Otaku ワールドへようこそ![106]祭りは出たもん勝ち:デザインフェスタに出展した
── GrowHair ──

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8割が石からなる玉石混交状態の中に、ひとつの石ころとして自分も入ってみたところで、それを人生の汚点だの末代の恥だのと気に病む必要もなかろう。そう開き直って、さる10月24日(土)、25日(日)に東京ビッグサイトで開かれた「デザインフェスタvol.30」に出展者として参加してきた。

●とにかくなんでもオリジナル作品さえあれば、出せばよい

デザインフェスタとはどんなイベントか、については、3年前に吉井さんが見物レポートを書いていて、今、あらためて読み返してみると「まさにまさに」と思うことばかりなので、全文ここに引用したいくらいである。
< https://bn.dgcr.com/archives/20061206140000.html
>

 失礼ながら、「デザインフェスタ」は、テレビやチラシから受ける印象から、最も嫌いなものの一つだった。基本的に「学園祭ノリ」は苦手なのです。面白いと思い込んで他の観客と同化しなければ疎外感を感じてしまいそうな、「場のノリ」が苦手なのです。

そうそう、一言で言っちゃうと「美大の学園祭をでっかくしたイベント」ですね。東京ビッグサイトの西展示棟の上の階と下の階ほぼ全域に約2,700ブースが設けられ、展示された作品を約5万人の来場者が見にくるというイベント。出展条件は「オリジナル作品であること」がほぼ唯一の縛りで、出展者の年齢、プロ・アマの別や、表現形式などは一切問わない(もちろん危険だったり著しく反道徳的なのは駄目でしょうけど)。

吉井さんは、見た後の印象として「僕が苦手な『学園祭ノリ』とはちょっと違った。個々のブースがそれぞれ独立した他人の集合体なので、変な連帯っぽい感じは薄い」とも言っていて、その側面もまた然りと思う。とにかく、なんか作ったものを各自それぞれ見せびらかして、多くの人に見てもらって自己顕示欲を満足させる場とも言えるだろう。

いい作品に出会ってはっとさせられることよりも、変なもの、異様なものが目に飛び込んできてぎょっとさせられることのほうが多く、あの程度の変さが許容範囲内ならば、俺はもう半歩ばかり常軌を逸してもいけそうかな、ってな相乗効果でエスカレートしていくという側面はあるかもしれない。もちろん、変なものがまず目立つってだけで、全部が全部そういうもんで占められてるわけはない。

服飾やインテリア装飾品など、商品クオリティに達した実用品もあり、まじめなアート作品もあり、まあ、全体的にカオスな空間である。このイベントに費やされた(人的および精神的)エネルギーの総量はいかほどであろうか、と考えると気が遠くなりそうだ。

 何千組の出展。最小で畳一畳のスペースだけに、本当に数え切れないほど
 のブース。絵、写真、造形、工芸、服飾、パフォーマンス、音楽......など
 など、あらゆる表現の見本市。まあ、完成度やプロ的な視点で見れば「し
 ょーもなく」「安っぽく」「イタい」「勘違いな」「若気の至り」が大半
 で、「どこに出しても恥ずかしくなさそうな、ちゃんとしたもの」はせい
 ぜい2割程度。でも、審査や権威付けなど一切のフィルタを通さずに見れ
 るのは貴重な機会。

わははー、的確すぎて、刺さりますな。アイテテテ...。ばかだねぇ、と笑う方もいらっしゃるけしょうけど、ケバヤシごときが何か出してへらへらしてられるような敷居の低いイベントだったら、俺が自分の作ったものをここへ出品するのに何の気後れも感じる必要はないではないか、と半分ケツが浮きかけた方もいらっしゃるのではなかろうか。どーぞどーぞ、ささご遠慮なく。次回は5月です。



●ドラえもぉぉん、なんか出してくれよぉぉ

まだまだ先だとのほほんと構えていたら、ふと気がけばすんげ〜目前に迫ってた、っていうのはこの種の出展作品作りの常なんだろうけど。前日の金曜日に会社を休んで、フォトショップで画像を加工したり、どれを出そうかと選んだりしてるってのは、さすがに危機感なさすぎた。メディアに焼いて、夜までにヨドバシカメラに持っていって、展示用と販売用の写真を一時間仕上げでプリントしてもらって、10時の閉店までには受け取る、と。それが間に合わなければ、出すものがひとつもないぞ。

