Otaku ワールドへようこそ![98]マイル修行とロケハンを兼ねて四国へ行ってきた
── GrowHair ──

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●マイル修行:効率のパズル

ものごとは、ぎりぎりですり抜けていくのが、最も効率がよい。剣の切っ先だって、ボクシングのパンチだって、ぐわんぐわんよけたりせず、ひょひょっとかわすのが極意とされる。

愛媛に行こうと決めたのは、6月10日(水)のこと。行ったのは、6月13日(土)14日(日)。このフライトで、JALの手持ちが1万マイルを超えたので、それを使って、6月27日(土)には出雲に飛んだ。6月いっぱいで期限切れ失効になりそうだった4,000マイルをぎりぎりで救って活用することができた。

これ以外に解はなかった。パズルのピースがぴっちりとはまったような、気分のよさ。何かの達人になったかのような……ってほどのもんでもないか。

マイルは、クーポン券や電子マネーに移行して、お金として使うこともできる。しかし、それをせず、飛行機に乗って使うのが最もお得な使い方である。たとえば、羽田─出雲間を2人で往復する場合、マイルを使わずにまともに支払うと、「特便割引7」のような割引チケットを使ったとしても、約9万円かかる。

一方、マイルを使って「おともdeマイル割引」を利用すると、1万マイル+約2万円で、2人が往復できてしまう。つまり、1万マイルが7万円分の価値を生むのである。一方、クーポン券などに引き換えると、1万マイルは15,000円程度にしかならない。



ただし、マイルを使って飛ぶには、最低でも1万マイルは必要である。スーパーやネット通販で買い物したときにつく、各店舗に固有のポイントとか、クレジットカードや電子マネーで支払ったときにつくポイントとか、すべてマイルに移行して、何が何でも1万マイルかき集めたい。買い物などでこつこつとマイルを貯めている人を「陸(おか)マイラー」というが、気の遠くなるような地道な難行苦行であるため「マイル修行」という言葉もあるほどである。

たとえば、牛丼を一杯食って、2マイル。滑走路だ。これだけで1万マイル稼ごうと思ったら、5,000杯食わないとならない。陸オンリーのマイル修行、私にゃ、無理。降りた。飛んで貯めるにしても、修験者に言わせると、観光なんかしてるようじゃまだまだ甘く、空港から出ずに、行った飛行機でとんぼ返りしてくる、フライト純度100%な旅行をしてこそ、修行の名に値するんだとか。行きと同じスチュワーデスと帰りも顔を合わせても、気まずさに心の平静がぐらついたりしないよう、精神の鍛錬も必要になってくるのだそうで。

6月に入った時点で、約8,500マイル残っていた。6月末には、4,000マイルが期限切れになる。そうならないうちに、あと1,500マイル稼いで、フライトで消費したい。ところで、2月末には3万マイルが消えることになっていて、出雲往復で1万マイルを使ったけれど、2万マイルはどうしても使い道がなく、3万円分のクーポン券に引き換えてあった。

これに約2万円足せば、愛媛に往復できる。それで700マイル稼げる。JALのクレジットカードを作って500マイル、最初のフライトで1,000マイルもらえる。合わせれば、1万マイル超え。「やりくり」という芸の道で三段の免状をもらえそうな……。すいません、どちらかというとオヤジの道に入ってしまったようで。

●ロケハン:行き当たりばったりの風来坊

屋外で人形を撮るための、ロケ地のレパートリーを増やしたい。山はずいぶん撮ったので、今度は海。……というのが、もうひとつの目的。

2月には、三浦半島の先っちょのあたりで撮ってきた。それなりにきれいには撮れたんだけど、ロケ地としては十分に満足のいくものではなかった。なんだか、砂浜でも磯浜でもなく、粘土浜って感じで。黒っぽくて。地層の線がぐにゃぐにゃとダイナミックにうねってて。粘っこそうな様相を保ったまま、カチンと固まっている。景色として眺める分にはそれなりに面白いんだけど、純真無垢なイメージの洋装の少女人形には、いまひとつ合わんのじゃ。

・湘南で撮った人形の写真
< http://www.geocities.jp/layerphotos/Seaside090207/
>

白のドレスを着た少女人形には、白い砂がよさそう。海は穏やかで、小さな波がさぷさぷと砂をくすぐる。砂浜の後ろのほうは、徐々に丘陵へとつながり、背の低い植物が砂地にしがみついていて、そんな中に月見草がひときわ高くすうっと伸びている。寂寥感がただよう。そんなイメージを描いている。ね、ね、いいでしょ、いいでしょ?

