[2682] たまらないほどの切なさが漂う

投稿:  著者:  読了時間:26分(本文:約12,900文字)


<参加するだけだとこんなに楽なのね>

■映画と夜と音楽と…[427]
 たまらないほどの切なさが漂う
 十河 進

■ところのほんとのところ[21]
 「東京フォト2009」に向けて
 所 幸則

■デジクリトーク
 地味な女・地味な県
 もみのこ ゆきと

■セミナー情報
 DTP Booster 005(Tokyo/090827)─InDesign


■映画と夜と音楽と…[427]
たまらないほどの切なさが漂う

十河 進
< http://bn.dgcr.com/archives/20090724140400.html >
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●印象的な母親役が続いた夏川結衣

夏川結衣という女優さんは昔から気になっていた人なのだが、このところ印象的な母親役をやっている。「天然コケッコー」(2007年)では夏帆が演じる主人公そよの母親で、夫(佐藤浩市)が浮気をしていると娘に言われても「たまにゃーええよ」と泰然自若と構えて余裕を見せる。そのどっしりとした自信と、若い頃からの儚げな美貌が妙にマッチして説得力があった。

最近、夏川結衣はNHKドラマ「トップセールス」の主演を始め民放のドラマにもかなり出ているらしいが、僕には昔から映画女優というイメージがある。映画を仕事の中心にしている感じがする。男優で言えば西島秀俊とか浅野忠信、大森南朋といった人たちも仕事の主軸を映画に置いているが、中堅女優では映画をメインにしている人はあまり思い浮かばない。

その夏川結衣のもう一本の印象的な母親役は、是枝裕和監督の「歩いても歩いても」(2007年)である。小学生の男の子を持つ母親の役だ。彼女は最初の夫と死別し、子連れで阿部寛と再婚した。その阿部の実家へ帰る電車の場面から登場するのだが、彼女は阿部の両親が自分との結婚を快く思っていないことを知っている。

「歩いても歩いても」は、原田芳雄と樹木希林が演じる両親の家に長女(YOU)一家と次男(阿部寛)一家が帰ってくるところから映画が始まる。15年前に少年を助けようとして海で溺死した長男の命日である。次男は何かにつけて出来のよかった兄にコンプレックスを感じている。そのため、町医者だった父親とも気持ちがすれ違ってばかりだ。

母親は「何も子持ちの未亡人と結婚しなくても…」と長女を相手に愚痴るものの、次男の一家が帰ってくると「まあまあ暑い中を…」とそつがない。血のつながらない孫にもにこやかに話しかける。そこは、まあ、大人の対応なのだが、日常的な言葉のやりとりの中でフッと本音が覗いたりする。それを次男の妻は鋭く気付く。しかし、笑顔は絶やさない。

「歩いても歩いても」は、ありきたりの言葉のやりとりの中に微妙な家族間の緊張関係を感じさせるという映画監督にとっては難しい設定なのだが、さすがに「誰も知らない」(2004年)で子どもたちに自然な演技をさせた是枝監督だ。細やかなニュアンスを描き出すのには長けている。俳優たちも自然な演技で、それぞれの個性を際立たせた。

夏川結衣の役は、あまりエキセントリックに演じてもいけないし、どっしりと構えてしまうと単なる鈍感な女になってしまうので、やりにくかったのではないだろうか。長男が死んで、そのためか余計に期待をかけてしまった次男は父親の跡を継がず家を出てしまい、勝手に子持ちの未亡人と結婚した。その両親の思いを、彼女は感じざるを得ない。

親としては、やはり未亡人が次男をたぶらかしたのだと心の隅では思っているだろう。そう両親が感じているだろうという想像力は働かせる女だが、だからといって神経をピリピリさせているわけではない。受け取り方によってはイヤミに聞こえる母親の言葉も、笑ってすませるくらいの大人の女だ。そんな女が一度だけ、夫の母親への不満を口にする。

