わが逃走[60]良い成績の秘訣は良い課題にあり。の巻/齋藤 浩

投稿:  著者:  読了時間:14分(本文:約6,700文字)


こんちはー、齋藤です。

01.jpg先日、コンビニでもらった袋を何気なくたたんで机の上に置いた。ふと気づくと、なにやらカワイイ人のイラストが描いてある。こんなキャラクターいたっけなあ? なんて思いながらも、緑の木々をバックに微笑むシンプルな線だけで描かれた、その味のあるイラストにほれぼれしたのだった。

02.jpgところが、袋を開いてよく見ると、顔じゃなくて『に』だったのだ。

まれにみる"媚びない"キャラクターだと思って絶賛したのに残念である。

そう、私は相手に媚びるキャラクターが嫌いだ。たとえば、あのリボンをつけた猫。あいつは絶対、自分がかわいいということを知っているのだ。あの熊や犬なんかもそう。どいつも高飛車でプライドの塊みたいな性格なんだろうけど、それを表に出さずに相手が喜びそうなポーズをとるのだ。くそう、ムカつくぜ。

不思議なことに、グッズ展開を前提としたキャラクターと、結果的にグッズ展開に至ったキャラクターとでは、内に秘めた性格が真逆のように思われる。

ちなみに、私はリクルートのフリーお仕事マガジン『タウンワーク』のブタが好きだ。あの絶妙な線と無駄のない形状。まったく媚びていない。まさに自立したキャラクターである。それ故あの雑誌の表紙にふさわしい訳だ。イラストレーターも素晴らしいし、創刊時から誌面と社会との構造を俯瞰していた、ADの手腕たるや見事と思う今日この頃である。

以上、世間話。この話がこれから語ることと関係あるかといえば、あまり関係ない。

今日は何の話をしたいかというと、オレが先生をやっている某専門学校の卒業制作展が酷かった、ということなのです。先日、時間を割いてわざわざ都内某所まで見に行ったのだが、ごく一部を除いてやる気もなければ仕事もキタナイ。しかも手抜きバレバレな作品だらけだったのだ。

今回は何故か、グラフィックデザイン系のゼミからの卒業生が一人もいなかったので私は直接審査はしてないのだが、この調子でいくと来年のウチのゼミも酷いことになりかねん。そうなったらオレの査定に響く。これは危険。

ということで、オレ及び全国の来年度デザイン学校卒業生を危機から救うべく、真っ当な卒業制作の秘訣を学生諸君にむけて伝授しようと思う。



今回の酷い卒業制作展を見てまず思ったのは、前述のとおり『やる気ナイ、仕事もキタナイ、手抜きバレバレ』だった訳だが、仮にそれらが『やる気があって、仕事も丁寧で、真面目につくった』作品であったとしても、ただの普通な作品でしかないということだ。

ポイントはここ。ヒントはここ!! くどいようだが『やる気があって、仕事も丁寧で、真面目につくった』作品であったとしても、ただの普通な作品になってしまう! のであれば!! 何をどうすればイイ作品になるのか? イイ作品と普通の作品との違いは何なのか? を考えるのだ。

1◎結論 求められているのは脳を持った手

いきなり結論から言うが、卒業制作とは入学以来自分が学んできたことを基に、自分自身のデザイン論を提示すること。それはつまり、いかに自分が優秀なデザイナーとなる人材であるかをプレゼンテーションする場とも言える。

すごい! この一文に全て集約されているぞ。オレってイイこと言うなあ。要するに、ただ器用にそれっぽいモン作ったところで、"ただ上手いだけな奴"は世の中に星の数ほどいるのである。

では、"ただ上手いだけな奴"なんか求めていない審査員のセンセイや、わざわざ展示会に来てくださるお客さんは何を見ているのか? それは当然、諸君らのデザイナーとしての素質を見ているのだ。

そして「いい人材がいたら引き抜いてウチの会社で働いてもらおう」と考えているのだ!!! いわば、"相手"はプロとなりうる人材を探しに来ているのである。そんなことにすら気づかないアホな学生が大勢いるので困る。

さて、素質のある奴ってのは多少仕事をこなせば上達する。とくに技術はね。なので、君たちに必要以上のテクニックは求められていない。では何を求められているのか? 答えは"思考"である。

