電子浮世絵版画家の東西見聞録[56]ボヘミアンと横浜石川町の鰻
── HAL_ ──

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鰻というと、みなさんはどのようなものを思い浮かべるでしょう。スーパーで売っている鰻、それとも有名店野田岩で出てくるような鰻でしょうか。鰻が好きだという人は多いと思いますし、土用丑の日には鰻を食べるものだという、強迫観念から食べる人もいるでしょう。私ももちろん鰻は大好きですが、かなり高価なイメージを持っていますし、パートナーがあまり鰻好きではないので食卓に出てくる事はほとんどありません。

そのパートナーが唯一、美味しいと言って食べる鰻屋さんがあります。ここ数年は行く事がなくなっているのですが、仙台市内サンモールの南町通方面の入り口付近にある開盛庵の鰻です。昨今の食は全てが柔らかな物ばかりが良いようにメディアで取り上げられる事が多く、そして鰻はお重から飛び出さんばかりの大きさ、そしてその食感を味覚音痴のタレントたちが「ふわふわで甘くておいしぃ〜」と、お経のように唱えています。



この開盛庵の鰻はそんな風潮とは真逆の鰻でした。鰻重を頼み、蓋を開けるとなんだかみすぼらしい鰻の蒲焼きが目にとまります。テレビ等で見る大きな鰻とは大違いで、ご飯のつぶがいきなり見えてしまうというサイズです。しかし、立ち上る香りはスーパーの中国産養殖鰻とは大違いで、爽やかな清涼感さえ感じさせる香ばしさと鰻本来の香りが立ち上り、鼻をくすぐります。

まず、肝吸いを一口飲んでいよいよ鰻を箸の先で割りほぐしに入ります。しかし、これがまたテレビ映像のそれとは大違い、箸先でサワッとは切れないのです。箸を使って一口大にするのが面倒な時は、かぶりついてしまった方が早いという堅さです。堅いとは言っても、焼きすぎてひからびたような堅さなのではなく、鰻の身の引き締まったしっとりした弾力のある堅さで、皮もしっかりしています。

もちろん、味は脂の乗りすぎた大手有名店の鰻とは大違いで、まことにさらっとした口溶けのある魚の脂で、食後にも口中に粘り着くように残る脂ぎった養殖の味でとは大違いです。本当に「美味しい」と、手放しで喜べる味で、同時に注文する胆焼きも自然なぷりぷり感がとてもいいのです。しかし、残念ながらサイト検索してみると昨今は味が変わってしまったようで、例のお経が唱えられている感想が多い事が残念です。

●横浜で見つけた鰻屋

前号で少しお話した「Bohemian.jp」がいよいよ来週スタートします。その記念すべきスタートアップパーティーが28日(金)に開催されます。ここのところ、開催場所である石川町に準備のために足繁く通っています。そこで、見るからに倒れかけているような鰻のお店を発見したのです。はじめて行った時に、店先に並ぶ蒲焼きを見てとても気になったのですが、その時はそのまま通り過ぎるだけでした。


亀屋

ずっと気になったばかりでは精神衛生上よろしくないので、次に行った時には初めから購入する勢いで立ち寄りました。仕事を済ませ帰り道、鰻屋のシャッターは閉ざされていました。もしかして、気まぐれに空けているだけの店なのかも知れない。「また、次のチャンスを待って立ち寄ってみよう」と、再び心を残したまま帰途につきました。しかし、次の石川町行きは鰻を持って帰る事の出来ない状況、そして三度目もチャンスを失います。

さて、通算すると四度目になる石川町。ようやくお持ち帰りできるチャンスが到来しました。この日はもう夕刻を廻り暗くなっている時間だったので、もし昼間は開いていたとしても閉めているかも知れないという不安がよぎりましたが、とにかく行ってみない事には始まりません。そこで、ようやく念願が叶う事になったのです。

しかし、店は開いていたものの人の気配がない。奥へ声をかけてみる。耳を澄ませばなにやら男性の話し声が聞こえる。もう一度声をかけてみる。テレビの音なのかな……。すると、突然奥からガタガタと音がして、ガラス戸を身体の支えにして出てきた男性。眼鏡をかけてコッパンにTシャツ、ブルゾン姿の60前後に見える小柄な人。その男性は何も言わずに私の脇を通り抜け、店先に止めてあった自転車に向かっていったのです。

あれ? と思うと、奥からもう一人の男性が現れました。この後から出てきた男性が鰻屋さんで、鰻のタレの染みついた、昔は白かっただろう前掛けをして「はい?」と声をかけてきました。

