[2724] 映画化を拒むクオリティの高い小説

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《たまには気合いを入れたプリントをしよう》

■映画と夜と音楽と...[437]
 映画化を拒むクオリティの高い小説
 【マッキントッシュの男】
 十河 進

■ところのほんとのところ[26]
 世界6都市を1secondで封じ込めようとする企画が発進
 所 幸則

■デジアナ逆十字固め...[97]
 大阪で写真展やセミナーをやります
 上原ゼンジ

■イベント案内
 クリエイターに会いたい人・クライアントに会いたい人 総勢99人大集合
 「大プレゼン大会」その1


■映画と夜と音楽と...[437]
映画化を拒むクオリティの高い小説
【マッキントッシュの男】

十河 進
< https://bn.dgcr.com/archives/20091016140400.html
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●ラストシーンのドミニク・サンダが目に焼き付く

WOWOWがポール・ニューマンの一周忌で追悼特集をやってくれたおかげで、35年ぶりに「マッキントッシュの男」(1973年)を見ることができた。初めて見たのは1974年の冬だった。まだ、マッキントッシュというパソコンは登場していない。僕はロードショーの封切りで見た。隣りに今のカミサンがいた記憶があるから、高松に帰省中に見たのだろうか。

ジョン・ヒューストン監督は「クレムリン・レター」(1969年)なども撮っているのでスパイものは初めてではないが、当時、こういう作品を撮ったことに少し意外感を持ったことを憶えている。僕はポール・ニューマンとドミニク・サンダが出ているのに惹かれて見にいった。原作はデズモンド・バグリィだったが、僕はまだバグリィと出会ってはいなかった。

35年ぶりに見て、自分の記憶がかなり確かだったのを確認した。印象的なラストシーンはもちろん、アイルランドの寒々とした風景も記憶のままだった。それだけ印象的な映画だったのだ。主人公が宝石強盗をして、いきなり20年の刑に服すことになる展開は予想外だったが、刑務所で終身刑に服している大物スパイに近づくあたりから、主人公が何か密命を帯びて刑務所に入ったことはわかった。

最初に見たとき、僕が驚いたのはラストシーンである。ドミニク・サンダが大きなモーゼル拳銃を構える姿が焼き付いた。ドミニク・サンダは僕のひいきの女優なのだが、最も記憶に残るシーンは「暗殺の森」(1970年)でもなく「ルー・サロメ/善悪の彼岸」(1977年)でもなく、「マッキントッシュの男」のラストシーンだ。今回もそのシーンが見たくて、朝の7時から起きて放映を見たのである。

ドミニク・サンダは、記憶の中にあった通り美しかった。謎を秘めた美しさだ。表情をあまり変える人ではない。ミステリアスな役が似合うのは、感情をあまり出さない演技をするからだろう。「暗殺の森」でもそうだった。70年代後半、日本でも人気が出てテレビCMも頻繁に流れたし、西武デパートかパルコが美しいビジュアルのポスターを作った。

今回、エンドクレジットを見ていて気付いたのは、「スクリーンプレイ=ウォルター・ヒル」と出たことだ。調べるてみると、ウォルター・ヒルは同じ年にペキンパーの「ゲッタウェイ」(1972年)の脚本を書いている。その後、監督になり「ザ・ドライバー」(1978年)が評判になる。フィルム・ノアールのテイストを持ったスタイリッシュな映画だった。

初公開時はウォルター・ヒルなんて名前を見ても何も思わなかったが、今や有名監督のひとりになった。「マッキントッシュの男」のシナリオを担当した頃は、30そこそこだった。その後、「48時間」(1982年)などのヒット作もあり、ハリウッドで成功したプロデューサーでもある。35年も経つと、そんな面白さも生まれる。

