つはモノどもがユメのあと[06]mono05:10kHz直読にむかって──「MIZUHO SKY MARKER MX-1D / COUPLER KX-1」/Rey.Hori

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前回から続くラジオ話である。35年ほど前、筆者がお年玉&当分のお小遣い返上で入手したNational Cougar 118Dは高性能なものの、「現在チューニングの合っている正確な周波数を10kHz単位で読む機能」つまり周波数直読の機能がない、というところまでお話しした。

周波数の直読機能など、ラジオにはなくて当然どころか回路設計上の理由により当分実現しないだろうと考えられていたのだが、それが可能になりそうな予感が幾つかはあった。一つは一部の超高級な通信型受信機で直読可能なものが既に存在したことである。

BCL専用を謳って色々な機能で武装してはいても、ラジオはラジオ、家電品の範疇に入る製品である。これとは別に、無線通信のプロ達のために、無線機の横に置いて使う特殊ラジオがあり、これを「通信型受信機」と呼んで「ラジオ」と区別していたのだ。通信型受信機のほうは街の電気屋さんには見当たらず、家電メーカではなくて通信機メーカが作っていた。



当時(1975年頃)筆者が知る限りの最高峰というか、夢の受信機は八重洲無線株式会社(現・株式会社バーテックススタンダード)から出ていたFR-101Dというモデルで、これには当時としては画期的な、デジタル表示で周波数が読める機能が搭載されていたのである。普通のラジオならダイアル面のあるところに青緑色の数字表示(これが何とLEDではなく、蛍光表示管だったのだから泣ける。判る人は泣いてね)が6桁並んでいる。チューニングダイアルを回すとあの数字がパラパラと変わるんだろうな、ああなんてカッコイイんだ!

とは言え、35年前の中高生が趣味のために買ってもらえるようなシロモノでは無論なく、高嶺の花もいいところ。単に「ああ、技術的には可能なんだな、すごいな」とアコガレの目線を送る対象でしかなかった。

周波数が高くなるほど、ダイアル面の周波数間隔が短くなるのは当時回避困難な原理的問題だったわけで、この頃の通信型受信機が(デジタル表示とまでは行かずとも)周波数を直読できたのは、受信するバンドを細かく区切ることで、その区間内の間隔変化を小さくし、近似的に等間隔とみなしていたかららしい。コリンズ方式、なる単語を聞きかじった覚えもあるが、設計者に確認したわけではないので、これ以上は深入りしないでおく。

もう一つの予感は専門誌の紹介記事だった。通信型受信機ではなく、あくまでラジオの範疇に入る製品で10kHz直読を可能にしたものが生まれた、という記事だ。ただ、それは残念ながら海外での話で、バーローワドレーという初めて聞くメーカのラジオであり、特殊な回路によって直読を実現してはいるが、日本ではその実物を見ることも買うこともできない、というのでは致し方ない。せめて一度見てみたいと思ったものだが、この願いは遂に今に至るも成就していない。

でも、こうした技術的なブレークスルーが行われ、BCLブームもまだしばらく衰える気配を見せていない以上、いずれそれは登場する流れだったわけなのだろう。……ある日、その驚きの新製品がデビューしたことを専門誌上で知ることになる。その名はSony Skysensor 5900。これは今回のモノでも何でもないのだが、比較的最近、秋葉原で中古品を見つけて買ったものが手元にあったりするし、この話題では避けて通れない機種なので少し詳しく紹介する。

< http://www.dgcr.com/kiji/RH/mono05.html >

この製品のそれまでのラジオにない特徴は、チューニングのためのダイアルが二つあることと、マーカを搭載していることだ。マーカとは、正確な周波数で振動する水晶発振子を使い、チューニングの基準となる電波を発信する装置のこと。マーカをオンにすると、「何も音のしない放送局」が一定間隔で並んでいるような状態になる。5900のマーカは更に工夫があって、マーカの周波数から少しズレるとピーという音が聞こえる仕掛けになっていた。つまり、ピー音を目印にチューニングし、その中央で何も音がしなくなればマーカの周波数に正確に合っている、と判るわけだ。

例えば9.760MHzの局を受信したいとしよう。予め本体中央のバーニアダイアルをゼロに合わせておき、マーカをオンにする。5900のマーカは250kHz(=0.25MHz)間隔固定なので、9.0MHz、9.25MHz、9.50MHz……といった感じでマーカの発する信号が並ぶ。マーカの信号とダイアル面の目盛を頼りに9.75MHzに合わせることは簡単にできる。5900ではここまでの操作を本体右上のチューニングダイアルで行い、次にマーカをオフにして、バーニアダイアルをプラス側へ1目盛=10kHz回せば、9.760MHzにチューニングが合うことになるのだ。

< http://www.dgcr.com/kiji/RH/mono05.html#p2 >

専門誌片手にこれはすごいと感心し、実機が電気屋の店頭に並ぶやいなやイジりに走り、改めて感心しつつもああ悔しいと思い、そして何とかならないかと考える。この時よっぽど悔しかったからこそ30年も経って中古品購入の挙に出ているわけだが、当時はまだ稼ぎのない身の上。118Dを押し入れに放り込んで5900をすぐ買うというわけにはいかない。せめて小遣い数ヶ月分程度の範囲で、何とか10kHz直読に肉迫したいのだ。