母親は、夫のために新しいパジャマを用意していた。そのパジャマを手にして「どうせなら私のも用意してくれたって…」と彼女は初めて漏らす。それは、一日、こらえていた気持ちを吐き出すキッカケにしか過ぎなかったのだが、パジャマの件で彼女は母親の自分への気持ちを顕わに感じて口にする。母親の前でニコニコと微笑んでいた笑顔はない。女の凄みのようなものを僕は感じた。うまい女優だと改めて思った。

だが、「天然コケッコー」と「歩いても歩いても」の夏川結衣を見て、僕の印象はずいぶん変わった。若い頃は不幸の影を感じさせ儚げだったが、優しい美貌の下に夜叉の激しさを抱えた女に変貌した。したたかさや強さを感じるのだ。もっとも、したたかさは昔から彼女の中にあったものだ。どっしりした存在感を加えたのは、年月を重ねた結果だろう。

●和製フィルム・ノアールの巨匠となった石井隆監督

石井隆監督は馳星周さんなどが書くノワール小説と呼ばれるジャンルの物語を映像化するとピッタリのような気がするが、石井監督の方がその分野では先達だったのだ。劇画「天使のはらわた」が評判になったのは70年代のことだった。劇画誌に掲載されたそれを僕は読んだことがあるが、あまりにエロチックだったのと、女性が凌辱されるシーンが苦手なので一度読んだだけだった。

ただ、石井隆さんが描く名美というヒロインの名は刻み込まれた。その後、日活ロマンポルノで「女高生 天使のはらわた」(1978年)として映画化され、大学の先輩で役者になった河西健司さんがミスタースリム・カンパニーの仲間たちと出ていたので僕は封切りで見にいった。河西さんは狂気がかった演技でよかったし、映画も悪くはなかった。

その後、僕はたまたま何かの併映で見た「天使のはらわた 赤い淫画」(1981年)の出来のよさに驚いた。泉じゅんという女優を、その一本で記憶した。監督は新人の池田敏春。その後、僕はしばらく池田敏春監督の新作を追いかけたものだ。数年後、河西さんの結婚披露パーティーで池田監督に会い「ファンです」と臆面もなく挨拶をした。

「天使のはらわた」シリーズは、結局、6本作られたのだろうか。シリーズ2作目の「天使のはらわた 赤い教室」(1979年)には、若き蟹江敬三がレイプ犯みたいな役で出ている。確か「教室」を「はこ」と読ませていたと思う。石井さんは2作目から脚本も担当し始めた。元々、劇画家だったのだ。映像を作り出すのは得意だったのだろう。

最初は自作を脚色していたのだが、やがて脚本だけも手掛けるようになる。相米慎二監督の「ラブホテル」(1985年)も石井さんのオリジナル・シナリオだ。しかし、彼のヒロインはいつも名美という名で、男はいつも村木だった。村木を演じた俳優としては、寺田農、火野正平、根津甚八などが浮かぶ。竹中直人も石井作品では常連だった。

名美を演じた女優といえば、速水典子、余貴美子、大竹しのぶなどの名を思い出す。特に、石井隆監督作品の2作目「死んでもいい」(1992年)で名美を演じた大竹しのぶは絶品で、彼女の最高傑作ではないか。永瀬正敏、室田日出男の3人が絡み合う作品だった。殺人を犯してまでも女の愛を手に入れようとする、ある意味では崇高ささえ感じる人間の残酷さを僕は感じた。

●聖なる美女である名美が性的な地獄巡りをする

夏川結衣が名美を演じたのは「夜がまた来る」(1994年)だった。まだ20代半ば。もしかしたら初主演映画だろうか。不幸が似合う、儚さが漂う美貌の持ち主だった。おまけに石井隆監督作品である。服を着ているより裸のシーンの方が多いかもしれない。最初と最後は愛する男との優しく切ないセックスシーンだが、途中、数人の男たちに何度も凌辱され、拷問のように責められる。

