ショート・ストーリーのKUNI[50]ネーミングライツ/やましたくにこ

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記 者「もしもし。あのー、凸山市役所でしょうか」
市役所「♪ようこそここへ、で、こやま〜 ♪凸山市役所です〜」
記 者「ああびっくりした。テーマソングですか」
市役所「はい。何かご用ですか」
記 者「私、東京の某新聞の記者をしております。地方都市における地域の活性化といいますか、地域づくりといいますか、地域おこしについて取材したいと思ってるんですが、広報のご担当者をお願いいたします」
市役所「しばらくお待ちください。♪ようこそここへ、で、こやま〜♪凸山市役所広報です〜」
記 者「あのー、さきほどの方と声がそっくりですが」
市役所「受付が広報も兼ねております」
記 者「ああ、そうですか。で、さっきもお話したんですが、地域の活性化につきまして、凸山市の実情をお伺いしたいと思いまして」
市役所「それにつきましては、他市に先がけてさまざまな試みをしております」
記 者「ああ、そうですか。それは話が早い」
市役所「ですが、他市に先がけて失敗しております。どれもぱっとしません。凸山せんべいに凸山クッキー、凸山味噌、凸山こけしに凸山ペナントなど売り出しましたが売れませんでした。イメージソングも公募して作りましたが、プロの歌手に頼んだりCD化するお金がないのでライブで歌っております」
記 者「それがさっきの…ライブというんですかねえ」
市役所「ウェブサイトも10数年前に立ち上げましたが最近は人手不足で更新しておりません」



記 者「うーん。サイトは最新のトピックスが『本市××町の○○さん、オリンピックめざして練習中』となってますね。このオリンピックとは」
市役所「アトランタです」
記 者「えっ。というと1996年ですか。それは古い…しかし、確かに立ち上げは早かったんですね。えーっと、とりあえずそちらにお伺いいたします。すいませんが、市役所までの道順を教えていただけませんか」
市役所「はい、凸山駅を出て、駅前の道をまっすぐ歩くと吉田平五郎会館が見えてきます」
記 者「吉田平五郎。それは地元では有名な方なんですか、それで記念館を」
市役所「いいえ、もとは第一町内会館という小さな建物でしたが、財政難でネーミングライツを導入しました。といっても市内にはこれといった企業がなく、難航しておりましたが、吉田平五郎さんが出資されまして。これで会館の電気が復旧しました。喜んでおります」
記 者「そうですか、はい。で、吉田平五郎会館が見えてくる、と」
市役所「見えてきたところから300メートルほど行くと『中山米穀店・合田進・金井商店図書館』が見えてきます」
記 者「ああ、3人の方が共同出資でネーミングライツを」
市役所「はい。これといった企業がないもんで。そこをさらに過ぎてしばらく行くと『大杉鉄工所・芝山宗佑・林誠一鍼灸院・デビッド楢崎集会所』が見えてきます」
記 者「今度は4人ですか。メモするのが大変だ」
市役所「えっと、その『大杉鉄工所・芝山宗佑・林誠一鍼灸院・デビッド楢崎集会所』をすぎて」
記 者「なんか過ぎるばかりですが、それなら説明にはあまり関係ないのでは」
市役所「いえ、一応こうして宣伝するという契約になっておりますので省略するわけにもいかないんで。すると『手島昭三・須藤甚五郎・澤田宏社中・前田純一郎動物病院・西園寺源三事務所・玄界灘食堂・大山崎幸之助公民館』が見えてきます。そこを右折」
記 者「あ、はい」
市役所「曲がったところが『豪徳寺光則・大俵山保久整骨院・長宗我部義正・波多野守一金物店・活魚の二階堂豊永商店・後藤ロジャース俊政商工会館』」
記 者「あの、だんだんわざと長くしてませんか。セカンドネームまで出てきてますが」
市役所「そう言われましても大切なスポンサーさまですので」
記 者「あ、はい」
市役所「で、『豪徳寺光則・大俵山保久整骨院・長宗我部義正・波多野守一金物店・活魚の二階堂豊永商店・後藤ロジャース俊政商工会館』と『大森美智三郎・土橋ベーカリー・島津正雄食品店・文具のワタナベ・河原町三条道明消防署』の間の川にかかってる『大野希実子橋』」
記 者「大野希実子さんはおひとりで橋のネーミングライツを。たいしたもんですね。こちらも楽だ」
市役所「いえ、それは橋の手前半分で、残り半分は柳川幸正さんがスポンサーです。ですから、その橋を渡るときは『ここまでは大野希実子さんの提供、ここからは柳川幸正さんの提供です』となりますのでご注意ください」
記 者「ご注意と言われても」
市役所「そのふたりは仲が悪いんです」
記 者「あ、はい」
市役所「いよいよ近づいてまいりました。その橋を横目に見ながら『大森美智三郎・土橋ベーカリー・島津正雄食品店・文具のワタナベ・河原町三条道明消防署』も過ぎて『蜂須賀吉之助葬儀社・喫茶再会・活魚の二階堂豊永商店・パーマのご用はビューティーサロン田口・スナック美子・玄界灘食堂体育館』の前が市役所です」
記 者「ちょっと待ってください。活魚の二階堂豊永商店さんは商工会館、玄界灘食堂さんは公民館のときにもお名前が」
市役所「よく気づきましたね。ふっふっふ。決して名前を考えるのがめんどくさくなったのではなく、あちこちにスポットで名前を出しておられるスポンサーさんがいるわけです。何しろこれといった企業がありませんので。ちなみに喫茶再会のママと二階堂豊永さんはいとこ同士なんですが知ってましたか」
記 者「知ってるはずないでしょ。いや、こんなに名前が長いと住民は大変ですな。言い間違えたりしないんですか」
市役所「住民はいちいち言わなくても全然困りませんが、私なんかは一日の大半を道案内に費やしております。あと、地図の出版社はちょっと大変かもしれません。場所とりますし、時々スポンサーが一人抜けたりしますしね。うふふふ」
記 者「喜んでる場合ですか。それより、市役所は単に市役所、なんですか」
市役所「当然です。もとあった市役所は経費削減のために売却して、いまは私の自宅を市役所にしております」
記 者「私…といいますと」
市役所「私が受付兼広報係兼凸山市長です。これも人件費削減のためでして。市役所に来られたら私が本市のマスコット・でこにゃんの着ぐるみでお迎えいたします」

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みっどないと MIDNIGHT短編小説倶楽部
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