つはモノどもがユメのあと[05]mono04:10kHz直読夜明け前──「National Cougar 118D」/Rey.Hori

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自分史上最初に買ってもらったメカ、というものを皆さんは覚えておいでだろうか。オモチャではなくメカだ。筆者は明確に覚えている。National MAC RQ-545というものだ。MACという名前が付いているがMacintoshどころか、パソコンの出現より遥か以前、筆者が小4か小5の頃だから1973年頃にブームだったラジカセ=ラジオ付きカセットテープレコーダである。今手元に残っていれば確実にモノとして紹介するのだが、残念ながらもうとっくに処分してしまった。

今回のモノはこれに続く自分史上二番目のメカだ。しかもモノの定義から一部外れてしまうのだが、今も現役どころかほぼ毎日電源を入れて使っている製品である。もちろん、筆者の自宅にあるあらゆる電気製品+情報機器のうちでも最古参の大長老である。



もう30年以上も前、1970年代中盤頃にブームになっていたラジカセは多機能化合戦を繰り広げていて、今思うと何に使えば良いのやらというワイヤレスマイクなどオマケ的秘密兵器的ガジェットが僕ら少年のココロを捉えて離さなかったのだが、その多機能化の中に3バンドラジオというものがあった。これはAM、FMに加えて、短波(SW)放送が受信できるという機能である。あまねく少年に行き渡ったラジカセのほとんどに短波の受信機能が備わっていたことが、その後の展開に大きく影響したのだ、と今なら分析できる。

短波放送とは周波数で言えばいわゆるAMの上、FMの下、大体3〜30MHzぐらいの周波数を使う放送のことだ。この周波数の電波は地面や海面と大気圏上層の電離層と呼ばれる部分の間を何度も反射して遠方まで届く。条件が整えば地球の裏側からでも直接受信できる。ただし電離層や天候、果ては太陽風などの条件付きなのがミソだ。ちなみに短波より波長が長い(周波数が低い)と吸収されてしまい、波長が短い(周波数が高い)と光のように直進するため、いずれも遠方との通信は困難なのである。

ここで脱線。ご専門の方々にツッコまれる前に申し述べておくと、AMやFMというのは変調方式=電波にどのように音声信号を乗せるか、の区別であって、周波数帯の区別ではない。いわゆるAM放送とは中波帯(MW)の電波を振幅変調(AM)したもの、FM放送は超短波帯(VHF)の電波を周波数変調(FM)したものだが、当記事内では「いわゆる」的名称を用いることをお許し願いたい。

もとい。やがて「ラジオの製作」「初歩のラジオ」「子供の科学」などメジャーどころの少年向け科学誌に短波放送の楽しみ方が紹介される。ネットなんて予感すらない時代、海外の情報をほぼリアルタイムに入手する手段は非常に限られていて、短波放送はその中に大きな比重を占めていた。さらに前記のように必ず受信できるとは限らないので、なかなか聞けない局というのもあって、これを受信できるかどうかというギャンブル的(?)な要素につながった。

加えて、またしても僕ら少年のココロをワシヅカミにした側面がコレクター的要素だ。受信に不確定な要素のある短波放送なので、放送局の側でも一体どこまでどんな風に電波が届いているかが完全にはわからない。そこで「いつどこでどんなラジオを使いどんな感じでお宅の放送を聞きました」というレポートを広く受け付けていたのだ。

このレポート=受信報告書を書くと「確かにあなたが聞いたのはウチの局です」というオスミツキとして証明書がもらえる。多くの局ではこれが絵ハガキ状のもので、その国らしい絵柄や写真が入っていたりする上、ひとつの局に何種類ものカードが用意されていたり、季節などによって変えたりもしていた。これが受信確認証=Verification Card、通称ベリカードである。

雑誌には上記のような短波の聞き方・楽しみ方、ラジオの紹介、各国の短波放送の周波数や放送時間のリストと共に、ベリカードのカラー写真が受信報告書の宛先付きで載ったのである。自分のラジカセでも始められるハイテクで高尚そうでカード集めで自慢もできる新しい趣味、これはもう始めるしかない!……と、科学系図画工作系少年が一斉に吸引されるに到る。ゴキブリホイホイだったら一網打尽である。

いまだにこのブームに仕掛人がいたのかどうかわからないのだが(筆者は多分いなかったと思っている)、このブームに名だたる大手電機メーカがなだれを打って乗っかったのだからブームの規模が想像できる。ラジカセに続く短波放送受信=BroadCasting Listeners、通称BCLの専用ラジオの大ブームである。前置きが長かったが、今回のモノ、National Cougar 118Dはこのブームの最中に松下電器(現パナソニック)から発売されたBCL用ラジオだ。購入時期はたしか1974年だと思う。

< http://www.dgcr.com/kiji/RH/mono04.html >
< http://www.dgcr.com/kiji/RH/mono04.html#p2 >

写真を見てお判りの通りツマミとスイッチだらけであり、実に少年ゴコロを震わせる。ひときわ大きいのが選局のダイアルで、その左上にあるのがバンド切り替えスイッチ。ラジカセブームの時は3バンドだったものが、この118Dでは6バンドで、そのうちの4バンドが短波に割り当てられている。短波なら短波ひとつでいいんじゃないか、と思うかもしれないが、その辺りは後述する。