石井監督に言わせれば「聖なる女の地獄巡り」である。「マルキ・ド・サドのジュスティーヌ」(1968年)のように、聖性を付与された美女が性的な地獄巡りをするというのが西洋に昔からあるポルノグラフィのパターンだが、団鬼六原作「花と蛇」(2003年)などSMものを多く手掛けた石井監督も、その基本を踏襲しているのかもしれない。

僕は、石井作品から伝わってくる「男と女の間に流れるどうしようもない切なさ」が好きなのだが、凌辱シーンや血まみれの猟奇的な殺人シーンが苦手で、正直に言うと時々は目をそらせたくなる。「夜がまた来る」でも、途中で「もういいじゃないか。そこまでやらなくても」と思ったことは何度もあった。

「夜がまた来る」は、銃把のアップに永島敏行が「夜がまた来る。思い出つれて…」と歌う「さすらい」が重なるシーンから始まる。銃把にハートマークを描いているのは太股も露わな夏川結衣が演じる名美だ。夫らしい永島敏行が裸でベッドに寝ている。永島敏行が口笛で「さすらい」を吹き、名美に「夜、口笛を吹くと不吉よ」とたしなめられる。

永島敏行は麻薬Gメン。潜入捜査に入るが、すぐに射殺死体となってどぶ川に浮かぶ。彼は麻薬を横流しした疑いをかけられ、葬儀の後、ヤクザたちがやってきて家捜しする。男たちにレイプされた喪服の名美はとがった夫の骨で手首を切るが、誰かに救われる。回復した名美は夫が潜入した暴力団の会長(寺田農)の命を狙い、組の幹部である村木(根津甚八)に止められる。再び自殺しようと入水した名美を救ったのも村木だった。

しかし、名美は諦めない。会長が通う銀座のクラブにホステスとして入り、自分の肉体をエサに会長に近づく。だが、ベッドで眠る会長を刺したものの殺すことはできず、子分(椎名桔平)たちになぶり者にされ、拷問を受ける。その名美のために、村木は自分の指を詰めてまで命乞いをする。だが、名美は千葉の場末の港町の歓楽街に送られ、シャブ漬けにされ客を取らされる。

千葉の場末まで、村木は名美を探してやってくる。だが、名美はシャブがなければ生きていけない女にされていた。名美を救い出し、村木は東京へ車を走らせる。だが、名美が「シャブくれよう」と暴れだす。ハンドルを奪おうとする。海辺で停まった車から飛び出す。「シャブくれよう」と叫びながら海へ入ろうとする名美を村木が抱きしめる。村木の目が悲しみを湛えている。

このあたりから、たまらないほどの切なさが漂い始める。村木はなぜ、それほど名美を救おうとするのか。シャブ漬けになり数え切れない男たちに犯されてきた女を、なぜそれほど悲しみに充ちた目で見つめるのか。根津甚八がいい。拒否されても、はねつけられても名美を救おうとする村木の静かな悲しみが伝わってくる。

村木は組が管理する建設途中のままになっているビルの地下に名美を閉じ込め、シャブを抜こうとする。体を洗う水をバケツに汲み、コンビニで買った弁当の袋を抱えて、村木は地下室へ入る。広い地下室の隅で名美が布団にくるまって震えている。「シャブくれよ」と叫ぶ。

村木が差し出した弁当を投げる。村木が拾って戻す。名美が投げる。村木が拾う。それは延々と続く。村木は何も言わず、名美が投げる弁当を拾い続ける。静かに「食べろ」と言うだけの村木の姿から、名美への深いいたわりが伝わってくる。

映画全体の中でも、地下室の二人のシーンはかなり長い。そろそろシャブが抜けたかと思うと、目覚めた村木の目の前に立った名美は股間を広げ「何でもするからさあ、シャブくれよう」と誘惑する。そんな名美を見つめる村木の悲しみ。村木は耐える。慈しむ。まるで兄か父親のようだ。ヤクザの幹部なのに、なぜ村木はそこまで名美をかばい続けるのか。

