ショート・ストーリーのKUNI[70]シーズン/ヤマシタクニコ

投稿:  著者:  読了時間:7分(本文:約3,000文字)


タケシ「おかあちゃん、いてるかー」
 母 「ああ、タケシちゃんか。あんたいつも忙しいときにくるなあ」
タケシ「どこが忙しいねんな。こたつに入ってテレビ見ながらミカン食べてるだけやん」
 母 「いっぺんに3つもやってるやないの。おまけに、今はあんたとしゃべってるし、4つのことをいっぺんにしよう思たらたいへんやわ。あー忙し」

タケシ「そんなもん普通やろ。それより今日はな、ぼくが発明したもん持ってきてん」
 母 「またかいな」
タケシ「今日のはすごいで。宇宙人捕獲機」
 母 「宇宙人? そんなもんいてるん?」

タケシ「うん。実はぼくには尊敬できる先輩がおって、永年宇宙人の研究をしてるんやけど、その先輩によると、今は宇宙人捕獲に最適のシーズンらしいわ」
 母 「またあやしげな先輩やな。シーズンて、宇宙人はズワイガニやマッタケや牡蠣みたいなもんかいな」

タケシ「先輩によると、宇宙人というのは、ぼくら地球人にはその姿を感じ取れることができない存在やねん。つまり、全然違う世界の生き物やし、ぼくら人間の目が知覚できるような姿形をしてないらしい」
 母 「ふーん」
タケシ「しやけど、感じられへんだけで、しょっちゅう宇宙人は来てるらしいねん。で、ぼくら地球人にはわからんのをええことに、いろいろいたずらをするんやて。たとえばランプの明かりが急に消えたとか、何もしてないのに棚からものが落ちてきたとか。昔からそういうことはよくあって、そういう不思議な現象は『妖精のいたずら』とか『座敷童のせい』とかいろいろ言われてきた。実は宇宙人の仕業らしいのや」



 母 「ああ、なるほどなあ。そういえば財布に一万円札が入ってたのにいつのまにかなくなってたとか、去年入ったスカートが今年は入らんとか、あれは宇宙人のせいやったんや」
タケシ「それはどうか知らんけど、浅田真央がこけてグランプリファイナルに出られへんようなったんは宇宙人のいたずらやろなあ」
 母 「それは知らんけど、ニコニコスーパーの冷凍食品半額デーが『4割引デー』になったのは宇宙人のしわざやな」
タケシ「それは知らんけど、千代大海が大関陥落したんは、どう考えても宇宙人のしわざ」
 母 「どっちが正しいか勝負しょうか」
タケシ「なんでやねん」

 母 「で、なんで今がシーズンやのん。宇宙人捕獲の」
タケシ「そこやがな。そういう不思議な現象はいつ起きるか、先輩が統計をとってまとめた。すると、春と秋に集中してることがわかった。いまはそろそろ秋の終わりやけど、まだいけると思う」
 母 「なんで春と秋やのん」
タケシ「そこやがな。春と秋は修学旅行のシーズンやろ」
 母 「うん」
タケシ「宇宙人も地球に修学旅行に来るんや」
 母 「...ごめん。私やっぱりテレビ見とくわ」
タケシ「あー、もう」

 母 「えっと、今日はフィギュアスケートないんかな。ライアーゲームは...ああ忙しい忙しい。ほんまに、こたつ入ってテレビ見てミカン食べて卵あたためてたら、もう忙しいて」
タケシ「何の卵あたためるねん。ほんまやねん。修学旅行にくるねんって、宇宙人が。つまり人間でゆうたらまだ小六か中三とかの子ども宇宙人がいっぱい来るんや」
 母 「はいはい」
タケシ「それで、自由時間になったらその子ども宇宙人がどっとあっちこっちに行くわけや。いたずら盛りやし、その反面、あんまりものを知らんやろ。同じ宇宙人でも捕まえやすい」
 母 「はいはい」

