わが逃走[57]展覧会開催中の巻
── 齋藤 浩 ──

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みなさん、コンニチハ。
12月19日(土)まで、六本木ヒルズのご近所のギャラリーJAGDA TOKYOにて、デザイナーの門嶋隆裕氏と展覧会をやってます。
< http://www.jagda.org/contents/jagdatokyo/
>

展覧会のタイトルは「12」。
1から12の数字をモチーフにポスターを作る! というルールのもと、奇数対偶数のグラフィックなバトルをご覧にいれます。ちなみに齋藤が奇数、門島が偶数。数字を題材としたポスターという条件以外はルールなし、義理なし、しがらみなしで、情け無用のスキカッテグラフィックの共演。もちろん、入場無料!

てな訳で12月15日(火)から絶賛公開中な訳だが、我ながらすばらしい展示です。実は月曜日にギャラリーで初めて門嶋作品を見たのですが、まさに対極。そう来たかコノヤロー!って感じです。繊細かつ知的なグラフィックは、私のダメなところを見透かされているようでとてもクヤシイ。モノトーンで冷静に提示される、緊張感あふれる謎解きグラフィック。これらが齋藤の『リッタイポ』と交互に12まで続いてるさまは壮観。こりゃあ、見に来るしかないだろ。

で、今日は見に来てくださる方のためにオレの作品の解説を行う。ノーギャラで書いてんだから、それくらいなことをしても罰は当たらないだろう。なお、作品の画像はあえて載せません。飢餓状態をあおって見に来てもらおうという魂胆。



【1】
これがいちばん「わからない...」との意見が多数。この作品の世界に入り込んで、そのまま視点を下げていくとほら、見えてくるでしょ? という訳で、漢字の「壱」という字を巨大建造物に見立てている。

以前『わが逃走』でも書いたが、6月に造船所を見学して、その巨大な世界に圧倒されたのでした。そのときのテンションが幸いまだ続いていたのをいいことに、じりじりと描いていきました。

【3】
3の形をした蒸気機関車。以前も文字と機関車を無理矢理融合したものを発表しているが、今回のものがいちばん良いような気がする。ドイツの流線型蒸気機関車05型をイメージして制作。

正面のなだらかなアールと、トンガリ部のエッジとの対比が絶妙と自画自賛。高校時代からの友人・現在は版画家のばばちゃん(仮名)は、奥に見える空の紫が良いと言ってくれた。天井の梁の表現も気に入っている。

【5】
今回の最高傑作。ひょっとしたらリッタイポ史上3本の指に数えられるほどの名作になるかもしれない。初めて明朝体のリッタイポ化に挑戦し、かなりイイ感じに仕上がった。

建機に見立てた漢字の「五」。これから建設現場を見かけたら、あらゆるものが文字に見えてくるかもしれない。

【7】
鉄骨に見立てたローマ数字の「VII」。これはかなり"そのまんま"な作品だが、1920年代のグラフィック作品に対するオマージュとでもいうべきか。

手前のトラス構造体にかかる影のために、フレーム外にもうひとつのトラスがある。他の作品についてもそうだが、リッタイポは基本的に二次元の印刷物として発表することを前提としている。なので、映画のために組んだセットと同じで、フレームからはずれる場所は作らない。ハリボテと同じなのだ。

【9】
金持ちの豪邸の庭にあるプールに見立てた「9」。昨年末、ウィリアム・ギブスンの『スプーク・カントリー』の表紙を描いた。安藤建築風の豪邸をイメージし、清潔すぎる空間から狂気みたいなものを感じさせたい、とか考えていた。

今回の「9」は、そこから狂気だけを取り除いたとでも言うべきか。実際こんな感じの建築があったらイイと思う。どなたか作りませんか? 建築家は紹介しますから。

【11】
レーニンの演説台と昔の団地にあった給水塔をミックスして、ローマ数字の「XI」。苦労して作ったのだが、「五」ほどの"突き抜け感"がなかったなあ。よくリッタイポの世界に人物は入れないのかと聞かれるが、はい、入れたこともあります。でも、そうすると大抵つまらなくなる。多くを語りすぎてしまうのだ。その空間に誰もいない不思議感から、もし自分がこの世界に迷い込んだら...などと想像していただく方がこのシリーズの楽しみ方としてアリだと思う。

以上、出品作品の解説でした。

なお、会場では今回の展示にあわせて制作した冊子「リッタイポの10年」をプレゼントしています。フルカラー28ページ。うっかり500部も刷ってしまったため、展覧会終了後に事務所がダンボールの山になるかもしれないという危機感を覚える今日この頃です。

エコロジーの観点からも、みなさまにご来場いただき冊子をお持ち帰りいただきたい。たのむ。なお、最終日12月19日(土)は終日ギャラリーにいる予定なので、サインが欲しい方は遠慮なく言ってくれたまえ。今から練習しておこう。

あ、それとウチのWebサイトがようやくまとまりつつあります。先日暫定オープンしました。"暫定"がいつ取れるのかは未定。今回の作品もこちらで順次UPしていく予定です。ではまたー。
< http://tongpoographics.jp
>

【さいとう・ひろし】saito@tongpoographics.jp

1969年生まれ。小学生のときYMOの音楽に衝撃をうけ、音楽で彼らを超えられないと悟り、デザイナーをめざす。1999年tong-poo graphics設立。グラフィックデザイナーとして、地道に仕事を続けています。