ネタを訪ねて三万歩[53]制約があることが新鮮/海津ヨシノリ

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●「海津式レンジファインダー術」という名の連載

セイコーエプソン レンジファインダーデジタルカメラ R-D1XG (特製ハンドグリップ標準同梱) R-D1XG相変わらず、R-D1xGに、ドップリとのめり込んでいる私ですが、ブログで騒いでいたら「マイコミジャーナル」で隔週連載を担当することになってしまいました。かなりのプレッシャーを感じますが、「海津さんの視点で自由にやってかまいません」というお話でしたので、楽しみながら執筆することしました。なお、ブログで発表している写真は時間優先のために、わりと適当に処理しています。ですから、同じ写真でも微妙に現像処理が異なっているかもしれません。連載6回目ぐらいまで行かないと、個性を発揮できないかもしれませんので、気長にお付き合いください。

海津式レンジファインダー術(1)
< http://journal.mycom.co.jp/column/rd1/002/index.html >

ところで、連載にあたり特に心がけたことは、ノートリミングにノーレタッチ。トリミングをするのはズルイと感じているからです。もっとも、フイルム時代もトリミングは当たり前でしたので、それほどムキになる必要はないのですが、取り敢えず撮影してしまい、後で適当に処理すればなんとかなるだろうという発想が嫌なのです。「いつもやっていることじゃないか」と突っ込まれそうですが、作品としての写真は小細工なしでいたいと思っているわけです。

まっ、そうは言っても現像処理やレベル補正などは避けて通れないので、微妙な状況なのは確かです。もっとはっきり言うと、切り刻んで合成したりしないというふうに理解してもらえればと思います。そんなわけで、しばらくは潔く処理してみようと思った次第です。単焦点レンズでじっくりと撮影するといった、本来の写真撮影の醍醐味を満喫したいというワガママです。R-D1シリーズは、そんな気持ちにさせてくれるカメラなのかもしれません。



ここで思い出したのが、仕事を始めた頃に数年間続けていたポストカード。色々な場所に出かけて撮影した写真を自分で現像し、はがき用の印画紙へ正方形のトリミングでプリント後、交友関係へ少部数郵送していました。作品により、誰に送るのが最適なのかを一枚ずつ考えながら制作していたので、発行枚数は毎回違っていました。更にデザインにもこだわり、専用のゴム印まで作成する凝りようでした。

また、紙焼きの段階で、色々と趣向を凝らした特殊効果などの実験もかなり行っていました。そんなわけで、世田谷区に住んでいた頃の私の部屋は、定着液の臭いが充満し、すべての窓に暗幕がついているというかなり怪しい状況でした。当時は当然ながらメールなどない時代。時々電話を掛けてくる友人からの感想が励みとなり、かなり長いこと続けていました。

実は、Blogで続けているTCDW(The Capricious Daily Work)が、原則正方形なのはこの時のこだわりを引きずっているからなのです。私にとって末永く続けている、こだわりのひとつです。こんな具合に、昔から妙なことにこだわる性格があり、それは生涯直らないでしょう。どちらにしても、R-D1xGによって何やら危ない兆候が現れているといったところです。

まっ、そうは言っても常識的な範囲での話。そうでないと仕事もそっちのけでカメラ店を徘徊し続ける自分を想像できてしまうのが怖いです。そんな前科が学生の頃にありましたから。で、どうしてこんなにワクワクするのかを客観的に考えてみました。要するに、制約があることが新鮮なのです。

例えば、仕事で使っているグラフィックソフトも、10年以上前は機能も貧弱でユーザーのセンスを発揮できたわけですが、今は便利で簡単になってしまい、なんだか逆に振り回されているようで面白くありません。最新バージョンで使えなくなってしまった機能があるという後退現象にも、ずいぶんと振り回されていますので、制約があるという意味では同じなのかもしれません。

向上した機能で仕事は素早く完結して、別のことが出来るようになったことは大歓迎ですが、現実問題としてそれほどスピーディーに仕事が完結するわけでもありません。すべからく様々な人達とのチームワークで、我々の仕事は成り立っているからです。とにかく、何がしかの制約という名の不自由さから、様々なアイデアを巡らせることはまさにデザインの発想そのもの。例えば、LOMOLC-A運動のように、その不自由さがクリエーターを刺激するわけです。

1991年、ソビエト連邦崩壊後に生産が中止されたカメラ(現在ではソ連時代の製品でも総じてロシア製と言います)LOMO LC-Aを、ウィーンを中心とした欧米のアーティスト達により結成されファンクラブの支援で、生産が継続された快挙が記憶に新しいです。そのLC-Aを使ったアート運動は、Lomographyとして世界中に知られていますが、どうしてこのカメラが人気を博したかというと、生産ラインで品質の安定が保たれなかったために、描写が一台ごとに微妙な違いを出すことなのです。

