装飾山イバラ道[32]捨てられない理由/武田瑛夢

投稿:  著者:  読了時間:5分(本文:約2,200文字)


そろそろ冬物の衣料をしまいたいのに、まだまだ寒い日があって困る。かさばる冬服の季節の入れ替えのついでに、不要な洋服を捨てにかかる。毎年の戦いのはじまり。

世の中にはシーズンごとに新しい服を買って、前年度の服を残さず捨てて入れ替えてしまう人もいるらしい。スタイリストとかファッション関係の人ならば、自分のクローゼット内容が仕事でもあるのであり得る話かもしれない。さぞかしサッパリして、気持ちいいだろうな。しかし、うちでは捨てられない服があって困る。

気負って買った足首まであるロングのコートや、重いムートンのジャケットは、今ではまるでたんすの主(ぬし)のようになっている。新入りの軽やかなコートたちが入っても、定番の奥の場所は明け渡さずに済んできた。出番がない年があるなんて、もはや珍しくもない。何度か手に取られてはしまわれるのを繰り返すうち、とうとう最期の時を迎える。なぜかボタンだけ取られて、ポケットを全部チェックされた。これでお役目終了となるようだ。ご主人様に買われたあの日が懐かしい。

だいたいうちのご主人様は、部屋の収納も限られているのにコートを買いすぎなのだ。新入りはどれも似たようなものだ。自分より高くもない。私の隣りのインポートのコートだって、きっと来年はここにいないだろう。こいつも最初は嫌なやつだと思ったけど、けっこう良い仕立てだ。形だけ古いのだ。そういう時代だったのだ。



……などと、ついつい服に感情移入してしまうから、捨てにくくなるのだ。思い出が邪魔になる。衣類の整理は他人に任せた方がいいのかもしれない。洋服が捨てられない理由のまずひとつは【1.思い出】ということになるだろう。

【2.同居人】
母と同居していた頃は、捨てることのもったいなさを教え込まれていたので洋服が溜まってしまった。その上、いよいよ覚悟して捨てることを決めた服でさえ「私がもらう」というので、家全体の洋服収納スペースは全く変わらない結果になる。今は同居人が夫しかいないので、服は捨ててくれた方がいいらしく、スペースの確保面では前進している。だから今こそ洋服を捨てるチャンスなのだ。

【3.価値観】
「洋服そのものに価値が残っていてもったいない」というのも一つの価値観で、それも捨てられない理由のひとつ。しかし、自分で持っていてもこの先に着ないならそれは置いておくだけで、スペースの損になる。取っておくだけのために防虫剤も消費する。私たちネットオークション世代では、使っていない物であっても、自宅保存しているだけで時間と共に価値がぐいぐい下がっていくことを実感している。ものすごい毛皮なのに、誰にも入札されずに回転寿司状態のオークションを見るたびに、自分が着てこその服の価値だと思う。たんすの中では止まったように見える時間は幻なのだ。

【4.流行】
毎年流行は変わってしまうので、洋服を捨てられない理由とは真逆な気がするけれど、私くらい年齢を重ねると事情が変わってくる。長く生きたおかげか、捨てずに持っておけば、また流行が繰り返してやってくることに期待してしまうのだ。流行が一周するなんてわりとあっという間だ(錯覚)。しかし、商品流通のテクニックなのか、流行はまた「違う形」でやってきていて、決して同じものではない。古くもなっているし、自身のサイズも変わって、結局着られない。若い人がレトロっぽさを楽しむのと、レトロな自分が無理して着るのとでは訳が違う。悲しい現実だ。

このような【1.思い出、2.同居人、3.価値観、4.流行】などの服が捨てられない理由をこじつけてみたけれど、本当にいらなくなれば捨てるかオークションに出すかで、次の段階へ進ませるしかない。「たんすの主」化する前に、なるべく奥にしまわず手前に出して、「使わないなら邪魔」だということを実感するのが早道だ。

そして、ついついやってしまうのが【5.保留】で、判断を先延ばしにしてしまうこと。上の4つのチェックポイントで自省しつつも、でもやっぱり今決めなくてもと可能性を残してしまう。何年かおきにまた引っ張り出して、考えるのを繰り返すなんて考える時間の無駄なのに。

結局たくさん引っ張り出すものがあって、困り果てて切実に捨てる作業をする。今処分するのは、未来の自分がまたコレのおかげで悩まなくても済むようにする唯一の方法だ。こうして文章にしたおかげで、さらに捨てる作業が進みそうで助かった。

洋服だけじゃなく、残しておきたいもののほとんどは他人には価値がないような気がする。執着を捨てて、颯爽と生きられたら素晴らしいのに。でも誰かが執着と愛着は違うから、愛着があるのはしょうがないことって言っていた。愛着のあるものはたんす残し、執着でしかないものは処分、を合言葉にさらに作業を進めたい。

【武田瑛夢/たけだえいむ】 eimu@eimu.com
装飾アートの総本山WEBサイト“デコラティブマウンテン”
< http://www.eimu.com/ >

WBCのバッターの奥に映る画面で合成している広告は、霧に煙る日だと広告だけ綺麗で不自然に見える短所がありますね。確かに天気が曇ってるからって、広告を曇らせて自然になじませる必要があるのかと言えば悩んでしまう。綺麗すぎる画像処理が抱える悩みかも。

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やさしいデザイン―誰でもかんたん、レイアウト・配色・文字組
武田 瑛夢
エムディエヌコーポレーション 2007-09

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by G-Tools , 2009/03/24