ローマでMANGA[18]「授業」しながらあらためて漫画の構成要素を理解する
── midori ──

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で、デ・アゴスティーニの仕事が続いている。いまやっとこ20号、21号掲載分の講義やら記事を書いていて、編集部では14、15、16号の作業をしているらしい。ときどき、「14号の画像が一枚壊れててあけられません」とか「16号の画像のコメントをつけてください」とか、メールが入るのだ。

記事を書くのに疲れるとメールチェックをして、こうした編集部からの要望や、絵描きさん達のラフにコメントを送ったりして、結局仕事をしていて、そのせいか、もう老眼鏡が離せない体になってしまった。



●キャラを立てる…(って言うんですね。業界では。)

数日前に書き終わったのは「キャラクターの作り方」。いざこうして課題として目の前に出されてみると、よくわかってないことに気がついて焦った。何しろ漫画家さんだったのは2年ほど。しかも自分の生活を題材にしていて、特に「キャラを立てる」という作業はしなかった。キャラクターの性格をはっきりさせる、ということは漠然とわかっていたのみ。

購読しているメルマガ『復活! これが"マンガ流"脚本・シナリオの書き方だ!」でキャラの話をしていたのを思い出した。
< http://www.mag2.com/m/0000264161.html
>

Lesson70が『キャラが弱い』と言われたら……というタイトルのレッスンだった。作者のこくぼじんさんによると、持ち込みして編集者さんに「キャラが弱いよ」と言われたら、以下の何かが欠けているそうな。
・シンプルな自己主張や信念、目的。
・分かりやすい特技や特徴。
・主人公の発想や行動の徹底ぶり。
・脇役たちから向けられる主人公へのフォーカス。

さらにLesson74の「君たちはリアクションが弱いワン! ニャ、ニャンですってー!」では、『アクションとリアクションのワンセット』を教えてくれていた。主人公の強さあるいは弱さ、あるいは、かわいさでもなんでもともかく主人公の特徴は、それに対するリアクションがあって初めて、読者にその重要さをわからせ、際立たせることになる。

●わたしの「授業」はこんなかんじ

さらにネットやら手持ちの漫画の描き方系の本を読み返して、8ページの「授業」をまとめることができた。授業の輪郭を明確にするために、具体例を出すことにして、読者層に合わせて、18歳の男女を主人公として、その性格付けをすることにした。そしてストーリーの核は、この二人が反発しながら惹かれ合い、ラストで恋人になる……というそのへんにありそうな話。核自体はありふれていても、料理の仕方でおもしろくなるはず。

▼性格を決めるためのベース

最初の2ページでは、最低の条件を決める話をした。性別、年齢、仕事でおおよその輪郭をキャラクターに与える。日常生活でも、初めて人に会うと、無意識にこの3つの項目を穿鑿している。

そして男女別に18歳という設定で背の高い人、低い人、強そうな人など4種類ずつの人物例を出した。服装も真面目っぽいジャケットだったり、露出部分が多かったりで性格が出るでしょ? ということを強調した。

▼外見に出ない部分も決める

次の2ページでは、外見以外の性格付けの条件。ギャップをつける、という話をした。強いキャラだったら弱い部分を、弱いキャラだったら強い部分をつける。人間は複雑なものだから、ひとつの方向だけの性格では不足する。それにプラスこくぼじんさんの教え、キャラ立てに必要な4つの要素を採用した。

18歳の女性キャラは強い性格ということにした。時には攻撃的。ギャップとして男性不信。へらへらと言いよってくる男子に容赦なくがなり立てたり、時には平手打ちが飛ぶかもしれない。外見は背が高く、出ているところは出てかなり女っぽい、それ故に彼女が苦手な男性から注目されてしまう。それが嫌で、あまり女っぽい服装をしない。でも、本当は女であることを否定していないので、髪は長い。

一方、男性キャラは、女性キャラの反対。つまり弱い。でも芯は強い。温厚で争いを嫌う。ギャップとして彼も女性不信。双方で異性が怖いのだから、関係がスムーズに行くはずがなくて、良い設定じゃありませんか。外見も女性キャラと反対で、背が低めで痩せている。例えば、ラストで恋人になった時、背が伸びていて彼女を超えているのもおもしろいかも。

こくぼじんさんの「わかりやすい特徴や特技」で、女性キャラはフェミニストでベースを弾く。男性キャラはバイクに詳しい。としてみた。

▼見えない部分をもっと掘り下げる。

次の2ページでは「キャラに過去を与える」話をした。ストーリーの中で重要な要素として語る必要はないにしても、キャラクターの行動の理由付けとして、作者には大切な要素だ。

女性キャラの男性不信は、独善的な父親の影響だ……とした。例えば、母親は弱い性格で、しばしば父親の攻撃に泣いていた。その姿を怒りを持って見ていた幼い女性キャラが成長してフェミニスムに共感した。小さな体で男性を率いる、70年代の女性ボーカル・ベーシストのスージー・クアトロをどこかで見つけて大いに憧れを抱き、ベースに興味をもった……、と何となく浮かんだ特技のベースにも結びつけることができた。

男性キャラの過去。彼の女性不信は、女性キャラとは別の理由にしなければいけない。ネット検索で参考になるものを探していて、目についた「恋人が死んでしまって、新しい恋をすることに罪悪感を覚えてしまう」という設定が頭から離れず、「2年前の16歳のときに真剣な恋をして、しかも辛い別れ方をしたので、恋をするのが怖い」ということにした。バイクへの興味は、若い男の子なら誰でも持つものだけれど、別れた子のことを考えないためにも、女の子に目を向けないためにも、熱中した……という設定にした。