で、そんな浜がどこにあるのか。そういうイメージを描けたということは、どっかでは見たことがあるってことなはずなんだけど。海なんて、そんなに行かないからなぁ。高校生のときにみんなで、といっても男子校だったので野郎ばっかで、行った神津島だったか。修士課程の1年の夏休みに一人で9日間かけて東京から青森までチャリンコで走ったときの、新潟県から山形県のあたりの海岸だったか?

白い砂というと、和歌山県の白浜が思い浮かぶ。行ったことはないけど。あと、小笠原諸島とか。佐渡島もきれいだと聞く。高知の桂浜はどうだろう。行きやすさも考慮して、和歌山に狙いをつけていた。

ロケハンは、ガイドブックが頼りにならない世界。有名な観光地を自分の目で見ておこうって話じゃないし、温泉に浸かったり美味いものを食ったりして、ゆったりとしたくつろぎのひとときを過ごそうって話でもない。誰もわざわざ行こうなんて思わないような、何でもないところがいいのである。

こういうのは、人に聞くのがいちばんいい。山のときだって、私が気に入って勝手に「スピリチュアルの森」と名前をつけて何度も撮りにいっているところは、人に聞いて知ったのである。適当にあたりをつけて山道を歩いているときに、許可なく魚を釣る人を取り締まるレンジャーのおじさんがたまたまいて、聞いたら詳しく教えてくれた。行ってみると、思い描いていたイメージによく合致していて、いい場所だった。

海のロケ地についても、いろんな人に聞いた。職場で斜め前の席に座っているH野氏は愛媛県高松の出身だ。聞くと御荘(みしょう)というところを教えてくれた。松山から特急列車で宇和島へ行き、そこから宿毛(すくも。ちぢれけではない)行きのバスに乗り、御荘より手前、鳥越トンネルを抜けたすぐのところ、由良半島の付け根にある小さな砂浜が、寂寥感ただよって、いいという。

聞いた感じが、「観光地でもなんでもない」感いっぱいで、いい。よし、行く。すぐ決めた。いいんだ別に、たとえ空振りに終わったって。人が薦めたってだけで、聞いたこともない場所へふらっと行ってみるという、この風来坊感覚。それがいいんじゃ。

無茶な詰め込みスケジュールを組むようなせかせかしたやつとか、買い物でいちいちポイントの損得勘定をするようなちまちましたやつには、理解しがたい感覚かもしれないが。

●よそ者がめずらしがられる

鳥越トンネルを抜けてバスを降りると、あまりのなんでもなさに、思わず一人笑ってしまった。国道はそれなりの交通量で、まったくののどかな田舎の風景というわけでもないんだけど。この地点を目的地として来る人ってまずいないだろうな、っていう以外、描写のしようもないくらいのなんでもなさ。

天気がよく、暑い。バス停のところで、由良半島のほうに行く道が右に分かれている。その先の国道は、はるか遠くまで、同じ傾斜の下りがすぅぅぅっと続く。右手が海。安全に浜に降りられるようにと、誰かが小道をつけてくれてたのには大いに感謝するけれど、カメラバッグを肩から提げて、2本のロープにつかまりながら急な岩を降りるというのは、なかなかスリリングだったぞ。

うーん、砂利浜。砂浜じゃないじゃん。ま、いっか。海辺に一人ぼっちでいるのって、身にしみるほどの寂寥感。四国に足を踏み入れること自体初めてなのに、道後温泉には目もくれず、3日前までは聞いたこともなかった海岸に一人たたずむ俺。いったい何してるんだろ、俺。

海はまったく波がなく、湖のようだ。浜を右のほうへ歩いていくと、大きな岩が海へ突き出している。それを乗り越えると、向こう側にも浜が続いているようだ。岩にはとげとげした植物が、網をかけたようにへばりついている。登りきってみると、その大岩は、幅1メートルほどの溝で分断されていて、向こう側へ行けない。高さは2メートルほどなので、ぶら下がってから飛び降りられないこともなさそうだが、両側の壁はほぼ垂直で、スパイダーマンでもなければ二度と登ってこられなくなりそう。溝の中は、砂浜。変な地形。中に降りて写真撮ったらおもしろそうだけど、あきらめざるをえない。