ここまでくれば、どんな観客にもわかるはずだ。この映画が名美と村木の切ない愛の物語だと…。村木は自分の命を棄ててもいいほどに、名美を深く深く愛している。シャブの抜けた名美が「イヤですよね、何十人、何百人と寝たカラダ。男たちのがカラダの中にいっぱい溜まってるもんね」と言う。そのとき、村木は「いや」と首を振り、「綺麗だよ、誰よりも…」とつぶやく。

夏川結衣は、2年後、石井監督が名美を演じた女優を集めて作った5人の女たちのフィルム・ノアール「GONIN2」(1996年)に出演した。佐藤浩市や本木雅弘など5人の男たちの物語「GONIN」(1995年)より、僕はこちらの方が好きだ。余貴美子、大竹しのぶ、夏川結衣、喜多嶋舞、西山由海に緒形拳がからむ犯罪映画である。

リーダー格の役は余貴美子だった。雨の夜、ビルの壁面を登ってゆくゴンドラに両足を開いてすっくと立ち、両手を伸ばして拳銃を構える余貴美子の逆光の姿が忘れられない。ラストシーン、やはり雨の夜。ネオンが映る街角で、余貴美子と並んで拳銃を撃つ夏川結衣の姿も甦る。儚さを漂わせる美貌の女が持つしたたかさが身に沁みた。

【そごう・すすむ】sogo@mbf.nifty.com
四国から東京に帰ってきた途端に梅雨が明け、暑い毎日。ああ、それなのにオフィスのエアコンが壊れてしまいました。僕のいる部屋にはサーバ類がラックに入って設置されていて、24時間、熱を発し続けている。エアコン交換にどれくらい待たされるのだろうか。まいったなあ。

●305回までのコラムをまとめた二巻本「映画がなければ生きていけない1999-2002」「映画がなければ生きていけない2003-2006」が第25回日本冒険小説協会特別賞「最優秀映画コラム賞」を受賞しました。
< http://www.bookdom.net/suiyosha/1400yomim/1429ei1999.html >
受賞風景
< http://homepage1.nifty.com/buff/2007zen.htm >
< http://buff.cocolog-nifty.com/buff/2007/04/post_3567.html >

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■ところのほんとのところ[21]
「東京フォト2009」に向けて

所 幸則
< http://bn.dgcr.com/archives/20090724140300.html >
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これを書いてるのは日食の日である。数日前の報道では、東京でも太陽が完全には欠けないまでも、三日月くらいにはなるらしいと言っていた。[ところ]は、近所の内科帰りにインフォスタワーの前で人が騒いでるのを見て、なんだなんだ? って思って空を見上げたら日食だった。すっかり忘れていた。

その時はあっというまに厚い雲に消えてしまったのだけれど、家に着く直前のコンビニ前で人が立ち止まってるのを見て、再び空を仰ぐと、今度は結構長い時間見られた。携帯でパチリ。mixiでマイミクの日記を覗くと、恵比寿は見られた、新宿だけど見えなかった、大田区は見えた、台東区は見えなかった、とか様々だった。まあ見られてラッキーだった。みなさんはどうでしたか?

さて、9月4日(金)から6日(日)まで開催される「東京フォト2009」に向けていろいろ動いてます。
< http://www.tokyophoto.org/ >

来年の4月、5月の2か月間、GALLERY 21(ギャラリー ヴァンテアン)でいままでで最大規模の個展をしますが、GALLERY 21でまだ個展をしていない作家が、そこからアートフェアに出展するというのは例のないことらしいので、評判がよければいいなと、今からちょっとどきどきしています。

