[2771] 近づきつつある未来、より先にある未来

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《Webサイトは儚い。あっという間に消えていく》

■電網悠語:日々の想い[144]
 近づきつつある未来、より先にある未来
 三井英樹

■ショート・ストーリーのKUNI[72]
 猿山さん
 ヤマシタクニコ

■?×?× CrossOver Talk[5]
 容量の重いデータ、どうやってやりとりしていますか?
 ──MOからDropBoxまで、新旧様々なデータのやりとりを見直してみる
 杏珠



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■電網悠語:日々の想い[144]
近づきつつある未来、より先にある未来

三井英樹
< https://bn.dgcr.com/archives/20100114140300.html
>
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Kindleの広告を見ていて、大学の下宿生活を思い出しつつ、諸々夢想する。

   Amazon.com: Kindle DX Wireless Reading Device : Kindle Store
   < http://www.amazon.com/dp/B0015TG12Q
>

押入れと玄関兼キッチンを加えて六畳一間。生活空間はつまり四畳半。真ん中に座れば全方位どこにでも手が届く自分の空間。大学時代は、ついにそこから離れなかった。窓から大家さんの庭が見える二階の一番奥の部屋。たまにぽつんと空く休日に、広くはないけれど、季節の移ろいをゆったりと現すその庭を、ぼんやりと見つめていた。閑静な住宅街のほんの少しだけ奥まったところ。春にはホーホケキョと声がし、冬の帰宅時には下宿につながる最後の路地の真上に、オリオン座が輝いていた。

家を出たいという想いは昔から強くあった。家は離れていく起点としてしか考えていなかった。未だに還っていく場所という意識もない。中学のときも、高校のときも、家を出ることを夢見ていた。勇気がなくて大学までずれ込んでしまったけれど、初めて得た自由という意識があり、そこにいるだけで幸せを感じた。合法的な家出。母もそういって後押ししてくれた。だからパラサイト系若者の気持ちがさっぱり分からない。

そんな我が城の最大の問題は、本棚だった。決して読書家ではなかったけれど、大学生ともなれば、日毎に何か書籍が増える傾向が強まった。貧乏学生だったので、購入には自然と歯止めがかかるけれど、情報への飢え渇きは金がないことでは埋められない。安価に本を入手する方法はそれなりにあった。更に元来の漫画好きである。かさばる書籍が溜まっていく。メモリが小さい分、脳内蓄積は諦めていたので、定期的に整理するなり色々と工夫しながら生き延びた。

それで、Kindleである。あの板一枚を持ち歩けば、自分の蔵書を持ち歩けるというのだ。それも全て。凄い時代になったものだ。紙というまさに手に馴染んだ質感からサヨナラするのは悲しいけれど、それを相殺して余りある利便性を得られる。

Kindleのようなデバイスが普通になった世を想像してみる。四畳半の下宿には本棚がないかもしれない(そもそも四畳半の下宿がないのかもしれないが)。寝具とパソコンとネットと自炊セットと衣類にKindleがあればよい。Kindle片手にコインランドリーに向かい、小説も学校の宿題も漫画も読める。情報を入力する、情報を作り出す、編集するというモードを捨て、自分の脳内に注入することだけに集中するモードを切り分けて作り出せそうな気もする。そして、それはそれでハッピーな予感がする。書きたくなれば、パソコンを開けばよい。

紙の俯瞰性(一覧性)は現段階では未だ越せそうにないけれど、それでも想定内のハードルだろう。エンジニアとデザイナの狭間に育った人材が、軽々とその壁も越えていくのを期待したい。大きな画面や折りたたみ式の画面が出てくるかもしれない。本に相対する姿勢が各人で異なるように、様々な個性に合わせたデバイスが出てくる日も遠くはないだろう。これまでのWebで培ってきたアクセシビリティの知識も総動員して、遠視対応も期待したいところだ。

会議や授業の場でも色々と活躍しそうだ。毎回印刷物を用意する必要がなくなる。参加者全員がKindleのようなデバイスを持ち、情報を検証し、決断を下す。現時点では、会議の場ですら、情報に接する状況は余り良いものではない。紙で配られた資料は、語り手がどこを説明しているのかすぐに迷子になるし、自分のメモを他人と共有するのも一手間かかる。それらが解決できるかもしれない。デバイス間で通信ができ、ネットにアクセスできる。つまらないプレゼン自体を補完することはできないが、会議のスタイル自体をヴァージョンアップする気もする。少なくとも、束になった書類を持ち歩くことなく、同じ情報を参照しつつ、議論が進められるのは気持ち良さそうだ。

