歌う田舎者[09]アタメ 私をしばって!/もみのこゆきと

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わたくしこと、窓際事務員の所属する職場は全くもって変っている。連休が近付くと、あれをやれこれをやれと宿題なぞ出しやがり、遊ばせてなるものかと縛りつけるのだ。「わたしって、もしかして小学生だったっけ?」と鏡を見ると、お肌のたるみと小じわが「そんなわけねーだろ」とせせら笑う。

先日、出張の報告書には業務終了後の出来事まですべて詳細に書いて提出せよ!とのイミフな指令が下されたところであるが、「あいや待たれよ。これはまた笑止千万な所業」と異を唱えた同僚は粛清されかけた。ちなみに"イミフ"(意味不明)というのは最近覚えた単語なのであるが、ハマっ子の姪(小学生)が「えー、それってイミフ?!」と事あるごとに連呼していたので、小学生扱いのわたしもちょっと使ってみたかったのだ。

もとい、ブルーノート東京でジプシー・キングスの金癖が右であるか左であるか確認しようとしたことも、青森高校で匍匐前進していたことも(11/13掲載)、これから詳細に報告書に上げなければならないのだ。そりゃなんかおかしくねぇか? と言っても無駄な抵抗である。♪も〜っと〜もっと〜あ〜な〜たを〜も〜っと〜もっと〜知〜り〜たい〜(※1)というフレーズが、針飛びのするレコード盤のように繰り返されるばかりである。

ふっ.........アントニオ。あなたってほんとに縛るのが好きなのね。そんなにわたしのすべてを知りたいの? しかたのない人。




業務終了後に訪ねたのは、遊郭を擬した華やかで隠微な小屋。中に入ると、中央のステージを取り巻くように客席が並んでいる。遠くから聞こえる叫び声。ステージが回ると、鄙びた温泉宿の和室が現れ、柱に縛られた女がふたり。下卑た笑い声を上げる男たちが、安酒をあおりながら女の品定めをしている。

「放して。放してちょうだいッ。綾、助けてッ」
「真佐子お嬢様に手を出すなっ」
「ほほぅ......そうやって縛りあげられていても、さすがに燕返しの綾だな。威勢がいいこった。だがな、いつまでそう言っていられるかな。おまえが言うことを聞かねぇと、真佐子お嬢様がどんな目にあうか......」
「やっ、やめろッ!」
「へへっ、そんな姿になっても強情なアマだ。ところで、おまえさんとぜひ話がしたいってお人が来てるんだがねぇ......タミエ、入んな」

吉三が目配せをすると、障子をあけて女が入ってきた。痩せた頬にかかる幾筋かの髪が女から生気を奪っているが、目だけは爛々と光を宿している。年の頃は30代半ばくらいか。タミエと呼ばれた女はゆっくりと綾の元に歩み寄り、頭からつま先まで舐めまわすように眺めると、口元をゆがめて笑った。

「綾さん、久しぶりだねぇ。よもやあたしのことをお忘れじゃないだろうねぇ。そら、5年前にあんたが刺した善蔵を覚えてるだろう? 善蔵はあれから立ち上がれなくなっちまってねぇ。働くことも動くこともできずに布団の上さ。仕方がないからあたしが身売りして食うしかなかったんだ。あぁ、善蔵はあたしの旦那さ」
「あっ、あのときの......。善蔵は真佐子お嬢様をかどわかして、金品を脅し取ろうとしてたんだ」

「あたしが女郎宿に立たなきゃならなくなったのも、綾さん、全部あんたのせいなんだよ。あぁ、5年前の恨みをこうやって晴らせる日が来るなんてねぇ。ごらんよ、白い肌に食い込む縄が素敵じゃないか。これからたんと良い目に遭わせてやるよ。あぁ、楽しみだねぇ」
綾はタミエを睨みつけるやいなや、その顔にツバを吐きかけた。
「チッ、まだ自分の立場ってものがわかってないようだね。おまえたち、準備しなッ。綾、気をやっておしまいッ!」


「もみのこ〜っ! おっ、おまえは何を書いているんだ、何をっ!」
「は? だから業務終了後の出来事を......」
「誰がいかがわしい小説なんか書けと言った!」
「いや、だから、こないだ出張に行ったとき、社会勉強のために観たショーのことを書こうとしてたんですけど......業務終了後のことも書けって言ったっしょ? 大サービスっすよ。いかがすか? 縛るの好きでしょ? いや、っつーか、この話、まだイントロで、ここからが本題なんすよね、うひひひっ」