タケシ「おかあちゃん、信じてないやろ」
 母 「信じてるがな。かわいいタケシちゃんの言うことやもん...信じたらええんやろ」
タケシ「なげやりやん」
 母 「しやけど、修学旅行やろ」
タケシ「うん」

 母 「それやったらやっぱり観光地に行くんちゃうの。小学校やったらお伊勢さんとか志摩スペイン村とか行っておみやげに赤福。中学校は東京に行って国会議事堂見学、二重橋の前で記念撮影して銀座をバスでまわって」
タケシ「古すぎや。なんで銀座をバスでまわるねん」
 母 「いまふうなところで奈良ドリームランドとか倉敷チボリ」
タケシ「もうどっちもなくなったわ」
 母 「美空ひばり記念館とか」

タケシ「宇宙人は美空ひばりに興味ないと思うで。いや、ちゃうねん、それは地球人の感覚やんか。宇宙人にとっての興味のあるスポットは、必ずしもぼくらにとっての観光地のラインナップと一致せえへんやん。普通のありきたりの風景が興味津々かもしれん」
 母 「なんでサランラップが出てくるのか知らんけど」
タケシ「ラインナップや」

 母 「ほな、こんななんの変哲もない団地にも来る可能性があるんかいな」
タケシ「そらそうや。地球人のなにげない、あるがままの姿、日常生活が興味をひくかもしれんやん。ぼくらかて、動物園に行ったらカバやイボイノシシの、ただそのままの様子がおもしろいと思って見るやろ。なにもカバやイボイノシシがよそ行きの服着てるとこ見たいと思って行くわけちゃうやん」
 母 「私、カバやイボイノシシと関係ないけど」

タケシ「わかってるよ。とにかくそういうことやから、この捕獲機を仕掛けておいてほしいねん。協力してほしいねん。日本の科学の発展のためや」
 母 「うーん...協力してあげたいのは山々やけど、私も忙しいてなあ...こたつ入ってテレビ見てミカン食べて卵あたためながら事業仕分けして...」
タケシ「だんだん増えてるやないか。なんで事業仕分けやねん」
 母 「日経平均株価も気になるし...」

タケシ「おかあちゃんが気にせんでもええって。ほら、これを組み立てて、宇宙人が出そうなとこに仕掛けとくねん。簡単やろ」
 母 「これが? なんやゴキブリほいほいに見えるけど」
タケシ「仕組みは似てるけどな。先輩にいろいろ指導してもらって、宇宙人が好みそうなにおいのする物質をセットしてある」
 母 「物質て...これ、『のりたま』と似てるような...」
タケシ「気のせいや。ほな、また来るよってに」

一週間後。

タケシ「おかあちゃん、いてるかー」
 母 「ああ、タケシちゃんか。あんたいつも忙しいときにくるなあ。私がこたつ入ってテレビ見ながらミカン食べて卵あたためながら事業仕分けしながらお鍋の用意してる最中に」
タケシ「ああ、お鍋かいな。ええときに来たなあ。おなか減ってぺこぺこや」
 母 「そらよかった。そろそろ煮えてくるわ。遠慮せんと食べて」

タケシ「ありがと。ぼく、何が好きゆうて鍋物ほど好きなもんは...おかあちゃん、これ、白菜と豆腐としめじだけ? なんか肉とか魚とか入ってないん?」
 母 「そうやんか。あんたの捕獲機で宇宙人がとれたら宇宙人鍋しよ思てたんやけど、全然とれへんねん」
タケシ「ええっ」

 母 「今日あたり、宇宙人鍋に宇宙人の酢の物に宇宙人のシソ巻き上げにしよ思てたんやけどなあ」
タケシ「わが親ながらえげつないこというな...いや、今シーズンはどうも無理みたいや」
 母 「なんでやのん」
タケシ「インフルエンザで宇宙人も修学旅行中止らしい」

【ヤマシタクニコ】koo@midtan.net
みっどないと MIDNIGHT短編小説倶楽部
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by G-Tools , 2009/11/26