[2777] すべては美しすぎたロミーのせい

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《後悔しない酔っ払いはいない》

■映画と夜と音楽と...[448]
 すべては美しすぎたロミーのせい
 十河 進

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■映画と夜と音楽と...[448]
すべては美しすぎたロミーのせい

十河 進
< http://bn.dgcr.com/archives/20100122140200.html >
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                 〈ルードウィヒ/離愁/夕なぎ/追想〉

●記憶をなくし目覚めた朝の不安と自己嫌悪

また、やってしまった。今朝、気付くと自分のベッドで寝ていたのだが、上はセーターを着たままだった。下は下着一枚である。見渡すと、床にコート、ズボンが脱ぎ散らかしてある。服を剥がしあうのももどかしく、着ているものを投げ捨て、女性とベッドインしたという風情ではない。単に酔っ払って寝てしまったのが、歴然たる痕跡だった。

記憶が...まったくない。あわてて起きあがり、財布とカード入れがあるかと確認したら、床に散っていた。メガネがないと慌てたら、コートの下から出てきた。その他に持っていたものは、兄弟分カルロスにもらった小型のポケットナイフと、息子が昨年の誕生日にプレゼントしてくれた革カバーをした文庫本である。

ナイフと文庫本は見付かったが、文庫本の上部は水を含んだように膨れ上がっている。匂いを嗅いだら、ジンの香りがした。記憶が少し甦った。その記憶が甦ったことで、躯のあちこちが痛んでいる理由を理解した。右の掌が痛い。肘も痛む。左手の指をすりむいていた。

カルロスにもらった、いい香りがするおいしいジンを、駅のホームで転んで割ってしまったのだ。陶器の容器に入っていたジンは、酔ってフラフラして転んだはずみに割れてしまった。その瞬間を思い出した。ジンの香りが、駅のホームに広がった。そのとき、躯のあちこちを痛めたのだろう。

紙袋には、ジンと文庫本と...。しまった、Iさんにもらったカミサンへのお土産も入っていたのだ。あわてて、カミサンの部屋へいき「夕べ、Iさんにもらったお土産、持って帰らなかった?」と聞いた。カミサンは眠そうな顔をして、「知らないわよ。帰ってきて電気をつけてまわって、騒いで...。あれで、よく帰れたわね」と、うんざりしたように言う(気持ちはわかる)。

ふと見ると、リビングのテーブルの隅にパリ土産の袋が置いてある。Iさんの奥さんが暮れにパリにいったときのお土産だった。ホッとしたところで、カルロスにもらったジンを割ってしまったことを、改めて後悔した。何と詫びようか、と落ち込んだ。後悔しない酔っ払いはいない。飲んだ翌日には、自己嫌悪しか存在しない。

とぼとぼと自室に戻ったら、床に線香が散らばっていて、初詣でもらってきた香取神社の木のお札が落ちていた。昨日、カルロスの店に出かける前に自室を掃除し、そのお札をテープで壁に貼り付けていたのだが、そのテープが剥がれ、その下の棚に小さなグラスに差して置いていた線香のストックもろとも床に落ちたのだろう。

ガムテープを両面テープのようにして、お札の裏に貼っていただけなので、それで剥がれたのだと推察できたが、カミサンによると帰宅した僕は、それを見て「陰謀だ、陰謀だ」と騒いだらしい。しかし、そのお札が落ちたということは、僕の身代わりになったのではないかと考え直した。僕が線路に落ちていても不思議ではなかったのだ。

あらためて、無事に帰れたのが奇跡に思える。カルロスの店を出て、青学の前を歩き、紀伊國屋の前を通り過ぎ、きちんと表参道から千代田線に乗り、長い時間を混んだ終電近くの電車で過ごし、きちんと駅で降り、転んで紙袋を落とし、タクシーに乗って自宅の近くで降り、金を払って帰ってきたのだ。一時間半かかるのだ。やはり、奇跡としか思えない。

それから、不安に襲われた。カルロスの店で、きちんと勘定はしたのだろうか。最後に出してくれたジンを「こんなうまいジンはない」と騒ぎ、「じゃあ、一本もってけ」と紙袋に入れてくれたのだが、僕はしつこくねだらなかったか。つまらない自慢をしなかったか。電車の中で人に迷惑かけなかったか。タクシーに金は払ったのか。カミサンにヤバイことを口走らなかったか。