コンテンツというか情報に対する感覚も変わっていくのだろう。ビデオ、レーザディスク、DVD、Blu-ray。画質は異なるにせよ、同じコンテンツに何度も投資してきた人は多いはずだ。しかも、デバイスの維持が困難で、今ではせっかく購入したのに見れないソフトも少なくないはずだ。我家にも観るすべのないレーザディスクやベータが、数本捨てられずに残っている。復元技術の発達のおかげで、デジタルリマスター、リストレーションなどデータフォーマットの違いもある。今度こそ生涯持ちえるフォーマットを、画質の差が根本的な差になる映像は未だ先になるとしても、先ずは書籍という分野で確立させて欲しい。

コンテンツに対する意識変革は、既に本をPDF化してiPhoneなどで読む流れとしては起こっている。断裁してスキャンして持ち運ぶ。「本」という形態に対するリスペクトは気持ちよいくらい微塵もない。Amazonでスキャナを探すと裁断機が「この商品を買った人はこんな商品も買っています」の欄に並ぶ。実は司書の子供でもある私には何とも言えない気分になる。

   橋本商会 scansnapと裁断機を買って本を電子化しまくる
   < http://shokai.org/blog/archives/4999
>

出来上がったPDFがどのような生涯を終えるのかも興味深い。流通経路に乗せてしまえるところに、危うさを感じる。必要があるからこそ、人は工夫する。工夫するほどの熱意のあるところには市場が横たわっている。コンテンツのデジタル化は待ったなしのところに来ている。


毎日消費する紙情報にも目を向けたい。新聞という分野での情報の共有の仕方は、文化というレベルで浸透していると思う。電車の中での新聞の開き方(たたみ方というべきか)を見れば、その人が社会人何年生かが分かるのは今でも通用するようにも思う。実年数ではないかもしれないが、配慮のレベルは一目瞭然だ。

大きな紙面だからこそ、工夫する必要があり、工夫したが故に定着した文化。そうした読み手が重ねてきた努力の上に、アグラをかいてしまった新聞というメディア。それをデバイス化するプロセス。一種の標準化のプロセスと捉えて良いのだろうと最近は思う。標準化されたところでコンテンツ自体の競争を経て、シェイプアップとレベルアップをする時期に来ているように思う。

実は我家は2009年でA新聞の購読を止めた。約40年間慣れ親しんだ文化を捨てたという意識を持って止めた。引き金は、ふざけたコラムひとつだ。詳細は書かないけれど、あれほどの非難の中でも反省のはの字も見えない編集方針に嫌気がさした。執筆者の交代を経ても、本質的な違和感が変わらないところで絶望した。無駄だと分かっていながら、購入勧誘のにぃちゃんにクレームを上まで上げろと来るたびに品質劣化を訴えた。そして購読料の一部でも、そうした人たちに流れるのを阻止すべきだと結論に達した。おかげで朝のトイレが手持ち無沙汰でかなわない。

そして意外なほどに困っていない。淋しいだけで困っていない。そして、淋しがっているほど暇ではないので、事実上の障害はトイレの中だけとも言える。そして、その代替を果たしているのは、ケータイ系である。情報の窓口は、確実に紙から液晶に移り始めている。Kindle系への期待は高まるばかりだ。


Webサイトは、特殊な技術の特化した技術戦というレベルから、総合的な戦いに戦場を移していると認識している。スペシャルコンテンツという場はありつつも、会社の表看板に成長しつつある窓口である。様々な角度から見た完成度を競うようになるのは、規定路線とも想定内とも言えるものだろう。良いものをより良く、悪いものを限りなく排除していく姿勢は、普通の成長プロセスだ。

完成度の高そうなKindle(の広告)を見ていて、こうしたデバイスの前にWebがあってよかったと思う。不毛なブラウザ戦争や、アクセシビリティ論争や、その他諸々のWeb業界の葛藤が、少なくとも間接的には織り込まれているような匂いがする。Kindleの開発には全く関与していないが、あの苦労が無駄ではなかったと思えてくる。