GALLERY 21から、僕ともう一人の作家の特別な作品集を20部だけ作ろうという話をもらったのは、実は〈ところのほんとのところ[17]〉を書いたときなのですが、まだ「東京フォト2009」のサイトにGALLERY 21の名前も入ってなかったし、担当の方が非常に慎重な人なのでひっくり返る可能性もあるんじゃないかなと思って、僕も慎重になっていました。ですが、もうサイトも更新されて僕の作品も載っているので実感が湧いてきました。
< http://www.tokyophoto.org/jp/exhibitor_gallery21.html#15 >

この特別な本はキヤノンの協力により、作品の部分はオリジナルプリントに近いもので製本することになっています。作品とプリント用紙とプリンターの相性を判断するために、10種類以上の様々なペーパーでテストプリントしました。結果、ドイツのあるメーカーが5月に発売した、銀塩プリントに限りなく近いペーパーを使用することになりました。

この特別な本は製本も凝ったもので、表紙が蓋のようになっていて、閉じると箱のようになります。そのため、閉まっている時はほとんど空気の流れがないため酸化を抑えられるようになっているのです。

一冊一冊ハンドメイドなので、製本代がずいぶんかかるようです。以前作られたものを見せていただきましたが、本当にクオリティが高くて[ところ]は本当にびっくりしました。ほんとうのところ、まだ紙の在庫や納品のスケジュールが確認できてないので、出すことはきまっているのですが「東京フォト2009」に間にあうかどうかが微妙です。

さて、前回「One second book(1秒の本)」の見本のようなものをグラフィックデザイナーの上田康文くんが作って来てくれたと書きましたが、それを持って元青山ブックセンター六本木の仕入れ担当の柳さん(現川崎のマニアックなセレクトブックショップ「PROGETTO」のCEO TEL.044-211-4616)に見せてみると高い評価だったけど、奥付は? とか、値段は印刷しないの? などと聞かれ、書籍として足りない部分があることが分かった。

考えてみると、いままで自分だけで作品集というものを出したことがないし、今まで出して来た5冊の作品集には必ず編集者が関ってくれていたので、そういうことを気にしてなかったことを、柳さんと話したあとに気づいた。

柳さんは、新宿御苑の蒼穹舎の太田さんにも見てもらった方がいいと言ってくれたので、さっそく行ってみた。今度は、ページ構成も含めてこうするつもりだということを伝えながら見ていただいた。太田さんは良い本になりそうですねと言いながら、それはやめた方がいいとか、こうしたほうがいいとか、いくつか助言してくれたのでありがたかった。感謝です。

二人に言われたことを合わせると、いろいろと調整すべき点が見えてきたので、さっそく上田くんと打ち合わせした。なんとか8月末にはできそうかな、かなりほっとした[ところ]でした。

【ところ・ゆきのり】写真家
CHIAROSCUARO所幸則
< http://tokoroyukinori.seesaa.net/ >
所幸則公式サイト
< http://tokoroyukinori.com/ >

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■デジクリトーク
地味な女・地味な県

もみのこ ゆきと
< http://bn.dgcr.com/archives/20090724140200.html >
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「あんたいつもいつも忙しいわけじゃないでしょ。うちの○○とか△◇の提出書類とか作ってよ」
「え、いや、そのそれは基本的にお客様の方で作っていただくものでして……」
「なんでそのくらいの時間もないの。そんな時間もないほど忙しくないでしょ。誰からお金もらってんの。やってよ」

何言ってんだよ、このクソヤロー!。そこまで金もらってねぇぞ。持ち帰り残業してるくらい夏は仕事が逼迫してんだボケナス。あたしを勝手におまえんとこの事務員にすんじゃね。ヤラせるつもりならもっと金払え。あたしが男だったら、おまえなんかラブホにラチって、ひっくり返してでんぐり返して「気持ちいいんだろ? わかってんだよ、ほら」とか言ってピノキオみたいな鼻っ柱へし折って「ごめんなさい、もう許して」って言わせてやるのによ。