●すべては美しすぎたロミー・シュナイダーのせい

おそらく、すべてはあの美しすぎたロミー・シュナイダーのせいだ。気品にあふれたドイツ生まれの女優である。今朝の朝日新聞の読書欄に「ロミー 映画に愛された女 女優ロミー・シュナイダーの生涯」という日本人が書いた本が紹介されていたが、それを読んで、僕は昨夜のことを思い出し、妙な暗合に驚いた。

もう一昨年のことになるが、日本冒険小説協会の忘年会で、スペイン料理店のオーナーシェフであるカルロスと兄弟盃を交わした。ふたりとも酔っ払ったうえではあったが、以来、「兄貴」「兄弟」と呼び合っている。後で知ったのだが、カルロスはテレビの「チューボーですよ」に巨匠として出演するほどの有名シェフだった。

カルロスの店は「ラ・プラーヤ」という。けっこう値の張る店なので頻繁にいく訳にはいかないのだが、以前からIさんに「一度いきましょう」と言っていて、新年会を兼ねて正月明けの三連休の初日に男ふたりで予約した。当日、離れた席に五人の男女の客がいた。こちらに背を向けていたのは、ある高名な評論家の人だった。

Iさんは、その評論家の著作や週刊誌の連載を読んでいて、その人の顔もよく知っていた。僕は言われて、見覚えがあるなと思った。もちろん名前は知っている。最近の矢作俊彦さんの諸作を高く評価している人だ。僕も何冊か、その人の本は読んだことがある。

店に迷惑をかけてはいけないので、なるべくそちらの席を意識しないようにしていたのだが、宴がたけなわになって、その席で映画談義が始まった。しばらくして「『いそしぎ』は、絶対見なきゃいけません」と言う男性の声がした。その後、「ロミー・シュナイダー」という名前が聞こえた。耳を傾けると「いそしぎ」の主演をロミー・シュナイダーと言っているらしい。

僕はIさんと視線を交わした。Iさんが小さな声で「SHADOW OF YOUR SMILE」を口ずさんだ。「『いそしぎ』は、エリザベス・テイラーです」と、小声で僕が言う。Iさんも小声で「ロミー・シュナイダーには、確かクロード・ソーテ監督の『夕なぎ』という作品があります」と言った。

そこから、こちらの席もロミー・シュナイダーの話になった。Iさんは、音楽、オペラ、歌舞伎、映画、文学、その他の豊富な知識を持っていて、僕もかなわない人(カルロスもそうだ)なのだが、特にロミー・シュナイダーについては思い入れがあるようだ。以前にも、Iさんとはロミー・シュナイダーの話になったことがある。

●ロミー・シュナイダー出演作が立て続けに公開された年

若い頃のロミー・シュナイダーは、アラン・ドロンとの婚約と破局で語られることが多かった。彼女自身が書いた回顧録「恋ひとすじに」を読むと、婚約者アラン・ドロンの「太陽がいっぱい」(1960年)の現場にいく話が出てくる。「太陽がいっぱい」の冒頭、彼女は一瞬だけ顔を出す。いわゆるカメオ出演だ。そのとき、ヴィスコンティ監督に会うことをドロンに強く勧められる。

ドロンは「若者のすべて」(1960年)で、ルキノ・ヴィスコンティ監督と出会い、その才能に心酔していたのだろう。その後、ドロンは「山猫」(1963年)にも出演する。しかし、ロミー・シュナイダーとヴィスコンティ監督の幸福な出会いは、「ルードウィヒ」(1972年)まで待たねばならなかった。

しかし、ロミー・シュナイダーの代表作は、日本では「ルートヴィヒ 神々の黄昏」として1980年にようやく公開され、完全復元版「ルードウィヒ」の公開は1989年まで待たされた。そのときになって、ようやく「ルートヴィヒ」は「ルードウィヒ」として、オリジナル・タイトルの発音に修正されたのだ。濁音が、ひとつずれただけではあるけれど...。

「ルードウィヒ」は、「狂王」と呼ばれたバイエルン国王・ルードウィヒ二世の生涯を描いた壮大な叙事詩で、ロミー・シュナイダーはルードウィヒが愛する従姉エリザバートを演じた。その映画を見たとき、僕はロミー・シュナイダーの美しさと高貴さに惚れ惚れした。彼女は、ヨーロッパを代表する女優になった。

ロミー・シュナイダーは、アラン・ドロンとの婚約解消後、日本公開作が激減する。やがて「太陽が知っている」(1968年)でドロンと共演し、スキャンダラスな話題を提供して復活した。日本でもそれ以前に「夏の夜の10時30分」(1966年)などが公開されていたのだが、話題になったのは「元婚約者との再共演」だった。