もちろん、僕の方にも大きな変化があった。初めて「マッキントッシュの男」を見た頃は大学3年の春休みで、前年の暮れに東京を引き揚げて高松に帰っていたカミサン(まだ結婚前だったけれど)に会うために、大学3年の後期試験が終わるとすぐに高松に帰っていた。おそらく2月のことだ。それから4月の初めまで、2か月近くを僕は実家で過ごした。

その間、僕はビル・メンテナンス会社でアルバイトをした。要するにビルの清掃である。そのメンテナンス会社の課長が僕の大学の先輩で、自分で言うのも何だが僕が陰日向なく真面目に働くのを見込んだらしく「来年、卒業したらウチに就職しないか」とまで言われた。高松に戻り、ビル・メンテナンス会社に就職する、それもいいかなと僕は思った。

しかし、翌年、僕は出版社に就職し、その秋には結婚して再びカミサンを東京に呼んだ。それから34年間を勤め人として過ごしてきて、今年の秋には結婚34年めの記念日を迎えた。長い時間だ。ジョン・ヒューストンもポール・ニューマンもすでにこの世にはいない。原作者のデズモンド・バグリィも、ずいぶん以前に死んでしまった。僕と同い年のドミニク・サンダはどうしているのだろう。

●福永武彦がバグリィの「高い砦」を絶賛

デズモンド・バグリィの翻訳は、早川ノヴェルスとして「裏切りの氷河」が最初に出た。続いて翻訳されたのが「マッキントッシュの男」である。すべての作品を独立した物語として書いたバグリィだが、主人公は異なるものの「裏切りの氷河」の続編が「マッキントッシュの男」である。

そう、あれは1974年のゴールデンウィークの後だった。僕は大学4年になり、来年からの去就に迷いながら方南町の狭いアパートで暮らしていた。ある日、友人のTが「デズモンド・バグリィが面白い。読め」と僕の部屋に2冊の本を置いていった。「裏切りの氷河」と「マッキントッシュの男」だった。「裏切りの氷河」から読み始め、やめられなくなった。

次に「マッキントッシュの男」を読み始めたが、すぐに「裏切りの氷河」の続編になっていることに気付いた。主人公は違うが、「裏切りの氷河」の主人公によって正体を暴かれ、イギリス政府に逮捕された大物スパイが「マッキントッシュの男」では脱走を図るのである。僕は数か月に見た「マッキントッシュの男」を思い出し、「なるほど、そういういきさつだったのか」と納得した。

そして、3番目に翻訳されたのが「高い砦」だった。僕の持っているハヤカワ・ノヴェルズの奥付を見ると、昭和49年5月31日の発行になっている。その翻訳が出た頃、朝日新聞の文化欄の大きなスペースを使って、福永武彦が「高い砦」を中心にイギリス冒険小説についてエッセイを書いた。

僕は高校生の頃に福永武彦を少女趣味の作家と規定して馬鹿にしていたが、あるとき「海市」を読んで感心し、その後、福永武彦のほとんどの著作を読み、「日本にもこんなロマネスクな小説を書ける作家がいたのだ」と心酔していたから、我が意を得た気分になった。

福永さんは加田伶太郎名義で本格探偵小説も書いた人で、中村真一郎と丸谷才一の三人でミステリ評論集「深夜の散歩」を出すような人だった。物語性を大事にする純文学作家だった。「風のかたみ」は女性読者が多いし、「死の島」は日本文学史に屹立する大長編小説だ。池澤夏樹さんは、彼の息子である。

福永さんが絶賛したからというわけではないが、僕は出たばかりの「高い砦」を買ってすぐに読んだ。これが、凄かった。アリステア・マクリーンの「女王陛下のユリシーズ号」、ギャビン・ライアルの「深夜プラス1」、それにジャック・ヒギンズの「鷲は舞い降りた」など、今では冒険小説の古典になっているが、「高い砦」もそのひとつである。

現在、日本冒険小説協会では「鷲は舞い降りた」「深夜プラス1」、それにアリステア・マクリーンの初期作品は必読書になっているようである。デズモンド・バグリィも後期になるとクオリティは落ちたが、それでも一定の水準は保っていた。後期は、映画化を前提にしたノヴェライゼーションのような小説を書き散らした、アリステア・マクリーンほどクオリティは落とさなかった。