ダイアル面に印刷された目盛(周波数とは関係のない単なる目盛)を使い、狙う周波数帯での相関グラフなど描いて周波数を直読する、といったアナログな技も試みていたのだが、そのうちにうまく使えそうな装置というか製品をやはり雑誌で見つける。しかも比較的手頃な値段。それが今回のモノ、ミズホ通信株式会社(以下ミズホ)のSKY MARKER MX-1Dだ。

< http://www.dgcr.com/kiji/RH/mono05.html#p3 >

このMX-1Dも5900に搭載されているマーカと仕掛けとしてはほぼ同じものだ。外部アンテナとラジオとの間に設置して使う。5900搭載のマーカが250kHz間隔に固定されているのに対して、MX-1Dは1000, 500, 100, 50, 10, 5, 1kHzと、発振間隔が選択できるようになっている。

< http://www.dgcr.com/kiji/RH/mono05.html#p4 >

MX-1Dを使ったチューニングは、上記の5900でのチューニング手順と同じように、まず500kHz間隔にセットして9.5MHzに合わせ、100kHz間隔に切り替えて二つめの信号に合わせて9.7MHzにし、50kHz間隔で一つめが9.75MHz、10kHz間隔にして一つめの信号に合わせれば9.760MHzにチューニングが合うことになる。あとはマーカをオフにして放送を受信すれば良いのだ。

最小1kHz間隔で発振できるのだから、1kHz単位まで直読できそうなものだが、さすがに1kHz間隔で信号が並ぶと、隣の信号との見分けがつかなくなる。放送局の周波数は10kHz間隔(たまに5kHzの端数の付く場合もある)なので、事実上の10kHz直読による待ち受け受信が我がCougar 118Dでも可能になったのである(直読といっても、正確に言えば「読めて」はいなくて、合わせられるだけだが)。

ほぼ同じ時期に同じミズホから出ていたCOUPLER KX-1というものも購入したので、併せてモノとしてご覧いただく。これはアンテナカプラという装置で、周波数直読とは関係なく、ラジオとアンテナとの接続の効率を改善することで、受信感度をアップしようというものだ。

< http://www.dgcr.com/kiji/RH/mono05.html#p5 >

説明抜きに「待ち受け受信」という言葉を使ってしまった。中波の国内放送はほぼ24時間やっているが、短波のほうではそんな局は稀で、普通は1時間とか30分とかの単位だった。同じ周波数でも、例えば19時から20時は英語、20時から21時は日本語、22時から23時はスペイン語、といった具合に言語が切り替わる場合もあったし、時間帯によって言語と共に使う周波数が変わる局も多かったのだ。

幾つかの局では、そうした時間&周波数の変わり目の放送開始の少し前からその局独特の音楽を流すことがあった。これをインターバルシグナルと呼んで、局の識別に役立てた。有名なところではボイス・オブ・アメリカの「ヤンキー・ドゥードル(アルプス一万尺)」、ラジオ・オーストラリアの「ワルチング・マチルダ」、ドイチェ・ヴェレの「フィデリオ」などがある。

で、マニアの常としての凝り性というか完全主義から来るのだが、ある局の放送をこのインターバルシグナルの段階(あるいはその開始前)から受信して最後まで完全に聴く、ということに特別な価値を置くようになる。そのためには、その局の周波数に完全に正確にチューニングを合わせておいて、放送開始を待つ、というやり方になるわけで、これを待ち受け受信と呼ぶのである。待ち受け受信を行うためには、チューニングの安定性と共に、周波数の正確な直読機能が不可欠というわけなのだ。

さて、5900に直読機能搭載で先を越された松下電器だったが、当時のBCLブームを二分するメーカのこと、若干の遅れはあったが対抗機種をリリースした。それが人呼んで「直ダイメカ」「f直バリコン」搭載のNational Cougar 2200である。前回少し触れた可変容量コンデンサ(バリコン)を、何とダイアル面が等間隔になるような複雑な形状に設計することで10kHz直読を可能にするという、何とも正面突破というかチカラワザ的文句あっか的な直読機能を搭載したモデルだ。

おおこれはすごい、とまたしても思った筆者であったが、コイツに手出しはしなかった。今現在、秋葉原某所では意外に稀少な5900に対して2200をものすごく頻繁に見掛けることからも伺えるように、2200は一躍当時のベストセラー機に躍り出たのだが、実は筆者の興味は全く違う受信機へと既に向かっていたのである。というわけで、以下次回方面へまたしても続くのだ(えー、まだやるの?!)。

【Rey.Hori/イラストレータ】 reyhori@yk.rim.or.jp

できるだけウソを書かないために、モデル名やBCL関連のキーワードで一応ネット検索をかけて原稿チェックをしていますが、空前のブームだっただけあって、そこかしこに熱いサイトやブログ、筆者など足許にも及ばない超絶マニアなコレクター諸氏、現役BCLマンなどを発見。また、前回のmono04をお読みいただいた同年代の方から「自分も当時は…」というお言葉を頂戴したりもしました。いやぁ、楽しい時代でしたよね、ね? ノイズ&フェーディング混じりの、当時のインターバルシグナルを今聴いたら、きっと泣いちゃうな。

3DCGイラストとFlashオーサリング/スクリプティングを中心にお仕事をお請けしてます。
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