まあ、その最悪の事態はなんとか避けられたけど。展示や販売に必要な材料や道具を東急ハンズで買い集めておくとか、販売用には一枚一枚OP袋(※)に入れるとか、展示用には両面テープを裏張りしておくとか、作業がいっぱいあって、結局、夜を寝ずに当日を迎えることに、まあ、なりますわな。※OPはオリエンテッド・ポリプロピレンの略。要は透明袋。

いつもお世話になっている人形作家の美登利さんが作品を出展するのに便乗して、美登利さんの人形を被写体とした写真に限定して私も展示・販売させてもらおうという経緯で、私はデザフェス初参加。ブースの位置は主催者が決めるので出展者は選べないのだが、西ホールの入り口のひとつから中へ伸びる広い通路と、ホール内を横に貫く広い通路とが交差する角地の、しかも入ってきて右手に見える側という、絶好の場所に当たった。

当日朝6時に会場入りして、設営を始める。11時が開場だが、美登利さんが来るまでに写真の展示を終えておかないと、人形の設営が始まらない。オプションの白塗りベニヤ板はすでに立てられている。あっちこっちから釘を打つ力強い音が響いてくる。すんごい凝った、過剰なまでの装飾で人目を引けるのなら、そうしたい。けど、私にそんな才能あるわけがなく。

アート界のプロフェッショナルな方々も多数来場するのに、幼稚園のお遊戯会の飾りみたいなもんになってはいくらなんでも痛々しすぎるぞという程度の自覚はあり、下手な小細工は避けて徹底的にシンプルなディスプレイをしようと覚悟を決めた。これは正解だったと思う。

白壁を黒の模造紙で覆い、その上に両テで写真を直接ぺたぺた貼っていく。それだけ。額装も透明カバーもない、むきだしのまま。これなら一時間ぐらいで仕上げて、新宿まで戻って写真を追加プリントして戻ってくるぐらいの時間は作れそうだ。...とんでもなかった。平らな壁に紙を貼るだけがこんなに難しいとは! 小さいのを継ぎはぎしてはカッコ悪いと思い、ロール紙を用意したのだが、延ばしても延ばしてもくるんと丸まっちゃうし。端を仮止めして、すすすと延ばしていっても、最後のところで平らにならず、ぼわんと山ができちゃうし。あれえ?

すぐ後ろのブースは、人形界では名の知れた西條冴子さん。手の込んだディスプレイがどんどん形になっていく。こっちは紙一枚貼るのにひーひー言っている。なさけない。おぉぉい、ドラえもぉぉん。やっぱ俺、こんなところに出てくるの間違ってた。最初から気がつけよ。思えば高校を卒業する時点で、これで美術からは永久におさらばだ、せいせいしたって言ってたんじゃないか。苦手中の苦手科目だった。社会科と国語もひどかったけど。

だいたいこっちは勉強する気満々で、教わったことはみんな覚えてやるぞと身構えているのに、何一つ教えてくれないうちから、何か描けとか作れとか。だから、「何を」と「どうやって」をまず先に教えてくれよぉ。意地悪じゃないかぁ? って、まわりはどんどん何かできてるし。俺の知らない間にどこで誰から習ってきたんだよぉ。ずるいぞ。しかも、俺よりずっと頭悪いと思ってた子がなんかいい成績取ってるし。おもしろくないぞっ! これ、今にしてみると言ってて恥ずかしいけど、そのくらい素養皆無の子でした。

なんで忘れてたんだろ? アートのイベントに出展なんて、根本から間違ってるじゃないか。東京フィルハーモニー交響楽団に混ざって、ひとり縦笛持って舞台に立っている小学生の気分。このイベントは玉石混交だから気分的に多少は救われるとはいえ、場違いなまでに箸にも棒にもって人が、出てくるってことはまずないわけで。うっかり出てきたら、いたたまれなさに耐え忍ぶだけだわな。参った。人生最大の恥。人間、失格。

まあ、10時ぐらいには、どうにかこうにか仕上げたけど。黒が幸いしてさほど目立たないながら、しわだらけ、折り目だらけ。貼りなおし貼りなおしの奮闘を物語る惨状。あーあ、もう知らね。二度と出てこないから、みなさん今回だけは許してちょ。