すなわち「アイデアの出し方」、「応用の仕方」、「課題に対する向き合い方」、そして「結論の導き出し方」。つまり"相手"は、作品そのものを見ている訳ではなく、作品を通して君たちの"考え方(=デザイン)"を見ているのだ。彼らが欲しいのはただの手ではなく、脳を持った手なのである。

そのへんを理解した上で、それを最大限にアピールできるテーマをいかにして練り上げるか。明暗はここで決まるのだ。

2◎テーマ 思考を伝えるポイント3

学校のセンセイやってて思うことは、課題には良い課題と悪い課題がある。前者は、出題者の意図が明確であり、その課題をこなすことで制作者の目からウロコを落とす。後者は、出題者の意図が難解で、めんどくさいだけでつまんない課題。「やれといわれたからやりました」的な結果になるのは、課題が悪い場合も多いのだ。

卒業制作においてテーマを決めることは、自分に自分で課題を出すことである。当然のことながらツマラン課題なんかやりたくないだろ? 見る方だって同じなのだ。

よって、「何も考えずに思い切って作りました」などと、相撲の取り組みみたいに制作してはいけない。ここにいちばん頭を使って、自分のアピールポイントが引き立つような課題を考えるのだ。

では『アピールポイントが引き立つ、良い課題』とは何ぞや? 答えは前項にアリ。"相手"が諸君の作品を通して君たちの"思考"を見ているのであれば、その"思考"が相手にきちんと伝わる課題こそ、良い課題と言えましょう。

ここで、オレの考える『思考を伝えるポイント』を挙げてみる。
1)コンセプトがわかりやすい
2)制作過程がわかりやすい
3)仕事が美しい 
以上3点。けっこうシンプル。

さて、コンセプトが明快であること! これがいちばん大切。モーターショーに例えるなら、"大人の事情"をクリアして世に出る市販車よりも、「これからの自動車はこうあるべきだ」という企業の姿勢を前面に押し出したコンセプトモデルに相当する作品を作るべし。

プロの真似をする必要はない。プロみたいな作品を作る必要はない。プロを真似たところで学生ごときが敵う訳ないし、世に出回っているデザイン=よいデザインとは限らないからだ。いっそのことそれらを否定してみるといい。

「このデザインはダメである。ならば、どうすれば良くなる?→オレだったらこうするぜ」といった具合にな。そして、主役は美しく仕上げること。

いくらコンセプトが秀逸でも、掲出されたポスターのパネルの角が歪んでいるだけで、あなたは『パネルの角が歪んでいても気にしないデザイナー』ということになる。仕事の美しい作品を見れば、当然それを手がけた者の心遣いが伝わってくる。作品に対する姿勢が見えてくる。という訳で、作品は美しく仕上げるべし。

長くなったが以上1〜3を踏まえた上で『日常における"問題点"を発見し、それをデザインという手段で解決せよ』といった課題を、具体的なものとして作ればいい。

3◎課題を考える ダメな例と改造例

では、実際にどうすればいいか。ここでは過去のダメな例をネタに、どうすれば良い課題になったか等々を語っていきたいと思う。

●ダメな例その1
『喫茶店が好きなので、店内のインテリアとロゴとショップカードを作ろうと思います』
こういったネタ自体ありがちだし、実際こういうモノを作った奴の結果というのは往々にして自分の脳内メルヘンの世界で完結してしまうのだ。つまり、自己満足的でかわいいだけのありがちな作品。では、まともなものを作るにはどうすべきか?

○改造例その1
視界を広げます。そして条件を狭めてみる、というのがアリかもしれません。たとえば、そのへんにある喫茶店、と言われてもピントこないでしょう。

具体的に、どこにあるどんな喫茶店なのかを設定しちゃう(この"具体的"ってところがものすごく重要で、たとえば「街が好きな女」と「渋谷が好きな女」とでは後者の方が圧倒的に人物像をイメージしやすいだろ? 何事も具体例とともに提示すれば、相手のもつ記憶と結びつき、より強い印象を与えることになるのだ。卒業制作におけるプレゼンテーションにおいても同様)。