冒頭のありがたいお言葉を頂戴したわたしの怒りを、舞城王太郎の「阿修羅ガール」風に表現するとこんな感じである。だいたい初対面の人間に向かって、つーか対面したこともない人間に向かって、いきなり電話で「あんた」とか言ってるあんたってどうよ。

しかし、実際はチキンハートなわたしであるので、「は、左様でございますか。お客様は神様でございます。平和こそ全人類の願い。世界の国からこんにちは」と卑屈に返答し、電話口で唇をかみしめ涙する程度の抵抗しかできないのであるが。

♪私 お人好しだから
♪イヤとなかなか言えない
♪だから仕事がふえるの
♪コピーお茶くみばかり 損してる
(地味な女 by 森高千里)

さて、その舞城王太郎なる作家であるが、覆面作家でプロフィールの詳細は明らかにされていない。わかっているのは、せいぜい福井県の出身であるということくらいだ。

ふーん。福井県ねぇ。

鹿児島県で生まれ育ったわたしは、大いなる田舎者コンプレックスとともに生きている。脳内には日本の全都道府県が独自の田舎者指数によって厳然たる階層構造をなしているのだが、「貧乏で田舎者な県」とは別に、「地味な県」というカテゴリーがある。「地味な都道府県」でなくても大丈夫だ。なぜなら、「都道府」が付いている時点で既に地味ではない。

わたしが考える「地味な県」のトップを独走しているのが、実は福井県と茨城県である。福井県・茨城県と聞いて何を思い浮かべるか。何も思い浮かばない。せっかくだから、都道府県名より一番に思い出すものを挙げてみた。

北海道 :牛乳
青森県 :りんご
岩手県 :クラムボンは笑ったよ
宮城県 :牛タン
秋田県 :なまはげ
山形県 :佐藤錦
福島県 :喜多方ラーメン
茨城県 :───
栃木県 :宇都宮餃子
群馬県 :草津温泉
埼玉県 :さいたまんぞう
千葉県 :落花生
東京都 :東京ブギウギ♪
神奈川県 :横浜たそがれホテルの小部屋♪
新潟県 :ササニシキ
富山県 :チューリップ
石川県 :兼六園
福井県 :───
山梨県 :ワイン
長野県 :軽井沢
岐阜県 :宝暦治水
静岡県 :うなぎパイ
愛知県 :名古屋嬢 ※< http://ja.wikipedia.org/wiki/名古屋嬢 >
三重県 :サーフボードに乗った岩下志麻
滋賀県 :琵琶湖
京都府 :大原三千院 恋に破れた女がひとり♪
大阪府 :たこやき
兵庫県 :すみれの花咲く頃♪
奈良県 :大仏
和歌山県 :明石家さんま
鳥取県 :ゲ、ゲ、ゲゲゲのゲ♪
島根県 :出雲大社
岡山県 :今は亡き倉敷チボリ公園
広島県 :お好み焼き
山口県 :薩長同盟
徳島県 :阿波踊り
香川県 :オリーブの首飾り♪
愛媛県 :ポンジュース
高知県 :南国土佐を後にして♪
福岡県 :明太子
佐賀県 :有田焼
長崎県 :中華街
熊本県 :スザンヌ
大分県 :湯布院
宮崎県 :君たちキウイ・パパイヤ・マンゴーだね♪
鹿児島県 :西郷隆盛でごわす
沖縄県 :わした島ウチナー♪

ちなみに、鹿児島県・和歌山県・神奈川県は「地味な県」ではない。47も都道府県がある中で、全角4文字必要なのは、この3県だけなのだ。都道府県名が羅列されているときに、見つけやすいったらありゃしない。

島根県も十分地味な気がするが、あそこには独身者の聖地「出雲大社」がある。知人の女性は毎年バスツアーで出雲大社に行き、わたしにも縁結びのお守りを買ってきてくれる。勝手に「地味な県」に入れては神罰が下るかもしれないので、一応外しておこう。

