買物王子のモノ語り[08]出来立ての美味しさを味わった駅弁大会/石原 強

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京王百貨店で1月8日から20日まで開催された、「第44回元祖有名駅弁と全国うまいもの大会(通称、駅弁大会)」に行ってきました。40年以上前から、毎年欠かさず行われている京王百貨店の人気イベントです。47都道府県の業者が出品しており、その数は約200種類。日本一の駅弁大会として、駅弁業者からは「駅弁の甲子園」と呼ばれているそうです。

仕事で名古屋に頻繁に出張していた時は、新幹線「のぞみ」車内で駅弁を開けるのが楽しみでした。定番だけでもいくつもあるし、季節ごとに新しいお弁当が出るので飽きません。選ぶ時はどれも美味しそうに見えるので、目移りして大変でした。でも、仕事を変わったら食べる機会はほとんどありません。折り込みチラシを見たら、バラエティ豊かな全国各地のお弁当が並んでいてワクワクしてきました。以前に食べたことのある駅弁もあります。懐かしい思いもあり、ちょっと覗いてみるつもりで出かけてきました。



着いた時には、お昼近くになっていました。平日でしたが、会場の7階大催場への直通エレベーターには人が並んでいます。並んでいる間、どの人も配布されたチラシを熱心に見ています。エレベータから出ると、会場は目の前です。狭いスペースに実演と大勢のお客さんが入ってかなりの混雑。まるで年末のアメ横のように活気に溢れています。それでもうまく交通整理されて、なんとか秩序は保たれているようです。ざっと一回りしてみると、定番の横川駅「峠の釜飯」や、駅弁大会常連の函館近くの森駅「森のいかめし」は、既に長蛇の列ができていました。

事前に雑誌「おとなの週末」の駅弁大会特集で予習して、お目当てのお店を決めていました。その一つは「伊豆の人気駅弁対決」の伊豆箱根鉄道修善寺駅「あじ寿司(1,000円)」です。軽く酢でシメたアジが酢飯にのったお寿司。これは作り立てのものを、会場の休憩コーナーでいただきました。新鮮さを生かしたアジは、やわらかくて刺身のようです。これだけでも旨味たっぷりの絶品ですが、酢飯の上には桜葉の塩漬けと、白ゴマがかかって、これを一緒に食べることで一層風味が増します。実際に、駅でも作り置きはせずに、電車の発車時刻に合わせて製造しているのだそうです。会場の休憩所は、隣の人と肩がぶつかりそうなくらいで、ちょっと窮屈ですが、なんだか駅のホームで食べているような感じです。

お腹も満たしたところで、家族へのお土産にする駅弁を買いに走ります。毎年看板の駅弁対決、今年のテーマは「いか vs. たこ」です。中でも今年一押しの山陰本線鳥取駅「いかすみ弁当黒めし(1,100円)」を選びます。いか墨とイカゲソを地元の特製醤油で一緒に炊いて、その上に小イカの照り煮、イカ団子、鳥取砂丘のらっきょうの素揚げを盛りつけたもの。竹製のせいろも雰囲気が盛り上げます。夕飯時に温めなおして食べました。フタを開けるとイカの香りがやさしく広がり、黒めしはふんわりして生臭さもなくコクのある味わいでした。

もう一つ、肉モノも食べたい! というリクエストで選んだのが、鹿児島本線出水駅「鹿児島黒豚赤ワインステーキ弁当(1,050円)」です。今年の初登場ながら、店頭には「王様のブランチで紹介!」「梅宮辰夫さんと石破農林水産大臣お買い上げ!」と書かれた紙が貼ってあり、列ができています。並んでいる間、肉を焼く音と匂いが食欲をそそります。食べたいのをぐっと我慢してこちらも持ち帰り。赤ワインに漬けた黒豚肉のステーキを、サフランライスの上にのせた洋風のお弁当。肉の味がしっかりして、マスタードを付けるとさらに肉の味が引き立ちます。温め直しても美味しかったけど、会場で食べたらもっと美味しかったかな。

さすがにどれも美味しくて大満足でした。もっといろいろ食べてみたいけれど、箱のサイズの割にはぎっちり詰まっているので、お腹にはそんなに入りません。駅で買って食べるとどうしても冷たくなってしまいますが(それでも美味しい)、出来立てや、持ち帰って温めて食べる駅弁はさらに美味しいことを再認識しました。そして駅弁大会にすっかりハマってしまい、会場を何周もして隅々まで見て回りました。

駅弁大会 (光文社新書)端の方にあったグッズコーナーには、「森のいかめしTシャツ」や「携帯ストラップ」などのお土産品、駅弁関連の書籍もありました。その中には主催者である京王百貨店の駅弁チームによる「駅弁大会」という本がありました。この楽しいイベントの舞台裏を見てみたいと思い、読んでみました。

京王百貨店駅弁大会の起源と、30回大会('93年)から36回大会('01年)までの企画から実現までのエピソードがまとめられていました。廃線になった駅の「復刻駅弁」や「海外の駅弁」を再現するまでの険しい道のり、看板となった「駅弁対決」企画を成功させるための工夫。駅弁大会を裏で支えるスタッフの苦労話、地元代表を自任して参加する業者の奮闘ぶりなど、臨場感を持って語られています。戦前の樺太(サハリン)鉄道の駅弁復刻では、試食したご老人が当時を思い出して涙する話には、こちらまで涙を誘われます。

駅弁大会は毎年のことだから、ただ人気の駅弁を並べればいいというのは誤りで、常に新鮮なものを提供しなければマンネリ化に陥ります。これを避けるために「復刻」「対決」「海外」と、駅弁を軸にした様々なアイデアによって世界観を拡げていきます。その企画を実現させ、翌年以降もさらに革新を続けてきたということが、駅弁大会のすごさだということです。そのためにチームワークはなにより重要で、「駅弁チーム」という呼称も、百貨店の運営スタッフだけでなく、参加業者、協力者を含めた駅弁大会を支え盛り上げる全ての人々を含んでいるのだそうです。

毎年変わらずに続いているように見える百貨店の駅弁大会にも、毎回毎回いろいろな苦労があり、駅弁一つ一つにも作る人の思いが詰まっている。自分の関わっている制作の仕事に当てはめてみれば当たり前とはいえ、そんなことは考えてもみませんでした。「継続は力なり」と簡単にいうけれど、毎年より良いものへと変革し続ける苦労は並大抵なことではありません。でも、次回もきっと期待を超えた魅力的な駅弁に出会えることでしょう。出来立ての駅弁を思う存分味わうことを想像すると、今からワクワクしてきます。

公式ブログ「駅弁大会への道'09」
< http://keio-ekiben.cocolog-nifty.com/2009/ >

「駅弁大会」京王百貨店駅弁チーム(著)714円
< http://www.amazon.co.jp/dp/4334031048/ >

【いしはら・つよし】tsuyoshi@muddler.jp
・ウェブアナ http://www.muddler.jp/
興味深かったのは、この駅弁大会によって「百貨店の実演販売で売上をあげる」という、駅弁業者の新しいビジネスモデルが誕生したということです。その代表である阿部商店は、人気の「森のいかめし」をピーク時には1日1万個を実演販売で売ったというのですから驚異的です。

・わたしも「駅弁大会」を読んで涙しました。(柴田)