●たくさんの人に立ち止まってもらえて、ほくほく

泣いたカラスがもう笑った、ってフレーズがあるけど。開場してみれば、足を止めてじっくり見ていってくれる人が多くて、すっかり気分ほくほく。もちろん美登利さんの人形がスゴいおかげなんだけど。ちゃんと新作持ってきてるし。急遽作ってこのクオリティか、と人形作家さんも驚くほど。被写体のおかげで写真もぼちぼち売れていく。田園調布に家が建つほど(←いつのギャグだ?)飛ぶようにってわけじゃないけど、ハガキの機能すらない、ただ2Lサイズにプリントしただけの写真が、その絵柄を所有したいという動機だけで買っていただけるのは、奇跡を見るような気分。さっきまでの悪夢が、いきなりいい夢に転じた感じ。

「被写体は変わったけど、写真は変わってないね」と英語で話しかけてくる人がいる。金髪の男性。えーっと見覚えある顔だぞ。誰だっけ? あ、スティーブン! 2000年ごろ、毎週のように日曜日に原宿の「橋」へ行ってヴィジュアル系のコスの人たちを撮ってたことがあって、そこでよく会った人だ。あのころは髪が鮮やかな青に染められてて、幼稚園生が持つようなショルダーバッグをたすきにかけて歩いてた。

日本のサブカルチャーを研究してるとかで、コミケでも会ったことがあったな。BL系の同人誌を手にとって、エッチなシーンの絵を指して、たどたどしい日本語で「これは痛いです」とかツッコミ入れてたりしたっけな。スティーブン・シュルツ。あらためて名刺をもらったのでホームページを見に行ってみたけど、なんだか意味不明のページだなぁ。
< http://www.hellodamage.com/tdr/
>

犬夜叉 完結編 殺生丸 (1/8スケールPVC塗装済み完成品)目の前を「犬夜叉」の殺生丸が通る。あれ? 詩音(しおん)? 以前、よく撮らせてもらってたコスプレイヤーで、駒沢公園で個人撮影して子供たちの大の人気者になってたり、愛知万博会場での世界コスプレサミットで日本代表として舞台に立って度胸のすわったいい演技を見せてくれたりと、古い思い出がよみがえる。やっぱりそうだった。あんな見事な殺生丸はそうなかなかいない。今は悠羽司恩と名前を変えているそうだけど。長いこと会ってなかったのは、こっちがコスプレイベントにあんまり行かなくなっちゃったからで、彼は相変わらず活動しているそうだ。なぜデザフェスで? と聞くと、コスプレイベントに限らず、クリエイティブなイベントにはよく出向くのだそうで。

英語で、私の写真をほめてくれる人がいる。プロっぽかったので、聞いてみると、やはりそうだという。フィンランド出身で、国にいたときは新聞社で働いていたという。今は東京に長く滞在して美術学校に通っているのだとか。どんな写真を撮るのか見たいと言ったら、ちゃんとポートフォリオを持ち歩いている。おっ! 原宿のビジュアル系のコスプレイヤー。明治神宮の森を背景にするとカッコよく撮れるのは私も知ってたけど、彼のは、背景を完璧に黒つぶれさせている。しかも、屋外なのに、人工光を複数使って美しくライティングしている。コントラストの強烈な、緊張感ある写真だ。小さな発電機と二つの光源を持っていって撮ったのだそうで。

それと、闘鶏の鶏とか。こっちの思い通りには動いてくれないだろうに、ポーズも構図もライティングも完璧だ。やはり黒い背景に、バックライトが羽の一部を強く照らし、はっとする美しさだ。さらに、老人たち。見ていてこっちがひるんでしまいそうな重厚さ。顔のしわに人生が深く刻まれている。サウナで人に声をかけ、撮らせてもらうのだそうで。表情など特に注文をつけるわけではなく、ありのままの自分でいてくれ、とだけ言うのだそう。私の撮ったのを3枚買っていって下さった。「いいと思うからだ」と言い添えて。いやもう、神の声を聞いた気分です。Kenneth Bambergさん。

上の階を見て回っていると、見慣れた赤いワンピースドレスの後ろ姿が! あれ? キャンディ・ミルキィさん? 女装界のカリスマといわれるお方だ。原宿の橋で以前よくお見かけした。通行人が通りすがりに「テレビ見ましたよー」などと声をかけていく有名人だ。女装雑誌「ひまわり」の編集長だった人である。なぜここに? 聞くと、知り合いの出展者の応援で、客寄せ役を務めているのだとか。