Webはこんな感じで、まだまだ様々なチャレンジの露払い的な立ち位置を求められるのだろうなぁと思っている。それだからこそ面白い。

   露払い Wikipedia
   < http://ja.wikipedia.org/wiki/%E9%9C%B2%E6%89%95%E3%81%84
>

すべての企業がWebサイトを持っていないところから、全企業Web化の時代を経て、そして全企業Webサイト有りの状態から、そこからの突出を狙うWebサイトの時代へ。Webサイトへの取組みは、とどまってはいない。むしろ、セキュリティやライブラリの共有化など、より見えないところでの切磋琢磨が高レベル化している。そして、バネが弾力(?)を蓄積し切ったところではじけるように、また一段上のステージに昇って行くのだろう。その現場にいられることは光栄だ。

【みつい・ひでき】感想などはmit_dgcr(a)yahoo.co.jpまで
・あぁ書いてて益々欲しくなった来た
・それにしても、日本語が最初のバナーだけというのは余りに不親切ですよ、Amazonさん
・下宿時代に買った小さな本棚は、20数年を経て未だに我家にあり、息子の部屋で彼の玩具を飾っている。貧乏性が故に捨てられずに、引越しのたびに迷うけれど、手放さないでここまで来た。ともに過ごした時間を刻んだモノは他にもある。それに比べてWebサイトは儚い。あっという間に消えていく。どこまで遡れるか。Webが定着化するほどに重くのしかかる課題だ。
・見知らぬ名前で年賀状が届く。おぉ、ご結婚おめでとうございます!
・mitmix< * http://www.mitmix.net/
>

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■ショート・ストーリーのKUNI[72]
猿山さん

ヤマシタクニコ
< https://bn.dgcr.com/archives/20100114140200.html
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1月4日の夕刻、寅田さんはこたつにほおづえをつき、その日届いた一枚の年賀状を手に、考えるというほどでもなく考えていた。

「あら、あなた。どうしたんですか。そんなスリッパのゴムが切れたような顔をして」
「そういうおまえは妻の道子か。ちょうどいいところに来た。おまえ、私がこの人に年賀状を出したかどうか覚えていないか」
「猿山一郎さん? 毎年来る人ですわね。出したんじゃないんですか」
「出したかなあ」
「出した人の一覧とか、そういうものをとっておかなかったんですか」

「控えは取っておくときもあるが取らないこともあるんだ。今回は忙し過ぎてついさぼってしまった。出したような気もするし、出さなかったような気もするし、意外に出してないような、やっぱり出したような。考えれば考えるほどわからなくなる。だいたい元旦ならともかく、今日はもう4日だ。猿山さんは出さなかったが私の賀状を見て返信としてくれたようでもあるし、単に投函が遅れたようでもある」

「わからないんなら、もう一回出せばいいじゃないですか」
「だぶってたらどうする。いかにも『私はあなたに出したかどうか覚えていません』と言わんばかりじゃないか。猿山さんにしたら気が悪いだろう」
「じゃあ好きにしてくださいよ。だいたい、猿山さんには今まで毎年出してるんじゃなかったんですか」

「そう思うだろ。ところがそうでもないんだ。猿山さんとはかれこれ30年、年賀状のやりとりをしてきた間柄だ。元旦に私が猿山さんの年賀状を見ながらおせちの数の子で一杯やっていたとき、猿山さんも私の賀状を見ながらするめで冷や酒を飲んでいたことだろう。いや、毎年12月の下旬には私は書斎で、猿山さんは四畳半のこたつで、おたがい年賀状書きに精を出していたはずだ」
「うちのどこに書斎があるんですか」

「しかし、まったく会わないでいると、あるときふと、これでいいのだろうかと思うときが訪れるものなのだ。単に自己満足だけで出し続けていたのではないか、あるいは一種の片思い。自分はよくても相手には迷惑だったかもしれぬ。そんなことをあれこれ考え出すと止まらなくなり、忘れもしない平成3年の暮れ。思い切って猿山さんに年賀状を出すのをやめた。右手が勝手に『猿』と書いてしまいそうなところを左手で必死でとめ、出さなかったのだ」
「あら」
「当然、平成4年の元旦に猿山さんからの年賀状が着いたが、返信もしなかった。すると平成5年の元旦には猿山さんからの見慣れた筆跡の年賀状はなかった」
「それでいいんじゃないんですか」