「がーーーっ!! おれが提出してほしいのは報告書だ、報告書! これじゃ報告書になっとらんじゃないかっ!」
なんだか逆鱗に触れたようである。あー、そうすか。わかりました。わかりましたよ。報告書ですね、報告書。まったくアントニオったら、わ・が・ま・ま。


             【出張報告書】

「テーマ」風俗営業法第二条第6項の三に該当する興行場の実態把握

「出席者数」
おおよそ200人程度と思われる(出席者名簿を作成するため、出席者の氏名・勤務先をヒアリングしたが、誰からも回答は得られなかった)。

「セミナー受講の目的」
専ら、性的好奇心をそそるため衣服を脱いだ人の姿態を見せる興行とはいかなるものであるか、また性的嗜好における嗜虐的な行為とはいかなるものであるかを理解すること。

「セミナーの概要」
鄙びた温泉宿に拉致された女侠客の綾と、大店の娘である真佐子。真佐子を守るため、あらんかぎりの辱めに耐える綾だが、その思いとは裏腹に、眠れる本能が解放されていく女体の神秘を日本情緒豊かに描きだすセミナー。

「受講の結果」
性風俗関連特殊営業については、これまでリサーチの対象から外れていたため、人材育成や職業能力開発などの実態が見えにくかった。しかし、本セミナーを受講することによって、性的好奇心をそそるため衣服を脱いだ人に嗜虐的責めを行う興行に従事するためには、様々な技術の習得が必要であることがわかった。その技術を生かして他業種に移籍をする場合、以下のような職種が考えられる。

・亀甲縛りなど難易度の高い縄掛けの技術が身に付くことにより、運送業・建設業などで玉掛技能者として活躍できる可能性がある。
・鞭を使っての調教に慣れていることから、競馬業界で騎手あるいは調教師として活躍できる可能性がある。
・浣腸を使うことから、肛門科で医療業務に従事できる可能性がある。
・剃毛技術を持っていることから、理容業界で活躍できる可能性がある。
・拘束具の取り扱いに慣れていることから、KGBやCIAなどの諜報機関でワールドワイドに活躍できる可能性がある。

職業能力開発の側面から鑑みるに、このように広範な技術を身につけられる職業は、本業界をおいて他になく、新規学卒者のインターンシップ制度導入による補助金活用も、今後の制度設計に組み入れていくべきだろう。

誰もが風俗営業法第二条第6項の三に該当する興行場に行けるわけではない。そのような消費者のために、知的財産権に配慮しながらも、該当興行を動画コンテンツとして配信していくことも検討の価値がある。

古今東西、ビデオデッキ・インターネット・DVDプレイヤーなど、新しい製品・サービスの普及率向上には、性的欲求を満足させるために製作された映像作品が大きく貢献してきた。今後、アバターに代表されるような3D機能を持たせた"飛び出す裸体"などの映像コンテンツ制作に注力することによって、わが国のコンテンツ産業は一層の発展を見るだろう。
                                以上。


どや、アントニオ。これでええか? ほんまにこういう報告書を出張の度に出してほしいんやな。出すで、ほんまに。

※「アタメ 私をしばって!」
< http://www.amazon.co.jp/exec/obidos/ASIN/B00006AGIR/dgcrcom-22/ >
主演はアントニオ・バンデラス。こっちのアントニオになら、ちょっと縛られてみちゃってもいいが。
※1「あなたを・もっと・知りたくて」薬師丸ひろ子
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【もみのこ ゆきと】qkjgq410(a)yahoo.co.jp
働くおじさん・働くおばさんと無駄話するのが仕事の窓際事務員。かつてはシステムエンジニア。

ぼく、もみのこゆきとです。小学生です。ほんとうは性ふうぞく関連とくしゅえいぎょうのお店には、まだ行ったことがありません。学校のしゅくだいで、調べてみたら、こうゆうお店は、おまわりさんに怒られないように、こうあん委員会にとどけないと、えいぎょうできないんです。いけないお店なのかな。ぼくのまちには、そんなお店はありません。1/22のGrowHairさんのコラムに、浅草ロック座というところが書いてあったので、しゅうがく旅行で東京に行くときに、一度見てみたいです。