●バグリィの最高傑作「高い砦」はなぜ映画化されないか

デズモンド・バグリィの原作はどれも映画化したら面白いと思うのだが、あまり映像化されていない。調べてみると、「マッキントッシュの男」の他に「裏切りの氷河」(1978年)がテレビ用に映像化されたらしい。その他には日本未公開だが、「ランドスライド」(1992年)と「アーク 失われたマヤの財宝」(1999年)という作品がある。

「ランドスライド」は「原生林の追撃」、「アーク 失われたマヤの財宝」は「黄金の手紙」として翻訳されたものだ。どちらもバグリィ前期の作品で、よくできた冒険小説である。翻訳の順番は後先になったが、処女作「ゴールデン・キール」に続く2作目が「高い砦」で、バグリィはこれで一躍注目された。「裏切りの氷河」「マッキントッシュの男」は中期の作品で、これ以降、バグリィ作品のボルテージは下がっていく。

デズモンド・バグリィは14作品に加えて、死後に2作翻訳が出た。20年ほどの間に16作だから寡作だが、イギリスやアメリカの作家はそんなものだ。英語圏の作家はマーケットが広いから、一年以上かけて一作というペースで充分に生活できるのかもしれない。もっとも、バグリィの出身は南アフリカではあったけれど...。

バグリィの最高傑作「高い砦」は、なぜ映画化されないのか不思議だが、それはギャビン・ライアルの「深夜プラス1」が映画化されないのと同じなのだろう。あまりに原作のクオリティが高いので、映画化に二の足を踏むのかもしれない。派手な展開があるので、昔なら制作費がかかるだろうが、現在のハリウッドならCGを駆使してリアルな映像が撮れるはずだ。

南米のある国でパイロットをしているイギリス人が主人公である。彼は小さな旅客機に荷物と十数人の客を乗せてアンデス山脈を越えて飛ぶが、途中で副操縦士の破壊工作に遭いアンデス山中に不時着する。副操縦士は「ビバカ...」と言って死ぬ。後にその意味がわかると、小説が書かれた時代(1965年)の背景に納得する。

「ビバカ...」は「ビバ・カストロ」と言う途中だったのだ。カストロやチェ・ゲバラがキューバ革命に成功して数年、そんな時期にバグリィは「高い砦」を書いた。だから、「高い砦」の敵役は共産軍に設定されている。ミッキー・スピレーンほど共産主義への敵意を露骨には書かないが、現在の物語が国際テロリストを敵役にするのと同じように、冷戦時代の雰囲気がうかがえる。

不時着し生き残った10人の男女はアンデスを下る。ところが、ある谷まできて橋が壊れているのに遭遇する。そして、対岸には共産軍が待ち受けていた。それは、客の中に某国の国民的英雄と慕われる元大統領がいて、彼の帰国を共産主義政権が阻止するために軍隊を派遣したからだった。副操縦士も彼らの仲間だったのだ。

共産軍と10人足らずの徒手空拳の男女が谷の両側で対峙する。彼らの中には様々な職業の人間がいて、物理学者の提案で中世の戦いで使われたという投石機や石弓を作り、軍隊の銃弾に対抗する。しかし、共産軍は少しずつ橋を修復する。その橋がつながったときには、ろくな武器を持たない主人公たちは死を覚悟しなければならない。

しかし、3人の男たちが不可能と思われるアンデス越えに挑戦し、共産政権に対抗する革命軍に救いを求めにいく。ミゲル・ローデという魅力的な人物がいる。元大統領を帰国させることが祖国のためになると信じる彼は、使命を全うするために超人的な力を見せる。アンデス越えの途中で意識を失った仲間を肩に担ぎ、ひとりでも不可能と言われるアンデスを凍傷になりながら越えるのである。

