つはモノどもがユメのあと[10]mono09:ウイリアムズご用達──「CANON BJ-10v Custom」
── Rey.Hori ──

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筆者がこれまでコンピュータ周りで買い込んだ製品のうち、明らかに「これは失敗した」とか「手を焼いてばかりで困る」とか「アッと言う間に故障した」といったものはとても少ない。負け惜しみ成分を若干含有しているかもしれないが、マシン本体をはじめとしてどれも一定以上の満足を得つつ使って来た。比較的ラッキーな道を歩んで来たと言える。

そんな中にあって「とても満足した」ことの少ないのがプリンタだ。現在使用中の某モデルは買った当初からマルチフィードを多発するなど調子が悪く、筐体を開けて動作させてみたところ、紙送り系のレバー状部品を引き戻すスプリングが一つ欠損していた疑いが濃い。そこでその箇所を輪ゴム(!)で引っ張ってゴマカしつつ使い続けている。以来筐体はずっと開けっぱなしだ。

色調整方面も何故か設定がズレたりするなど悪戦苦闘の連続で、あまり良い印象がない。そろそろ消耗品の入手に心細い感じが漂う古いモデルなので、そう遠くないうちに買い替えることになりそうだが、現在使っているものは本連載で取り上げるような思いのこもったモノにはならずに資源ゴミ化する公算が大である。......なんて書くとヘソを曲げて、またしても悪戦苦闘させられるかもだが。



そんな中にあって、モノクロプリンタであるにも関わらずとても気に入っていた製品がある。どれぐらい気に入っているかというと、壊れたわけではないので、何とか今のマシンに接続して復活できないかといまだに真剣に考えるほどだ。消耗品供給の心細さは上に書いた現役某モデルよりずっと切迫しているのだが、それでも何とか使えるようにしたいのだ。今回のモノはインクジェットプリンタとしては筆者が初めて買ったCANONのBJ-10v Customである。

(CANONの名誉のために、と書くとヒントが大き過ぎるので、えーと何て書けばいいか、上記の悪印象の現役プリンタはCANON製であるともそうではないとも、敢えて書かないでおくこととする)

ネット上の資料によればBJ-10vは1990年10月発売とあるが、筆者が買ったのは発売からそれほど後ではなかったと思う。正確な記憶はないが恐らく91年の半ばぐらいだろうか。

< http://www.dgcr.com/kiji/RH/mono09.html
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いわゆるA4ファイルサイズの本体はフタを閉じると角丸の直方体で、非常にスッキリした外観になる。ノートPCのように水平に置いてフタを開くとプリントヘッドの駆動系が見えるので、現在の感覚だとその状態で使えるように思うかもしれないが、さにあらず。BJ-10vは筐体を立てて使うのだ。

筐体背部に90度回して畳める平らな脚があるので、これを回して引き出すことで縦置きでも安定させられる。用紙は筐体を貫通するように底部から正面側へ通る仕掛けなのだ。

< http://www.dgcr.com/kiji/RH/mono09.html#p2
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< http://www.dgcr.com/kiji/RH/mono09.html#p3
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本体だけだと手挿し給紙なので、複数枚の印刷を便利に行うためには別売のシートフィーダが必要だった。立てた状態の筐体の底面側に取り付けて使うもので、事実上必須オプションだが、これがオフホワイトの本体とは全くマッチしないグレーの筐体な上、いかにも機能丸出しの不細工なデザインで、外観的にはかなり不満だったのを覚えている。捨てていないハズだが、本稿を書いている時点では行方不明と化してしまっている。BJ-10vにはグレー筐体のモデルもあるので、そちらになら少しはマッチしたのかもしれない。

プリントヘッドはインクカートリッジとプリントヘッドが一体化した現在のインクジェットプリンタにも通じる構造で、CANONではこれを「バブルジェット」と呼んでいた。モデル名の「BJ」はこの略称の意味でもあろう。ノートPC状に本機を置き、フタ状の用紙ガイドを開いてから上面手前のカバーを持ち上げるように開くと、そのプリントヘッドと駆動部、それにこの時代の周辺機器には必ず付いていた設定用のディップスイッチが現れる。

< http://www.dgcr.com/kiji/RH/mono09.html#p4
>

ディップスイッチも懐かしい気がするが、昨今コストカットの著しいこの手の機器にも関わらず、プリントヘッドの往復駆動がタイミングベルトではなく、ピカピカの金属製送りネジで行う構造なのが感動だ。恐らく本機の部品では最も製造単価の高いパーツではないかとさえ思う。

性能面では、当時の個人で買えるプリンタとして、モノクロとは言え何より360dpiの解像度は出色で、筆者は当初キューハチ、後にはMacからのプリントアウトにとても感激した覚えがある。

最近ではもちろんプリンタの実解像度も上がったわけだが、そもそもモノクロだけのプリンタに選択肢が殆どない。筆者の場合、ちょっとした打ち合わせ資料、請求書や送り状などはモノクロで十分だし、360dpiの解像度があれば事足りる。使用頻度はそれほど高くないので、感光ドラム、現像剤やトナーといった消耗品の不使用による劣化を気にしなくてはいけない電子写真式プリンタ(いわゆる「レーザプリンタ」ね)には不安があるのだ(そのレーザプリンタにしたって、小さなモノクロ専用機がふと気付いてみればものすごく少ない)。

かつては標準だったセントロニクス式のパラレルインタフェース(って言葉を久々に書いたなー)の本機だが、歴代のMacに接続するにも幾つか変換インタフェースを買い込んだ記憶がある。今は自力で本格的な実験調査をやっている時間がないのだが、このBJ-10vを何とか現在の制作環境に復活させる手段はないものか。理想的にはUSB辺りにインタフェースを変換して一発で動かしてくれる、ような手段があれば良いのになあ。

故障して寿命を終えたわけではない。筆者の周囲に多数あるモノの中でも(前回取り上げたPowerMac G4とは別の意味で)最も「復活させたい願望」の強いモノなのである。

【Rey.Hori/イラストレータ】 reyhori@yk.rim.or.jp

本文の続きみたいになりますが、今回のモノBJ-10vのTVCFに当時のF1ウイリアムズチームのマシン(多分FW-13だったか)が登場していたのを覚えています。その頃のウイリアムズの大口スポンサーがCANONで、マシンのサイドポンツーンやリアウイングに大きくロゴが描かれていました。TVCFではピットスタッフ達がBJ-10vを持ち歩いたりデータをプリントするシーンが描かれていたと思います。この頃から97年まで、ウイリアムズは最速マシンを有するチームとして黄金時代を築きます(CANONの大口スポンサードは93年まで。翌94年、ウイリアムズのマシンでセナがイモラに散ったのでした)。

時は流れて今年のF1。ホンダの撤退を受けて新生したブラウンチームが、前半戦におとぎ話のような連戦連勝の快進撃を見せて、遂にチャンピオンまで登り詰めたわけですが、9月末のシンガポールGP時にそのブラウンのマシンのサイドポンツーンに久々のCANONロゴが復活。

ただしこれは日本の本社ではなくて、現地法人が一戦だけのスポンサーとなったようなのですが、CANONロゴを付けたかつてのウイリアムズの黄金時代を知っている身には何だか懐かしかったのでありました。いつかまた大口のスポンサーに返り咲かないかなあ。......ちなみにCANONは「キヤノン」。「キャノン」という表記をよく見かけますが、誤表記ですので念のため。有名トリビアでした。

3DCGイラストとFlashオーサリング/スクリプティングを中心にお仕事をお請けしてます。
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