復活したロミー・シュナイダーは娘時代のようなアイドル的美人女優ではなく、ミステリアスな雰囲気を持つ大人の演技派女優になっていた。そして1975年の冬、「離愁」(1973年)と僕は出会う。「離愁」については、「愛に関する究極の選択」(「映画がなければ...」第一巻523頁)で書いたけれど、ラストシーンのロミー・シュナイダーは、神々しいまでに美しい。死を覚悟した女の幸福感(!)を、彼女は見事に表現した。

「離愁」が公開された1975年の晩秋、「地獄の貴婦人」(1974年)というロミー・シュナイダー主演作が公開された。ミッシェル・ピコリとの共演なので気にはなったが、題名の凄さに驚いて僕は二の足を踏んだ。結局、「離愁」のロミーを思い浮かべ、そのイメージが崩れることを怖れて見にいかなかった。

1976年2月、イブ・モンタンとの共演作「夕なぎ」(1972年)が公開された。もちろん僕は、美しいロミー・シュナイダーを見るために映画館に出かけた。ロミー・シュナイダーが「ルードウィヒ」と同じ年に出演したのが「夕なぎ」(1972年)だ。パリっ子監督クロード・ソーテは、大人の恋愛を描く名手である。やはり、ロミー・シュナイダーは美しかった。

翌月の3月、今度はロベルト・アンリコ監督の「追想」(1975年)が公開される。「追想」については「美しい思い出が促すもの」(「映画がなければ...」第三巻61頁)で書いたが、美しい妻(ロミー・シュナイダー)の思い出がなければ、成立しない映画だった。殺されたロミー・シュナイダーが美しければ美しいほど、主人公(フィリップ・ノアレ)の悲しみが際立った。

1975年の冬から翌年の春までの一年ほどの間に、日本ではロミー・シュナイダー出演作が4本も集中して公開されたのだ。それは、彼女が34歳から37歳までに出演した作品群だった。彼女は、「花様年華」とも言うべき、30代後半の絶頂期を迎えていた。

しかし、「サン・スーシの女」(1982年)を最後に、彼女のフィルモグラフィは途絶える。その年の5月、ロミー・シュナイダーは自宅のソファで死んでいるのが発見されたのだ。パーティから帰ったままの姿だったという。43歳の短い生涯だった。

●隣席から同じ話題に加わられるほど迷惑なことはない

もちろん、僕とIさんは、そんな話を声高にはしなかった。酒を飲んでいて、隣席から同じ話題に加わられる(特に訂正される)ほど迷惑なことはない。僕らは「いそしぎ」の主演は、ロミー・シュナイダーのままにしておいた。カルロスがやってきて「耳がダンボになってるんじゃないか」と突っ込む。確かに、僕の耳はダンボになっていた。

昔、Iさん夫妻と僕とカミサンの4人で水戸芸術館にロバート・メイプルソープ展を見に出かけた帰りのこと、列車のボックス席の通路側しか空いていなかったので、僕とIさん、うちのカミサンとIさんの奥さんが通路を挟んで腰を降ろしていたことがある。僕の隣の窓際の席に中年の男性がいた。

僕とIさんは、いつものように(気を遣いながらだったと思うけど)本や映画の話をしていた。やがて中上健次の話になり、その作品のことを話していたとき、僕の隣の男性がいきなり「それは違うと思いますよ」と話に割り込んできた。それから、男性はひとしきり中上健次論をぶち、僕とIさんはその勢いに負けて沈黙した。

昨夜、僕はIさんに「ホラ、あの水戸からの帰りの列車」と囁いた。Iさんも「あのときは、いきなり批判的に入ってこられましたからね」と答える。それをきっかけにして、Iさんと中上健次の話になった。兄弟盃をした夜、カルロスが中上健次を愛読していると聞き、四方田犬彦さんが書いた長篇の中上健次論「貴種と転生」を渡した話などをした。

四方田犬彦、中上健次、貴種と転生、オリュウノオバ...といった言葉が飛び交い、もしかしたら今度は向こうの席の人の耳がダンボになっているかもしれないな、と僕は思った。何しろ、その高名な評論家の人はウィキペディアで「中上健次の『千年の愉楽』を『いんちきポルノ』と評した」と書かれている人である。

しかし、このあたりから酒がまわり始め、やがて向こうの席の人々が出ていき、手が空いたカルロスがやってきて話に加わり、さらに僕のボルテージは上がった。広い店に大きな声が響く。おまけに、おいしいジンを出してくれる。僕の酒量は、さらに進んだ...

