装飾山イバラ道[36]「STYLISTA スタイリスタ」を見る/武田瑛夢

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アメリカのテレビ番組では、リアリティショーというジャンルにとても人気がある。登場人物は一般人だったり有名人だったりするけれど、基本的に台本はなくその場の流れだけで番組が出来上がっていくスタイルだ。

日本でも古くからあるリアクションを楽しむ番組の「どっきりカメラ」、新しいところだと「あいのり」などの恋愛バラエティ番組などがその仲間。○○だけ食べて暮らす生活を見せるようなバラエティ番組も人気だ。その場で起こるであろうリアルなハプニングに期待を持たせる。

それでも番組として人気を出すためには、ある程度のレールを敷いて流れを作り、いくつかのトラップを仕掛けておもしろくする。どうなるかわからないからおもしろいのだけれど、おもしろくならなければ作る価値がないのが辛いところだろう。



●「ELLE」の編集者の座をかけて

プラダを着た悪魔 (特別編) [DVD]絶対に外さないという点ではうまい作り方をしているなと思ったのが、FOXの「STYLISTA スタイリスタ」だ。これは既にヒットした映画「プラダを着た悪魔」そっくりの設定でできたリアリティ番組。ファッション誌の女王様的存在の編集長が、新入りのアシスタントを鍛え上げていく過程を見せた映画。

・「プラダを着た悪魔」公式サイト
< http://movies.foxjapan.com/devilwearsprada/ >

映画が大ヒットしたので、アメリカで「STYLISTA」として全9回が昨年放映された。日本では今年の5月からFOX系のケーブルテレビで放映が始まっている。アメリカのAmazonではダウンロード配信もしている。

・「STYLISTA スタイリスタ」
< http://tv.foxjapan.com/fox/lineup/prgmtop/index/prgm_cd/621 >

「STYLISTA」の内容は、ファッション雑誌「ELLE」の編集者の座をかけて、男女11人の候補者がバトルを展開するというもの。勝者が得るお宝は、歌手でもなければ大きな舞台の主役でもない。最後まで残った一人の優勝者には「雑誌の編集者の仕事」を一年間与えられるという。ちょっと考えると地味めなのが逆に新鮮。そして、それはただの雑誌ではなく「ELLE」なのだ。

副賞(?)としてのおまけもすごくて、ファッションエディターとしての一年間の住居はマンハッタンの高級アパートを、加えて一年分の最新ファッションがH&Mから提供される。仕事と住まいと洋服。なんとも現実的な賞品だけれど、それを狙う11人の目はギラギラと輝いている。

ファッションエディターが、そんなに皆の憧れの職業だってことはファッション誌が大好きな人ならよくわかる。ファッションショーの特集ページで、最前列の最新のおしゃれに身を固めた女性キャリア陣は、皆そんな感じの職業だ。そこで働く人たちは、一部の層には羨望の眼差しを受けるファッションエリートなのだ。

若き20代の男女にとって「チャンス」という最高のご褒美のためにしのぎを削るということは、どんな仕事のジャンルでも同じように価値がある。約束されているのが一年間でも、最高のスタートを切ることができれば後はどうにでもできる。候補者の中に19歳の大学生デヴォンがいるのだけれど、彼女のことを「10代にこんな仕事できるわけない!」とバカにしたように怒るメイガンも22歳。若いって素晴らしい。

映画に出てきたような女王様的な女性上司には、「ELLE」のファッション・ニュース・ディレクターのアン・スロウィー(本物)が登場する。美人でセンスが良く、仕事の腕もなみはずれていて、自分にも他人にも厳しいというハマリ役。映画版の「プラダを着た悪魔」のモデルになっているのは、米国版「ヴォーグ」の編集長アナ・ウィンターでは? とされているけれど、「ELLE」のアンもなかなか風格があってかっこいい(WEBサイトの写真中央がアン)。

●チームで取組む「課題」

第一回は、上司であるアンの朝食を用意するという課題から始まる。そんなファッションとは全然関係ない仕事を? と思うけれど、こういった雑用から与えて候補者のやる気を試すような展開を狙っているのだろう。「プラダを着た悪魔」にも似たようなシーンがあったので、上司の食事の好みを把握するということはアシスタントとしては必須みたい。予算と制限時間を伝えられると、11人の候補者は一斉に外へ、パンやフルーツを買いに走る。

アンは出来上がった一人一人の朝食用のプレートと、着ているファッションをチェックし、「アシュリー、あなたのを頂くわ」と勝者を告げる。飲み物の好みや栄養のバランス、盛りつけセンスなどを見ていたみたい。仕事着のセンスも厳しくチェックされる職場だから、朝から気が抜けないだろうな。