< http://www.dgcr.com/kiji/RH/mono04.html#p3 >

本体上部に立ち上げることのできる水平の棒状のものは把手ではなく、中波の受信用アンテナだ。中波のアンテナには指向性、つまり向きによって感度が変わる性質があるので、ラジオ自身を局の方角へ向けなくてはならないのだが、この118Dの中波用アンテナはアンテナの向きだけを変えることができる。「ジャイロアンテナ」などと銘打っていて、これが同時期のNationalのBCL用ラジオの特徴的装備となっていた。肝心の短波の受信には関係ないんだけど(正確には短波の最も低い周波数帯には効く)。

この時期のBCL用ラジオの二大勢力はNationalのCougarシリーズと、SonyのSky Sensorシリーズだ。後のVHS対βの前哨戦のようだが、ラジカセの貧弱な短波ラジオにかじりついて、夜な夜な世界の香りを垣間みていた筆者らラジカセ上がりのBCL少年もこのどっちを買ってもらうか、大いに悩んだものである。

悩んだ結果、筆者はCougarシリーズのフラグシップモデルだった118Dを手に入れた。フラグシップモデルのありがたみは今になって実感している。ある時期以降短波の長距離受信に挑むことはなくなったが、ほぼ毎日「枕元ラジオ」として使い続けて30年以上、未だに故障知らず(音量ボリウムが少しガリってはきたが)なのには恐れ入る。恐らくスイッチやボリウムなど基本的な部品のグレードが高かったのだろう。

ともあれ、少年一流の熱心さによる各社カタログ収集&スペック精査に続き、お年玉や小遣い返上で買ってもらった118Dなのだが、悲しいことにほんの少しタイミングが早かったことを筆者は後に思い知る。118Dの選局ダイアル辺りを見て欲しい。当時の短波ラジオとしては当たり前の常識的事実なのだが、周波数が大まかにしか読み取れないのだ。

これはラジオの回路設計上(もっと言えば、可変容量コンデンサ=バリコンという部品の形状)の問題で、周波数の低い領域ではダイアルの回転角度に対して周波数の変化が小さく、周波数の高い領域では大きくなる特性による。つまり周波数の目盛が原理的に等間隔にならないのである。等間隔ならダイアルに細かく目盛を振れば良いだけの話なのだが、そうではない以上、大まかな目盛と経験を頼りに正確な周波数にチューニングしなくてはならないのである。

短波帯の放送の周波数は1kHz単位で、通常10kHz間隔で割り当てられていた。広大に思える短波帯だが、放送に使える領域は国際的にごく限られており、狭い領域に各局がひしめくことになるので、遠方の狙った局を確実に受信するには、大まかな目盛に基づく手探りの状態で周波数を正確に合わせるテクニックが問われることになる。118Dの短波帯が4バンドにも分かれているのは、各バンド毎のダイアル面を長くとることで、少しでも精密なチューニングを可能にしよう、という設計思想なのだが、どのバンドも前記の理由で周波数の上のほうほど目盛の間隔は小さくなっていて、決して一定ではない。

< http://www.dgcr.com/kiji/RH/mono04.html#p4 >

ああ、10kHz単位で周波数を簡単に合わせられればもっと楽に遠距離受信が狙えるのに、というわけで、当時のBCL専門雑誌(などというものもアッという間に数誌創刊されたほどのブームだったのだ)の投稿コーナにはあくまでも一種の冗談として「電卓のようにテンキーを叩いて周波数を合わせるラジオの想像図」なんてものがよく載っていたのを覚えている。技術の革新というのは恐ろしいもので、この冗談はとっくに実在の製品として実現しているのであるが、当時としては今ダイアルの合っている周波数が何kHzなのかを知る機能=10kHz直読が夢の機能だったのだ。

118Dは10kHz直読の機能こそないものの、そんな機能が簡単に実現できるわけもなく(と思い込んでいて)、何より高性能フラグシップモデルなので、それ以外の機能については何の不満も感じるはずはなかった。筆者は夜中まで起きて遠方の放送を聞いてみたり、学校帰りに郵便受けを覗いてはたまに届くベリカード入りの国際郵便に大喜びしたりの日々を送っていたのだが、BCL専門雑誌に驚きの新製品が紹介されるのである。というわけで、以下次回方面へ続くのだ。

< http://www.dgcr.com/kiji/RH/mono04.html#p5 >

【Rey.Hori/イラストレータ】 reyhori@yk.rim.or.jp
今回から少し短めの文章にしようと意識したのですが、このラジオ方面話は当連載で最も書きたかったネタのひとつでもあるため、あれもこれも書かねばの娘。ついつい長広舌になっております。最後にはちゃんとコンピュータ話に戻って来ますので(多分)、お楽しみに(?)。

さて本記事が掲載される頃にはすっかり旧聞に属しておりますが、4月20日から25日まで開催しました、筆者初の個展「walls:機械残影」にお越し戴けた皆様、本当にありがとうございました。おかげで大変濃密な一週間を体験することができました。今後の公私の制作の糧にしたい考えでおります。

3DCGイラストとFlashオーサリング/スクリプティングを中心にお仕事をお請けしてます。
サイト:< http://www.yk.rim.or.jp/%7Ereyhori >