今朝、目が覚めて風呂に浸かり、自己嫌悪から逃れるために、ここまで原稿を書いてきたが、キーボードを叩くと掌が痛む。見ると打撲傷の青いアザが現れ始めている。やれやれ、である。今年も、前途多難かもしれない(自業自得だけど...)。それにしても、入手しにくい貴重なジンを落として割ったことを、兄弟分に何と詫びようか。

【そごう・すすむ】sogo@mbf.nifty.com
双葉十三郎さんが亡くなった。99歳というから、僕が担当編集者としておつきあいいただいた頃は、60代後半の頃になる。いつも締め切りより前に原稿が仕上がり、銀座の試写室に受け取りにいっていた。最前列に座った双葉さんの両隣には、いつもおすぎとピーコがいた。

●306回〜446回のコラムをまとめた「映画がなければ生きていけない2007-2009」が新発売になりました。
< http://www.bookdom.net/suiyosha/1400yomim/1447ei2007.html >
●305回までのコラムをまとめた二巻本「映画がなければ生きていけない1999-2002」「映画がなければ生きていけない2003-2006」が第25回日本冒険小説協会特別賞「最優秀映画コラム賞」を受賞しました。
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■Otaku ワールドへようこそ![110]
ラブホテルでハーレム状態......のようでぜんぜん違った

GrowHair
< http://bn.dgcr.com/archives/20100122140100.html >
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限りなく失格に近い人間のご多分にもれず、恥の多い生涯を送ってきた私だが。年明け早々、恥のかき初めみたいなのをやらかしてしまった。

いつもお世話になっている劇団MONT★SUCHTから、2月のイベントでは私も写真撮影係みたいな立場で、パンフレットにプロフィールを載せてもらえるという話が来た。掲載用の顔写真を送ってくださいというのだが、あいにく私は撮ることはよくあっても、撮られるということがほとんどない。ろくな写真がないのである。あるのはセーラー服姿とかブルマ姿とか。

しょうがないから覚悟を固め、そんなのを4〜5枚メールに添付して、「この中に使えるのがあったらどうぞ」と書き添えて送付した。ところが、宛先のメールアドレスを間違えちゃったのである。siとやるべきところをshiとやってしまった。「まだ届きませんが」と催促メールが来て、初めて間違いに気がついた。エラーメールが返ってこなかったところをみると、そのアドレスは実在して、見知らぬ誰かに届いちゃったってことらしい。うぎゃっ。もしお見苦しい姿をご覧になってしまっていたら、新春早々すみません、この場をお借りして深くお詫び申し上げます。

さて、年明け最初にいたすHのことを「姫はじめ」というのだそうだが、何年か前の週刊文春の新春号の投稿川柳欄だったかに、秀逸なのがあった。「姫はじめ 去年の分も まだだった」。それ、俺の今の状況とよく重なり合い、共感の涙が出てくるぜぃ。そんな私だが、年末にはちょっといかがわしい時を過ごす機会に恵まれた。自慢するわけじゃないけど、人間合格な人生を歩んでおられる面々には、一生涯のうちにもそうそうあるもんじゃないのではなかろうか。

女性5人プラス人形6体と、ラブホテルにしけ込んだのである。男性は私だけ。ハーレム状態。まあ、もちろん撮影のためなんだけど。人形が被写体。女性5人はその父兄。この模様をこってりとレポートすることから、本年最初のこのコラムをさわやかに始めようかと。

●ロケ地探し よろめきによろめいて ラブホテル

八方塞がりで困り果てていた。人形作家10人によるグループ展がちょうど一週間後からに迫った12月15日(火)。私はすべての作家さんたちの作品を撮影して、写真を展示することになっている。けど、この時点で櫻井紅子さんと青木綾子さんの作品をまだ一枚も撮っていない。次の週末しか撮るときはないのに、どこで撮るか、まだ決まらない。

櫻井さんからは廃墟という要望が出ていて、青木さんからは教会のステンドグラスという要望が出ていたが、どっちもハードルがめちゃめちゃ高い。廃墟はそう簡単に見つからないし、教会はそう簡単に撮影許可が下りない。会社の同僚のK原さんはかつてのお嬢様ぶりが今もそこはかとなくうかがえるスーパーウーマンだが、出身校である青山学院大学相模原キャンパスにはステンドグラスが有名なチャペルがあると教えてくれて、電話してみた。けど、見学はいいけど、撮影はダメ、との返事。