「そう思うだろ。ところがそうなってみると私は寂しくてしかたなかった。猛烈な後悔の念が私を襲い、それは強くなる一方だった。正月気分どころではない。雑煮の餅も5個しか食べられなかった。いつもは8個食べるのに。私はたぶん、猿山さんを傷つけてしまった。よく考えたらあの態度はまるで『私はあなたからの年賀状がくるのがいやでたまらないだ』と言ってるようなものではないか。なんということだ。何の罪もない猿山さんを傷つけて平気か。何様だ、私は。それで平成6年にはまた賀状を出した。しかし、当然というか何というか、元旦に猿山さんからの賀状は来ない。4日ごろにやっと猿山さんからの賀状が来た」

「あなたが書いたのであわてて書いたのでしょうね。よかったじゃないですか」
「そう思うだろ。ところがそうなってみると私はまた後悔した。ああ、猿山さんはやっぱり、もう私には年賀状を出さないつもりだったんだ。私のことなんかもう忘れてあじあじしていたかもしれない」
「それはひょっとして『さばさば』のだじゃれ」

「ところが、元旦に私の年賀状があったので、あわてて返信を出した。余計な気をつかわせてしまった。4日に着く年賀状なんてどうしても『あなたから届いたからしかたなく返事を出しました』という感じになる。誘われたから来たけどほんとはあなたなんかに興味はないのよ、誤解しないでねと言うようなものだ。猿山さんの真意はそうではない。猿山さんはそんなふうに思われるのがどれだけいやだっただろう。ほんとなら元旦に着くよう早めに出しているはずなのに、そうさせなかったのは私だ。まったくなんといういやな人間だろう。自分で自分がいやになる。それで平成7年の年賀状は心を鬼にしてやっぱり出さないことにした。猿山さんのことは忘れることにした」
「え、また出さなかったんですか」

「そしたら平成7年の元旦に、きちんと猿山さんの年賀状がっ」
「あたりまえでしょ」
「年賀状は私を見つめて泣いているようにみえた。私がこうやって元旦にちゃんと来ているのに、ひどい人、ひどい人、と。肩を小刻みにふるわせてすすり泣いているように」
「あなた、病気ですわ」
「それでこらえきれず猿子に返事をだした」
「猿山さんです」

「私の年賀状はおそらく1月5日、ひょっとしたらもっと遅くに着いたかもしれぬ。まるで『ふん、おれは出したくないが、きさまがろくでもない年賀状を書いたもので仕方なく返事を書いたのだ。これでいいのか。こんな年賀状がほしいのか。くれてやるよ』と言ってるようではないか。最低だ。礼儀知らずにもほどがある。私のような人間はどんな仕打ちを受けても仕方がない。酒を浴びるように飲めとか極上にぎりを腹一杯食べろとか宝くじの一等前後賞つきが当たってしまえとか言われても甘んじて受けよう、私こそはそれに値する人間なのだから。そのように反省して、翌平成8年はきちんと、元旦に着くよう出したのだ。すると猿山さんからも元旦に賀状が来た。何年ぶりだ。われわれはひしと抱き合った」
「好きにしてください」

「それ以来、しばらくは毎年きちんと出していた。元旦に40型液晶テレビが正月特番をにぎやかに放送するリビングで私が猿山さんの賀状を見ていた同じ頃、猿山さんは14型テレビデオの鎮座する室内で私の賀状を手にしていたことだろう。平和な正月が戻ったのだ」
「うちにはこわれかけのブラウン管テレビしかありませんけど。でも、それ以来年賀状に関しては問題がなくなったわけですわね。よかったですこと」

「そう思うだろ。ところが、それがまた崩れたのだ。忘れもしない平成14年の暮れ、私はインフルエンザを患った。ひどいインフルエンザだった。おかげで年賀状の制作が遅れてしまい、やっと投函できたのは大みそか。たぶん、配達されたのは1月3日か4日ころだろう。私の年賀状が元旦に来なかったので猿山さんは『そうね、やっぱりそうなのね』と悲しんだにちがいない。それは暖房もない冷え冷えとしたアパートの四畳半。裸電球の灯りの下にうずくまった小さな背中にはこらえようとしてもこらえきれない悲しみがにじみ出ているではないか。私はその背を抱きしめ、それは誤解だと、伝えられるものなら伝えたかった。けれど私に何ができよう。次の年の元旦、猿山さんからの年賀状はなかった。私は」

