映画と夜と音楽と…[394]「リメイクは成功しない」は本当か?/十河 進

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●日米を代表する「プッツン女優」をあげると…

奇行が多く、自分の世界だけで完結しているような言動に対して使うのだろうが、「プッツン女優」という言い方がいつから使われ始めたのかは記憶にない。今では、もう死語になったようだ。しかし、僕は、この言葉を聞くとふたりの女優を思い出す。日本なら藤谷美和子である。

ヘッドライト実際にどうだったのかはしらないが、昔、「プッツン女優」の筆頭のように言われていた。しかし、仲代達矢と共演した「道」(1986年)では、情感にあふれた演技が印象に残っている。歳の離れた男女の悲恋が忘れられないジャン・ギャバンとフランソワーズ・アルヌール共演「ヘッドライト」(1955年)のリメイクだった。

「ハリウッド・バビロン」という有名な本が書かれるくらい、ハリウッドにスキャンダルはつきものだ。スターの奇行伝説も多い。最近でも、某ブランドショップで万引きをしたスター女優がいた。その中でもショーン・ヤングのプッツンぶりは、ちょっと飛び抜けている。ジェームズ・ウッズへの「危険な情事」(1987年)を彷彿させるストーカーぶりは有名だ。



ブレードランナー ファイナル・カット (2枚組) (Blu-ray Disc)ショーン・ヤングの人気が出たのは「ブレードランナー」(1982年)だった。彼女はレプリカントのレイチェルを演じて、一躍、日本でも名前が知られた。同じレプリカント役のハンナ・シグラも長い手足が印象的で、その後、スターになったが、主人公のデッカードと共に去っていくレイチェル役は強い印象を観客に残した。

死の接吻その後、ショーン・ヤングはマット・ディロン主演の「死の接吻」(1990年)に出演する。「死の接吻」は、アイラ・レヴィンが23歳のときに書いた傑作ミステリだ。「ローズマリーの赤ちゃん」「ステップフォードの妻たち」などレヴィンは寡作だが、書いたものはほとんどが映画化されている。

この「死の接吻」は二度目の映画化で、原作を大幅に変更していたが、冷静で冷酷な殺人者を演じたマット・ディロンがはまっていた。ショーン・ヤングも印象的で、彼女の代表作の一本だと思う。その「死の接吻」の前に、ショーン・ヤングが出演していたのが「追いつめられて」だった。日本公開は1988年で、驚いたことにもう20年も経っている。

追いつめられて「追いつめられて」の主演はケヴィン・コスナー、もうひとりの重要な役はジーン・ハックマンだった。今ではショーン・ヤングは忘れられた女優かもしれないが、ケヴィン・コスナーとジーン・ハックマンはスターの座を守っている。もっとも、ケヴィン・コスナーもそろそろ60が近くなった。

「追いつめられて」を思い出したのは、先日、「どんでん返し」について書いたら、読んだ人から「私は、どんでん返しと聞くと『追いつめられて』を思い出します」と言われたからだ。確かに、最後の最後でアッと驚く仕掛けがあり、見た当時、僕はラストシーンをあざとすぎると思ったが、記憶に鮮明に残っているのだから印象深かったのだろう。

●「追いつめられて」はラストに特別な工夫があった

国防省に勤務する連絡将校(ケヴィン・コスナー)がパーティーで美女(ショーン・ヤング)に出会い深い仲になる。しかし、その美女は国防長官(ジーン・ハックマン)の愛人だったのだ。国防長官は別の愛人の存在を感じて女を問い詰め、弾みで殺してしまう。そして、その事件の捜査を主人公が長官から命じられる。

主人公が事件を捜査していくと、女の愛人が犯人だという証拠ばかりが出てくる。その愛人とは自分のことなのだ。そして、長官の秘書から「その犯人はソ連のスパイであり、国防省内に潜んでいる」と言われる。国防省は、大がかりなスパイ狩りを始める。

皮肉なことに、主人公は捜査すればするほど、自分が犯人でありスパイであることを証明していくことになる。女の部屋で、ほとんど真っ白にしか写っていない露出オーバーのポラロイド写真が見付かる。そこに自分が写っているのを知っているのは、主人公だけだ。