屋外撮影は寒すぎるし、値が張ることを覚悟の上でスタジオを借りようにも、週末なんてたいてい早くから予約が埋まっているし。困った。八方塞がり。そこへ美登利さんから助け舟。後から聞けば、「洋館 撮影」でググるとトップに出てくるし、撮影事例としてウェブサイトに掲載されているのは地獄少女やコードギアスなどのコスプレ写真だし、なんで私が知らなかったかと不思議がられたけど、まったく面目ない次第である。

それが、このラブホテル。川崎駅から徒歩10分。その名も「ホテル迎賓館」。いやもう、なんちゅうか。プワプワ膨らんでパッとはじけた昭和バブルの遺物っちゅうか。いったいどこの宮殿のボールルームですか、とツッコミたくなるゴージャスな内装。シャンデリアに螺旋階段。装飾もここまでごてごてやるとかえって下品だろう、と思えなくもないが、ラブホテルだから下品でいいのか。

いやいや、経済がよく泡立っていたあの時代には、どこぞのベンチャー企業の若い社長が女子大生の愛人を連れ込んで、そんな泡にまみれてあんなことやこんなことをしてたのかもしれないけれど、今やその部屋は、写真撮影用の貸しスタジオになり果てているのである。高く伸ばせる脚つきのライトボックスとか、レフ版とか、脚立とか、延長コードとか、部屋に備わっている。いかがわしい行為は禁止である。時代が変われば需要も変わるもんだ。
< http://studiohotel.jp/geihinkan/ >

そういうわけで、12月19日(土)の真っ昼間、ヒゲのおっさん一人、女性の人形作家5人、人形6体がこの部屋を占め、ハーレム状態と紙一重のようでありながら実は全然違う状況をかもし出していた。だいたいあれだ。入るとまずかすかにカビくさい。じゅうたんは端がめくれ、バラの造花にはホコリが積もり、シャンデリアのろうそく型電球は点らないのがいくつか。バブルはやはり過去のものなりの様相。撮影にはまったく問題ないのだけど。それ以外の用途にはあまり向かない。

それにあれだ。6時間で6体の人形を撮るのは、実はけっこう忙しい。3日後には作品として画廊の壁に貼るべき写真を今ごろ撮っているというのもスリリングな話だが、そんな切羽詰まった状況だから、こっちも撮るのに必死である。最後のほうなんて、退出時刻に迫られて、大慌てで撮っていた。いかがわしい空気に浸ってる暇なんて、ありゃしない。

撮れた写真は、こちら。「妖気が漂う」と感想を述べた人が何人かいるんだけど、ひょっとしてこの部屋でとてつもなく不幸になっちゃった人が過去にいたりしたのかな? 最後の一枚は、撮っている私の姿。完全に人形に没入し、無我の境地です。
< http://picasaweb.google.com/Kebayashi/56# >

●人形に一本、人に一本、矢を放ったキューピッド

夜を徹して写真の選別と仕上げの作業をし、明け方に、展示と販売用の写真が出来上がった。出来上がれば自慢したくなるのが人情というもので、プリント品質に達しないところまで画素数を間引いた画像を、mixi日記に貼り付けてアップしておいた。これが、思わぬ展開を呼ぶ。

CLAMPの「ちょびっツ」は、善良だけどぱっとしない浪人生である本須和秀樹と、美少女型パソコンであるちぃとの間の心の通い合いを描いた漫画作品で、パソコンも人も互いに唯一無二の存在として相思相愛に至り、幸せになるべきではないか、というのがひとつのテーマになっている。

それの影響を受けたからかはなんともいえないが、私は人形も人も幸せになるべきではないか、と思っている。神社に人形が奉納されているのを見ると、心が痛む。この子の今までの生涯は幸せだっただろうか、と思いを馳せる。うんとかわいがられてきたけれど、持ち主が先に亡くなってしまったんだろうか、などと。

私は真紅を脳内妻に迎えて5年近くになり、のろけるわけじゃないけど、幸せである。迷いは最初から吹っ切れているが、年月が経つにつれ、これでよかったほんとによかったとの思いがますます強化されていく。

さて、12月20日(日)は、古い日本家屋で紅子さんの別の人形を撮っていた。3時ごろ帰ってくると、mixiメッセージが届いている。送付時刻は朝の9:40。ラスさんからだ。ややっ、久しぶり。ラスさんとは、一昨年の5月だったか、鳥取の中国庭園で開かれたコスプレのイベントで会っている。