▼リアクションの役割

そして最後の2ページで、それまで設定してきた二人の主人公の「アクション」に対する「リアクション」を起こすための脇役達を設定した。

女性キャラのフェミニスムを強調するために、彼女を支持する女の子、正反対に男好きのする肢体を持って主人公のフェミニスムを馬鹿にする女の子。この女の子は男子主人公の女性不信を強調するために、彼に言い寄ることにしてもいい。彼女を無視する男子は許せない彼女だったりするのだ。男性不信を強調するために、主人公に言い寄る背が高くハンサムな男の子。この男の子は、男子主人公の温厚な性格を強調するために、押せ押せの自信たっぷりな性格を与えてもいい。またバイク好きを強調するために、主人公はバイクが好きでも家庭の事情で買えないのに対し、この色男は家が裕福で、高価な400ccを持っている……ということにしてもいい。

「異性不信の男女が惹かれ合いながら反発して最後には恋人になる」というストーリーの核があり、主人公二人の過去や性格や外見が決まり、それをフォローする脇役を決めたら、様々なエピソードが際限なく出てくることに気がついて、私が漫画を描いているときに、こういうことをちゃんと把握してたら……とタイムマシンを作りたくなってしまった。

学校でも、サイトに読者が寄せてくるストーリーでも、うわっつらな設定の状況をストーリーだと提示してくることが多いけど、キャラの設定をしっかりすることで漫画のかなりな部分がなり立つことを、私もこの「授業」を書いてはっきりわかった。これを読んで頭の電球が点く子達が出てくるか……と楽しみになった。

授業では、デ・アゴスティーニの発売に先駆けて、このキャラの性格付けの話をしてみたところ、皆かなり熱心に聞いていた。デ・アゴスティーニの記事書きのおかげで、私もいろいろ漫画の構成要素についてわかってきた。イタリアの漫画家志望者に、こうして伝えることができるのはイタリアでは私だけだ!の意気に燃え、ますます記事書きに精を出して老眼鏡の度数を上げて行こうと思う。

●図々しい募集ですが……

私がマンガセミナーの授業を持つ、ローマの漫画学校の校長がマンガ雑誌を創刊することにしました。イタリアの漫画界は貧しくて、既にどこかで発表されたマンガの出版権を買って発刊するのがほとんど。書き下ろしはディズニーか、チーム編成の続き物のみ。マンガ雑誌は70年代の終わりから5年ほど盛り上がって消えてしまいました。雑誌構成は読者にいろいろな作家や作風を紹介できるという利点がありますが、企画して複数の作家とやり取りは手数とお金がかかって大変。既成の出版社はどこも手を付けようとしません。

そこで、校長さんが腰をあげることにしました。ただし、予算がない。30年業界にいるので作家の知り合いには事欠かず、過去の作品を無料で提供してもらうことにしました。かつてのイタリア漫画の旺盛を知らない、若い人にも知らせることができます。オールカラーで二ヶ月に一度の発刊。

図々しい募集の内容です。校長さんは日本のMANGA作品も載せたいと考えました。ただし、他のイタリア作品から浮いてしまうのはよくない……ということで、劇画風の作品を考えています。
(鄭問さん、荒巻圭子さんを例に挙げてました)
< http://ja.wikipedia.org/wiki/%E9%84%AD%E5%95%8F
>
< http://www.geocities.co.jp/Hollywood-Miyuki/5602/gallery.html
>

劇画風の漫画作品を描く方で、無料提供、掲載時に原稿反転、カラーリング処理を施す……という条件をのんで、提供してくださる方なんていらっしゃるでしょうか。

当面、作家さんへのメリットは「ヨーロッパで作品を発表する」ということのみですね。イタリアの漫画界から見れば、「あんな大きい目の人間がいるわけがない」なんて言ってMANGAに近づこうとしない既成作家や、「大人」の読者にMANGAを知らせることができるという文化的価値があります。

校長さんは、4、5号あたりから利益が出始めると思う、と言ってます。広告を取れるようにがんばる、とも言ってます。こんな慈善事業的なことをしてもいいと思われる作家さんがいらっしゃいましたら、わたしにコンタクトをお願いします。
midoriyamane@nekonoashi.com


18歳男女のそれぞれ四通りのキャラのラフ。元教え子のエミリア画。


でっち上げたキャラ集合のラフ。エミリア画。
そうそう、エミリアはコスプレイヤーでもあります。
< http://emiliacosplayart.splinder.com/archive/2007-11
>
名古屋の国際コスプレサミットの2005年で優勝をしました。
< http://www.tv-aichi.co.jp/wcs/2005/victory_result/index.html
>

「euromanga」2号の表紙。「ブラックサッド」ファン・ディアス・カナレス作、フアーノ・ガルニド作画。

【みどり】midorigo@mac.com
3月9日にEUROMANGA 2号が出ました。
< http://www.euromanga.jp/
>
イタリア人作家のSkyDollの訳をしました。それはともかく、ヨーロッパの漫画が集まった日本語の雑誌の2巻目というのはめでたい、めでたい。講談社のMANDALA 3号も準備が着々と進んでます。後が続くか………。

イタリア語の単語を覚えられます! というメルマガ出してます。
デ・アゴスティーニの仕事のせいで、何ヶ月も休んでしまってますが……。
< http://midoroma.hp.infoseek.co.jp/mm/menu.htm
>

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by G-Tools , 2009/03/31