「マーベル・ワールド」に熱狂したアラフォー世代(笑)はヨーロッパ漫画誌「ユーロマンガ」を支持するぞ、宣言
── 鷺義勝 ──

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●これまでにも「紹介」されてきた海外のマンガ文化

ファンタスティック・フォー―超能力ユニット (竹書房文庫)アラフォー世代(笑)の私らは、1970年代後半に光文社より続々と発刊されていたアメリカのマーベルコミックスの翻訳版で、映画評論家でアメリカンコミックスにも大変造詣の深い小野耕世氏監修による「スパイダーマン」や「ファンタスティック・フォー」、「ハルク」等、いわゆる「マーベル・ワールド」に熱狂したものでした。

特に「マーベル・ワールド」の醍醐味というと、それぞれの作品のヒーロー達が作品の壁を越えて登場し、ただ敵として対決するというだけではなく、互いが持つ超人的能力から生まれる苦悩等を相談し合える尊い仲間となったり、描かれている世界観も大宇宙からゴーストタウンまでと、いかにもアメリカらしいステージでストーリーが繰り広げられるところでした。

ここまでお話しますと、例えば日本の「ドラゴンボール」等も様々な舞台でストーリーは展開されるのですが、「マーベル・ワールド」の醍醐味というのは「作品間を貫き通すある種の倫理観に、ヒーロー達がいかに向き合っているのか?」といったメッセージがストレートに伝わって来る点なのです。


日本のマンガで言うと、石ノ森章太郎氏の「仮面ライダー」シリーズと「サイボーグ009」、「人造人間キカイダー」等が、それぞれの能力を駆使して様々なステージでストーリーを展開させるとしたら、貴方はどのような作品を描きますか? 等身大ヒーローが秘密結社と戦いを繰り広げるというだけではなく、仲間同士やキャラクターの非常にプライベートな部分にまで伏線が張られるような魅力が「マーベル・ワールド」には展開しているのです。

ファンタスティック・フォー:銀河の危機 (特別編/初回生産分限定特典ディスク付・2枚組) [DVD]映画化されている作品も多いのですが、私は正直申しましてコミックスの方が比較にならないくらい面白かったです。特に「ファンタスティック・フォー」にシルバーサーファーが登場した時などは、あまりの完成度の低さに二度と3DCG映画は見るまいとさえ思いました。

コマ割りとキャラクター達の感情表現の関係性等も、アメリカンコミックスの伝統からか、非常に高いレベルまで引き上げられていると言えます。決して翻訳されていなくても、日本のアニメ製作になくてはならない絵コンテが、まるで一冊のコミックスに昇華されているような楽しみ方にも独特の魅力を感じます。カット間を繋ぐことで動きを表現することが多い動画に比べ、マンガはコマの繋がりによって動きや感情を表現している分、説明的な堅苦しさが少なく、次の展開に吸い込まれるような醍醐味も味わえると言ってよいのではないでしょうか。

「凄い」動画表現は、数知れず存在するように思われますが、口惜しく感じられるのは作品表現である前にまず「凄いCG」といった感覚が、鑑賞の前提として認識されるという歯痒さに、昨今のCG制作は憤りを感じているとも言えるでしょう。

当時のアメコミは、ディズニーさえもメインカルチャー扱いされていた中で、確固としたサブカルチャーのポジションを必然的に獲得していたことも、表現力を向上させる為の土壌作りに貢献していたに違いありません。

安易なメディア依存に屈することなく、あくまでも次代のヒーロー像の多様性や社会に対するメッセージ像を追求することで、ビジョンを研ぎ澄ませて来たアメリカンコミックス。一見「繊細な感情表現は苦手」なように思われがちですが、実際には作者と読者が共有している社会観から来る「コミュニケーションの基盤」が直感的に意志を疎通させる働きを担うことで、表現力もより洗練され続けるのでしょう。

アメリカンヒーローの象徴する意志や能力は、言ってみればリアルタイムに描かれているアメリカの「光と影」のようなエピソードではないでしょうか。機会がありましたら、ぜひ読み直してみて下さい。皆様の「世界観」に一石投じる何かに巡り会えるかも知れません。再販を待ちかねている方も、少なからずおられるとネット上にて耳にします。

●フランスの代表的マンガ文化「バンドデシネ」(通称BD)

モンスターの眠りジャン・ジロー=メビウスや、エンキ・ビラルといった、フランスを代表する「バンドデシネ」(通称BD)作家の作品はこれまでも幾度となく紹介され、特に洋書店を中心に販売も行われて来ました。日本のマンガとの最大の特徴の違いは、敢えて外見上の差異ではなく、読者に対してどのようなエンターテインメント性をもたらすのかを言えば、「大人と子供が互いに感想を述べ合うことによって、観点の違いを語り合える楽しさ」がBDからは根強く伝わって来ます。