スーパードルフィー(SD)を2体連れてきていて、撮らせてもらっている。本人も何かのコスをしてたのだが、ドルフィーに気をとられて、撮るのを忘れていた。人でなしな私。ここでいう「人でなし」とは、江戸川乱歩の「人でなしの恋」に出てくる人でなしで、人よりも人形を愛する人のことを指すと思っていただければ。

あの時点でラスさんはSDを33体所有していると言っていた(今は40体に増えてるらしい)。私は中野区、ラスさんは杉並区に住んでいて、近いのだが、鳥取でしか会ったことがない。以下、やりとりしたメールのごくごく一部を抜粋。

20日(日)09:40 from ラス
写真の人形に一目惚れをしてしまいまして...。これは恋です(笑)。いや、笑い事じゃなく。お迎えしたくてたまらないのです。

20日(日)15:12 from GrowHair
明後日から銀座の画廊で人形のグループ展を予定してまして、紅子さんの作品も展示されます。見にいらしてみてはいかがでしょうか。

20日(日)20:10 from ラス
年末に仕事がつまってて、行けそうにないのです。売られていってしまうのでしょうか...。一目惚れしてしまって...。運命を感じてしまって...。恋する乙女状態です(笑)。どうしたら良いのでしょう...。

20日(日)21:26 from GrowHair
うーむ、困った困った。今度の展示がその子の実物が見れるほとんど唯一のチャンスかもしれなくて......。
櫻井紅子さんは新進気鋭の人形作家さんで、まだそんなに名前が売れてるわけではないのですが、そうとうの実力派なので、今度の展示で評判が上がるだろうな、とみています。売れるか売れないかはまったく予想がつかないのですが、売れちゃったら持ち主のものになるので(どこかの画廊に売れて、展示されたりしない限り)基本的にはサヨナラですね。売れなくて連れて帰ることになったとしても、次回いつ展示できるか予定がまだ立っていない状態です。

20日(日)21:55 from ラス
せめていくらくらいかのメドがつけば、クレカで......。ピンと感じてしまったわけですよ。この子はうちの子になるはず! って。

21日(月)00:10 from GrowHair
まあまあ落ち着いて。値段と支払い方法のことは聞いておきますけど。写真だけでお迎えを決めちゃうのは......。実物見ると、印象が違ってたってことは、よくあるんで。「写真マジック」と言われる現象です。

21日(月)01:21 from GrowHair
紅子さんから返事が来まして。なんとっ、***,***円だそうです。無名の新人作家だからってことで遠慮したみたいだけど、ありえない値段です。売れちゃう可能性、大だなぁ。しかも、ひとたび評判が確立されたら、この作家さんの作品でこの値段がつくことは二度とないと思いますよー。

21日(月)01:32 from ラス
22日に万札握り締めて開館と同時に駆け込みます!

21日(月)07:41 from GrowHair
おお、よかったですね!

21日(月)07:50 from ラス
開場30分前から並んでいても大丈夫ですよね?

21日(月)08:20 from GrowHair
迷う可能性も考えて早めに行くのはいいですが、並ぶっちゅうことはまずないと思いますよー。風邪ひかないように気をつけて。

21日(月)23:53 from GrowHair
今日、搬入してきました。いい感じに展示されてますよー。ただ、照明が単純なので、ぱっと見、無骨な感じに見えてしまうかも。よーく見れば、どっちから見てもきれいな顔です。うまく結ばれますよーに。

21日(月)00:28 from ラス
いよいよですねー。早く愛しのあの子に会いたい気持ちが迸って、寝なきゃいけないのに眠れません。アドバイス本当に色々ありがとうございました!

22日(火)12:26 from ラス
気合いを入れすぎて開場15分前に着いていました(笑)。その甲斐あって無事に結ばれました! 実際に対面してみて、びっくりするくらい引き込まれる子で、やはり運命というものを感じずにはいられませんでした。私のすぐあとに来た方が、他の紅子さんの作品を買い占めておられ、やはりここにも運命を感じずにはいられませんでした。お写真、小さいほうですが二点購入いたしましたよー!

22日(火)13:27 from GrowHair
おめでとうございます! よかったですね。やっぱり初日の朝一に行って、大正解でしたね! 人間に一本、人形に一本、矢を放ってしまったキューピッドの気分です。大事にかわいがってあげて、お二人とも幸せになってください。写真もお買い上げいただきまして、ありがとうございます!

22日(火)13:39 from ラス
本当に、事前に相談に乗って頂いたおかげです! ありがとうございました! もう、なんというか、完全に心を射ぬかれました。大切にして幸せになります!mixiに写真を載せてくださらなかったらありえない縁だったので、不思議な運命を感じます。(以上、引用)

......というわけでした。真紅、もしかして魔法使った?