バグリィ前期の小説の特徴は、主人公がひとりではないことだ。「高い砦」もオハラというパイロットが中心にはいるが、アメリカ人のフォレスターやミゲル・ローデも活躍するし、オールドミスの女教師や学者もそれぞれに出番があり、魅力的なキャラクターだ。生き残った旅客たちの中に卑劣な酔っ払いのピーボディという男もいるが、彼さえも印象深い脇役なのである。

僕は今まで数え切れないほどの小説を読み、様々な映画を見てきたけれど、登場人物の死を悲しむという意味では、ミゲル・ローデの死ほど悲しんだことはない。「なぜ、こんないい男を殺すんだ」と、僕はバグリィに抗議したくなった。しかし、ミゲル・ローデは無惨に銃殺されたから僕の記憶に刻み込まれたのである。バグリィの物語作りのうまさだ。

「高い砦」は、様々なシーンが今でもくっきりと浮かんでくる。それは30年前に読んだときのビジュアル・イメージなのだが、それが記憶に残っているのは優れた小説が持つ力なのだろう。そうであるとすれば、今さら映画化する必要はない。これだけ強い映像的な喚起力を持つ小説なら、読者は映画化されたものに違和感を持つだけだ。賢明なプロデューサーや監督は、きっとそのことがわかっているのに違いない。

【そごう・すすむ】sogo@mbf.nifty.com

このところ、本が読めなくて困っている。視力が落ちたのか、電車の中でも20分を超えると、眉間がイライラしてくる。字を追うのが苦痛になってくる。そういう肉体的な問題とは別に、あまり面白い本に出会わなくなっている。世の中には数え切れないほど本が出ているので、そのうちまた夢中で読める本に出会えるだろう。

●305回までのコラムをまとめた二巻本「映画がなければ生きていけない1999-2002」「映画がなければ生きていけない2003-2006」が第25回日本冒険小説協会特別賞「最優秀映画コラム賞」を受賞しました。
< http://www.bookdom.net/suiyosha/1400yomim/1429ei1999.html
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受賞風景
< http://homepage1.nifty.com/buff/2007zen.htm
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< http://buff.cocolog-nifty.com/buff/2007/04/post_3567.html
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■ところのほんとのところ[26]
世界6都市を1secondで封じ込めようとする企画が発進

所 幸則
< https://bn.dgcr.com/archives/20091016140300.html
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10月20日(火)から11月1日(日)まで、いよいよ今年最大の個展。目黒のギャラリーコスモスで「渋谷1second 感染。写真展2」がはじまる。

出点数も過去最大、しかも、音楽は徳澤青弦くんと近江健介くんという、まったく違うジャンルの音楽家が、僕の「渋谷1second」の写真からイメージして作ってくれた曲が交互に流れる。どちらも写真に合ってるのが不思議。好みは別れるだろう。見て聞いた人が、どちらが合うか考えるのもおもしろいだろう。

そして文章もある。全体についての僕の文章と、ギャラリー21(バンティアン)のキュレータ・太田菜穂子さんの文章がある。まずは、それを読んでから鑑賞していただきたい。小説家でもある月森砂名さんが[ところ]の写真に対して短編の寓話を書いて下さっています。音楽を聴きながらお読みいただきたいと思います。

さらに、素材とのコラボもしています。ピクトランバライタという紙と、ピクトランメタルという用紙を用い比較展示しています。写真展では初の試みではないでしょうか。

そして、渋谷のコンシールで開催した「渋谷1sec〜瞬間と永遠」以降の渋谷の新作群に加え、「パリ1second」「上海1second」のロケハン時に撮ったものの中から一枚ずつ、予告編的な意味で展示しています。

[ところ]はこのあと、世界6都市を1secondで封じ込めようとする企画が進んでいて、これもその一環です。もちろん、渋谷は僕にとって基本の街なのでずっと撮り続けますが、世界にも撮りたい都市は沢山あるのです。