さっきのロープの小道から国道に戻り、バス停を経て、半島のほうへ行く道を少し歩き、そっちから海辺に降りる。こっちの道は、車も通れる、まっとうな道だ。ちょっとした集落がある。バスからの眺めでも気になっていたのだが、この辺には非常に立派な造りの家が多い。しかも、新しい。それなのに、町全体としては、そんなに活気のあるような感じがしない。どういうわけだ?

旅には、人それぞれ、いろんな楽しみ方があっていいが、私の場合、そこに長く住んでいる人と話ができたとき、旅の実感がわく。なんでもないところで、なんでもない人となんでもない話をする。そうすると、その土地との距離感が一気に縮まって、好きになる。来てよかったなぁと思える。思い出がいつまでも残る。

さて、誰かいないかな。ステテコ姿で庭いじりをしているおっちゃんがいる。「こんにちはー」と声をかける。「この辺に景色のきれいな砂浜はありませんか」。「よそからやって来た人は景色がどうとかっていうけどねー、住んでると、なーにがいいんだか、さっぱり分かんないねー」。「わははー、そんなもんですか」。

由良半島にも、砂浜はあるという。そっちに行くバスの路線もあるというし。よし、行ってみよう。私の職場には、以前、土佐清水出身の人がいたのだが、このおっちゃんは、そのY崎氏に雰囲気がそっくり。気さくで話し好きでやさしそうなんだけど、いちおうそれなりに人生の荒波はくぐりぬけてきたぞ、って感じのしっかりしたところがあって、頼りがいがありそう。

Y崎氏は実家が漁師だと言っていた。このおっちゃんも海の人だろうか。聞いてみると、真珠をやっているという。真珠がよかったころもあったけど、10年くらい前からは、値段が下がるし、売れなくなるし、で、ぜんぜんだめらしい。生かしてあるだけだ、という。「みかんは?」と聞けば、山はあるけど、真珠をやるようになってからは放ったらかしだという。

由良半島は、マンデルブロ集合か悪魔の尻尾のようにぎざぎざしながら、細く突き出ている。尾根近くを道が走る。須下(すげ)峠から右岸の須下に降りると、5〜6人いた乗客はみんな降りちゃって、そこから先は一人で貸切状態。どこで降りてもいいよ、という。

教えてもらっていた浜は、はるか下に見える。降りていく道は、あるにはあるが、門がついていて施錠されている。横を通り抜けて行けないこともなさそうだけど、「まむしが出るし、一人ではいかないほうがいい」と運転手さん。あきらめて、その先の魚神山(ながみやま)で降りる。漁港だ。バスは終点まで行ったら1時間足らずで戻ってくるので、どこで拾ってもいいよ、という。

道を歩いていると、おばさんが、私をずーっと目で追っている。反応に困り、黙って前を通り過ぎようとしたとき、たまりかねたように話しかけてきた。「どっから来たの?」。「東京です」と言えば、堰を切ったように、身の上話が始まった。娘さんが築地に嫁いだとか、旦那さんは魚河岸で働いているとか。

もうロケハンはいいや。聞こうじゃないの。こっちへ嫁いで来てからは、ずっとどこへも行かせてもらえなかったけれど、娘が東京へ嫁いだことで、自分もたまに行くようになったとか、築地の魚は四国にいないのも集まるので、それはそれで美味かったとか、話しながら、近所を案内してくれた。

鮮やかな色の貝殻がぐわしゃっと積み上げてある。ホタテを小さくしたような貝だが、赤やオレンジや黄色や紫と、いろんな色のやつがいる。混ぜこぜに積んであると、ほんっとにきれい。ヒオウギ貝というのだそうだ。

写真を撮っていると、仲間のおばさんがもう二人、出てきていた。ヒオウギ貝の電気スタンドがあるので、見ていったら、という。家の前まで案内され、中からふたつ、持ってきてくれた。四角いのと、丸いのと。丸いのは、球形の上に同色の4つずつを組にして貼り付けてある。この貝は、そういう細工をしたくなる、って感じがよく分かる。

