つはモノどもがユメのあと[04]mono03:ピンポイントバリアっ!──「HAL LABORATORY HTB-10 / Kensington TurboMouse model 62360(?)」/Rey.Hori

投稿:  著者:  読了時間:9分(本文:約4,200文字)


前回に続いて今回も、話の起点は筆者の「先Mac期」にさかのぼる。MacでのCG制作にアコガレつつも踏ん切りがつかずに、キューハチことNEC PC-9801を使ってあれこれやっていた時代のことだ。1990年頃である。

キューハチのOSは当時MS-DOS 3.3。黒画面白文字プロンプト、キーボードだけで操作するCUIの世界である。だからと言うべきなのか、当時はアプリケーション毎に勝手にマウスに対応していたのを覚えている。アプリの起動時にマウスドライバを常駐させ、終了時にそれを外す、といった動作をさせていたように思うが、プログラマではない筆者の身なのであまり深く追及しないでおく。

とにかくOS自体は事実上マウス非対応だったわけなのだが、ともあれ、キューハチのDOS上でもアプリによってはマウスによる(今やアタリマエの)GUI的操作を味わうというか、垣間みることができたのだ。



脱線するが、その時期にNEC(か、その関連会社だったか)からキューハチで使えるペンタブレットが出ていた、らしい。よほど品薄だったのか、早々の生産中止になったのか、筆者はCG入門書に載っていたそのタブレットの実物を一度も拝んだことがない。当時、毎週のように秋葉原を徘徊していたのに、である。今やネットでも型番や品名の確認が困難なのだが、当時見つけていたら購入していたかどうか、その後の展開を思うと興味深いところだ。

更に脱線をネストするが、今やアキバ通いなどと言うと(昨年の痛ましい事件はさておき)たちまちある種のアヤシの雰囲気が漂ってしまうが、当時はあくまでニッチでコアなパソコン(+古来のオーディオ&無線の)専門店街であって、それはそれでよりアヤシイとも言えなくもないが、そのぶん、女子部員のいない文科系クラブ的、図画工作的、ジャンクパーツ的、ヤニ入りハンダ的、サンハヤトの基板的な香りが強かった気がする。今でもごく一部、この雰囲気の残る秋葉原深部が筆者は好きである。

もとい。そうしてマウスの味を知った途端、ポインティングデバイス、つまりマウスに代表される「カーソルを動かすためのお道具」へのコダワリが発生することになる。そして、その時期からずっと筆者のココロを捉え続けているポインティングデバイスがトラックボールなのだ。

トラックボールとは、乱暴に言えば機械式マウスを裏返しにし(正確にはカーソルの動く向きも逆にして)底のボールを指先で転がして操作する、ような入力装置だ。何しろ本体は動かないので、マウスやタブレットに比べると設置面積が小さく、手をあまり動かさなくて済むのが利点だ。そこのお若いの、光学式マウスを裏返しても無駄じゃぞ。

このトラックボール、少し前に地上波で放映されていたのをたまたま見ていた「MI:III」で久々に再開した。敵のアジトを急襲するシーンで何挺ものリモコン機関銃をコントロールするために、赤くて比較的大型のトラックボールが幾つも並んでいるのを見てウレシくなってしまった。

もっと古い記憶を探ると、最近新作が話題になった某SFアニメの元祖バージョンに登場した、ピンポイントバリアなるものの制御に使われていたのも印象的だ。船のごく一部を覆える小さなバリアしか張れないため、敵弾の飛来に合わせてバリアを移動させるわけで、それをトラックボールでやっていたのだ。マニアの皆さんには「あんた男見たいですか?」で有名(?)なアレである。

アヤシの雰囲気色濃い話題はともかく、筆者はというともう少しヒネていて、そのアニメを見た時に「わ、トラックボールだぁ(嬉)」と思った覚えがあるので、それ以前に何かで知っていたことになるが、それが何だったのかは覚えていない。NHKあたりのドキュメンタリーで、恐らく初期のCADか何らかの軍事的な装置などの映像で刷り込まれたのだろう。

というわけで、キューハチで使えるトラックボールを見つけた筆者は容易に吸い寄せられた。前置きが長くなったが、それが今回のモノ、HAL LABORATORYのHTB-10 "COBAUSE"である。"COBAUSE"は間違いなく「子坊主」だろう。その名の通り、本体上面に白いボールが顔を覗かせているが、まあトラックボールならどれでもそんな感じになるとは思う。
< http://www.dgcr.com/kiji/RH/mono03.html >

ところが、思いの強さの割にこのトラックボールがキューハチ上で活躍した覚えというのが殆どない。といって失望した記憶もないので、きっとキチンと動作したものと思う。先に書いたように、つまりはキューハチ上でマウスを縦横に使えるアプリが当時の筆者の重用ソフト群になかったのが原因だ。今これを動かす環境を整えて検証する時間のないのが残念だが、ボール自体は今でも十分に滑らかに回転する。ただ、クリック用のボタンに少々引っかかりがあって、やや高級感に欠けるのが残念だ。