そして、人とのコラボレーション。今回は写真雑誌の編集長クラスにも忙しい中お願いしましたが、それだけにとどまらず、建築家、医師、本屋さん、音楽家、キュレータ(現代アート)など多岐にわたる人と、トークショーで話すことになっています。

どういうことかというと、1secondを見て素晴らしいと思ってくれた方々と、時間や写真、都市について語り合うと面白いんじゃないか、視点が違っていろんな見方があると思ったからです。

トークショーイベントは、2週間にわたり金土日の6回も開催されますので、Webサイトをごらんになって、面白そうだなと思ったトークショーに是非お越し下さい。20日(火)の17時からはオープニングパーティーがあります。気軽におこしください。

──という文章を書いていたのは2日前でした。この2日間で世界6都市1secondの依頼者とその周辺のキーマンに挨拶がてら話しに行っていたので、緊張しまくっていた[ところ]ですが、行ってみると拍子抜けするほどスムーズで、ありがたいことに全面的に信頼するということでした。結局[ところ]のやろうとしていることを説明するだけでよかったみたいです。ほっとしました。

初日とトークショーのある日は午後からできるだけ会場にいますので、個展には是非みなさんいらっしゃってください。

 所幸則「1sec 感染。写真展2」
 < http://www.gallerycosmos.com/newpage1.html
>
 < http://www.gallerycosmos.com/1sec2.pdf
>
 会期:10月20日(火)〜11月1日(日)11:00〜19:00
 会場:ギャラリーコスモス(東京都目黒区下目黒3-1-22 谷本ビル3F TEL.03-3495-4218)

【ところ・ゆきのり】写真家

CHIAROSCUARO所幸則 < http://tokoroyukinori.seesaa.net/
>
所幸則公式サイト  < http://tokoroyukinori.com/
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■デジアナ逆十字固め...[97]
大阪で写真展やセミナーをやります

上原ゼンジ
< https://bn.dgcr.com/archives/20091016140200.html
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今月の27日(火)から大阪のギャラリー「ナダール」での写真展が始まる。去年の今頃、尾仲浩二さんが運営するギャラリー「街道」の流し台のスペースに写真を飾らせてもらったのだが、それを見たナダールのオーナーの林和美さんからお話をいただき、企画展を開いていただくことになった。ありがたいことです。

会期中にはトークショーがあり、その前日にはDTP Boosterのセミナーもある。トークショーのタイトルは「創作のネタばらしをします!」ということで、ビー玉レンズとか万華鏡だとかの現物を持ち込んで、どんなふうに撮影しているのかの、実演などしてみたいと思っている。今までひた隠しにしてきた恥ずかしい姿が生で見れます。

それから、写真をどうやって加工しているのか、といったあたりもお見せするつもりだ。人から見たら「インチキじゃん!」というようなこともあるかもしれないな。けっこう手を加えてる写真もあるから。でもオレはドキュメンタリーをやってるわけじゃあないんだから、何をやったっていいんだよ。と言っても、そんなにあざといことをやっているつもりもないけどね。

DTP Boosterのセミナーの方のタイトルは「カラーマネージメント講座─書籍ができるまでを例に」というもので、今まで私が関わってきた本や雑誌の色再現に関して、失敗例や成功例をあげながら、「何をやればいいのか?」ということについて話してみたいと思っている。印刷機本機のプロファイルまで作って運用している人というのは少ないと思うから、参考になるんじゃないかと思います。

もちろん、そんな特殊な事例ばかりじゃなくて、なるべくお金も手間もかけずに、カラーマネージメントの環境を整える方法についても、お話したいと思ってます。

●気合いを入れたプリント

写真展のために、久しぶりにまともにプリントをした。ふだんの仕事では見本プリントを出力したりすることは、ほとんどない。デジタルデータだけだったら、メールやサーバーを使って送れるけど、見本を付けたらバイク便を出動させなければならない。それに編集者とデザイナー、印刷会社間のやりとりだって、ネットを介して行われているのだから、ハードコピーの見本がうまく活用されることはほとんどないだろう。

