つはモノどもがユメのあと[02]mono01:ココロ揺らす大きさと形──「SONY SPORTS FM WALKMAN」/Rey.Hori

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音楽を外で聴く、歩きながら聴く、電車で聴く、移動しながら聴く、ようになったのが自分史上いつだったのか、が正確に思い出せない。最初に手にした携帯音楽プレーヤは、大学時代に比較的羽振りの良かった友人から中古品を安く譲ってもらったものだったのだが、ではそれをすぐに持ち歩くようになったかというと、どうもそうではなかった気がする。

いきなり脱線するが、CDを初めて聴いたのが同じ時期のことで、大学のすぐ近くにあった小さなオーディオショップでの事だったのは鮮明に記憶している。今思うとかなりデカいプレーヤでクラシックのCDを試聴したのだが、再生ボタンを押すと何のノイズもない状態からいきなり鳴りだしたのに感動したものだ。

もとい。確実に習慣的に外で何かを聴くようになったのは会社勤めを始めてからなので、1985年以降ということになる。通勤の行き帰りもそうだが、社員寮に入ったため休日は必ず一人で出歩いていた。寮にいても何も面白くなかったせいだが、その時には携帯音楽プレーヤを必ず持ち出していたのを覚えている。



また脱線。携帯音楽プレーヤという単語を二度使ったが、昨今この単語を何の注釈もなく使うと、やはりいわゆるひとつのデジタルオーディオのプレーヤということになるのだろう。ゲームというとビデオゲームを指すのと同じことだ。筆者の時代感覚だとゲームといえばカードゲームやボードゲームのことであって、画面でやるヤツはテレビゲーム、ビデオゲームと呼ぶのが当たり前だったのだが、今はもう慣らされてしまったし、うっかりこういう事を言うと周辺の大気圏が若干の加齢臭を帯びるので言わない。

その頃に持っていた携帯音楽プレーヤとは、もちろんカセットテープのプレーヤのことである(今危うく「カセットテープレコーダ」と書きそうになったが、録音機能は当然ない。危ない危ない)。えーい、面倒なのでやはりWALKMANと書かせてもらう。友人から安価に買ったのはSONYのベストセラー機、正真正銘のWALKMAN WM-2であり、就職して買い替えた次の機械はメーカは忘れたがSONY製ではなく、小さなグラフィックイコライザが付いていたのに惹かれて買ったのを覚えている。

それらWALKMAN達にも想い出はあるが、今はもう手元にはなく今回採り上げる「モノ」(定義は前回の記事を参照)ではない。今回のモノは、ある日会社に現れた別のものだ。

会社の先輩が自慢げに見せてくれたそれは、カセットテープを音源とするWALKMANよりも薄く小さくて軽く、黄色く細長い角丸直方体のシンプルな形と絶妙な寸法に何よりも惹き付けられた。WALKMANの名前を冠してはいるが、それは携帯型でステレオのFM専用ラジオなのだ。

SONY SPORTS FM WALKMAN SRF-6である。
< http://www.dgcr.com/kiji/RH/mono01.html >

今の目で見ると、ちょうどiPod nanoに大きさが近い気がする。Appleのサイトで調べてみると最新のiPod nanoは幅38.7mm、高さ90.7mm、奥行き6.2mmとあるが、FM WALKMANは実測で幅38.6mm、高さ100mm、奥行き15mmとやや厚いが正面サイズが非常に近い。筆者は今のではなくて初代のiPod nanoが出た時、あの形と大きさに激しくココロが揺れたのだが(結局買わなかったけど)その揺れとFM WALKMANを見た時の揺れは、きっと同じ根っこが震源になっていると思っている。

というわけで、自分でもこれを手に入れ、イヤというほど持ち歩いた。バッテリーの持続時間のデータは不明だが、カセットテープ型のWALKMANとは比較にならないほど長時間聴くことができ、音源であるカセットテープをがちゃがちゃ持ち歩かなくて良い。電源は単4乾電池2本なので、もしバッテリーが切れてもどこでも入手できるし、カセットテープ群に代わって予備の電池を持ち歩くぐらい何でもなかった。

その上(筆者にはあまりメリットはなかったのだが)防水構造が特徴的だ。電池のフタの合わせ目部分には樹脂のパッキンが仕込んであり、ネジでがっちりとフタをとめる構造になっている。当然スイッチやダイアル類も防水仕様である。選局と音量はダイアル式なのだ。

ラジオなので選局の自由はあっても選曲の自由は当然ないわけだが、これを持ち歩き始めた時期に関東圏のFM界にはかなり鮮烈な事件があった。J-WAVEの開局である。同局のサイトによれば開局日は1988年10月1日となっているが、本放送開始日以前、かなりの長期間に渡ってCMナシ・時折ジングルが入るだけであとは音楽ノンストップ、という試験放送を流していたのだ。これを聴きながら、あちこち昼夜歩き回ったのは、かなり楽しくてちょっとだけ淋しい(←財布もハートも)記憶なのである。

時代背景的に書き添えておくと、昭和天皇の崩御や湾岸戦争の開戦もこのFM WALKMANで通勤途中に第一報を聴いた覚えがある。シューマッハがレース終了後になってペナルティを食ったニュースをこれで聴いた覚えもある、ということは少なくとも94年までは持ち歩いていたことになる。J-WAVEの深夜番組で流れていたサッポロビールのシリーズもののCMが、残業帰りの耳にとても印象的だったのを記憶してもいる。

筆者についての外で音楽を聴くデバイスの想い出は、このFM WALKMANがなぜか突出していて、携帯MDプレーヤをほんのちょっとカスった後、一旦外では何も聴かない時代を経てから、世間よりやや遅れてiPod時代へ移り現在に至っている。FM WALKMANについては、SONYからも後継機は出なかったような気がしている(出てたかも、ですが)。FM WALKMANで聴いたJ-WAVE試験放送に近いものとして、今仕事中はiTunesのネットラジオでジャズやバロックやピアノのインストを流しっぱなしにすることが多い。

今、筆者のiPod touch(初代モデル)には好きな音楽ばかり数百曲と、好きなラジオ番組2時間×2年分ほどが入っていて、大抵の場所で自由に選んで聴けるわけで、何かを外で聴くという点では機能的にほぼ満腹状態だし、何よりラジオとデジタルオーディオを直接比較するのもどうかと思うのだが、「モノ」として壊れても(防水構造の電源ボタンのカバーが破れてはがれ落ちてしまった)捨てられずにいる点で、FM WALKMANは現役バリバリのiPod touchと互角以上の存在感を筆者に対していまだ放ち続けている。iPod touchは大好きなデバイスだが、将来同じように思い入れをまとった「モノ」になっていくのかどうかはまだわからないのだ。

【Rey.Hori/イラストレータ】 reyhori@yk.rim.or.jp
若い頃の街中の一人歩きを思い出して、なにやら内省的な空気の漂う(漂ってない?)おセンチな文章になってしまいました。それにしてもラジオ、深夜のAMはともかく、FMは全く聴かなくなっちゃったなあ。Pazz & Jops、懐かしいなぁ。ラジオ方面のモノねたはまだまだあるぜ。
3DCGイラストとFlashオーサリング/スクリプティングを中心にお仕事をお請けしてます。
サイト:< http://www.yk.rim.or.jp/%7Ereyhori >