「いい加減にしてください。なんですか、さっきからおとなしく聞いていたらいい年した大人がうじうじぐちゃぐちゃとねちょねちょと。ああじれったい。うっとうしい。そんなことどうでもいいではないですか。どうせあなたの独り相撲なのよ。猿山さんはなんにも思ってないかもしれません、いえ、思ってないはず。そもそも気にするくらいなら何も考えずに毎年出せば」
「おまえにはわからないのだよ。3年使ったまな板の裏みたいな顔をして。この微妙なかけひきこそが人生なのだ」

「忘れたころにリベンジしないでください。だいたい、猿山さんってどういう関係でしたっけ」
「何をいまさら。猿山さんといえば」
「猿山さんといえば?」
「あれ? 猿山さんって、だれだっただろう?」
「何を言ってるんですか。毎年年賀状を出してるんでしょ」
「そうだよな。待てよ...」

寅田さんは急に立ち上がって隣の部屋に行き、押し入れの奥の方をかきまわし始めた。そこへ電話が鳴った。道子が受話器を取った。
「はい、寅田でございます...ああ、あけましておめでとうございます...え、そうですか、それはどうも...」

寅田さんは押し入れから段ボールの箱を取りだした。その中からひとつの古い年賀状の束を取りだし、一枚一枚めくっては仔細に見始めた。
「おい、たいへんだ!」
「どうしたんですか、あなた」
「これは30年前、猿山さんから来た一番初めの年賀状だが、よく見たら、私あてではない」
「えっ」

「住所の丁目がひとつ違う、別の人にあてられたものだ。牛川五郎左衛門様...聞いたこともない人だ。すると、私は間違って自分のところに届いた年賀状を自分宛だと信じ込み、それ以来30年間、年賀状を出していたのか。道理で猿山さんの顔も声も記憶にないなあと思っていたところだ」

「ええっ、さっきの電話は猿山さんからで『たまたま近くを通りかかったのでこれから伺います』ということだったんですけど。それで『いつもお世話になってます。どうぞお越しください』と言ってしまいましたわ」
「ええっ」

そこでチャイムが鳴った。

【ヤマシタクニコ】koo@midtan.net
みっどないと MIDNIGHT短編小説倶楽部
< http://midtan.net/
>
< http://yamashitakuniko.posterous.com/
>

明けましておめでとうございます。今年もよろしくお願いいたします。年末に立てた2010年の目標のうち「新しいデジカメを買う」を去年のうちに実行してしまいました。LUMIX GF1です。まだ全然使いこなせてませんが、今年は写真ももっともっと楽しみたいと思ってます。時間がますます足りません。

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■?×?× CrossOver Talk[5]
容量の重いデータ、どうやってやりとりしていますか?
──MOからDropBoxまで、新旧様々なデータのやりとりを見直してみる

杏珠
< https://bn.dgcr.com/archives/20100114140100.html
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デジクリ読者の皆さん、こんにちは。studio H.M代表のディレクター/デザイナーの杏珠(あんじゅ)です。先日、デザイナーさんに「最近、MO入稿ってやったことある?」と聞かれ、そういえばここ数年やっていないなぁ......と思いました。CD-RやDVD-Rでのメディア入稿は、2年ほど前まではやっていましたが、現在はインターネット経由でデータを入稿しています。

今回はデジタルデータの入稿方法、その中でも特にインターネット経由でやりとりする際に便利な「オンラインストレージサービス」と「ファイルサーバ」についてお話させていただきます。

さて、もうすっかりお約束になりましたが、皆さんに質問です。容量の大きいデータは、どんな方法で入稿されていますか? 上記のようにMOやCD-Rなどのメディア入稿をされているのでしょうか? もしくはクライアントが契約しているレンタルサーバやオンラインストレージサービスを使っていますか? そしてデザイン作成に必要な写真やテキストデータを、クライアントとはどのような方法でやりとりされているでしょうか? 昔からよく使われている「宅ファイル便」などのファイル転送サービスを使っているのでしょうか? 最近では色々なファイルストレージサービスが出てきていますので、データのやりとりに関して、一緒に見直して見ませんか?

●容量が大きいデータの入稿はどうしていますか?

