買物王子のモノ語り[13]美しい「うつわ」の展覧会をくつろいで見る
── 石原 強 ──

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新聞の展覧会案内で、ルーシー・リィーの作品が見られると知って「U-Tsu-Wa/うつわ」展に出かけました。知り合いの陶芸家が大変影響を受けたという話を聞いてから、是非一度見てみたいと興味を持っていた作家です。私自身も学生時代に陶芸にハマった経験があり、あたたかみのある陶器のうつわが大好きです。

先週の土曜日、六本木の東京ミッドタウンに向かいました。会場の21_21 DESIGN SIGHTは敷地の端のほうにあります。まわりは芝生の植えられた公園になっていて、散歩していてとても気持ちがいい。建物は半地下の構造で、コンクリート打ちっぱなしの安藤忠雄建築です。チケットを買って入場すると、安藤忠雄本人が居てびっくり。今回の展示の会場構成も安藤氏が手がけているため、ギャラリートークが行われたようです。既に終っていて話を聞くことができなかったのが残念。



階段を下りて入った最初の部屋は、ミュンヘン生まれの作家エルンストガンベールの展示です。「木に従う」をモットーに、倒木や流木から切り出した木の塊から、自然の形状にそった作品をつくっています。どの作品も、自然の力強さを感じさせるダイナミックな造形です。白い砂の上に並べられた作品は、薄暗い森の中に生えるキノコのようにも見えました。

ろくろを使って削り出すと、作品は左右対象になるはずなのに、大きく歪んでいるのを不思議に思いました。その謎は、会場で流れていたビデオのインタビューで解けました。通常の木工作品では取り除かれる、節などのある場所をわざわざ選びます。しかも、まだ生乾きの状態で加工するのです。その後しばらくの間、放置しておくことで自然に歪んでいくのだそうです。それが自然の力を感じさせる造形につながるということです。

さらに奥に進む、と大広間に二人の陶芸家の作品が展示されていました。腰くらいの高さの大きな水盤が置かれていて、まるで水面に浮かぶように作品がセットされています。配置はランダムに見えますが、会場案内をよく読むと、作家の生まれ星座を中心とした、星の配列をもとに並べられているということでした。

手前が、目当てのルーシー・リィーの作品です。1902年ウィーン生まれ、戦火を逃れるために移り住んだイギリスで大成した女性陶芸家です。派手な絵を描かれたり、デコラティブな装飾といったものは一切なく、ひかえめで日常的なうつわばかりです。けれど、細部をよくよく見てみると違いが見えてきます。薄く広がった口縁に対して細く締まった高台を持つお椀、大きな口に対して細い胴体の壷、どちらも一見不安定に見えますが、緊張感をまとった美しい形をしていることがわかります。見ればみるほどその魅力に引き込まれて行きます。

マットな質感にシンプルな色使い、時に泡立ったようなざらついた表面は、焼き物らしい素朴さを感じさせます。一方で、掻き落としや象眼といった伝統的な技法で幾何学的な模様を描き、モダンに仕上げるセンスは抜群です。東洋的と西洋的、古いもの新しいもの、伝統と革新といった相反する要素を兼ね備えた作品です。しかし、生活からかけ離れた芸術作品ではなく、あくまでも日常使うものに終世こだわったところも好感を持つ理由です。

陶製のボタンもユニークです。カラフルで形も様々。色違いでは印象も変わっておもしろい。三宅一生のファッションにもうまくとけ込んでいます。最初は第二次大戦後、生活が窮乏する中で、陶製のボタンを作りはじめたそうです。デザイナーの要求に応えるために、様々な色を創りだす中で、高度な釉薬の技術を身につけたということです。その後の作品に大きな変化を与えているのだから、何が幸いするかわからない。

奥には、ロンドンで活躍するジェニファー・リーの作品が並んでいます。釉薬を使わない、陶器の中でもよりプリミティブな拓器という手法で製作されています。粘土に金属を練り込むことによって、色を出しています。動物のタマゴを思わせるような、丸みを帯びた独特の形状に惹かれます。

会場の端にあるイスに腰かけると、さらさらと水が流れる音が心地よい。しばらくぼおっと眺めていたら、点々と置かれた作品が、美しい貝殻やサンゴのようにも見えてきました。まるで、ダイビングできれいな海に潜った光景に重なりました。とはいえ、ちょっと奇をてらい過ぎの感もあります。作品までの距離が遠いので、一点一点をじっくり見るには不向きです。遠いところに配置された作品を見るには、双眼鏡かなにかが必要です。

出口では、作品をアップで見られる作品集を買いました。企画・監修は三宅一生、写真は石本泰博、デザインは亀倉雄策という豪華メンバーによって手がけられた本。1989年に東京と大阪で行われた、ルーシー・リーの日本で初めての個展カタログを復刻したものです。美しい写真とレイアウトが、作品を際立たせる質の高い作品集です。

もう一冊、アートの本が充実している本屋さんで見つけたのが、「Lucie Rie ルーシー・リーの陶磁器たち」です。生い立ちやエピソードとともに、作家が残したノートから釉薬の調合が載っています。知ったからといって、同じものが作れるわけではなく、どうってことはないんだけど、学生時代に苦労して釉薬の調合をしていたことを思い出しました。失敗ばかりだけど、成功した時の嬉しさは格別。また陶芸をやってみたくなりました。

「U-Tsu-Wa/うつわ」
ルーシー・リィー、ジェニファー・リー、エルンスト・ガンペール」展
< http://www.2121designsight.jp/utsuwa_about.html
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21_21 DESIGN SIGHT にて、5月10日まで開催

ルゥーシー・リィー 現代イギリス陶芸家
< http://www.amazon.co.jp/dp/4763009184
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Lucie Rie ルーシー・リーの陶磁器たち
< http://www.amazon.co.jp/dp/4860201221
>

【いしはら・つよし】tsuyoshi@muddler.jp
・ウェブアナ < http://www.muddler.jp/
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家で使う食器は、色々なお店で気に入ったものを見つけるたびに、少しずつ買い増して揃えています。けれど、気に入っている食器に限って家人に割られてしまうのです。日常使うものだから仕方ないけど、同じものがまた手に入るとは限らないので悲しい。