埼玉県で「さいたまんぞう」しか思い出せないなんて、あんた、そりゃ埼玉も十分地味だと思ってやしませんか? と思われそうだが、そんなことはない。「さ・い・た・ま」母音が「あ」である文字の含有率が75%もあると、音の響きが地味に聞こえないのだ。

福井県と茨城県のことが気になって職場の女子に聞いてみた。わが職場には栃木の大学出身の女子がいるのだ。茨城のご近所なので、茶碗を洗いながら尋ねてみたところ「あぁ、水戸ですね、水戸。水戸黄門、水戸納豆ですよ」。なるほど、水戸とは茨城であったか。全く脳内リンクしていなかった。

しかし福井県については、その他の女子に聞いても、誰も何も思い出せないのであった。不憫である、福井県。不憫すぎて、湯舟に浸かっている間中、福井県のことを考えてみた。やっと搾り出したのがメガネだ。確かアラスカ州知事のペイリンがかけていたメガネが、福井県のメーカー製造ではなかったか。

わたしの脳内には、「貧乏で田舎で不憫な県」カテゴリーに、鹿児島県・青森県・高知県が勝手にリスティングされているのだが、「地味で不憫な県」カテゴリーには福井県を初代王者として祀り上げ、勝手に連帯感を深めることとしよう。

【もみのこ ゆきと】qkjgq410@yahoo.co.jp
働くおじさん・働くおばさんと無駄話するのが仕事の窓際事務員。かつてはシステムエンジニア。

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■セミナー情報
DTP Booster 005(Tokyo/090827)─InDesign
< http://www.dtp-booster.com/vol05/ >
< http://bn.dgcr.com/archives/20090724140100.html >
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日時:8月27日(木)14:00〜17:30
会場:大塚商会セミナールーム(東京都千代田区飯田橋2-18-4)
参加費:3,000円(事前決済)
定員:100名(事前登録制)
申込・詳細:サイト参照

●「InDesign上で作れるグラフィカルなページの制作方法と、ユーティリティを使っての作業効率化の方法〜ゲーム雑誌・スキー雑誌の現場から〜」
杏珠(Design × Lifehack × CrossOver Lab)

実際に仕事で作成した雑誌(『月刊スキーグラフィック』、『電撃プレイステーション』)のInDesignデータを使っての作成ポイントを紹介します。
・作成手順をレイヤーごとに分けるという考え方
・InDesign上だけでできるグラフィカルなデータ制作、Illustratorでも流用できる立体パーツの作成方法
・きれいなシャドウの作り方と考え方
・オブジェクトをグループ化してから「効果」処理することにより、表現の幅が広がる解説

●「あえてInDesignの常識に軽〜くツッコミを入れる」
大石十三夫(なんでやねんDTP)

マニュアル本などで紹介されていて、常識となりつつある部分を違った角度から検証・解説します。
・「文字ツメ」機能の弱点と適切な使用方法(使用箇所)を、「オプティカル」「メトリクス」との比較で……。
・その優位性が見逃されがちな禁則調整方式「調整量を優先」を他の調整方式との比較で検証・解説します。
※補足として「文字組みアキ量設定」も少し取り上げます。

●「InDesignの10問20答 〜2009夏の陣〜」
市川せうぞー(名もないテクノ手)×森裕司(InDesignの勉強部屋)

長く仕事をつづけていると、知らず知らずのうちに自分のやり方だけに偏りがちです。そんな時、誰かのやり方を見てハッとしたりしませんか? やり方はひとつじゃないってことです。
このセッションは10のお題に「YUJI流」「せうぞー流」のやり方を紹介します。Tips &Tricks、小技から大技、定石から反則技まで織り交ぜてのセッションになります。「人のふり見て、わがふり直せ」と見ていただければ幸甚。このセミナーが驚きと発見に満ちていますように。

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■編集後記(7/24)

