わが逃走[51]顔に見えるコレクションの巻/齋藤 浩

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数年前、某大手電機メーカーが関わる公共事業の一環で、水害を未然に防ぐための『ナントカシステム』とかいうものをアピールせよ、というお題をいただき、新聞広告を作ったことがある。

その際、キービジュアルとした写真が、3つの穴の開いたマンホールの蓋から雨水が溢れているというもの。穴の配置がまるで人の顔を思わせるような位置関係にあったため、泣きながら水を吐き出している人の表情にも見える。

コミカルに、そしてシリアスにナントカシステムの重要性を訴える、我ながらすばらしい広告だったにも関わらず、最終的にはお蔵入りしてしまった。校正刷りまで出したのに、今思い返しても残念である。

で、その人の顔に見えちゃう効果を『シミュラクラ現象(類像現象)』というらしい。最近ではその効果を活かしたプロダクトデザインの研究なんかが進んでいて、例えばバイクを正面から見たときに人の顔に見えればその分視認性が増し、事故防止につながるといった話などなど。

なんでこんな話をしているかというと、先日私のゼミの学生がシミュラクラ現象をテーマにポスターを作ったのだった。なんかソソるテーマであったので、ここらで私も顔に見えるモノたちの写真を撮ってやれ! と思い立ったところ、そういえば20年ほど前に同じテーマで写真集を作ろうとして途中で挫折していたことを思い出したのだ。



そういえば、その後も"顔"を発見するたび写真に記録していたといえばしていた。ネガやらデータやらを引っ掻き回してみたところけっこう出てきたので、『なんとなく顔にみえちゃうコレクション』のごく一部をご紹介いたす所存。

・町工場の柱

思えば、この写真が全ての発端だった。学生時代の写真の課題で撮影したもの。今はなき実家の近所の廃工場というか作業場の柱。錆びた金属の色調と生い茂る雑草とのコントラストが美しかった。

ところで、ここはいわゆる廃墟なんだと思うが、廃墟と言ってもいろいろある。この場をお借りして、これについてひとこと言わせていただきたい!!

私は以前からこのジャンルには『陰の廃墟』と『陽の廃墟』があると考えており、『陰の廃墟』とは、いわゆる廃病院などに代表される心霊スポット的なものや、宇宙からの毒電波を受信した人が作ってしまったトンデモ物件が朽ち果てたもの。それに対し、『陽の廃墟』とはオバケや宇宙人なんかとは無縁の、自然との対比が純粋に美しい物件をさす。

私が魅力を感じるのはあくまでも後者である。おそらく私にとっての原体験は、アニメ『アルプスの少女ハイジ』に登場する"冬の家"や旧信越本線横川─軽井沢間の丸山変電所跡(修復前)など。

陰と陽では全くの別モノ、香り立つものも全く違うのに、それを一括りに"廃墟好き"と言われてしまうことに私は非常に! 違和感を感じているのだ。"陰"における興味の対象がオカルト的なものであるのに対し、"陽"の興味の対象はあくまでも美しさなのだ。そのへんを是非ご理解いただきたい!!!

などと熱く語ってしまったが、残念ながらこういう男はモテない。鉄道マニアにおける"乗り鉄"と"撮り鉄"で論争をしているようなもので、普通の人にとってはどちらも同じ変わり者(≒キモイ人)なのだ。しかし、もはや私はモテなくてもいい。廃墟における陰と陽の存在に、同意してくれる人さえ現れてくれればそれで本望なのである。

・クロスヘッド

この写真も学生時代の課題より。クロスヘッドと呼ばれる蒸気機関車の足回りの部品。踊るハニワみたいでかわいいなあ、なんて思っている。大抵のSLにはこの部品がついているのだが、機種によって顔つきが異なる。今後世界中のSLのクロスヘッドの写真を一堂に並べた写真展なんかやってみたら無意味でイイかも。

このように、装飾ではなく機能を追求した結果、顔的造形になった工業製品というものに、私はより一層グッときてしまう傾向にあるようだ。

・ドラム缶兄弟

平湯温泉の神社の床下で発見。カワイイ。よく似ているので勝手に兄弟だと思っているが、違うかもしれない。左の奴は素直でいい子そうだけど、右の奴は独自の世界観を持っていそうなので、話すと楽しいかも。

そもそも彼らが何の為にここにいるのかも不明だが、機会があれば是非また会いに行きたい。どうでもいいけど、この近所の店で飼われていたバカそうな雑種っぽい犬も大層かわいかった。

ドラム缶にしろ、犬にしろ、私はこういう素朴で人に媚びないかわいさが好きだ。それに対して、ギャルに人気の、有名な猫のキャラクターとかはどうも苦手だ。あの猫は自分のことをかわいいと自覚しているのだ。その心根が許せない!!! また話がそれてしまった。

・蓼科の蔵

某温泉に行く途中で発見。いい人そうですね。話しかけると「ござる」とか言いそう。ヘアスタイルもイカしてるぜ。

・水栓

昨日、長野県某所にて。目が合ったので早速撮らせていただいた。ありふれた工業製品も、見方を変えると突然顔になる。こういった気づきってとても大切で、例えば相手が顔に見えるように促すにはどうすればいいか? なんて考えることは、そのままグラフィック広告の構造を考えることに繋がるのだ。ほんと、趣味に直結した仕事をさせていただけるって幸せ。

・床の木目

ウチのトイレの床に住む『ゴッホの描いた宇宙人』。ウンコしているとよく目が合う。どうやら、いかなる木目にも顔らしきものは存在するようで、過去に暮らした家にもこういうヒトが何人かいた。熱出して寝てたりすると、天井にいろんなものが見えてきて大変なことになる。ちなみに敬愛するタモリ氏は、「木のうろが女性器に見えれば一人前」と仰っていました。さすがです。

今回は以上ってことで。ちょっと探しただけでけっこう見つかるもんですね、顔。そんな訳で、今後も『顔に見えるコレクション』は続けていこうと思います。そういえば、『シミュラクラ現象ポスター』を作ったウチの学生ちゃんにも、これをライフワークにせよ! なんて無責任なことを言ったので、そのうち顔に見えるコレクション師弟対決! なんてできたら素敵だなあ、なんて思うのだった。

【さいとう・ひろし】saito@tongpoographics.jp

1969年生まれ。小学生のときYMOの音楽に衝撃をうけ、音楽で彼らを超えられないと悟り、デザイナーをめざす。1999年tong-poo graphics設立。グラフィックデザイナーとして、地道に仕事を続けています。
【さいとう・ひろし】saito@tongpoographics.jp