●失格な人間にもささやかな幸せ:展示会、成功

恐ろしく不器用な私が、壁に写真を貼るなどという困難を極める作業をすれば、悲惨な結末しか待っていないことはデザフェスで経験済みだったのだが。またやらかした。時間がないので究極的にシンプルな展示にしようと、A3サイズに焼いたプリント24枚をランダムな配置で、白い壁に直接、四隅に虫ピンのような小さな釘をトンカチで半ばまで打ち込んで貼り付けることにした。

まあ、小学生がやってもこんなにひどくはなるまいという出来映えで、配置の粗密にムラがあるし、傾いてるのがあるし、壁の段差にかかって平らでないのがあるし、釘はことごとく斜めだったりくの字に曲がってたりするし。「ご来場いただいた方々に謹んでご覧いただく」という姿勢はとうてい伺えず、「見たけりゃ勝手に見ればー」とふてぶてしいメッセージを発しているかのようなディスプレイである。ひぇ〜っ、ごめんなさいごめんなさいごめんなさいっ。

そんな写真が、一枚、売れた。2Lサイズの小さいのは以前にも売れたことがあったが、大きいサイズのは初めて。人生において記念すべきグループ展となった。さらに、まだ面識のない人形作家さんから、その方の作品の写真をポートフォリオ用に撮ってほしいとの依頼が、画廊を通じて伝えられた。その方の個人ウェブサイトへ行ってみれば、すばらしいビスクドールを作っていらっしゃる。撮らせていただけるなんて身に余る光栄、と同時に、しっかり撮らねば、と身のひきしまる思い。わ、なんかプロみたい♪ 今、メールをやりとりして撮影の計画を進めている。

「臘月祭」全体としても成功だったといえる。多くの方々にいらしていただけたし。2Lサイズの3枚セットの写真も売れ行き好調だったし。初日の初っぱなで紅子さんの人形がいきなり完売して、格安で場所を貸してくれたGallery156にも顔が立つってもんだし。10人の人形作家さんたちも、いい経験ができたと喜んでいるし。ご来場いただいた方、ブログなどで宣伝していただいた方、励ましの言葉をかけて下さった方、心の中で応援して下さった方、ほんとうにありがとうございました。

なんか、今年もまたやりましょうって話が持ち上がっている。臘月祭。「臘月」とは12月という意味なので、また12月に。おーっ。グループ展が終わってもやっぱり撮影待ちの人形がいっぱい並んでるじゃん。今年も忙しく過ぎていくのかな〜。OK。人形の下僕として、がんばる。

今までと似たり寄ったりの写真をこれからもずっと撮り続けるのなら、そんなに難しくはないのだけれど、それじゃあかんでしょ、との内なる声がどんどん大きくなってきている。人形作品に作者の発想力の豊かさや表現の面白さがよーく現れているのに対して、写真が普通すぎてあたりまえすぎて、撮る腕がはっきり言って追いついていないのだ。スタンダードが外せないクセがついてしまっている。もっと自由に、もっと面白く撮れないもんか。今年は一皮剥けた写真が撮れるようになりたい。

そのことは、心のどっか片隅でずーっとささやき続けられてきたことなのだが、正面きって向き合わないよう、ふたをしてきたことなのだ。同じ日に美登利さんと武さんから同じようなことを言われ、それがまさに自分でも思っていたことそのものズバリだっただけに、きつく突き刺さっている。

展示の真っ最中の12月26日(土)、山根さんの新居で新年会があった。土足で上がれる手作りフローリング、すばらしい。30人ぐらい入ってもぜんぜん平気。いろんな人がいて、カオスな空間。限界近くまで飲み、ベーシックインカムの議論から脱落、床でごろ寝して朝帰り。「もうすでにアートの世界に入って来ちゃってるんだから、真剣に考えろよ」との武さんの言葉、重く受け止めております。

ところで、撮影場所がラブホテルだった件、来場者からけっこう見破られてたっぽい。

【GrowHair】GrowHair@yahoo.co.jp

エロという名の広大無辺な宇宙において、男性の存在とは、しょせん宇宙船の中から見物する観客にすぎない。そう思えた。1月17日(日)は、暮のラブホテルでもご一緒した櫻井紅子さんと赤色メトロさんと、浅草ロック座へ。女性二人と一緒に鑑賞するストリップ。いやぁ、よかった。よく鍛え抜かれた柔軟で贅肉のない体できれいなポーズをキメてくれるおかげで、骨や筋肉のつき具合といった人体の造形についていい勉強になったと二人は言う。私は女性が女性をどう見ているかをいろいろ聞かせてもらっていい勉強になった。同性にはキビシイなぁ。メトロさんが目当てにしていたという、月川ひとみさん、うん、すばらしかった。踊りが抜群に上手い。キレがある。速い動きとやわらかい動きとにメリハリが利いている。美しい。彼女が登場すると、場の空気が一気にテンションを高める。次はいつ舞台に立つんだろ? また3人で行こうって話。

