買物王子のモノ語り[09]新しい酒米「越淡麗」から生まれた日本酒を味わう
── 石原 強 ──

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お酒が好きでよく飲みますが、和食にあわせるならば、やっぱり日本酒が美味しい。お燗もできるので、特に冬はありがたい。知り合いがお店を出したので、飲みに行く機会も増えました。中目黒の「ニイガタ025」は、新潟郷土料理を中心に、新潟県産のお酒と食材にこだわったお店。住宅街の中にあってわかりにくいですが、店内は明るく席間もほどよい居心地の良いお店です。

店長の相田さんは、地元新潟の素晴らしい食材をもっと紹介したいと、お店を開いたということです。お酒のラインナップも豊富です。いつもメニュ−に載っていない希少なお酒をいろいろ紹介してくれるのですが、そこで、お試しで出していただいたのが「新しいお米」で作ったお酒でした。その年に収穫した「新米」ではなくて「新品種のお米」という意味です。



ちなみに、日本酒は米から作られるお酒ですが、使われる米は炊いて食べるお米「コシヒカリ」や「ササニシキ」とはちょっと違います。同じジャポニカ米ですが、酒作りにふさわしい性質を持った米で「酒造好適米」(一般に、酒米)と呼びます。新潟県には「五百万石」という優秀な酒造好適米があります。

おいしい日本酒を作るためには、お米を選ぶだけでなく加工も必要です。雑味となるお米の表面に近い部分を削りとって、中心の部分だけを使うのです。お米を削る割合は「精米歩合」といいます。「精米歩合70%」とは、お米の30%を削ったという意味です。より純粋な味を求めると、削る割合も高くなります。「五百万石」の欠点は、沢山お米を削っていくと砕けやすくなるということ。

それに対して「山田錦」というお米は砕けにくい特性を持っています。しかし「山田錦」は兵庫県産のお米なのです。新潟県は自他共に認める「日本一の米どころ」、他県のお米に負けることが悔しい。そこで、県をあげて取り組んだのが「五百万石」と「山田錦」の良い点を併せ持った新しいお米の開発です。

15年の歳月をかけて完成した、新潟県オリジナルのお米の名前は「越淡麗」、大粒でお米を大きく削ることもできる、新潟県の期待を背負ったお米です。とはいえ、このお米を使ったお酒を作っているのは、まだ限られた蔵元だけなのだそうです。この話を、お店のカウンターで飲みながら「ふーん」と聞いていましたが、他のお酒も飲んでいたので正直、味もはっきりとは覚えていませんでした。

「越淡麗」の名前を再び耳にしたのは、新潟駅の売店でした。家人の両親が新潟出身なので、法事で新潟に出かける機会がありました。帰りがけにお土産を買おうと立ち寄った売店で、熱心に薦められたのが「越淡麗」を使ったお酒でした。このお米を使って初めて、全国新酒鑑評会で「金賞」を受賞したということ。数が限られてあまり出回ることもないということで、ちょっと値段が高かったけど買って帰りました。

せっかく飲むのなら、それにふさわしい食事と一緒がいい。そこで店長にお願いして、持ち込みさせてもらいました。このお酒だけ飲んでも味の差がわからないので、比較のために新潟らしいお酒として選んでもらったのが「清泉」。お米は「五百万石」「山田錦」の両方を使用しています。しっかりした旨味があり、後口はすっと喉を抜ける。どんな料理とも相性が良いと店長お薦めのお酒です。いい意味で日本酒らしくないスマートなラベルは、アートディレクターの浅葉克己氏によるデザインです。

二つ目は「清泉 七代目」。同じ「清泉」ですが、お米は「山田錦」のみのお酒です。さわやかな香りとコクがあり、バランスのとれたやさしい味わい。こちらは画家・千住博氏の滝の絵がプリントされたラベルで、お酒の喉を潤すイメージにぴったりな感じがして和みます。この「清泉」を作る「久須美酒造」は、マンガ「夏子の酒」のモデルになった蔵元だそうです。

食事はいつもお酒に合わせて、おすすめを選んでもらうのですが、今回は、寒ブリの季節ということで「ブリの刺身」と「ブリ大根」を選びました。脂がのっていてとても美味しい。他にも日本酒にあわせて「えごねり」「めぎすの煮付」といった、新潟らしい料理をいただきました。

最後が、持ち込んだ「越乃梅里」です。お米もちろん「越淡麗」を100%使ったお酒です。精米歩合は35%と、お米の6割以上を削った贅沢なつくりです。口をつける前から、華やかな香りが際立ちます。水を加えて調整していない「原酒」なのでアルコール度数は若干高いですが、口に含んでもそれを全く感じさせない柔らかな口当たりです。後口もさわやかでとても上品な味。料理にあわせるのはもちろんですが、純粋にお酒だけを楽しむには最高です。

飲み比べてみると三つのお酒はどれも味は全く違うけど、それぞれに味わい深い。最後の方は、いい感じに酔っぱらって、微妙な味の差はわからなくなっていましたが……。これまで、日本酒はなんとなくわかりにくいと思って、他のお店では、いつも同じお酒を飲んでいました。これからは「酒米」を気にして選んでみようと、あらためてラベルを見直してみました。すると、蔵元の名前、お米の名前、精米歩合、製法など、わからない言葉だらけです。

さらに、日本酒のことを良く知りたいと「うまい酒の科学」という本を手に取りました。日本酒をはじめとしたお酒全般の製法から、美味しい飲み方までわかりやすく解説されています。日本酒の世界は、知れば知る程奥が深い。もっと色々なお酒や飲み方を試してみて、自分好みの日本酒に巡り会いたい。明日は金曜日だし、また美味しいお酒を探しにいこうかな。

「越乃梅里」小黒酒造
< http://www.bairi.net/
>

「清泉」久須美酒造
< http://kusumi.e-ippin.jp/
>

「ニイガタ025」ブログ
< http://niigata000.exblog.jp/
>

「うまい酒の科学」
独立行政法人 酒類総合研究所(著)
< http://www.amazon.co.jp/dp/479734198X/
>

【いしはら・つよし】tsuyoshi@muddler.jp
ちなみに、店長の相田さんは大学時代からの友人で、以前、東京でデジクリのオフ会をやった時に司会をしていただいた女性です。お店の近くに住んでいる人はぜひ、一度行ってみてください。お店でお会いしましょう。
・ウェブアナ < http://www.muddler.jp/
>