わが逃走[30]再び軽井沢に電車(在来線)で行きたいが、それは無理なので妄想するの巻 その2/齋藤 浩

投稿:  著者:  読了時間:9分(本文:約4,000文字)


国籍不明の潜水艦(潜望鏡つき)は、エラい人が言うにはクジラだそうです。原発の下に活断層が発見されたそうですが、エラい人が言うには、日本の原発は安全だそうです。自然界最強のカビが検出された汚染米は、エラい人の発表によると、人体への被害は報告されていない、だそうです。

これで10年、20年後にみんなが死んでも、この事件との因果関係を認めるだけの証拠が見当たらないということで、誰も責任をとらずに済むのでしょう。

そういえば私は小学生の頃、校舎の屋上へ通じる踊り場付近の天井から剥離しているアスベストの塊をこそぎ落として友達と投げ合ったり、お互いの顔にこすりつけたりして遊んでいました。頬にこすりつけた後、軽く叩くと、たくさんの細かい針で刺されたような痛みがおもしろくて、友達5〜6人で休み時間の度にそんなことを毎日やっていた訳です。おそらく私はがんで死ぬでしょう。

私の記憶によれば、新宿の都庁にもアスベストが使われているそうです。起工されたときは、すでに危険といわれはじめた後でしたが、法律上は問題ないとのことでした。なにごとも経済優先のわが日本では、建築は何十年か経つとぶっ壊すようになってるけど、都庁をぶっ壊すことになった場合はどうするんでしょう?

当時のニュースキャスターもそんなこと言ってた訳ですが、きっと人体への被害は報告されていないということになって、その頃オレはもうこの世にいない訳だ。人生はあっという間だなあ。

そんなふうに、あっというまに終わる人生だからこそ、私がこの世に生きていた証をどうにかして残したい。そんな想いから書きはじめたこの『わが逃走』も、おかげさまをもちまして連載30回を迎えることができました。

今までさまざまなくだらないことやくだらないこと、そしてくだらないこと等を徒然なるままにだらだらと書き続けて1年と3ヶ月とかそんくらい。早いものです。

で、ごく稀に読者と名乗る方からメールをいただいたりして、嬉しくってまたくだらないことを書いて……などと続けられたら、オレ的に本望ってやつですよ。はい。では、このあたりで前回からの続きを。読んでない方は、わが逃走第29回『再び軽井沢に電車(在来線)で行きたいが、それは無理なので妄想する』の巻を読んでくださいね。
< http://bn.dgcr.com/archives/20080918140200.html >



五●碓氷峠

さて、本編です。横川のつぎは、もう軽井沢。わずか一駅区間だが、この碓氷峠は66.7パーミル(1000m進むと66.7m上がるの意)という急勾配のため、列車の“一生懸命登っているぞ感”が楽しめてイイ。それをひしひしと感じながら名物駅弁『峠の釜めし』をいただく訳だ。軽井沢までの所要時間は20分くらい。

発車ベルが鳴り自動ドアが閉まると、いつもより少し強いガタン! という揺れとともに列車は動き出す。やはり機関車が後ろについてるとひと味違うぜ。走行音も一段低くなり、ビリビリした振動も加わってくる。車に例えれば低速ギアで走りつづけている感じだ。おぎのやのスタッフ(釜めし販売員)に見送られつつ発車したら、進行方向左側の自分の席に戻る。
※釜めしはまだ食べない。

ゆっくりと動く車窓から、妙義の奇岩群を眺めるのだ。動く列車から巨大な岩山を見上げると、その岩山もゆっくりと角度を変えてゆく。カッコイイ。たまらん。
※釜めしはまだ食べない。

次にオレは、進行方向右側の空いてる席へ移動する。窓に顔をおしつけて前方を見ると、朽ちかけたレンガ造りの建造物が見えてくる。旧丸山変電所跡。日本でいちばん美しい廃墟*である(*オレ基準による。現在はパッとサイデリアみたいな修復が施されて、B級映画のセットみたいになってしまった。でもオレの脳内では廃墟のまま)。

とくに今ごろの季節が最も美しく、バックの秋空や手前のコスモスとのコントラストは絶妙。ゆっくり鑑賞したいオレの気持とは逆に、列車は非情にもこのへんでスピードを上げるのだ。

サーッと美しいレンガ建築が後方へと流れていく。それを見届けると、すぐに席に戻る。釜めしのふたを開けるタイミングはここと決めている。ここより先だとトンネルを頻繁に通過するため、ふたを開けた瞬間の色が蛍光灯に照らされたものとなってしまう危険があるのだ。そういった意味からも、自然光による具材の美しさを楽しむにはこのポイントがイイのだ。

さあ、ここでやっと釜めしのふたを開ける。まず紐をほどき、掛け紙をはずす。そして益子焼の重いふたをあけ、さらに薄紙をめくると、円形の器に美しく配置された鶏肉や椎茸、ごぼう、筍、栗などが目に飛び込んでくる。きかせ色のグリーンピースと杏がいい仕事している。真っ白なうずらの卵をちょっと箸で持ち上げると、隣接していた鶏肉と紅ショウガの色が付いていたりして、そこがなんともシズルなあ。