勝者のアシュリーは、レイアウトの編集課題のチームメイトを決めることができる。この課題の出来で評価が決まる。良いチームメイトを選んで課題を仕上げないと、生き残ることはできないので重要だ。

編集課題のテーマは「スタッフページ」だった。H&Mで候補者自らが着る服を選んで購入し、「ELLE」の社内でファッションショーをする。それを撮影した写真を使って、新人スタッフの紹介ページとして一ページ分レイアウトするわけだ。どんな狙いをもってページをまとめるかや、写真選びの力量が試される。

チーム全員が協力しないとページの完成度が下がるので、自分だけ褒められようとしても無駄だ。誌面のレイアウトはそれなりにまとまりがあって、候補者が11人に絞られるまでにかなりの人数から選ばれてきたとわかる。

●脱落者が出る

毎週脱落者が出るところも「アメリカン・アイドル」のようだ。各チームの最下位チームから一人の脱落者が出る。アンによって、チームが最下位になった原因を作ったと思われるメンバーを名指しされる最も緊迫するシーン。

脱落者への扱いはさすがに地味めなのが「STYLISTA」。「アメリカン・アイドル」のように大観衆の前でラストソングを歌うこともなく、編集室から自分の荷物を入れた箱を持って一人さびしくエレベーターに乗って去っていく。会社をやめたことがある人なら経験したことがあるような、ちょっとせつないシーンだ。そのリアルさが番組の魅力になっているのかも。

●候補者同士のバトル

候補者の人間関係を見せるのもショーのひとつだけれど、言い争いや悪口のシーンが多すぎるのが残念だった。力を合わせてクリエイトしていく感動みたいなものよりも、個人と個人の勝負を見せる方向に行き過ぎていたように思った。候補者たちは、同じアパートで部屋を割り当てられて寝泊まりするので、夜になってもケンカが続く。どこまでもカメラが追い続けるのが、リアリティ番組のスタイルだからしょうがないけれど。

ファッションで戦うというより、チーム分けの戦略や個人のバトル。候補者の視線の先がファッションエディターの座にストレートに向いておらず、横にいるライバルを倒そうと躍起になってばかりのように思えた。番組としては、キツイ性格のぶつかり合いも意図的に見せ場として使っていたように思う。どこの職場にもいる困ったちゃんとか、トラブルメーカーの有様に共感を持たせたかったのかもしれない。

●女王様の評価

上司であるアンの評価は的確で、性格の善し悪しではなく、その人物がいかに仕事を成立させるまでのステップをきちんと踏める人間かを見ているようなところに感心した。優しいけれど気弱で決断力に欠ける人や、割り振られた自分の仕事に責任を持てない人はバッサリと切っていく。

誌面におけるキャプションの間違い、人名の間違いがいかに致命的かもきっちり告げる。「誰の責任によるタイプミス?」「自分の主張を通すべき」「終わった流行に扱うべき価値はない」。アンの言葉はどれもバシッとストレートだ。必要な情報が正しく伝えられて初めて本としての価値になり、その上で美しいか流行に合っているのかなのだな。番組的には、一般の視聴者にも個々のスキルがわかるように、良い仕事をした箇所を褒めるシーンをもっと見せた方が候補者たちを尊敬できたと思う。

番組を見ていくとファッションエディターとは、「ファッションに通じていてデザイン力もレイアウトスキルもあり、トレンドに敏感で業界人との関わりも怠らないセレブ生活がキープできる人間であること」が必要みたい。そんなの忙しすぎるだろ! と思ってしまったけれど、実際、そういう世界に住む人たちのおかげでファッション誌を楽しむことができるのだ。

映画「プラダを着た悪魔」でも、そんな仕事に鬼のように執着し、ファッション業界に君臨する女王様が無理を重ねた生活をしている。自分の立場を確保するためなら何でもする。そのような前へつんのめりそうな姿勢でないと、走り続けられない人。似たような人はどの業界にもいて、やっぱり結局はその存在が業界全体を引っ張っていっているんだと思う。

結論を言ってしまえば、「STYLISTA」は候補者である編集者の卵たちの勝ち負けよりも、女王様アンの言動に注目して観るのが価値ある見方かもしれない。候補者が束になってどんなバトルを繰り広げようが、涼しい顔で冷徹な一言を繰り出すアンの存在感が勝ってしまうのだ。

ほとんどネタは出尽くしたような観のあるリアリティ番組だけれど、まだまだ何を元にするかで新しいショーはできると予感をさせた番組だった。最終回が楽しみだ。

【武田瑛夢/たけだえいむ】 eimu@eimu.com
装飾アートの総本山WEBサイト“デコラティブマウンテン”
< http://www.eimu.com/ >

昔のファッション誌やネコ雑誌、表紙が素敵で捨てられない「WIRED」などをどこに押し込むか考え中。