「追いつめられて」は、1948年に映画化された「大時計」のリメイクである。原作はケネス・フィアリングの有名なミステリで、脚本をミステリ作家ジョナサン・ラティマーが担当している。大手出版社に勤める主人公は、社長命令で社長の愛人の買い物に付き合わされる。その夜、愛人が殺され、容疑は一日行動を共にしていた主人公にかかる。これは誰かの罠か…。

ミステリをリメイクするのはむずかしいが、「追いつめられて」は舞台を国防省に移し、スパイスリラーの要素を加えたうえ、最新技術を駆使して犯人を捜し出そうとする設定に変えて成功した。たとえば、真っ白に飛んだポラロイド写真など普通は証拠にならないが、国防省内の最新鋭のコンピュータシステムを使って画像を再現しようとする。

主人公としては画像が再現されると困るのだが、仲のよい担当者は「まかせておけ」と胸を張る。ポラロイド写真を解析し、少しずつ画像がモニタ上で再現されていく。時間がかかるが、それがタイムリミットを生み出す。画像が再現されるまでに、主人公は真犯人を捜し出さなければならない。彼は顔は見なかったが、女が殺されるのを別の部屋に隠れて聞いていたのだ。

「追いつめられて」は、観客には最初から殺人者は国防長官であることを見せてしまう。その長官が秘書官と共謀し、他の人間を犯人に仕立てようとする謀議も明かす。主人公が追いつめられていくサスペンスを盛り上げるためだ。様々な危機があり、何とか主人公は逃れる。しかし、それも画像が再現されるまでのことである。

犯人はわかっている。主人公は殺人とソ連のスパイだというでっち上げにはめられてしまうのか、というサスペンスが観客を引っ張る。しかし、多くの観客は、最後には主人公の無実が判明するのだろうと思っている。だとしたら、どこでどういうどんでん返しがあるというのだろう。最後の最後でひっくり返すアイデアには僕も驚いたが、やはり「あざといなあ」という印象は残った。

●30年前の新人監督の新作はフィルム・ノアール

メナースアラン・コルノーという映画監督を、新しいフィルム・ノアールを作る人だと期待したのは「真夜中の刑事」(1976年)「メナース」(1977年)が立て続けに公開された頃だった。「真夜中の刑事」は、ヤクルト・スワローズが初優勝に向かって快進撃を続けていた1978年の秋に公開され、「メナース」は翌春、スリーマイル島の原発事故によって世界中が反原発に染まっていた頃に公開された。

「真夜中の刑事」も「メナース」もイヴ・モンタンの主演である。もう若いとは言えないモンタンに派手なアクションをやらせている。当時、僕はモンタンにスクリーンで再開したことを、ひどく喜んだ。それも、「真夜中の刑事」のファーストシーンでは、まるで「仁義」(1970年)のアル中のスナイパーが生き返ったような印象を持った。

「真夜中の刑事」の原題は「PYTHON357」である。拳銃好きならわかるだろうが、マグナム357の弾丸を詰めるコルト社製のリボルバーだ。ダーティー・ハリーがマグナム44を有名にするまで、クルマのボディを撃ち抜く威力を持った最強の銃だと言われた。

「仁義」でモンタンが演じた刑事くずれのスナイパーは自宅に工作コーナーを設置していて、そこで特別製の弾頭のやわらかな弾丸を鉛を溶かして作ったが、「真夜中の刑事」の主人公も拳銃オタクの刑事で自分で弾丸を作っていた記憶がある。あれは、アラン・コルノー監督のジャン・ピエール・メルヴィル監督へのオマージュだったのだろう。

もしかしたら、アラン・コルノーは「大時計」を見ていたのだろうか。いや、どちらかといえば設定と展開は「追いつめられて」に似ている。10年後に作られた「追いつめられて」は、もしかしたら「真夜中の刑事」に触発された部分があるのではないか、そんなことを考えるほどストーリーがよく似ている。