で、うずらの卵から食べるかというと、もったいないから後にとっておいて、ごぼうや筍からいただくのだ。旨い。ここで気づいた! お茶を買って安心してたけど、なめこ汁も買っとけばよかった! すっかりその存在を忘れていた。しまったー!! 気をとりなおして鶏肉を食べる。旨い。別添の漬け物パックを開け、わさび漬けを茶飯と一緒にいただく。旨い。

そうこうしているうちに、列車はトンネルを次々と通過してゆく。トンネルとトンネルの間に一瞬見える谷間の景色を見逃さないように釜めしを味わいつつ、気圧の関係で耳がカポッとなったのを、アゴを左右に動かし解消しつつ釜めしを味わう。

さて、出たり入ったりを何回繰り返したか忘れた頃(=釜めしを食べ終えた頃)、突然列車の走行音が変わる。重低音の演奏が1オクターブ上がる感じになるのだ。車掌のアナウンスが入る。そこはもう、軽井沢だ。右手に国道18号が見える。この先に旧軽井沢があるのだ。左手にはゴルフ場。オレの脳内ではアウトレットモールなど存在しないのだ。

さて、そろそろ降りる準備をして……、と思ったけどやめた。この際だから、中軽井沢まで行って旨い蕎麦を食べよう。軽井沢駅では機関車切り離しのため3分停車。乗客の大半はここで降りてしまった。発車まで時間があるので、ちょっとホームに降りてみる。空気が濃く、鋭い。ああ、軽井沢だなあ。

六●中軽井沢

軽井沢駅周辺ってなんか作り込まれた感じがするので、イマイチ好きになれない。それに対して田舎な感じの中軽井沢駅は風情があってイイ。

そんな駅前の蕎麦屋『かぎもとや』で天ざるを食べるため、軽井沢駅からもう一駅乗車することにした。軽井沢を出発と同時に席を進行方向右側へ移動する。国道18号と平行して走りつつ、高校を過ぎたあたりで浅間山が見える。うーん、美しい。

さらに列車は進み、町役場付近を通過すると速度を落とす。軽井沢─中軽井沢間は約5分。あっという間だ。しばらく行くと湯川を越える。橋の上から見る浅間もイイんだよなー。特に春のはじまり頃がイイ。凍りそうにつめたい川の水と雪を冠した浅間とのコントラストは、最高に美しいのだ。

などと考えていたら、もう中軽井沢駅に着いちゃった。荷物を網棚から降ろし、ホームに立つ。昭和な香り漂う木造の跨線橋を渡り、改札を出る。オレの脳内ではもちろん、有人改札だ。

そして歩くこと30秒、昔から変わらない木造の店舗。イイ。店に入り、天ざるを注文する。するとすぐに、浅漬けが出てきて、蕎麦が来るまでぽりぽりといただく。昔は浅漬けじゃなくて野沢菜だったような気もする。

そしてまず天婦羅が登場した。一応お約束なのでエビは1尾ついているが、それ以外は全て山菜。特にシソの葉が好きだー。ちょこっと蕎麦つゆにつけて食す。旨い。そして黒く、太く、荒っぽい蕎麦が登場する。ざらついた舌触りがイイ。すごく旨い。すまないがオレ様はここの蕎麦を3歳のときから食べているので、冷静に評価なんかできんのだ。とにかく旨い。シアワセ。

なにやらこの『かぎもとや』、有名店になりすぎたせいか評価は賛否両論ある。そりゃ、夏休みのど真ん中に来ちゃうとスゲー行列で、なかなか注文とりに来てもらえなかったり、バイトちゃんが気が利かなかったりするかもしれない。でもそれは仕方のないことじゃないのかなーと思うオレだ。シーズンオフに混む時間帯を避けて来れば、充分落ち着いて味わうことができると思うのだ。

蕎麦も店も全然気取ってないというのかな。素朴で誠実。昔からそんなに味は変わってないと思うんだけどなあ。蕎麦って一般的に腹持ちはイマイチと言われているが、ここの蕎麦は満腹感がスゲー持続する。シアワセ。とか言いつつ、夜は2軒隣の『玉川』*(*いまはもうありません)で定食をたべよう。などと妄想する齋藤浩でした。

さすがに釜めしと、かぎもとやの天ざるの連続食いはもう体力的にできないだろうなあ。妄想のなせる技ですね。

さて、2回に渡って信越本線と駅弁の妄想を語らせていただきましたが、分断されてしまった横川─軽井沢間、復活の可能性ゼロって訳じゃないらしいです。上り線だったか下り線だったか忘れたけど、そのどちらかの線路はまだ敷かれたままだし、整備もされているそうです。そうなれば、こんな妄想も実現できるのでしょうか。ちなみに今回紹介した駅弁は全て現在でも入手可能です。食べたことのない方は、ぜひご賞味ください。あ、かぎもとやの蕎麦もね。

【さいとう・ひろし】saito@tongpoographics.jp
1969年生まれ。小学生のときYMOの音楽に衝撃をうけ、音楽で彼らを超えられないと悟り、デザイナーをめざす。1999年tong-poo graphics設立。グラフィックデザイナーとして、地道に仕事を続けています。
< http://www.c-channel.com/c00563/ >