バスが見えてきた。そのお家の前で合図して停める。あー、楽しかったぁ。おばちゃんたちに見送られながら、乗る。空っぽ。鳥越トンネルまで、誰も乗って来なかった。半島の尾根道の途中、視界の開けたところで停めてくれた。写真を撮ってくるといいと薦められる。瀬戸内海は高いところからの遠景がほんとうにきれいだ。静かな海、傾きかけた陽が、きらきらと反射してまぶしい。地形が複雑に入り組んでいるので、海の向こうに山があり、その向こうがまた海、と何層にも積層している。

須下は、レスリングで北京オリンピックに出た松本慎吾選手の出身地なんだそうだ。200人ぐらい入れそうな立派な小学校があるが、今は生徒数が5人になってるとか。先生も同数ぐらいだという。遠くに魚神山の小学校が見えて、そっちのほうがいっそう大きくて立派な造りなんだけど、去年から廃校になっているという。

もしかして、真珠景気が後退しちゃったせい? 全盛のころは、ほんとにすごかったらしい。運転手さんの娘さんは核入れの作業をしていたが、一日で一ヶ月の家賃分ぐらい稼いじゃったそうだ。真珠は、二級品、三級品でも、一斗缶に詰め込んで、800万円〜900万円の値段がついたそうだし。まず神戸に送られ、アメリカに輸出されていったらしい。

みんな、家を建てかえてからは使い道もなく、その景気がずっと続くもんだと思っていたので蓄えておこうなんて気もなく、酒盛りで一晩に20万円〜30万円使っちゃったときもあったそうで。今は、家しか残ってねぇや、なんて言ってる人があっちこっちにいるらしい。そう言われてみると、高級そうなレストランなどが廃墟になってたりする。

そのうち、みかんがバイオ燃料として脚光を浴びて、好景気がもう一山くる、なんて展開になったりは、……しないかなぁ、やっぱり。御荘でバスを降りる。これだけ話が聞けると、地域の特徴がよく分かり、面白いところに来たなぁ、と旅の醍醐味をたっぷり味わえた気分になれる。運転手さん、それとステテコのおっちゃん、港のおばちゃんたち、どうもありがとう。

御荘のホテルにチェックインしてからは、ふつうのガイドブック的なくつろぎタイム。地酒、ヒオウギ貝、びやびやかつお、ジャコ天。どれも美味かった〜。いちおう温泉(といっても、実は鉱泉)なんだけど、大浴場に入りに行く勇気がなかった〜。

この前、会社の宴会でセーラー服を着たとき、前もってスネ毛を剃っちゃってたんだ。ヒゲぼうぼうのやつが、足はつるつるって、どうよ? 宴会芸ならいいけど、見知らぬ人に急に見られるのは、無理無理無理〜。

・愛媛で撮った写真
< http://www.geocities.jp/layerphotos/Seaside090612/
>

【GrowHair】GrowHair@yahoo.co.jp

6月27日(土)は、出雲。2月と同様、行きつけのメイドバーのkちゃんと。鳥取の中華庭園でのイベントで知り合った橋本龍さんと会いに。前回は廃墟とカラオケだったけど、今回は、出雲大社と松江。出雲大社前の「八雲」のそばと、松江の「清松庵たちばな」のお茶がめっさ美味かったー。お茶どころといえば、静岡と宇治が有名だけど島根もだったんだね。/ちょいラッキーなことがよくある。赤羽の部署に移ったY崎氏に用事があって、赤羽駅を出て向かう途中、ノートを買っていくつもりだったことを思い出した。すでに駅前の商業地域は切れて、住宅や小さな町工場が立ち並ぶエリア。駅まで引き返さなくては、と思ったら、すぐ目の前が文房具屋だった。ラッキー。店の名前は「ラッキィ堂」。以前に後記で柴田さんが絶賛していた、立川談春「赤めだか」を読む。面白かったぁ。赤めだかのくだり、なぜか知ってるぞ。思い出した。深夜に「航海屋」でラーメン食ってるとき、ラジオでかかってたんだ。話し手は著者だったに違いない。/Suicaで西瓜が買えたりするのかな? 西瓜の底にこっそりSuicaを仕込んでおいて、西瓜で改札口を通ったりしたら、ウケるかな?