1月6日(水)に発売された「漫画実話ナックルズ増刊 ザ・タブー 2010年2月号」。平凡な一市民たる私などにはまるで接点のない、世の中の裏側に属するあれやこれやに光を当て、実はこんなに怖いんですよ〜、と警告を発する雑誌。危険なかおりのする題材にも、ひるまずネタを見つけ出してくる果敢な取材姿勢がうかがわれる。「禁断芸術の世界〜異形の美」と題したカラー見開き2ページの記事で、美登利さんの人形作品が紹介されている。異形の魅力に惹かれて人形制作に勤しむ動機が忌憚なく語られていて、作家の人となりが伝わってくる、いい記事に仕上がっている。私は撮影者としてクレジットを入れていただけた上に献本まで。ウチの近くのセブンイレブンには5冊あったが、売り切れてた。これからは禁断芸術カメラマンとして、がんばる。

いつもお世話になっている劇団MONT★SUCHTの公演が1月24日(日)にあります。
"Classic Alamode 02" というアングラなイベントにて。
16:30〜22:00 池袋 ROSA会館地下2階 "LIVE INN ROSA"
< http://www.artism.jp/ae_ca02.html >

4年ぶりにホームページを更新しました。なにしろ、今まで、人形の写真を一枚も載せてなくて、それ目当てに見にきてくれた人からがっかりされることがしばしばあったので、やっとすっきり。まだ載せてない写真がいっぱいあるので、徐々に更新していきます。
< http://www.geocities.jp/layerphotos/ >

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■編集後記(1/22)

・最近の年賀状の宛名は、手書きよりパソコンの年賀状ソフトのほうが断然多いような気がしたので、届いた年賀状をチェックしたら、意外に手書き45%:パソコン55%と手書きが大健闘していた。この年齢のわたしの知り合いだからともいえるが。パソコン派では、ソフト63%、ラベル20%、そのほか17%となる。寸分違わぬ同じプリントが2枚あった。同じ人から来ていた(笑)。同一のソフトを使っていると思われるのが、3タイプほどあった。柴田を紫田とプリントしたのが2枚あった。一見、手書きかと思われるきれいな宛名をしげしげと見たら、フォントではないか。タイプバンクからだった。一昨年、喪中ハガキの宛名を手書きからWordを使ってプリントにかえたら、じつに楽だったので(あたりまえだ)今回はPagesでレイアウトした。フォントはヒラギノのゴシックと明朝でいろいろトライしたが、いまひとつしっくりこない。思いついてメイリオを試してみたら、さすが横組み専用フォント、きれいな宛名が完成した。でも、もらうならやっぱり手書きがいい。手書き派の中には、昔からほれぼれするほど字のうまい女性が5人がいる。いつまでも手書きでいてほしい。わたしの手書きはそうとう無惨なことになっている......。(柴田)

・iPhoneのゲーム「Tap Tap Revenge 3」が好き。ダンスダンスレボリューションや、太鼓の達人のようなゲーム。音楽に合わせ、奥から手前にボールが流れてくる。一番手前でタップ。流れてくるラインは三本あり、表示に合わせて通常タップ、ロングタップ、左・右・奥へのシェイク。曲はNINやレディガガなどのものもあり、基本無料だが、有料でダウンロードできるものもある。曲が気に入ったらiPod用にiTunesで買える。知らない曲でもつい欲しくなるので、プロモーションに良さげ。プレイで貯まるコインでアバター用の服や、オンライン対戦用の武器が買える。「Nearby」で検索しても、大抵0人なので、外国人と戦っているさ。現在レベル10。/最初は指一本でもどうにかなる。が、難易度があがると、手と目が追いつかない。同時にボールが三つ。三本指でタップすると、急に画面が拡大された。iPhone本体の持つアクセシビリティ、ズーム機能をオンにしていた......。ゲームの最中に拡大されたらラインは二つしか見えません。(hammer.mule)
< http://tapulous.com/taptap3/ >  2の方が面白かったらしい