中年の一匹狼の刑事がいる。ある日、彼は美女(ああ! ステファニア・サンドレッリ)と出会い深い仲になる。しかし、彼女は警察署長(フランソワ・ペリエ)の愛人でもあった。独り身でおおっぴらに彼女と付き合っていたモンタンと違い、妻のいる署長は彼女との関係をひた隠しにしていた。当然、人々は「彼女の恋人は?」と聞かれれば、モンタンの人相を言う。

愛人に新しい恋人ができたことを知り、嫉妬した署長は愛人を殺してしまう。その直後に女を訪ねたモンタンが死体を発見する。自分が犯人にされる前に真犯人を探さねばならない。モンタンは刑事として殺人事件の捜査を始めるが、すべての証拠が彼を犯人だと示している。やがて、目撃者の面通しに立ち合わなければならなくなった彼は、進退窮まる。

面白いのは病気でベッドに寝たきりの署長夫人の存在だ。名女優シモーヌ・シニョレが演じている。イヴ・モンタンと結婚していた頃だと思う。でっぷりと肉のついたシニョレは寝たきりとは思えないし、何かというと彼女を頼る署長に対して母親のように包み込むところは、この映画の登場人物の中で一番の貫禄だった。

彼女は夫の愛人を認め、夫が愛人を殺したことを知ると「別の男がいたのなら、その男を犯人にすればいい」とアドバイスし、気弱になりそうな夫を叱咤激励するのである。映画は、次第にモンタン対シニョレの様相を呈していく。公開当時、夫婦競演と言われたような気がする。

タイトルのパイソン357が活躍するシーンもある。決定的な場面で、コルト・パイソン357の弾丸は、クルマのボディを貫くのである。コルト社は、ワイアット・アープが愛用したコルト・ピースメーカー、アメリカ軍が正式採用したオートマックM1911A1(コルト・ガバメント)など多くの拳銃を作り続けてきたが、パイソン357も歴史に残る名銃のひとつだろう。

ところで、アラン・コルノーについて調べていたら、久しぶりに新作が来年の正月に公開されるとあった。2007年に制作された作品で、「マルセイユの決着」と邦題がつけられたらしい。決着はもちろん「オトシマエ」と読む。主演はダニエル・オートゥイユ。原作はジョゼ・ジョバンニの「おとしまえをつけろ」である。

とすると、これはジャン・ピエール・メルヴィル監督「ギャング」(1966年)のリメイクではないか。「ギャング」の主演はリノ・ヴァンチュラ。男たちの友情と誇りを謳いあげたマイ・フェイヴァリット・シネマの一本。ダニエル・オートゥイユ版なら見てみたいが、リメイクで成功した作品は「追いつめられて」以外にはあまり思い付かないしなあ…。

【そごう・すすむ】sogo@mbf.nifty.com
黒の狩人 上 (1)先日、帰宅したら幻冬舎から「著者代送」とハンコを押した書籍の包みが届いていた。開けてみると、大沢在昌さんの「黒の狩人」上下巻。今、書店で山積みになっているベストセラーである。えー、僕の自宅の住所を調べてくれたのかと、ちょっと感激しています。

●305回までのコラムをまとめた二巻本「映画がなければ生きていけない1999-2002」「映画がなければ生きていけない2003-2006」が第25回日本冒険小説協会特別賞「最優秀映画コラム賞」を受賞しました。
< http://www.bookdom.net/shop/shop2.asp?act=prod&prodid=193&corpid=1 >
受賞風景
< http://homepage1.nifty.com/buff/2007zen.htm >
< http://buff.cocolog-nifty.com/buff/2007/04/post_3567.html >

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映画がなければ生きていけない 1999‐2002
十河 進
水曜社 2006-12-23
おすすめ平均 star
starちびちび、の愉悦!
star「ぼやき」という名の愛
star第25回日本冒険小説協会 最優秀映画コラム賞
starすばらしい本です。
starものすごい読み応え!!

映画がなければ生きていけない 2003‐2006 映画一日一本―DVDで楽しむ見逃し映画365 (朝日文庫) どこかで誰かが見ていてくれる―日本一の斬られ役 福本清三 (集英社文庫) アメリカ映画風雲録 変な学術研究 2 (ハヤカワ文庫 NF 329)

by G-Tools , 2008/10/24