最近では、実データでの入稿も増えてきて、当事務所で取り扱うゲーム雑誌などでは、Photoshopで加工した画像やIllustratorで作り込んだデータをふんだんに使うレイアウトが多いと、入稿データもやはりそれなりの大きさになります(ちなみに先日受注した雑誌20Pの特集ページだと、入稿時の総容量は2.6GBほどになりました)。そこの編集部とは、編集部サイドで契約しているオンラインストレージサービスを使えるので、ウェブブラウザ経由でデータのやりとりをします。

そういったサービスを使っていないクライアントとのデータのやりとりの場合は、自社の環境を整えていく必要があります。方法としては、以下の3つが考えられると思います。

1◎オンラインストレージサービスを使う

「オンラインストレージサービス」とは、サーバを借りて、データをそこに保存するサービスのことです。インターネットプロバイダーにも用意されていることがあります。もしそれで条件がよさそうであれば契約も簡単ですし、大抵の所はウェブブラウザからの操作、管理もでき、手軽で便利なので、使ってみてはいかがでしょうか。ただし、他のサービスにもいえることなのですが、一定期間(たとえば1か月間)でのデータ転送量の上限が決まっていることが多いので、容量の多いデータのやりとりではそのあたりをご注意下さい。

プロバイダー以外にも、無料・有料でオンラインストレージサービスを行っているところが多数あります。Macユーザーであれば「MacServer」のような、MacのFinderを使っているような感覚で操作ができるサービスもあります。
▽MacServer < http://www.macserver.jp/
>
▽firestorage < http://firestorage.jp/
>

2◎レンタルサーバを使う

自社のウェブサイトやブログなどの設置を考えていて、なおかつデータ容量の大きいものをやりとりしたいということであれば、レンタルサーバを借りるのもひとつの方法です。独自ドメインまで取れるところ、メールアカウントを複数設定することなど、サービスも様々なのでデザイン業務全般で使うのであればこちらをオススメします。ちなみに当事務所では「ロリポップ!レンタルサーバー」を使っています。
▽ロリポップ!レンタルサーバー < http://lolipop.jp/
>

3◎自社ファイルサーバを使う

これは特殊な位置付けになりますが、余ったPCをファイルサーバにしたり、NAS(ネットワーク接続ストレージ)を使って、外部から直接データにアクセスできる環境にする、というものです。手元のサーバ(PC)にデータを残しておいて、クライアントにアクセスしてもらうといった感じになります。過去のデータも引き出したり、素材集などのデータを管理して、いつでも読み出せるようにしたり、やりとりするデータ容量をより多く取り扱えたり、メリットはとても大きいです。

ちなみに当事務所では、現役引退したPowerMac G4にOSX Server(10.4)をインストールして稼働しています。導入した経緯を簡単に説明しますと、営業に行ったデザイン会社の方から、株式会社THINKSNEOの大里さんをご紹介いただいたんです。以前DTP関連雑誌でOSX Serverの記事を書かれていた事を知っていたので、大里さんの事務所に伺った際に、直接その環境を見せていただきました。コスト面からも導入するメリットが高いと感じ、早速設置しました。OSX Serverのインストール、プリンタやセキュリティの設定、契約プロバイダーでの固定IPサービスの契約などを経て、およそ1週間で稼働し始めました。

セッティングが面倒と思われる場合は、Snow Leopard Serverを搭載したMac miniのようなオールインワンパッケージで使えるモデルも出ていますから、これから導入する方は、こちらも検討されてはいかがでしょうか?

サーバにアクセスする場合、クライアントごと、担当者ごと、グループごとにアクセス権を決めることもできますし、出張先やモバイル環境でPCを使っている人は、インターネットが繋がる環境であれば、どこからでもOSX Serverにアクセスできます。OS9からのファイル共有を使った事があれば、設定もさほど難しくないと思いますので、興味のある方はぜひチャレンジしてみて下さい。ちなみに現在、取引先のスキー雑誌編集部や、その他クライアントとのデータのやりとりは当事務所のOSX Serverを利用してもらっています。
▽アップル - Mac OS X Server Snow Leopard < http://www.apple.com/jp/server/macosx/
>
▽Snow Leopard Serverを搭載したMac mini < http://www.apple.com/jp/macmini/server/
>
▽THINKSNEO < http://www.thinksneo.jp/
>

以上、3つの提案をさせていただきました。初めは1番から、必要になれば2番にアップグレードする感じがよろしいかと思います。3番目はストレージサービスというより、仕事環境全般を変えていく感じになりますが、やはり容量を気にせず、どこからでもデータが出し入れできるメリットは大きいので、興味のある方は検討してみてはいかがでしょうか。

●デザイン作業に必要な素材データ、デザインチェックに必要な校正用PDFデータのやりとりはどうしていますか?