・小川洋子「猫を抱いて象と泳ぐ」を読む(2009、文藝春秋)。伝説のチェス・プレイヤー、盤下の詩人、リトル・アリョーヒンの一生。もう一気に読む。あくまでも静かに淡々と物語は進行する。小川洋子の構築した不思議な宇宙にいつまでも浸っていたい。しかし悲劇のかすかな予感からは早く逃れたい。だが未読ページが減っていくのは惜しい。そんな複雑な思いを抱きながら読み進める。小川洋子の描くチェスはたとえようもなく美しい。それぞれの駒の動きや攻防の様子などを具体的に描かずに、ゲームの一部始終を鮮やかに表現してみせる。なんと美しいみごとな文章なんだ。そして、登場人物の口を借りて、チェスにたいする最大限の敬意を表す。「心の底から上手くいってる、と感じるのは、これで勝てると確信した時でも、相手がミスをした時でもない。相手の駒の力が、こっちの陣営でこだまして、僕の駒の力と響き合う時なんだ。そういう時、駒たちは僕が想像もしなかった音色で鳴り出す。その音色に耳を傾けていると、あ、今、盤の上では正しいことが行われている、という気持ちになれるんだ」「最強の手が最善とは限らない。チェス盤の上では、強いものより、善なるものの方が価値が高い」「チェス盤は偉大よ。ただの平たい木の板に縦横線を引いただけなのに、私たちがどんな乗り物を使ってもたどりつけない宇宙を隠しているの」。チェス盤には駒に触れる人間の人格すべてが現れるそうだ。棋譜さえ読めば、そのプレーヤーがどんな人物か分かるそうだ。おそるべし、チェス。本当かよ、チェス。わたしはチェスをまったく知らないのだが、なんとなく分かったような気分になっている。クラシック音楽の名演奏を聴いた後のような、快い疲労感が残る。(柴田)
< http://www.amazon.co.jp/exec/obidos/ASIN/4163277501/dgcrcom-22/ >アマゾンで見る(レビュー23件)

・コウノトリ但馬空港フェスティバルのスカイイベントが中止に。甥らが行く予定をしているので残念。早く発見されますように。/先週の土曜日はCSS Nite in Osaka。最近、勉強しなきゃなぁと思う時が多々あり、ご招待いただいたこともあって参加してみた。JQuery講座は、デザイナー向けに噛み砕いた説明があり、例題を解く時間まであって、てきとーにやって済ませていたところがクリアになり、本一冊読んだ気分に。ロールオーバー講座は最近のトレンドがわかり、JQueryとともに使うぜ、勉強になったぜ、とわくわく。ローカル環境でPHPやPerl、SQLが使えるようになるXAMPPはインストール済みだったので復習。書籍ができるまでのお話は、リアルで、知ると本自体の印象が変わるなぁと。デジタル芸人アキラボーイさんはDirectorを使っていて、ボタンはマウスだということが判明。しかしセミナー中、「なんでFlash使わへんの?」と疑問符で頭いっぱいに。Flash Media Interactive Serverを使った会場全体での携帯による(iPhoneはムリ)コミュニケーションは楽しかった。セミナーというライブ会場で、ニコニコ動画にコメント書き込みしているようなもの。受け身であるはずのセミナーが、参加型に変わったよ。/セミナーにはスタッフとして活動することが多く、参加するだけだとこんなに楽なのね、と。懇親会にも参加。たくさんの人にお会いでき、楽しい時間を過ごすことに。スタッフの皆さんに感謝。余談だけど、IT系懇親会のiPhoneやiPod touch所有率の高さは異常。90%ぐらいはそうじゃない? 欲しいよ〜。ワンセグとおサイフつけてくれい(ムリ)。(hammer.mule)
< http://www.tajima.or.jp/taf/ >  コウノトリ但馬空港フェスティバル
< http://osaka.cssnite.jp/vol17/ >  CSS Nite in Osaka< >  これが好き
< http://www.dtp-booster.com/vol05/ >  申し込み開始しました!