わが逃走[44]小倉トーストと帝国ホテルの巻/齋藤 浩

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ゴールデンウィークに『偏りのある中央線の旅』と題しまして、極親しい間柄の年上の女性Aさん(年齢非公開)とともに東京→名古屋→松本と旅してきました。今回の『わが逃走』はその初日、ドエリャア衝撃を受けた名古屋に関するご報告を中心にお送りいたします。

ちなみになぜ名古屋かと申しますと、博物館明治村にフランク・ロイド・ライトの名建築『帝国ホテル』の玄関ホール部分が保存されているのです。学生の頃から行かなきゃーと思っていたのですがなかなか機会がなく、気づいたら20年くらい経っちゃった。これじゃいかん! と思い立ちまして今回の旅と相成った訳でございます。

ちなみに明治村とは、100万平方メートルの敷地に明治時代の建築や鉄道、橋などの施設を移築保存しているオープンエアの博物館です。地元出身者に評判を聞くと、大抵「あんなところつまんないよ」という答えが返ってくるのですが、その原因はものの価値のわからない小学生の頃に、無理矢理連れてこられた経験によるものであります。健全な大人になってから行ってみると、まさに温故知新。発見と驚きの連続でございます!! って、オレが言ってるんだから間違いないって。



5月2日。品川発7:52だったかな。だいたいそのくらいの『のぞみ』に乗車する。普段だったら旅のシズルを重視するため、新幹線は始発駅である東京駅から乗る主義なのだが、いろいろめんどくさかったので、今回は品川乗車とした。

しかも、指定席が満席だったため、人生で初めてグリーン車に乗る。すごい!まるで金持ちになったみたいだ!! 朝から緊張で脳の調子がいつもと違う。当初は品川駅にて名物駅弁『チキン弁当』を購入する予定だったのだが、緊張のあまりすっかり忘れてしまい、迂闊にもエキナカの小洒落たパンなんか買っちまった。

ホームに降りると『のぞみ』は定刻どおりやってきた。緊張しながらグリーン車なる車両におそるおそる足を踏み入れたところ、周囲の乗客の普通っぷりに驚く。

グリーン車といえば昔でいうところの二等車である。二等車といえば身なりのきちんとした金持ちが乗るものと相場は決まっていたはずなのに、蓋を開けてみればコナマイキそうな20代の若造が、カノジョと手をつないで居眠りなんかしていやがる。また、小さな子供を含む家族連れなんかも目立った。いたって普通。なんだかなあ。

せっかく庶民じゃないフリして歩き方まで変えて乗ったのに、これじゃ興ざめである。座席は確かに普通車と比べればクッションがやわらかく、座席と座席のピッチも広ければ横幅も広い。しかし、そこに差額相当の価値があるかといえば、私は「ない!」と断言する。これだけ金を取るからには開放B寝台と個室A寝台くらいの差があってもいいじゃないかブツブツ…などと言っていたら、もう名古屋だ。早いなあ。

名古屋から名鉄で犬山へ向かう。が、その前にやらねばならないことがある。それは、名古屋の食文化に触れること、それ即ち小倉トーストを食べるのだ。私は名古屋の喫茶店文化に関しては未体験だったので、夕方までやってるモーニングセットやあんかけスパゲティ等、興味の対象は数多く存在する。中でも私はその代表格として、ひときわ小倉トーストが気になっていたのだ。

で、名古屋出身の知人に片っ端から「小倉トーストの美味しい喫茶店をおしえてくれ」と尋ねてみたのだが、返ってくる答えは皆同じ「どこで食べても同じだよ」なのである。仕方がないからネットで調べてみると、興味深い記事を発見。JR名古屋駅構内の商業ゾーン「新幹線通り」にJR東海フードサービスが喫茶店「カフェ・アローム」をオープンさせた、とある。もちろんモーニングで小倉トーストも選べるらしい。