そんなわけで、久しぶりに自分の手元で行ったプリントは楽しかった。写真では撮影も大事だけど、それと同じぐらいプリント作業も重要なものだと思う。そんな重要なことを怠っていたというのは、良くないな。プリント作業の中では、いろいろと発見もあったし、たまには、気合いを入れたプリントをすることにしよう。

今回は用紙として、「ピクトランバライタ」(コスモスインターナショナル)というペーパーを提供していただいた。バライタというと暗室で使う印画紙のことを思い出すけど、こちらはインクジェットプリンタ用のバライタ紙だ。

暗室で使っていた印画紙には、バライタ紙とRCペーパーがあった。バライタの方は「紙」でRCは「プラスチック」。バライタは乾燥が遅く、フラットに乾燥させるのが結構大変。高価ではあるけれど、トーンなどはきれいに出る。一方、RCの方は乾燥が速くて、取り扱いが楽。安価だけど、バライタと比べるとちょっと安っぽい感じ。使いわけとしては、バライタの方は展覧会や販売用。RCの方は取りあえずのプリントやベタ焼き用。というような認識を持っていた。でも、ちょっと調べてみたら、その認識は誤りだったことに気づいた。

まず、RCペーパーというのは、プラスチックというわけではないみたいだな。いや、確かに触った感じはプラスチックじゃなくて、紙です(笑)。紙は紙なんだけど、まずベースになる紙をポリエチレン層でサンドイッチにした上に乳剤層があるんだそうだ。だから、ベース紙まで薬品等が染み込まず、水洗や乾燥が楽だというわけ。

一方のバライタ紙の方には、ベース紙の上を硫酸バリウムの白色微結晶によるバライタ層というのがある。紙の白色度や平滑性を高めるためのものですね。ということは、印刷用紙のコーティングや、インクジェットプリンタ用紙の蛍光増白剤と同じような役割をしているということだ。ナルホド......。

今回使用したピクトランバライタの説明は以下のようなもの。

「本紙は結晶性硫酸バリウム層(バライタ層)を設けており、蛍光増白剤を使用しておりません。そのため、永遠不変に近い均一な白色を維持します。もちろんバライタ層の上にはピクトランの基本技術である最高度の高透明インク受容層を有しており、バライタの白さから暗黒の黒さまで最大限の階調性で新しい写真の世界を表現することが可能であるとともに、従来の古典技術である、銀塩バライタ紙の風合いも、そのまま感じ取ることができます」

つまり、一般的なインクジェットプリンタの用紙のように蛍光増白剤を使わずに、印画紙のバライタと同じように結晶性硫酸バリウムを使ってみました。どうですか、お客さん! ということですね。

で、使用感は悪くないですねえ。印画紙にプリントをしていた時は、RCペーパーのつるんつるんの光沢具合が気に食わなくて、バライタ紙を使っていた。RCペーパーにも半光沢や無光沢というのはあるんだけど、これもいまいち。インクジェットプリンタの場合もビカビカの光沢紙というのは、あまり好きじゃないんだけど、マット系だと色の出具合がイマイチなので、仕方なく光沢の強い紙を使っている。

まあ、風合いがありつつ、色も出る(色再現域が広い)という用紙が今までになかったわけじゃないんだけど、このピクトランバライタはなかなかいいですよ。ただ「超高級作品画質インクジェット用紙」というだけあって値段は高いです。作品としてきっちりプリントしておきたい、という場合のための用紙ですね。実際にどんな感じのプリントになるのか見てみたい人は、大阪までぜひどうぞ!

◇実験写真家 上原ゼンジの世界
< http://nadar.jp/osaka/schedule/091027.html
>
※トークショーは定員になってしまったようです。ありがとうございます!