要するに、当たり外れ的な世界ですね。当時の私は当然ながら、かなり「グラッ」ときたのですが、趣味の写真を撮影している余裕がなかったので、触手を伸ばすまでには至りませんでした。とにかく、このLC-Aは、寸分の狂いもなく作り込むドイツや日本のカメラとは完全に異なる時空間のカメラなのです。そして、その真骨頂はライカのコピーから始まっているわけです。

セイコーエプソン Rangefinder Digital Camera R-D1S R-D1Sただし、ロシア製カメラやレンズの凄いところは、それなりに本家をしのぐまでに進化した部分もあり、コピーを超えたオリジナルの境地に入っている製品も少なくありませんでした。ライカM以前のバルナック型ライカの欠点である、フィルム装填を裏蓋着脱式としたFED-2などが初期の代表格ですね。そして、そんなロシア製レンズをR-D1で楽しむことが意外と人気だそうです。

ロモグラフィー・ジャパン
< http://www.lomography.jp/home/ >

●大切な何かを誰もが忘れはじめている

「意外と……」で唐突に思い出したのが、昨年11月に大阪と福岡で行ったセミナー。古い話で恐縮ですが、実は私にとっては久しぶりの完全トークショーだったのです。Keynoteで作成したスライドを用意し、それをパラパラしながらひたすら話すというスタイル。内容については省きますが、簡単に言うと、テクニックの話ではなく人間関係を中心としたメンタルな話です。

もちろん、最初はお断りしようと思っていました。私にとって、あまりにも当たり前のことを話して、果たして参加して下さった方達にメリットがあるのかを考えると、まったく自信がなかったからです。しかし、過去の事例を評価していただいていたことと、私なりに「それも経験」と判断したためお引き受けしました。

もちろん、当日までは不安だらけの日々を過ごしていました。しかし、それは良い意味で大きく裏切られました。セミナー終了後や、その後のメールなどで多くの感想をいただき、自分にとって当たり前のことが実は誰もが知っていることではないと痛感したわけです。その話とは、私自身が父から受け継いだものなのです。大学の講義の中でも、メンタルな話が意外と学生に大きなインパクトを残していることを、彼らからのメールで最近知りました。

それは、根性とか気合いといった話ではありません。また、偉そうに力説するような内容でもありません。ごく普通で力むことのない自然体の話。小学生にも理解してもらえる内容です。学生に限らず、現代人は溢れかえった情報の中で溺れてしまっている青い鳥。だから必要な話と言ったら少々大げさですが、大切な何かを、誰もが忘れはじめているように感じています。

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今月のお気に入りミュージックと映画
"Top of the World" by Carpenters in 1973
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包帯クラブ [DVD]"包帯クラブ" by 堤幸彦 in 2007(日本)
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■アップルストア銀座のセッション 7月20日(月・祝)19時より
Made on a Macとして画像処理セッション
海津ヨシノリの画像処理テクニック講座Vol.36
『Photoshopデザインイメージテクニック/前編』として、Photoshopによる素材の吟味と加工で得るタイリングとパターン処理の組み合わせ技法から作り出すデザインイメージと、その応用について検証してみます。デザイン素材は身の回りのモノに沢山潜んでいます。
予約無用・参加無料・退席自由ですので、気軽に参加してください。
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【海津ヨシノリ】グラフィックデザイナー/イラストレーター
yoshinori@kaizu.com
< http://www.kaizu.com >
< http://kaizu-blog.blogspot.com >
< http://web.me.com/kaizu >

○車にひかれそうになる

先月末、私は車にひかれそうになりました。自由が丘の駅前の細い路地を歩いていた時、突然背後から来た乗用車にコツンとぶつけられたのです。正確には持っていたカバンに、ですが。腹が立つのは、道路に人が溢れている状態なのに、車を進めて人と接触させたこと。運転手は分別あるべき年齢に見えましたが、かなりイライラしているようでした。何があっても歩行者が優先という原則を忘れてしまったのでしょう。些細なことでイライラする人が、免許証を持っていることは問題ですね。

○変な同窓会

6月上旬、ニフティー時代の友人達と同窓会を行いました。本当は単なる飲み会だったのですが、流れとして同窓会気分になったというわけです。私自身が時間はゆったりと流れていると感じていても、現実世界の経過は本当に早く、今は昔のヨタ話で盛り上がってしまいました。学校の同窓会と異なり、個性的で不思議な人達が入り交じっているからなのでしょう。実は他にも6月上旬から7月下旬まで毎週のように飲み会があり、私の一年分の飲み会が一気に来たという感じです。こんな事は初めてですが、たまにはこんな疲れ方も楽しいものですね。