テキストデータ、スキャンしたラフ画像や仮配置のInDesign、Illustratorのデータ、写真データ......メールに添付するには容量が大きいデータを先方に送るのは気が引けたり、受信容量オーバーで相手側が受信できるかどうか判断に迷うことはないでしょうか? そんなシチュエーションで、使ってみてはどうかというサービスを3つ紹介します。

1◎「宅ファイル便」などファイル転送サービスを使う

DTP業界では昔からよく使われているファイル転送サービス「宅ファイル便」など、ウェブブラウザから送信したいデータをサーバにアップロードして、そのダウンロード先URLをメールにて相手に知らせるというサービスを使うのが一般的かと思います。昔はアップロード容量が少なかったため、容量の大きいデータの場合、分割して送る事もありましたが、最近では容量も増えてきて、そういった問題も解決されてきているようです。ファイル転送サービスは各社色々と出ています。
▽宅ファイル便 < http://www.filesend.to/
>、
▽データ便 < http://www.datadeliver.net/
>、
▽ファイルオクール < http://www.fileocool.com/
>)

2◎オンラインストレージサービスを使う

入稿データのやりとりと重複しますが、アップロードしたデータが一覧できるということと、アップロードする総容量が大きい場合オンラインストレージサービスを使った方が良いこともあります。Appleが提供している「MobileMe」でも「iDisk」というストレージサービスがあります。データをアップロードした後に、ウェブブラウザ上からダウンロード先URLを先方に知らせたり、ダウンロード可能なファイルのダウンロード期間など設定できます。

3◎所有しているPCのデータと、サーバや複数台のPCと同期ができるオンラインストレージサービスを使う

この種類のサービスは様々な会社から出てきていますが、今回は「Dropbox」というサービスをご紹介します。作業しているPCの特定のフォルダにデータを入れると、サーバに自動的にデータをアップロードしてくれるサービスです。複数台のPCにDropboxのアプリケーションをインストールしておくことで、起動しているすべてのPCのデータが自動的に同期されます。

たとえば会社で作業をしているデータを特定のフォルダに入れておけば、しばらくすると同期がはじまります。同期が終了したあとに帰宅して、自宅のPCを立ち上げると、データの同期が自動的に始まります。しかもiPhoneやDropboxアプリケーションが入っていないPCでも、ウェブブラウザからデータにアクセスでき、使い方は自由です。さらには共同作業をしている人とIDを共有すれば、データが常に同期されるので、作業中のデータも常に最新になります。もし必要なファイルだけ渡したいときは、特定のデータのダウンロード参照URLを作成して相手にメールなどで知らせればOKです。2GBまでなら無料で使えますし、有料で容量をアップグレードすることも可能です。動作環境はWindows、Mac共に使う事ができます。
▽Dropbox < http://www.dropbox.com/
>
▽SugarSync < http://www.sugarsync.com/
>

と、そこそこ容量が大きいデータのやりとり方法を提案させていただきました。今回お話したインターネット経由でのデータのやりとりは、最近では当たり前のようになりつつあると、回りの編集部やデザイナーさんからのお話で感じています。クライアントごとに対応の方法は違ってくると思いますが、仕事の効率化や進行をスムーズにするためにも、ストレージサービスやファイルサーバを使ってみるなど、一度、インターネット経由でのデータのやりとりを見直してみてはいかがでしょうか。

【あんじゅ】ask@happy-montblanc.com
Design × Lifehack × CrossOver Lab
< http://happy-montblanc.com/wordpress/
>

東京都出身。デザイン事務所「studio H.M」代表。エディトリアルを中心にデザイン業を営んでます。愛車のSKYWAVE250にPSPのマップラスナビをつけていろんな所に出没してます。大手コンビニエンスストアと某家電量販店でAV機器(カーナビ、衛星放送機器、テレコ)の販売経験を持つ、妙な経歴の持ち主のディレクター/デザイナー。
「みんなが幸せになることはないか?」をモットーに、日々自分が気になることを追求し、業種、仕事にとどまらず多方面で物事を追求し、答えを求めている天国思考な人物です。最近はモチベーションを上げるためにはどうしたらいいか? という事もよく考えるようになったので自分で勝手に『モチベーションクリエイター』という肩書きを作りました(笑)
機械モノ(PCとかガジェットとか。iPhoneは2台持ち)が大好きで、小学校低学年からの生粋ゲーマー、料理(食べ物)が大好物です。業種、仕事の内容、もちろん仕事でなくとも「ピンっ!」と何かを感じてくれましたら、いつでもコンタクトいただければ嬉しい限りです。