さてMac時代に移っても筆者は一度だけトラックボールに手を出している。型番が不明なのだが、周辺機器の老舗Kensingtonのトラックボールである。ネットで外観の画像を調べた感じではTurboMouse model 62360のような気がするが、定かでない。
< http://www.dgcr.com/kiji/RH/mono03.html >

このトラックボールはいかにもアメリカーンな感じのデカさで、大きさの割に筐体がやや薄めなのでボールが上部に大きく露出している。COBAUSEでは筐体を開けないと取り外せないボールが、このKensingtonではひょいと持ち上げれば外れるのである。……と他人様の撮ったネット上の写真と記憶に頼って書いているのだが、実は手元に実物が見当たらない。では捨てたのかというと、そうではない証拠に、その簡単に取り外せるボールだけが今も手元に残っているのだ。

この連載では悪口は書かないと宣言したので、あまり書きたくはないのだが、事実として敢えて書く。このKensingtonトラックボールには落胆の記憶がある。ボールは筐体内の金属ローラで支えられているのだが、買って使って半年もたずにボールの回転が滑らかではなくなった。当然画面上のカーソルの動きもぎくしゃくする。清掃必須はトラックボールの宿命と、ボールを取り外してみると、何とローラの表面が錆びていたのだ。汚れではなく愕然の赤錆である。錆を削ぎ落とした上に薄く潤滑油を塗る、というメンテを何度か試みたが、すぐまた錆びる。こうしてこのトラックボールは押し入れ送りになってしまった。日本の気候環境のリサーチが足りなかったのだろうか。

(Kensingtonの名誉のために付け加えておくと、現在同社のトラックボールの支持ローラは錆どころか汚れも付きにくい材質で出来ているらしい。また、筆者の現在の環境ではサブサブ機にKensingtonの薄型キーボードK64366が接続されている。ストロークの小ささと感触が気に入って、現在のAppleの薄型キーボードの出現まではメイン機で愛用していた。アメリカーンな外観はさておき、耐久性不足の先代のApple透明樹脂キーボードよりはずっと良い製品だと思う。ちなみに筆者はUS配列派だ)

Macとトラックボールと言えば、白いデカい重い高いでも美しい、でオールドファンにはおなじみMacintosh Portableや、初期のPowerbook、Powerbook Duoに搭載されていて、特にPowerbookは今や定石と化したその搭載位置もあって、大いにココロ揺れたものなのだが、ノート機はともかく、メインの制作環境であるデスクトップ機について、筆者は上記2種類のトラックボールを通じてようやく痛感した事があり、以後トラックボールに手出ししなくなった。それは、ドラッグがしづらい、というポイントだ。

小さなトラックボールなら人差し指や親指の指先、大きなものなら指の根元辺りでボールを転がすわけだが、その際に別の指でボタンを押し続けるのはかなりツライ、ということにようやく思い当たったのである。ウェブ閲覧のような、カーソル移動&クリックという操作だけならとても楽チンで良いデバイスなのだが、ドラッグしづらいのはグラフィカルな使用では致命的欠点となる。

筆者が現在最も使っているポインティングデバイスは、ワコム製ペンタブレットである。今のところ筆者にとって究極のポインティングデバイスと言える。グラフィカルな作業だけでなく、通常のファイル操作など、あらゆる操作をタブレットで行う。マウスを使う頻度はとても低い。キューハチ時代にコイツに出会っていたら、という想定は非常に興味深いのだ。

ポインティングデバイスを巡る漂流はペンタブレットにたどり着いて一応の決着を見ているわけだが、トラックボールは相変わらず筆者のココロに何かを送り込んで来る。ドラッグ問題の根本的解消を謳ったトラックボールが出現したら、またしても手を出す可能性大なデバイスなのである。

【Rey.Hori/イラストレータ】 reyhori@yk.rim.or.jp
本文の通り、ペンタブレットはもはや手放せないデバイスになっているわけですが、といって、タブレットPCや液晶タブレットには殆ど食指が動かないのが我ながら不思議です。映画「マイノリティ・リポート」みたいなUIの実現待ちかなあ。でもあれ体力要りそうだし、なんか精密な操作ができそうな感じに欠ける気もする。究極はやっぱ“首の後ろにケーブル”というか“ジャックイン&フリップ”の世界かしらん。

さて、この記事が掲載される頃、順調に進んでいれば筆者初の個展の真っ最中です。特定のクライアント向けではない無機的な世界観の作品を展示していますので、ご興味がありましたら是非お越し下さい。
◇Rey.Hori個展「walls:機械残影」
< http://bn.dgcr.com/archives/20090407140100.html >
< http://www.yk.rim.or.jp/%7Ereyhori/walls.html >

3DCGイラストとFlashオーサリング/スクリプティングを中心にお仕事をお請
けしてます。サイト:< http://www.yk.rim.or.jp/%7Ereyhori >