装飾山イバラ道[52]簡単で難しい名前/武田瑛夢

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70代の母は昔の人ならではの言語感覚をしている。まずアルファベット3文字〜4文字の言葉を覚えるのが苦手だ。企業の名前のNTTやNECやKDDIというようなもの。KDDIは「ケーデーデーアイ」と発音し、メモを残すとしてもカタカナで書く。

そもそも新潟県人なので「イ」と「エ」の発音に区別がないのが、アルファベットの認識をさらに困難にさせているように思う。なのに私の名前はエイコなのが不思議だ(本名)。自分が区別できないエとイを選ぶなんて。今までずっとイエーコと呼ばれてきた気がする。

今年の春から古いマンションの部屋を、夫婦の倉庫兼仕事場にするので、インターネット環境を整えようと準備中だ。築年数のぶんだけマンション住民も高齢化しているようで、マンションの決め事を取り仕切る理事会も平均年齢がぐっと上がっている。

母も理事で毎回理事会に出席しているので、ネットのことを聞いてみたけれど、うちのマンションで接続可能な会社を調べるだけですごく時間がかかってしまった。

「インターネットはケーデーデーアイが50回線とエヌエイチケーが5回線だって」と言う。KDDIはいいとして、NHKはなんだろう。だんなさんと顔を見合せて「NTTではなくて?」と聞き返したけれど、絶対にエヌエイチケーだと頑なだった。やっぱりNTTだとわかるまであと数日を要した。



理事の人や管理人さんも皆それなりに高齢なのでインターネットに疎く、ネットや地デジ関連の会議の時にはすったもんだになっているそう。使ったことのないものについて決めるのが、どれほど困難なことかは想像できる。

マンションのおばあちゃんたちは、お互いが何かを確認する時には電話ではなく、直接訪問しあっている。もちろんアポなし突撃のスタイルでピンポン! と来る。その時いなければまた明日という具合なので、何事もすごーく時間がかかるのだ。メールが使えれば便利とも思うけれど、その年齢にはその年齢のやり方があるので、待つしかないこともある。

しかし、理事長はまだ40〜50代の男性とのことで、ネット関連の相談もできることがわかりホッとする。会った事も話した事もないけれど、あのおばあちゃんたちをまとめているのなら相当の人格者だと勝手に尊敬している。

住んでいる方のマンションの理事会でも、マンションが他の家屋のテレビ受信を妨げていないかなどを確かめるために検査会社の人が来たという。地デジ化でそういったテストをしているところが多いらしい。

母がその会社を「日本テレビ」だと言うので、なんでテレビ局が直々に調査を?とだんなさんとまた顔を見合わせたけれど、結局「日本○○」という日本テレビとはまったく別で関係のない会社だった。私は「名前に日本がつく会社なんて星の数ほどあるんだから、下につく○○の方を覚えてきてよ」と言っておいた。その時は覚えていても後で思い出す時には「日本何とか」になり、テレビの話だったからそれがくっついてしまったみたい。

私の仕事関連の電話をとってくれた場合でも、メモ書きに残された会社名の「○○システム」の○○はたいてい間違っていて非常に困る。何システムだったんだろうと。

結局、英語のヒアリング力と同じで、知っている言葉しか聞き取れないのはしょうがないのかもしれない。私の方が何らかの対処をしておくしかない。

どこのマンションの理事会でも、仕事が忙しい世代の人はなかなか出席ができず、ある程度時間に余裕が出てきた世代が中心となっていると思う。任せるしかない人は委任状を出し、何事も任せてそのまま進んでいくのだ。本当はマンションでけっこう深刻なことが起こっていても、気づかずに住み続けている人もいたりしそう。

私を含めてもっと関心を向けないといけないとも思う。しかし一旦深く関わってしまうと、ずっとそっち側へ行ってしまいそうな怖さも感じる。任せる責任と引き受ける責任。きっとみんな何かしらを人に任せて、何かしらを引き受けて生きているから、順番にそれぞれの重荷を受け取らなければいけないのかもしれない。

母世代は与えられた役目にはりきって奮闘しているので、やる気のあるうちはがんばってもらっちゃおうと思う。

【武田瑛夢/たけだえいむ】eimu@eimu.com
装飾アートの総本山WEBサイト「デコラティブマウンテン」
< http://www.eimu.com/ >

確定申告も終わると春が来る感じ。税務署のそばに通っていた中学校があるので久しぶりに前を通ったら、懐かしかったけれどその老朽化にびっくり。自分も老朽化するわけだわと思った。