ローマでMANGA[13]プロになる人、なれない人/midori

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●どこまで行くかな?

マンガ工房で応募した新人賞は、ようやく審査が始まったばかりだ。4人がどこまで行けるのか、オリンピックのフィールドにチームを送り出したサッカー監督の気分。優勝は狙えないだろうけど、世界でどこまで通用するのか……。

マンガ工房は、結果が出るまでひとまずお預け状態だ。学校では今年はパスという事になったしね。それで「日本の漫画市場へ殴り込み!」もお休みになって、このコラムで書く事がなくなってしまったわけではない。コミックスエージェンシーがある。

マンガ学校で体験留学生を東京に連れて行く機会に便乗して、いくつか企画をどこかに持ち込もうと計画している。それと平行して、イタリア出版社の来年出る「マンガの描き方」で新人達と付き合い、その双方から「プロになる人、なれない人」の違いをまざまざと見せつけられているのでその話を。



●答えは一つ

マンガを始め、手に職をつけて、自力で商売をして行こうという時になにが一番必要なのか。あるレベルの技術を身につけている事は、もちろん当たり前すぎてわざわざ断る必要もないこと。では、何が必要なのか???

何よりも必要な事は、ともかく手を動かすこと。

作品として他人に見える形にならなければ意味がない。

目に見える形に生産する事。

するか、しないか、選択はその二つしかない。

運命とか、才能とか、環境とかいろいろな要素もあるけれども、一番強い力は「やる!」という気概だと思う。

コミックスエージェンシーとして、企画をたてた。仕事に結びつく保証がない企画に対して、やってみると手をあげた彼女がいた。朝4時起きして取材に行って、写真を大量に撮り、下書きをし、一緒に構成し、構成を直し、だいぶ形になった頃、この企画には水彩が合いそうだと話がまとまった。

彼女は水彩を使った事がないと言う。アクリルや他の絵の具は使った事があるわけだし、絵の素人ではないわけだし、心配ないよ、と知り合いの美術の先生が水彩の使い方を見せた。誕生日に、水彩と水彩画用紙をプレゼントした。ともかく見本を見せてと約束の日、提出した絵はマンガ家の彼が彩色したものだった。

サジェスチョンの後のやり直したレイアウトは、以前のやる気が消えていた。聞くと、プレゼントの水彩絵の具には手をつけてないとこと。彼女は「使った事のない道具」を前にして、前に進むのではなく、一歩後に引いた。「しない」を選んだのだった。企画はストップだ。

「する」を選び続ける彼がいる。マンガ学校を卒業したとき、点数は高くなかった。けっしてうまいとは言えない。やる気だけは満々。学校を卒業して4年、本を2冊出した。エージェンシー企画の作品に対し、やり直しを何度でもする。

「する」を半身で選ぶ彼女がいる。やり直しの要求に対して、下書きだからとか、具合が悪かったとか、言い訳をさんざんする。やり直しの要求をするのが億劫になる。するけれど。

全力で「する」を選び続ける彼女がいる。やり直しの要求に対して、一切のいいわけをせずにやり直す。速い。次の機会があったらぜひ一緒に仕事をしたいと思う。

「する」を選び続ける二人に共通するのは言い訳をしないことだ。サジェスチョンに対して耳を傾ける。後に引かない。常に上半身が前屈してる感じ。

「する」を選ぶ二人は言い訳をしないので、私生活の問題を私は知らない。半身の彼女と、「しない」を選ぶ彼女の問題や悩みは、ある程度知っている。ちょくちょく文句を口にするからだ。私生活に何の問題もなく生活している人はまずいないと思う。多かれ少なかれ、家庭内の問題や、経済の問題や、情の問題で悩むはずだ。

それを手を動かさない言い訳にするかどうか、制作に関する支障に対してUターンしてしまうか、乗り越える方法を探すか。性格も関わるけれど、その性格だって意識をすれば、その気があれば、変える事ができるはず。

自分を振り返ってみるに、20年前に小さな頃からの夢だった「マンガ家になる」が叶ったとき「しない」を選び続けて挫折した。2ページから4ページのエッセイマンガを描いていたのだけど、あるとき編集者が「8ページくらいのフィクションを描いてみませんか?」と次へ進む提案をしてきた。ネームを提出し、やり直し、とりあえず第一話が掲載された。

第二話のネームが進まなかった。やり直しを要求された。そこががんばりどころだった。でもアタマだけで考え、その考えは堂々巡りで手を動かさずにいたずらに時間が過ぎて行った。「第一話掲載から半年も経ったのでもう意味がありません」と編集者に断られるまで。

制作は、8時間仕事をしたからそれだけの結果が出るというものではない。アイデアが出るまでが苦しい。その苦しみを「しない」で背を向ければ、その時は楽になる。そして同時に「プロにはならない」という選択をそこでするわけだ。

「しない」を選択することが、必ずしも負けというわけではない。それが、今苦しみたくないための迂回ではなく、文字通りの選択であるならば意味がある。

今、外から「する」を選択する人と「しない」を選択する人が実によく見える。コミックスエージェンシーの話を持ちかけて来た学校の教務課長は、私の娘と言っていい年齢の女性で、「する」を選択する。私は娘に引っ張られて「する」を選択するようになって、とても気分が良い。

【みどり】midorigo@mac.com

まつむらさん紹介吉井さんも絶賛したDropBoxを私も使ってみました。エージェンシーで一緒に仕事をしている教務課長にもソフトをDlしてもらい、彼女と同期。私が書いた記事を共通フォルダに放り込んでおくと、彼女がちゃんとしたイタリア語に直してくれます。彼女が直している間は、フォルダからその書類が消えているので、あっちとこっちで修正してしまう、という事態が起きないのがよいですね。
メールに添付でやり取りしてメーラーの中を増やさなくて済むし。とっても便利!!まつむらさん、ありがとうございました。

イタリア語の単語を覚えられます! というメルマガ出してます。
ん〜、最近手をつけてません。「しない」を選択したわけじゃないんだけど。
< http://midoroma.hp.infoseek.co.jp/mm/menu.htm >