気になるデザイン[30]デザイナーズ物件の憂鬱
── 津田淳子 ──

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気がついたら8月ももう終わってしまう。仕事では年賀状の本も、もう見本誌があがってきてしまった……(苦笑)。出版を仕事にしていると、どうも季節を先取りしすぎていて、変な感じです。

校了時期はどうしても仕事に追われて、ゆっくり書店に行って本を買う時間がなくなって悲しい。でも往復の電車内では、仕事と関係のない本を読みたいと思うのですが、もう買い置き本のストックも底をつき……。そんなときは、駅のKIOSKで何か買います。

先日、めちゃめちゃ久しぶりに「SPA!」を買ってみた。愛読誌(?)として毎週のように買っていた時期もあったのだが、なぜかパタッと買わなくなって早数年。特集記事「ムダ遣いして何が悪い」が気になって買ってしまった。いやぁ、私もムダ遣いばっかりなもんで……。

でも実際に読んでみて気になったのは他の記事。「[ワケあり物件]○得(マルトク)激安ガイド」というもので、物件内で事故や自殺等があって相場より安くなっているものを紹介しているのだが、そこでこんな小見出しを目に!



──自殺や病死だけでなく、さまざまな格安のワケあり物件が存在!
(略)
「デザイナーズ物件は騒音や匂い以上に不評!?」
(略)そして、最近の不動産業界において、ある意味もっとも“いわくつき”
なのが、デザイナーズ物件。「家具が配置しづらい多角形の物件や、部屋のド
真ん中にらせん階段があるような物件など、もの笑いのタネでしかない。(後
略)」(週刊スパ 2009年8月4日号 23ページより抜粋)

う、うーむ。そんな風に思われているきらいがあるんじゃないかなぁ、とうっすら思っていたが、やっぱり……。

そもそもデザイナーズ物件とかデザインマンションとかデザインホテルとか、言葉の使い方、デザインの捉え方自体が間違ってる気がする。「奇抜」だったり「意味もないスタイリッシュさ」だったりを「デザイン」って呼んでいるんでしょうか。

このコラムでも何度か触れたことがあると思いますが、「機能性」とか「使われ方」とか、見た目以外の部分の設計も含めて、すべてが「デザイン」だと思っているんですが、どうもマスコミを中心に「見た目」「ビジュアル」だけを「デザインだ」としている記事や話題を多く目にして、いつも、違う! と思ってしまう。きちんと「デザイン」をしてるデザイナーの方々は、私以上にもっと困るでしょうねぇ。なんか誤解されてて。

まあ、こんなお笑いデザイナーズ物件は、ホンの一部だとは思うんですが、とはいえ実は私の自宅から20mくらいのところにある一軒家が、どうもいわゆる「デザイナーズ物件」と呼ばれているもののようで、案の定(?)なんかおかしい。住んでいる人とは知り合いでもなんでもないので、家の内部がどうなっているかはわからないんですが、玄関までの階段、これが変。

まず一軒家なのに、わざわざ家を地面から1.5mくらい嵩あげしたところに建てているのがよくわからないんですが、そのために玄関まで道路から階段になっている。結構、横幅が広い階段で2m以上ある。

横幅が広いのはいいのだが、階段がコの字状になっていて、センター付近がポコッと70cm四方くらいの穴が空いているような状態になっているのだ。言葉で言うとわかりにくいのでこちらをご参照ください(知らない近所の家の写真を撮るのもなんなので、パースとかまったくわからない私が描いたダメダメ図ですみません)。

階段の途中からなぜか左右ふたつにわかれ、その中央部分はストンと地面まで何もない。建設途中は「ここに何か入るのかな?」と思っていたんですが、家が完成し人が住み始めてもこのまんま。特に何かに使われることなく完成後3年くらいたったんですが、近頃、子どもの自転車が置かれるようになりました(苦笑)。

これ、なんのためにあけた空間なんでしょうか。手すりもないし、向かって右の階段なんて幅は60cmくらいしかないし。降りるとき怖そう。おまけに上から3段降りてくるとき、真ん中付近を降りてきちゃうと、4段目はないんですよ! ひょえー。

まあ、個人住宅なので、好きに建てていいんですが、この階段を見ていた、うちの夫と近所の飲み友だちのおじさん(共にデザインに関わらない仕事をしている)が、二人で「まったくなんだこの階段は。だからデザイナーズ物件は嫌なんだよ」というようなことを話しているのを聞いて、うーむ、やはりデザイナーズ物件とか、大きく言えばデザインっていうことは、そんな風な認識がなされているんだなぁと。

デザインっていうのは、そういうもんじゃない! と、ちゃんとわかって欲しいものだし、そういう「デザイナーズ物件」をつくっちゃったデザイナーの人、反省してくださいな!

【つだ・じゅんこ】tsuda@graphicsha.co.jp
前回のコラムを書いた後に行った奄美大島では、なんとか日食を体験できました。あたりが暗ーくなって、気温も下がって、不思議な感じでした。

3つの別冊(?)付録と、計12枚の綴じ込み付録がついた函入りの『デザインのひきだし7』。特集は「製本加工はここまでできる!」と「スケスケな紙、素材、加工、大集合!」の2本立て。小口まで真っ赤に染まった本が、段ボール箱に入って、全国書店に並んでます!

金銀とCMYKの掛け合わせ見本帳『標準 印刷見本帳2 銀×青金×赤金×CMYK×CMYK×マット/グロスニス編』発売中 他に最近作った本は『デザインアイデア&ヒント』『ハニカムペーパー・クラフト』『標準 印刷見本帳1 蛍光色×CMYK×マット/グロスニス編』『デザイン事務所の封筒・名刺・ビジネス文具コレクション』『しかけのあるブックデザイン』など。
< http://www.graphicsha.co.jp/
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