グラフィック薄氷大魔王[160]復活する人たち
── 吉井 宏 ──

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ゴッドファーザー PartI <デジタル・リストア版>毎年送られてくるTASCHENアートブックのカタログの表4が、映画「ゴッドファーザー」のスチル写真だった。口に綿をふくんで役作りしているマーロン・ブランド、渋くて非常に良い。「ゴッドファーザー」は中学生のときにテレビ放映で観たきりだったけど、もう一度ちゃんと観てみたくなり、ツタヤでDVDを借りてきた。

僕は映画の中に完全に入り込んで観ちゃうタイプなんだけど、こんな怖い映画だったかな、ってくらい怖かった。もうずっと体が震えっぱなしだし、口がカラカラになってノドの奥がくっついてしまい、ペリペリはがさなくちゃならないような状態になってしまった。で、すごくイイ。美しいし映画としてうますぎる。歴代映画のベストに選ぶ人が多いのもうなずけるなあ、と。

で、Wikipediaを見てみたところ、衝撃の事実が。「ゴッドファーザー」は1972年公開。マーロン・ブランドは1924年生まれ(2004年没)。ということは、ヴィトー・コルレオーネを演じたブランドはまだ48歳の若さだったのだ! 1970年の映画制作開始時には、今の僕と同じ46歳ってことになる。同じく現在46歳のトム・クルーズがヴィトーを演じるみたいなもんだよ。



いや〜、まいった。冒頭で結婚式の裏でいろいろ相談を受けるシーンでは、肌がツヤツヤしてて意外に若いのかな? と一瞬思ったんだけど。「ゴッドファーザー」と聞いて思い浮かべるあの渋いブランドの顔は、60歳代後半と信じて疑わなかったものだ。

ラストタンゴ・イン・パリ オリジナル無修正版同じくWikipediaによれば、ブランドは1970年の時点で完全に過去の人だったそうだ。若い頃は厳選した映画にしか出なかったが、当時は父親の投資の穴埋めと、購入したタヒチの島の維持費と割り切って、ひどい作品にも出るようになり、ギャラも下がっていたらしい。そんな落ち目だった彼が「ゴッドファーザー」(と、「ラストタンゴ・イン・パリ」)で大復活するわけです(最近、「スーパーマン・リターンズ」でCGであの世から復活)。

で、復活といえば、手塚治虫の話。1970年頃の時点で手塚氏はすでに過去のマンガ家と見なされており、長くヒット作が出ない状態だった。どのマンガ誌も描かせようとしない。少年チャンピオンの編集者が大御所に最後の花道として用意したのが「ブラック・ジャック」の連載枠だったそうだ。これの大ヒットで手塚治虫は大復活を遂げ、おかげで偉大なマンガ家としての地位を不動のものにできたとのことです。1973年のBJ連載開始時点で45歳。

ルパン三世「カリオストロの城」 (Blu-ray)あと、昨日「プロフェッショナル 仕事の流儀」を再放送しててまた見ちゃったけど、宮崎駿氏の復活話。「アルプスの少女ハイジ」「未来少年コナン」等で評価されていたものの、初監督映画「ルパン三世カリオストロの城」で興行的に大失敗する。

風の谷のナウシカ 1 (1) (アニメージュコミックスワイド判)あきらめきれず企画を作っては売り込んでまわるが、「馬糞臭い」と陰口をたたかれるほどひどく古いセンスの企画と見なされて、どこも相手にしてくれない。頼まれてアニメ雑誌にマンガを渋々描いているような状態だったのだが、そのマンガをアニメ化した1984年の「風の谷のナウシカ」のヒットで大復活。っていうか、始まった。その時点で43歳。

かと思えば、それまではイマイチ地味な作家だったのに、1988年のアニメ開始でブレイクした時69歳の、やなせたかし氏とかいるしね〜。42歳でマンガ誌デビュー後、ブレイクしっぱなしの水木しげる氏とかも。まあ、いろいろか。まだブレイクも落ち目も復活もしてない僕としては、なんか希望が持てる話ではあります。

【吉井 宏/イラストレーター】 hiroshi@yoshii.com

昔観た映画を今観るとぜんぜん印象がちがう。いろいろ観直したくなってきた。ところで、1980年に「カリオストロの城」を観るまで、自分はアニメオタクだと思い込んでいた。でも、夢中になっていたのは宮崎駿が関係する作品ばかりなことに気がついたのでした。実は宮崎オタクだった。マーロン・ブランドのCGでの復活は実際やった役だからおいとくとしても、コマーシャルに故人の俳優や有名人文化人を使うのって、本人の了解も得られないのに良くないんじゃない? と思います。もうちょっとCG技術が進んだら、過去の有名俳優が新作映画にどんどん出演するようになるんだろうな、ギャラ次第で。倫理問題はどうなる? 楽しみでもあるんだけど。ところで全然関係ないけど、Adobe CS4、アップグレードできなくなるぞと不安をあおる某広告が鼻につく。あれはぜったい逆効果だと思うぞ。

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