伊豆高原へいらっしゃい[27]天体観測の近況
── 松林あつし ──

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一昨日、12月2日は、木星と金星の見た目の距離が最も近づいた日でした。残念ながら、伊豆は曇りで見ることができませんでしたが、夜空で最も明るい二つの星がランデブーするというだけで、かなり目立ちます。さらに、今回は三日月が色を添え、薄明るい日没後のひと時、西の空を飾っています。

月はあっという間に黄道上を移動しますので、数日で離れて行くでしょう。しかし、惑星は遠いのでそれほど早く移動しません。もうしばらくは、競演を楽しめそうです。双眼鏡や望遠鏡を使えば、金星が満ち欠けをするのがわかります。今の金星も半月の形をしています。

僕が今までに観測できた惑星は金星、木星、土星の3つです。



土星は、輪が特徴的で、初めてレンズ越しに見たときは、感動しました。ただ、距離が遠いので、本体の縞模様まで写真に写すのは、なかなか難しいものがあります。目標としては、せめて、輪がどちら向いているのか、カッシーニの間隙(土星の輪で最も目立つ隙間)が、ちゃんと写るか、という部分です。

しかし、まだ20時〜24時ごろの、観測可能な位置にきていませんので、本格的に土星観測ができるのは年明けになりそうです。しかも、輪の角度がかなり小さくなるので、あまりダイナミックな形状は望めないかもしれませんね。

木星は、やはり遠いのですが、土星に比べれば地球に近い(地球との位置関係によりますが)のと、巨大であることから、最も観測のしやすい対象です。大気の状態が良ければ、縞模様も沢山見えますし、大赤斑も見ることができます。

今後の目標は、ガリレオ衛星の表面通過と、それが落とす影を観測し、写真に収めることです。残念ですが、木星はだんだんと昼の側へと移動しつつあり、今後は見えなくなります。

金星は今が見頃です。太陽との角度も結構あり、暗くなってからも当分見ることができます。距離も近いので、ちょっとした双眼鏡でも満ち欠けを見られます。ただ、分厚い大気に覆われているので、輪郭がもともとぼけているのと、木星や土星と違って、二酸化炭素で構成されている金星のガスは、変化に乏しく、縞模様も我々が使う機材では確認できません。写真に撮っても、ピンぼけの白い「月」にしか見えないので、あまり面白くはありません。

まだ観測に成功していないのが、火星です。火星は大接近時には、お隣の惑星だけあって、赤く大きく見えます。しかし、今はちょうど太陽と重なっているのです。地球よりも外側にある火星が、太陽と重なって見えるということは、今一番遠いところに行っているということですね(太陽を挟んで反対側)。観測できるようになるのはまだまだ先になりそうです。

他の惑星はどうでしょうか……水星、天王星、海王星、冥王星(もう惑星ではありませんが)です。水星は季節によっては観測可能なようですが、あまりにも太陽に近すぎます。また、大きさも非常に小さく、ほとんど点にしか見えません。

天王星、海王星は土星の外側を回る巨大なガス惑星ですが、やはりあまりにも遠すぎます。これらも僕の望遠鏡では点にしか見えないでしょう。

これらの理由から、太陽系内での観測対象は、金星、月、火星、木星、土星に絞られそうです。もちろん、小惑星や時々来訪する彗星を観測している方もおられますが、かなりの熟練と知識が必要です。僕の場合、まず、取り組みやすい対象で、確実に撮影を成功させる方が先ですね。

惑星と、太陽系外の天体とでは、観測のしかた、撮影のしかたが大きく異なります。まず、惑星は明るいので、一枚の写真を撮るのに、1秒もあれば充分です。天体をファインダーに収めて、ピントを合わせて、カシャって感じですね。

しかし、それが太陽系外のガス星雲や、銀河系外の銀河を撮る場合、60秒〜10分、20分という長時間露出が必要になり、星の追尾もシビアになります。

この、シャッター速度の違いが、惑星と星雲の観測難易度を決めていると言っても過言ではありません。1秒そこそこなら、正確な追尾は必要ないので、経緯台と呼ばれる簡易架台で充分ですが、長時間露出となると、赤道儀と呼ばれる装置で正確な追尾をする必要があり、そのための数々のオプションや熟練が要求されます。

例えば、赤道儀の設定を正確に行っても、どうしても誤差が生じ、星が流れて写ってしまう場合があります。そんな時は、追尾精度を監視し、自動で誤差を修正してくれるオートガイダーと呼ばれる装置を使ったり、逆に露出時間を短縮するために、超高感度カメラを使ったり……あの手この手で、いかに淡いガスをきれいに拾うかに心血を注いでいる訳です。もちろん、相当の出費も覚悟しなければなりません。

さらに、ガスは赤く淡い光を発している場合が多く、それを写真に収めるためには、赤外線領域まで写るカメラが必要になってきます。

実は、通常のデジカメは赤外線カットフィルタが付いており、それが天体の淡い光を遮断してしまいます。せっかくの淡いガスの光を拾えないのでは、その美しさも半減ってところです。それで、多くのアマチュア天文家は、一眼デジカメを改造して、フィルタを除去して使うのです。

当然、フィルタが付いた状態で、風景などをきれいに写すように作られていますから、フィルタを除去すると、通常の撮影には使えなくなります。高いカメラですから、かなりの勇気がいりますね。僕はまだそこまで踏み込めません。

僕の最近の観測スタイルですが、自宅の駐車場観測が多くなっています。その理由として……
1)ガス星雲をとらえるためには、赤道儀観測が必要。
2)赤道儀の設定をするためには、北極星が見えなければならない。
3)ベランダから北極星は見えないが、自宅駐車場からはぎりぎり見える。
4)寒さが厳しく、天城高原まで遠征に行くパワーがない。

などが上げられます。寒くて行けない、とは根性なしの極みですが、高原の寒さを甘く見ていました。少々の冬支度では間に合いそうもありません。冬山登山のような防寒対策が必要です。それに比べて、自宅駐車場は、寒くなれば家に逃げ込めるので助かります。まずは、ここで赤道儀アライメントと呼ばれる、軸設定の練習をしていこうと思っています。

星雲、銀河の撮影を成功させるには、最低3分の露出が必要です。しかし、今のところ、1分の露出しか成功していません。赤道儀の練習だけで、3分露出ができるのか、オートガイダーが必要になるのか、気象的に少ない観測のチャンスを逃さないよう、注意しながら進めていきます。

ちなみに、こちらは、これまでの観測結果です。
< http://www.nexyzbb.ne.jp/%7Epeppy_atsushi/digi_cre/08_12_04.html
>

【まつばやし・あつし】イラストレーター・CGクリエイター
< http://www.atsushi-m.com/
>
pine1289@art.email.ne.jp