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■編集後記(01/14)

ONE OUTS 1 (ヤングジャンプコミックス)・難解だけどスリリングで面白い「ライアーゲーム」つながりで、全20巻ある甲斐谷忍の野球漫画「ONE OUTS」(ワンナウツ)の5巻までを読んだが、とてつもなくおもしろかった。じつは古い漫画で、1998年から2006年、そして2008年から2009年にビジネスジャンプで連載された。2008年にアニメになっていたとは知らなかった。おなじみスポ根漫画ではない。主人公は超クールな渡久地東亜。沖縄の賭け野球で無敗を誇っていた男で、卓越した制球力と超人的な心理洞察力を持つ。この男が埼京彩珠リカオンズに、1アウト取る毎に+500万円、失点1点につき−5000万円という「ワンナウツ契約」で入団。彼の力で万年Bクラスのザコ球団に奇蹟が起き始める。オーナーは球団経営を銭勘定でしか考えてない男で、次々と渡久地にとって過酷な条件(罠)をつきつける。本当にはめられているのはどっちなのか、シーズンが終わればわかるさ、と受け入れる渡久地。彼が投げるのは荒唐無稽な「魔球」ではない。球種はすべて直球。緩急をつけてコーナーをついてくるが、ときどき恐ろしいほどのなまくら球をど真ん中に投げ込む。しかし打たれない。彼はボールの回転数をコントロールできる。そして人間の心理もコントロールできる。緊張感あふれる心理戦、野球規則を駆使した頭脳戦がじつにおもしろい。より高度な反則をした者が勝つ反則合戦。こんな想像を絶した野球漫画にはおどろくしかない。あと15巻、プロ野球開幕までには読破する。(柴田)
< http://www.amazon.co.jp/exec/obidos/ASIN/4088757998/dgcrcom-22/
>
→アマゾンで見る(レビュー11件)

・Kindle、ScanSnap、新聞について、いろいろ書きたい気持ちが〜。あ、ありがとうございます(汗)/ヤマシタさんのに爆笑。やっぱりいいな〜。/iPhoneケース。杏珠さんのケース歴や、ストラップがつけられることを教えてもらって、スタンドになるものとか、ある程度ひっかかりのあるほうが、不注意な自分向きだなぁ、落とさなくていいなぁと思い始めた。で、目星をつけていたのに、アップルストアで見たSENAの皮製品が気になりはじめた。ブック型というのが合わない気がして、いったん帰宅。SENAの公式サイトで見つけた縦に開くマグネット式のが気に入ったのだが、国内の通販サイトでは高くて、円高な今、直で買うことにした。買ったのはSena Casesのマグネットフリッパー(クロコバーガンディ。赤茶。)で送料が$9.99。20%OFFのクーポンコードを見つけたので、送料分は安くなったよ。Fedexで荷物状況をネットでチェックできた。翌日には関空に届いていたのに、年末年始足止めで結局一週間。/iPhoneの形状を極力妨げないケースだと気にならない、端っこタップが、このケースだとちょっとだけ邪魔。厚みができるのでドックには入らない。角はむきだしなので、傷が入る可能性はあり。購入前にチェック済(レビュー動画はありがたい!)。欲しい方はこのあたりをチェック。手に馴染んで持ちやすいよ〜。マグネットタイプだが、蓋部分にPiTaPaカード(Felicaタイプ)を入れても問題なく使えた。きちきちで入れるのに苦労するが、逆に落ちにくい。クレジットカードを入れると出すのは大変だと思う。音楽を聞きながら駅に着き、改札でiPhoneをタッチしてそのまま乗車。いいよ〜。ベルトにひっかけたりできるクリップもついてるよ。/年末に宝塚歌劇団を卒業した瀬奈じゅんさんが好き。このケースには「SENA」と型押ししてあるので友人受けしそうだ(読みはシーナ)。(hammer.mule)
< http://www.senacases.com/apple/iphone-3g-3gs-cases/wallet-book/
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ブック型。定期入れがついている。フォトギャラリーを見てね
< http://www.senacases.com/apple/iphone-3g-3gs-cases/magnet-flipper/
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マグネット型
< http://www.senacases.com/apple/iphone-3g-3gs-cases/
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他のもいいよ〜。表面カバーが不要なら選択肢は広がる
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動画のレビュー。「I love it!」
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直販だとこの箱に入ってる。赤い布袋つき。