これだ! と思い、名古屋駅に到着するやいなやそういった店を探すが見つからない。駅員に聞いてもそんな店は知らないという。駅のインフォメーションセンターの案内係に尋ねてみると、そんな名前の店は聞いたこともないし、新幹線通りなどという商業ゾーンは名古屋駅構内にはないという。

さらに食い下がると「名古屋駅構内にある店はここにあるだけ」と言って、めんどくさそうにエキナカのマップを見せてくれた。すると、端のほうにでっかく「カフェ・アローム」という文字を発見。あるじゃねえか。なぜこうも自信たっぷりに、しかも複数の人が「ない」と断定できるのか謎である。名古屋文化とはこういうものなのか。やはり計り知れないものがあるぜ、名古屋。

さて、念願かなって喫茶店に到着。小倉トーストのセットを注文する。コーヒーとサラダと、皿に乗ったトーストに別添えで小倉あんとホイップクリームとマーガリンが並べられた。やはり見た目が新鮮。早速トーストに塗って食べてみたところ、まあ、いわゆるあんパンのバリエーションの一種といった味わいだった。見た目どおりの味。毎日食べたらクドいけど、週に一度くらいならアリかもね。という訳で、とりあえず満足でした。

で、今度こそ犬山へ向かう。名鉄に乗って30分くらいで到着。さらにそこからバスで20分。やっと明治村の門が見えて来た。いい風合いの煉瓦の門だなあ、などと思っていたら、これは名古屋の旧制第八高等学校の正門なのだそうだ。最初からテンションが上がる。いちいちディテールを確認しつつ、じっくり見ているとすぐに閉園時間になってしまうので、とにかく第一目標である帝国ホテルに向かうことにした。

それにしても明治村は広い。噂によれば100万平方メートルだとか。なんて言われてもわからないですね。保存されている全ての建築を歩いて巡ると総歩行距離が約7km。とんでもなく広い。しかもそこに保存されている約70もの建築はすべて本物。うち10件は重要文化財ってんだから大したもんんだ。

当然徒歩で全部まわるのも大変なので、園内にはいくつかの交通機関が設けてある。オーソドックスなバスをはじめ、明治時代のものをそのまま動態保存している京都市電とSLが素晴らしい。当然のことながらこれらは本物、車両はもちろん線路等の施設まで明治時代のものをそのまま使っている。すげえ。

という訳で、途中からSLに乗ることにした。機関車も客車もよく整備されている。この日の機関車は明治7年にイギリスから輸入された『12』号。日本初の鉄道路線、新橋─横浜間を走った機関車がまだ現役で、いまも当時の客車を引いて当時の線路の上を走り続けている。それだけで感激である。

明治時代に新橋駅で聞こえたものと同じ、ピーッという甲高い汽笛とともに列車は明治村内の「なごや」駅を出発、一路「とうきゃう」駅へと向かう。この路線、短いながらも勾配あり鉄橋ありとなかなかSLに似合う。煙の出っぷりもいい感じだ。

しばらくすると、車窓から謎の古代遺跡のような建造物が見えてきた。帝国ホテルだ! その向こうには伝説の旧新大橋(の部分。全体の1/8)も見える。

「とうきゃう」駅で下車、早足であの建物に向かった。もう、なんというか、圧倒される。全体を見ても、部分を見ても、力強く、美しい。正面ホールまわりだけでこれだけの迫力なんだから、客室も含めた全体像はどれだけ素晴らしかったことだろう。
 

で、さらに熱く書こうと思ったんだけど、今回はここまでにしときます。続きは次回。明日は早朝から撮影なんで、今日はもう寝ます。んじゃまた。

【さいとう・ひろし】saito@tongpoographics.jp
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1969年生まれ。小学生のときYMOの音楽に衝撃をうけ、音楽で彼らを超えられないと悟り、デザイナーをめざす。1999年tong-poo graphics設立。グラフィックデザイナーとして、地道に仕事を続けています。