプレーしていた時ですら、ファンタジーゲームの要素は消え、某アジアの大国と日本人の殺し合いになっていました。ゲームが世界観無視の、民族間抗争となってしまったのでは、ユーザが離れてしまうのはしかたのないことです。

これが、MMORPGのダークな一面です。しかし、だからといって、これが政治問題に発展するわけでもなく、それに参加しているからといって、現実社会で暴力的になるとは思えません。なぜなら、そんな世界でプレーしていても、感覚としては子供の頃の「缶蹴り」や「ケイドロ」遊びをしている感じだったからです。

相手キャラを「殺す」行為は、人を傷つけようとする感情の表れではなく、自分のゲームキャラが相手より優位に立つ事の快感……つまり、ゲーム上の勝敗を競う感情でしかありません。これはスポーツにおける勝利願望と同じではないでしょうか。ただ、一度無秩序な世界になってしまったMMORPGは復活するのは難しく、運営サイドとしては、避けたいのでしょう。

現在の多くのMMORPGは、そんな過去のオンラインゲーム社会のあり方を反面教師としている節もあります。完全にPK行為ができないようにする場合もありますし、世界観に沿った戦争以外のPKに、大きなペナルティを課す場合もあります。そして最近多いのが、PKのできるサーバとできないサーバを分けている、ユーザ選択型のゲームです。これならば、殺るか殺られるかというドキドキ感を味わいたいプレーヤーも、仲間と和気藹々クエストをこなして、キャラのレベルアップを図りたいプレーヤーも、同じゲームを楽しめます。

今現在、そういった様々なゲームが乱立してきていますが、最近の流れとして、その多くが「無料」オンラインゲームとなっています。最初、無料ってどういう事? 何かお金を取られる仕組みがあるのでは? と不信感もありましたが、どうやら、そういったゲームの多くは、キャラクターの付加価値で利益を出すようなのです。つまり、通常のキャラクターのまま物語を進めて行く限り、ずっと無料なのだけれど、何か自分だけの付加価値を付けたい、レアなアイテムを使いたい……という場合のみに、「課金対象のアイテム」を購入する事になるのです。

それは、フィールドを高速移動できる動物の乗り物だったり、特殊な形状や機能を持ったアイテムだったり、珍しい衣装だったり……という具合です。つまり、自分のキャラを目立たせたい、人と違うものにしたい、というアバター的な要素で利益を上げているんですね。

いくつか無料MMORPGをやってみましたが、そういうゲームは開発やサポートの予算や人員が少ないのか、何かもの足りません。世界観が狭いのです。事実、ある地域から別の地域に移動する場合は、ほとんど転送という手段でフォールドチェンジをしなければなりません。

●通称WoW、これぞRPGファンタジー

実は、これら無料ゲームの世界観が狭いな、と思わせる対象となるゲームがあるのです。そのゲームは欧米系の「WORLD of WARCRAFT」で、通称WoWと呼ばれています。
< http://www.worldofwarcraft.com/wrath/index.xml
>

欧米系なので、基本すべてが英語です。クエストもチャットもマニュアルも、HPのTipsもすべてが英語なので、ちょっと参加するには二の足を踏むかも知れません。しかし、この世界観を一度経験すると他のMMORPGが小さく見えます。しかも、気が遠くなるほど広大な世界のほとんどがシームレスに繋がっている(ワープや転送を使わなくても何処まででも移動できる)のです。これだけ巨大なゲームとなればPCの負荷もすごいだろう、と思いきや、一昔前のビデオカードやCPUでも充分プレイできる軽さです。今はやりの、派手なエフェクトを使わない分、軽いのかも知れません。しかし、グラフィックは鑑賞に充分耐えうるクオリティを保っています(と言うより、非常に美しい)。ちなみに、MMORPGには珍しく、Mac版も用意されています。

実は、このWoWは何一つ目新しい仕組みや世界観はありません。どちらかと言えば、クラッシックな、これぞRPGファンタジーという感じなのです。にもかかわらず、有料アカウントユーザ数が1000万人……世界最大のMMORPGで常に数十万人はプレイしているという話です。何故これほどまでに大成功を収めたのでしょうか。最大の要因は、とことんまでにこだわったディテールの細かさと、ゲーム構造の重厚感ではないでしょうか。そこまでやるには徹底したサポート態勢を取っているものと思われますし、有能な開発者を集めているのでしょう。

サーバ数もアメリカ向けだけで180以上あり、その内訳として、PKサーバ、非PKサーバ他、色々なバリエーションが用意されています。PKと聞いて心配する必要もありません。このWoWは単純な「二大勢力の抗争」という図式になっており、現実社会の人種や民族間の感情的紛争には発展しづらくなっているからです。

雄大な大地と、とめどないクエスト、多様なキャラクターと多様な世界観……これだけでも体験する価値はあります。英語に関しては問題ないでしょう……クエストも最小限の単純な文章で構成されていますし、カタコトの英語でも大抵仲間にしてもらえます。コミュニケーションが苦手でも、ソロとしての活動で充分楽しめます。解らない事があれば、日本のWORLD OF WORCRAFT wikiなど、多数の日本語解説ページが参考になります。
< http://ja.wow.wikia.com/wiki/
>

それにしても、このWoWはいくらもうけているのでしょうか……有料アカウントは月額$14.99(約1,500円)です。これに1000万ユーザを単純に掛けると、ひと月で150億円の売り上げです。年商1800億円……ほとんどのユーザがダウンロードで購入しているとすれば、原価はスタッフの人件費とサーバやシステムの管理費、新たなソフトの開発費のみ。ほとんど丸儲けではないですか! 世の中すごい商売もあるものです……。

ともあれ、一度「無料の10日間トライアル版」をダウンロードして、プレイしてみてはいかがでしょうか。現実とは全く違う、新しい世界を体現できるかもしれません(ゲームは子供のオモチャという概念はここにはありません)。

※2008年9月現在、何故か日本からのクレジットカード決済ができなくなっています。サポートに問い合わせたところ、WoW US版はいかなるカードであっても、北アメリカ(オーストラリア、ニュージーランド、メキシコ、チリ、アルゼンチン、シンガポール、マレーシアとタイを含む)以外の国からの決済を受け付けない、という返事が来ました。アジア版としては韓国・中国・台湾版があり、その地域の言語に対応したサービスを行っています。他にシンガポール、マレーシア、タイはUS版として存在しますので、東アジアのネット環境の整った国としては、日本だけが蚊帳の外に置かれた状況です。WoWサポートとしては、世界中のユーザがプレイできる環境を整えたいとの事ですが、ゲーム内容を正しく理解してもらうために、国の言語枠を越えたサーバでのプレイは推奨していないようです。しかし、日本語版の開発と日本サーバの設置がいつになるのか、まったく計画もない状況では、我々はカタコトでも通じる英語圏でプレイするしかなく、その辺は大目に見てほしいところです。

松林 あつし/イラストレーター・CGクリエーター
< http://www.atsushi-m.com/
>
pine4980@art.email.ne.jp