アナログステージ[3]腹肥商事社内プレゼン その1「健康アセンブル」/べちおサマンサ

投稿:  著者:  読了時間:5分(本文:約2,200文字)


ここ、株式会社腹肥商事は、日本人の過剰な健康ブームに便乗し、健康促進グッズの製造・販売をしている会社だ。バブル崩壊とともに、いまでは社長の山本と従業員の相川、二人だけの会社となってしまった。

「相川くん、健康ブームにあやかって成長してきた我が社も、こう、会社が体力不足なうえに、収入という栄養素がまったく見つからない。あと数か月で、栄養失調という倒産が確実というところまで来てしまった。」
「まだ日本人の健康体志向は終わっていませんよ! 商品開発力がわが社の強みじゃないですか。社長がそんな弱気ではダメです。」
「しかし相川くん、もう、会社の資金繰りも、中性脂肪でドロドロになった血液状態なんだよ。」

日に日に落胆していく山本の表情に、会社のアイデアマンとして頑張ってきた相川は、もう一回ヒット商品を生み出そうと頑張るも……。



「社長、こんなのはどうですか? ホラ、よく電車の吊り革や手すりで、懸垂やら運動をやっている人がいるじゃないですか」
「ハァ、いるねぇ。やってるのって、酔っ払いが多いけど。この前、いきなりドアの前で腕立て伏せを始めた酔っ払いにはビックリしたけどねぇ。」
「吊り革の持ち手を、ハンドグリップにするんですよ! こう、ギュッ!ギュッ! って握って、通勤中に握力の向上が図れます!」
「どこに売るんだね。」
「もちろん、鉄道会社に売り込むんですよ。メタボが気になるお父さん、通勤時間でフリッツ・フォン・エリックに変身! って、どうでしょう。」
「いや、相川くん、アイデアはいいんだけど、その、キミの考えるコピーはどうにかならないのかね? フリッツ・フォン・エリックなんて知ってるの、往年のプロレスファンしかいないよ。その前に、鉄道会社が相手しないよ。」

(JR東日本が始めたトレインチャンネル、新たな広告配信システムとして活躍をしておりますが、先日、子供が「ママ、12チャンネル(テレビ東京)にして」とおねだりしておりました。放送局を車両ごとに振り分けると、即席視聴率調査ができて面白いかも)

「あ! そうか、なんで気が付かなかったんだ! 社長、商品化されてそうで、されていないモノがあります! 第二の心臓といわれている、足の裏ですよ!」
「おお、さすが相川くん、目の付け所が違うねェ、それだよ、それ!」
「いいですかシャチョー、足の裏のツボを靴下にプリントするんですよ。」
「ほぉ、なにか意図があるのかね?」
「休憩時間などにツボの場所を見ながら、こう、ギュッ! ギュッ! って押して、『うーん、ここが痛いのは膵臓が弱ってるのかぁ』とか、健康バロメーターになります。」
「……。どこに売るんだね。」
「紳士服専門チェーン店などに売り込むんですよ。自力で解消! 足ツボ仙人・孤独なパパを応援します! ってどうでしょう?」
「キミは、働くお父さんをバカにしているのかね?」
「ツボをプリントするだけではなく、竹炭を繊維に組み込んで消臭効果も狙うんです。最近では、足の臭いは男性だけではなく、ブーツを履く女性にも悩みのひとつになっていますから、フリーサイズにしてもいいですよね。竹炭から機能性粒子を育成させ、(中略)紫外線照射すると様々な効力を得ることもできます。竹は昔から研究を続けられている素材ですが、ナノテクが盛んになっているいま、新しい活用法も次々と公開されています。実際に竹を2次加工、3次加工したものを段階的にSEM(走査型電子顕微鏡)で見てみると、粒子や表面に変化がみられるんですよ。」
「相川くん、相川くん、話がデジタルクリエイティブじゃなく、試料分析の話になってしまっているじゃないか。しかも、そんな話を配信してしまって大丈夫なのかね。」
「マズいところは中略してあります。エジソンがフィラメントの原料として活用したのを初め、竹の奥深さは凄いですよ、社長。」
「読者のかたは既に読み飛ばしていそうだが、面白いね。早速、開発してみようじゃないか。」
「足ツボプリントはありませんけど、竹炭繊維の靴下は売ってますヨ」

(実際に竹炭繊維の靴下を利用しているのですが、蒸れもあまり感じられず、なり快適です。保温性もなかなか良く、冬場のオフィスに重宝できそうです。冷え性のかたは、睡眠時にも役立つかも)

「それよりも、社長も何かアイデアを出してくださいよ。」
「近頃は、DVDを使ったエクササイズが流行っているじゃないか。」
「そうですね、ビリーなんて日本中にブームを巻き起こしましたからね。」
「実は、制作コストが掛からないのも特徴なんだよ。」
「さすが社長、ランニングコストも計算しないとダメですよね。」
「できるだけイニシャルコストも削減できる方法で考えてはいる。」
「お金ないですもんね、会社。で、何のDVD作成するんですか?」
「実録! アニキの、宴会中にもできる重役エクササイズ!」
「な、なんか、任侠ホモ映画みたいなタイトルですね……。数年前にあった、『重役室』ってタイトルの、中年ホモAVを思い出しちゃいましたよ。」
「タレントさんを使う予算はまったくないから、出演はワタシとキミだ。相川くん、実は前からキミのことを……」

【べちおサマンサ】 pipelinehot@yokohama.email.ne.jp
FAプログラマー兼秘密でいっぱいの、ナノテク業界の開発設計。
GrowHairさんのグループ展へ行ってきた。足を入れると抜け出すのが難しくなる世界だと直感的に分かったので、遠目に見ながらも引き寄せられるように人形の顔を覗いてみると、表情は笑っているが、どことなく疲れている。
「人形は心を映す鏡」。なるほど、自分の顔だったのか。