●私は「分かる人」になれたか

その鰻屋は亀屋と言います。これは目の前を流れる川にかかった「亀の橋」から名前を取ったのでしょう。亀屋は創業50年になるそうで、目の前にいる男性が二代目の主人となるという事、出ていった男性は近所の幼なじみなのでしょうか、「またね」と言って夕暮れの街明かりに向かって帰って行きました。

店先にあるショーケースにはステンレス製のバットが四つ並び、右の一つは空っぽ。その左にはひと串の鰻、そのまた左には二串の鰻、一番左側には三串の鰻が並んでいます。順番に680円、950円、1100円の値札が付いています。その鰻は単純に大きさ順に並んでいるようで、どれもこれも干からびたような姿です。関西の人が見るとびっくりするような見映えですが、東京人の私にはお馴染みです。

鰻と言えば白焼きをして、それを蒸し上げ、さらにタレを付けながら炭で焼いていくのが関東式です。ご主人は「蒸すのに5〜6分かかるけどいい?」と声をかけてきたので。私は小さい方から順に二串を注文し、蒸しあげを待つ間店先でご主人と歓談しました。なかなか気骨のあるというか、面白い人で様々な話をしていく中、胆はないのですかという話になると、あるとの返事。

この胆焼きを作るには一串に鰻が5〜6匹は必要です。ご主人は、胆焼きを店頭に出すと、そんな事も分からない人が一気に出ているだけ買っていってしまうために、店頭には出さないのだといいます。分かる人にしか売らないというその胆焼き、是非食べてみたくなるのは当然の事です。胆焼きは冷蔵庫にあるというので、一本150円のそれを早速二本だけ頂いて来ました。私は分かる人の範疇に入れて頂けたようです。

さて、この待ち時間の会話を書いていると長くなりそうなので割愛します。本当は店先で焼いた鰻を、速攻で白いご飯の上に乗せ食べてみたかったのですが、私は家に待ち人もいるのでお持ち帰り。焼きたての鰻は帰り着いてもまだ温かかったので、そのまま酒の肴としました。昔食べたしっかり身の引き締まった鰻、胆もほどよくプリプリとして食感がまことに美味いものでした。

最近はコリコリの胆焼きも売られていますが、これは硬化剤を使っています。そんなコリコリとは違うぷりぷり感は久しぶりです。しかし、私のパートナーは食べて美味しいけれど二口はいらないとの評価。やはり、焼いてからの時間が問題になってしまったのでしょう。鰻は鰻屋で食べるのが一番ですね。という事で次の日も、残った鰻は炙り治してすっかり私が頂きました。


蒲焼き

胆焼き

●Bohemian.jp

いよいよ公開される「bohemian(ボヘミアン)」は、現代に見えなくなったサブカルチャーを再び掘り起こそうというサイト、もちろん古いものをそのままという事ではなく、新しいカウンターカルチャーを作りあげてみようと企画されたサイトです。トーク番組、コミック、イラスト、小説など様々なジャンルのコンテンツを配信するWEBマガジンで、クリエイターやアーティスト視点で日本社会やニュース、ファッションやサブカルチャーについて発信していくサイトなのです。

記念すべき第一回目の連載陣の顔ぶれは、J-WAVEでお馴染みのロバート・ハリス、弓月ひろみ、ラジカル鈴木、カルロルさとし、フジイミツグ、いとうまなぶ、まつばらあつし、久多@麩羅画堂、小松恵、あおくび大根のはじめちゃん、ヒラヤマユウジ、Artist HAL_などなど。とても個性的な面々が登場します。新しいクリエーターがどんどん出てくれば、もしかするとこの強力なメンバーの首もすげ替えられるという恐ろしいサイトです。

このオープニングパーティーが11月28日(金)石川町にある隠れ家的ギャラリーZAIM CAFE ANNEXで行われます。この古民家をリノベーションしたANNEXを見るだけでも素晴らしい上に、パーティーの模様はライブ中継され、パーソナリティーとしてはロバート・ハリス、弓月ひろみ、そして私が参加。素晴らしいパーティになる事必然必至です。人数が限られるので予約制ですが、どうしてもという方はご相談に乗りますのでご連絡ください。

Start Up Party
Open the doors 18:00/Biginning 18:30/Ending 22:00
予約制:event@jointworks.net

ZAIM CAFE ANNEX
< http://zaimcafe.com/annex/
>
ここは一時的に私のコンテンツコンポーザーとしての力を発揮したサイトになります。

Bohemian(11/28 open)
< http://bohemian.jp/
>

【HAL_】横浜在住アーティスト hal_i@mac.com
Web < http://homepage.mac.com/HAL_i/
>
Web < http://lohasfood.exblog.jp/
>
Web < http://Web.mac.com/hal_i/
>