BDのコミュニケーションの役割としては、日本の絵本に近いポジションを果たしている印象も受けます。確かに、ビジュアル面での完成度は、日本の映像表現をマンガを通して発表し続けている作家達にも、多大なる影響を与え続けていると言えるでしょう。

ここまで魅力を持った素晴らしい作品が、国内で相応の評価を得ているとは言い難い最大の要因は、一つには「母国の文化の土壌を大切に育む意志の強さ」で、他国の文化を溢れんばかりに分別なく受け入れ続けているという点では、恵まれた状況におかれ続け、自身の尺度で作品本来の持つ魅力を推し量る能力が著しく劣った、我が国の国民性にも要因があるようにも思われます。

特にBDのような作家が作品を描く動機が個々の作品によっても非常に多様で、その演出力を読み解く面白さに気が付く迄に時間を要する文化に、馴染みがたい一種のトラウマの様な感覚を、私達はこれまで受けて来たのかも知れません。

端的に「マンガである前に海外の作品」といった印象を手に取られた際に受けられたとしても、全く不可思議なことではありません。理由を挙げればきりがないとも思われますが、紹介される作品が必ずしも日本人に「人気」を求めるのか、あるいは「名作」と呼ばれる作品なのか、どちらかに絞り込むというのは非常に難しいこととも言えます。

抽象的な言い回しですが「豊かな表現力」と言った発言を社会・経済・文化の面から解釈するにしましても、決して切り崩すことの出来ない「個の壁」というものがあるように思います。あるとするなら、それは何の見返りも持たない行動であったり、目的のない意思の表明といった方法が有効かもしれません。

例えば一冊の書籍を読む際に、全く文章として捉えず、いわば五十音表を暗唱するように意識しながら、最後の文字まで認識したとします。その後、もう一度読みたくなる方もいれば、そのうち暇な時にでも再読しようと思う方、一度読んだのだからもうよいだろうと思われる方、厳密に問えばどの方にも「動機」はあるでしょう。しかし、考えても見て下さい。マンガに限らず何らかの意志を決定する際に「たまたま目に入ったから」といった状況も事実上生まれているのではないでしょうか。一冊のBDを手に取り数ページ捲っただけでも魅力ある一冊に出会える時とは、えてしてこんな場面であることが多いようにも思います。

本来つまらない本などはないくらいのお気持ちで、棚に向かわれるのも一興に存じます。少々堅苦しいお話が続きましたが、マンガから諭される様々な叙情に日々の様々な鬱憤を晴らすも良し、日頃から鬱積していたお悩みごとに終止符を打たれてはいかがでしょう。癒しをお求めになるのは、また別のノウハウを(笑)。

ユーロマンガ 1今回紹介させて頂きます、飛鳥新社刊の日本初のヨーロッパ漫画誌である「ユーロマンガ」は、一冊の書籍としてはまだまだ手探りの段階と捉える方も多いように思われます。その分、これからの期待に応えてくれるに十分な魅力も予感させます。「なぜ今ヨーロッパ漫画なのか?」ではなく、読者の立場からも今後どのようなビジョンを描いて行くべきか? 考えただけで未体験の喜びに身が拉がれる思いさえします。一つ一つの作品に、批評めいたものを記しませんが、私の尺度等ではなくまず一度お手に取って御高覧頂きたいというのが本心です。

貴方のこれまでのマンガに対しての尺度を軌道修正されるに足り得る興味深い作品に、いくらかでもご関心を投げかけてみて下さい。繰り返し読まれることで、それまで経験されることのなかった「焦点」が次第に訴えかけて来ます。

このネット社会において冒険ともとれる創刊を賭された編集制作スタッフの方々と共に、育み続けて行きたい「マンガ本」に、あなたもぜひご声援下さい。アニメやゲームでは決してなしえない感動が、ここには定着しているのです。次号は2009年3月発行の予定です。URLを記しますが、モニターではこの醍醐味は伝わりません!
< http://www.euromanga.jp
> euromanga

【さぎ・よしかつ】< http://www.loftwork.com/user/2492/portfolio/
>
正直、「またフランス崇拝モノかよ」と思われやしまいか? とも心配しましたが「ユーロマンガ」はいわゆる「BD好き専門誌」ではありません。もっと編集面等を研ぎ澄ませれば、まだまだ面白くなると思います。特にクロスメディアの観点からBDに思いを馳せると、稚拙なフィギュア化や映像化等といった「資本主義企画」を軽々と飛び越え、これまでになかった醍醐味を味わえるはずです。

・ASIAGRAPH2008 in TOKYO
< http://www.asiagraph.jp/index.html
>
・平成9年度(第1回)文化庁メディア芸術祭
< http://plaza.bunka.go.jp/festival/1997/
>

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by G-Tools , 2008/12/17