極端な例を出すなら、『JRが喫茶店を全国展開する』と仮定してみる。店舗は全てエキナカ、ライバルはスタバ。そうするだけで、おのずと客の姿が想像できてくる。客が何を求めてその店に来るのかもリアルに考察できるし、店舗の特徴を有効に使うためのインテリア計画なんかもイメージしやすくなる。

さらに、鉄道とコーヒーという2つのキーワードがあれば、ロゴやサイン計画もより明確なものになってくるし、テイクアウト用のカップなんかも車内に持ち込んだ際に倒れにくい構造を提案しちゃったら、「お、けっこう考えてんな」なんて思われるよなあ。とか。

もしあなたがイタリア好きなら、イタリア企業とのコラボなんてことを仮定してみるのもイイと思う。『いわゆるバール的店舗をフィアットと展開する』なんて考えてみるのも楽しい。全国のフィアットのディーラーにカウンタースペースを設けて旨いコーヒーを提供するのだ。

そういえば最近見た新聞広告によると、FIAT500を購入するとアルタリア航空の往復チケットがもらえるそうじゃないか! だったら空港や機内にも進出しちゃおうぜ! などと妄想を膨らませつつ、空の旅とコーヒーとの今までにない組合せとは? なんてことを考えてみるのも楽しい。

という訳で、漠然とした課題からは漠然とした結果しか生まれない。そこからいかに、自分に都合よく条件を狭めるかが大切なのだ。

●ダメな例その2
『猫が好きなので、かわいい猫の写真集を作ろうと思います』
わはは、バカじゃねーの? こういうことは趣味でやれ! とオレなら思うね。猫撮ってる上手い人は大勢いるんだから、普通に撮って彼らを越えられるか?なのである。

基本的に写真集のモチーフとして動物と子供はNG。放っといてもいい表情するからだ。そもそも卒業制作の目的は好きなものを作ることではない。それを忘れてはいけない。それでも、どうしても猫が撮りたいなら、ここでも条件を狭めてみるべき。

○改造例その2
猫を通して何を伝えるかを明確にしなければならない。風景から猫を切り取るにしても、その切り取り方ひとつでスゲー写真集になる可能性はなくはない。

いっそのこと『猫を写さずに猫を感じさせる写真集を作る』なんてのもイイかもしれない。左官屋さんがきれいに仕上げたセメントの上についた足跡だけをまとめる! とか。路地裏でじゃれあう猫の影だけを追うとか。いずれにせよ、こういう課題は正攻法じゃダメだ。

ただかわいいだけの写真集は本屋に行けばいくらでも手に入る。"相手"はそんなものは求めていないのだ。

●ダメな例その3
『消費者金融における借り過ぎを抑制するポスターを作ります』
社会ネタに走るのも悪くはないけど、華がなさすぎるテーマは選ばない方が無難。とりあえずサラ金とパチンコはやめとけ。ただでさえ不景気なんだから、なにもそんな暗いテーマを選ばなくたっていいじゃん。見る方も気が滅入るよ。それでも、どうしても作りたいなら、視点を広げてみよう。

○改造例その3
まず、クライアントを消費者金融と設定する。彼らは金を貸すのが仕事だ。なんだけど、「ご利用は計画的に」みたいなことをも言わなくちゃならない。であるなら、たとえば同じモチーフや同じ色彩などを使って『借りてください』と『借り過ぎるとタイヘンなことになりますよ』という相反する話を、それぞれのテーマに作り分けることができるぜ! ってことをアピールしてみたらいかがか。

デザイナーとは言うなればラブレターの代筆業だ。相手や目的に応じて、クライアントの言いたいことを最も伝わる手段で表現しなければならない。オレはここまで徹することができるんですぜ! ってことを明快に提示できるのであれば、まあ、そんなに悪いモンにはならないかもね。

なんだけど、ここまで考えたら同じ構造で、もっと華のある仕事に設定しなおさないか? たとえば、『日焼け止めの広告を相手に応じて作り分ける』。ひとつは女子高生向け美白需要、もうひとつはオッサン向け皮膚がん防止。同じブランドの同じ商品でありながら、相手に応じてアプローチの仕方をここまで効果的に変えることができるんですぜ、ということになる。うーん、こっちの方がポジティブな作品ができそうだが、どうだろう。