◇DTP Booster 008(Osaka/091030)
< http://www.mebic.com/konokuri4/1335.html
>
< http://www.dtp-booster.com/vol08/
>

【うえはらぜんじ】zenstudio@maminka.com
< http://www.zenji.info/
>

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■イベント案内
クリエイターに会いたい人・クライアントに会いたい人 総勢99人大集合
「大プレゼン大会」その1
< http://www.mebic.com/meeting/1370.html
>
< https://bn.dgcr.com/archives/20091016140100.html
>
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クリエイターに会いたい企業・団体のみなさんと、クライアントに会いたいクリエイターのみなさんが一堂に集い、互いのニーズや課題を共有することで、コラボレーションが生まれることを願い、大プレゼンテーション大会を開催します。3会場同時にひとり8分間のショートプレゼンを行い、終了後、参加者全員でパーティを行います。興味のある話題満載ですので、ご関心ある方は、是非この機会にお越し頂き、互いにコミュニケーションを深めていただければと思います。(主催者情報)

日時:10月16日(金)18:30〜21:30(20:30〜交流会)←本日!
会場:メビック扇町2F(大阪市北区南扇町6-28 水道局扇町庁舎2F)
費用:無料、交流会費:1,500円
申込・問い合わせ:サイト参照。メール、電話、FAXでも可。

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■編集後記(10/16)

・ASIAGRAPHのサイトで「2009年度 CGアートギャラリー公募展示部門」の選考結果が発表になっている。今年もこの選考に一委員として参加した。今までいくつものデジタルアートコンテストの審査に携わって来たが、正直いつも自信たっぷりに選考できたことはない。わたしが選んだ作品が本当に優れているのか、もっと優れた作品を見逃してはいなかったか、最後の決断まで悩む。オンライン審査だとなおさらである。荒選りの段階はまだいい。優劣の差はまず間違いなく判断できる。だが、次の過程は悩みと迷いで長い時間を要する。優秀とする作品数は決まっていて、その3倍くらいもある作品群から絞り込む。ここでは、制作意図が明確にわかる作品を選びたい。ところが、ビジュアルはよくても、意味が不明な作品も少なくない。わたしは以前から、あらゆる分野のアートで、作家は自分の作品を言語でも表現できなければならないと思っている。だから、コンテストでも応募作品に言語表現を添付させ、それも評価の対象になるスタイルが望ましいし、展覧会では作家は自作を過剰なほど語るべきだと思う。今回のASIAGRAPH公募の審査では、一部にそれが実現し作家による解説がじつに有効だった。思い通りの審査ができて、総合的にも満足すべき結果が出た。来週、お台場の日本科学未来館で開催される、ASIAGRAPHのCGアートギャラリーをぜひ見に行って下さい。(柴田)
< http://www.asiagraph.jp/public/index.html
> ASIAGRAPH 選考結果

・ゼンジさんのセミナー楽しみ! 009の申し込みも開始!/後記ネタがないよう。仕事は守秘義務があるから細かいことは書きにくいし、体調悪いので徒歩2分のスーパーとの往復しかしていないし、咳がひどいので人と会えないし、こんな料理作りました、というのも書くほどのものを作っていないし、掃除や洗濯はネタになりそうにないし、開いていない段ボールの話も書いたし、うーん。ああそうだ、先日、窓ガラスの拭き掃除があったよ。FIX窓で外側の掃除ができないから、年4回掃除してくれる。ゴンドラでの掃除だと思っていたら、救助隊のようにロープを腰あたりに固定させてのブランコお掃除。高所恐怖症なので、このお仕事は絶対にできないな。カーテンを閉めるように言われていたのだが、紙に「おつかれさまです!」と書いて目の前に出そうかと思ったぐらい。変なことしてバランス崩されたらいけないので、できなかったけどね。(hammer.mule)
< http://www.dtp-booster.com/vol08/
>おなじみ上原ゼンジさんのカラーマネージメントセミナー!
< http://www.dtp-booster.com/vol09/
>制作者のための出力できるPDF