その出展者さんと私とは一面識もなかったのだが、私を見て「セーラー服の写真、見ましたよ」と声をかけてくださった。え? なぜそれを? mixiでキャンディさんの日記につけた私のコメントを見て、こっちのページへ見に来てくださって、見つけたのだとか。いやいやどうも、知らない人からセーラー服姿が知られているというのは、ちょっと驚きですな。

「え? 目覚めてしまいましたか?」とキャンディさん。はいというのもおこがましいような気がして、「あ、いや、まあ、たわむれに」。「そのたわむれが危険なんですよ」。この道には、戻る道はあるのかと聞いてみれば、はっきり「ない」という答え。ありがとうございます。おかげさまで迷いが吹っ切れました。精進しますです。ブースは安達加工所。
< http://adachi-kakoujyo.com/
>

......という具合にいろんな方々にお会いすることができて、幸せ感いっぱい。やはり、作ったものが何かしらあるのであれば、迷わず怯まず、出展してみるに限る。出展者という立場で来場者を眺めてみるのも、なかなかおもしろい経験で。どの写真が売れ行きがいいかは、まったく予想がつかなかった。一番売れたのと、一枚も売れなかったのと、被写体は一緒なんだけど。売れなかったほうだって、自分としては、出来のいいほうだと思ってたのに。

午後には睡魔に屈し、パイプ椅子に腰掛けたまま、ついうとうとと。ふと顔を上げると、目の前に人がいっぱい。人形や写真をじっくり見ている。もしかして起きてるときは、あたりを睥睨する私の姿が恐くて近づいて来られなかったのか? 果報は寝て待て、ということか。

非常に多くの方々に写真を見ていただけた。お褒めの言葉をたくさん頂戴した。楽しく言葉を交し合うことができた。イベント終了が近づいてきたころ、熱い思いのうちに、迷わず次回参加を決めた。

【GrowHair】GrowHair@yahoo.co.jp

前々回、写真撮影のロケーション探しのことを書いたが、その後もこつこつと継続中。さまざまな趣きのある場所を見て回るのは楽しいけど、撮影までなかなかすんなりとは事が運ばず、根気が試される。産業遺産探訪倶楽部「首都圏歴史を巡る近代化遺産ベストガイド」(メイツ出版、2008/09)は非常に参考になるが、ここに載ってるようなメジャーどころは、撮影許可取るのが大変。

横浜山手地区に7つほどある洋館は、明治末期から昭和初期にかけて建てられたもので、近代化の香りに満ち満ちて、ハイカラ気分に浸らせてくれる。けど、オブジェ持込み撮影には市の許可が必要で、しかも平日午前中の一時間以内に限定されてる。見たい人、撮りたい人がたくさんいる中で、調整してこうなったわけだから文句は言えないけれど、一時間じゃ無理。大正時代の建物で、屋内撮影の許可申請に実印と印鑑証明が要るなんてところもあり。なんのなんの、実印作って、印鑑証明発行してもらったさ。結婚にも離婚にも要らなかったもんが、意外なとこで要るもんだ。

埼玉県川口市に今年9月にオープンしたばかりの撮影用スタジオ"OKS COMPANY"。がっしりした巨大工場跡あり、傷み放題荒れ放題の工場跡あり、洋館あり、レンガ造りの小さな建物あり、錆び錆びの焼却炉あり。すげーや。童心に返って遊べそう。11月3日(火・祝)にコスプレイベントがあった模様。11月22日(日)、12月13日(日)にも予定あり。ここ、人気出そう。「廃墟」、「洋館」のキーワードにぴくっと反応する人、きっと多いぞ。けど、個人で借りるには、ちとお値段張りすぎ。この種のスタジオの相場からすりゃ決して高くはないが。
< http://www.oks-j.com/
>

12月に銀座の「Gallery 156」にて人形作家10人展を開く予定。実はそのための準備でロケハンしているわけで。このコラムのネタも、今後しばらくは、思索的なのよりも行動的なのが多くなりそう。うーん、あんまりオタクっぽくないか。
< http://yahiro.genin.jp/rougetsu.html
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