●ダメな例その4
『うさぎさんが好きなので、うさぎさんのキャラクターを作って商品展開』
NG。うさぎさんもねこさんも世の中に溢れているし、そういうことは他がやる。なにもわざわざ学生がやることはないのだ。それでも、どうしても作りたいのなら、せめて必然性を感じさせる展開にせよ。

○改造例その4
ただかわいいだけでは無意味。ウサギで表現できるものは何か? ウサギの特性を考えてみる。たとえば足が速いとか。さらに、その対極を考えてみる。で、それらにまつわる話を挙げてみる。メジャーどころでは「ウサギと亀」かなー。「ウサギ及び亀をキャラクターとして、早さと確実さを訴求する商品のPRを」なんてことにすれば、けっこう面白そうじゃないか?

●ダメな例その5
『おもちゃが好きなので、おもちゃのパッケージをつくります』
漠然としすぎ。じゃ、具体的にどんなものを作るの? と尋ねてみれば「チョロQとかガンダムとか...」みたいなことを言う。既存のキャラクターにおんぶするような企画は、基本的にやめた方が得策。いくらいいものを作ったところで、そのキャラクターの個性が強すぎて正当な評価が得られない危険性もある。

○改造例その5
モノはシンプルな方がよい。積木とか凧とか、将棋とかオセロとか。シンプルなものであればある程、パッケージデザインの幅は広がるはずだ。また、誰でも知っているものの方が、すぐに本題に入れる。

で、デザイナーとしての課題と解決法を考えてみる。『同じ商品を流通経路によってパッケージを作り分ける』なんてどうだろう。折り紙のパッケージを文房具店、玩具店、コンビニ用に作り分けてみるとかね。いっそのことおもちゃではなかったモノを、おもちゃとして売ってみるという提案もアリだな。

ちょっと前のタモリ倶楽部で、「紙コップアート」が紹介されていたのだが、「既存の紙コップを"積み重ねた高さを競うゲーム"として販売した場合、どのようなパッケージが有効か」なんてことを真面目に考えるのも悪くないと思う。要は、新しい提案が必要なのだ。たとえそれが見た目上のデザインと無関係だったとしても。

●ダメな例その6
『かっこいいポスターをつくります』
本当にそれが伝わるポスターならアリです。なんだけど、どうせならもう一工夫しないか?

○改造例その6
たとえば、媒体を考える。つまり、そのポスターをいかにして見せるか? の提案までしてしまうってのもアリですよ。他の人がやらなそうな媒体を探すってのもイイと思う。たとえば昭和の時代によく見かけた、アドバルーンやサンドイッチマンを再考してみるとか。

4◎アイデアは何度も転がすべし

てなことを考えていると、媒体特性に応じてポスターのデザインそのものを変えていくというのも面白そうだ。その媒体ならではの見せ方を提案し、"相手"が「ほほう、その手があったか」と思えばしめたものである。

まとめ......かどうかはわからんが、アイデアは何度も転がすべし。と言っておこう。ダメな例のほとんどは、"そのまんま"なのだ。

アイデアを思いついたら、そこで完結させず、かならず転がしてみるのだ。得意ジャンルや興味のある媒体と組み合わせてみたらどうか? とか、複数のジャンルにまたがって展開したら? とか、逆に削ってみたらどうか? とか。そんでもってコンセプトは後づけでもOK。結果的に成立していればイイのだ。

といったところで、オレも眠くなってきたので今日はこのへんで。なんか質問があればメールにて受付ます。それでは諸君、よい卒業制作を。あ、最後に言っとくが、オレの話はオレ個人の一意見にすぎない。鵜呑みにするな。判断は自分でしろ。

以上の文を読んで「あんたはそう思ってんだろうが、オイラはこう思うぜ」と感じたのなら、その考え自体を作品を通して相手にわかりやすく伝える工夫をせよ。その行為自体がデザインな訳だ。

【さいとう・ひろし】saito@tongpoographics.jp

1969年生まれ。小学生のときYMOの音楽に衝撃をうけ、音楽で彼らを超えられないと悟り、デザイナーをめざす。1999年tong-poo graphics設立。グラフィックデザイナーとして、地道に仕事を続けています。