ショート・ストーリーのKUNI[76]王様と大臣
── ヤマシタクニコ ──

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世界の片隅にその存在をほとんど知られていない小さな国がある。
ある日、その国の王様が大臣を呼びつけた。

「王様。何かご用でございますか」
「うむ。実は隣の国の国王から来た手紙を読んでいたのだが、わからないことがあって返事をしようにもどうしてよいかわからないのだ。物知りのおまえに聞けばわかるかと思ったのだ」
「ははっ、光栄でございます。それはどのような内容で」

「『しばらく会ってないが元気かい? ぼくはとても元気だよ。この間のバレンタインデーの成果は37だった。もっともほとんど義理チョコだと思うが、これではホワイトデーがたいへんだ』こんな内容なのだが、私にはさっぱり意味がわからない。バレンタインデーとはいったい何なのだ?」



「ああ、そんなことでございますか。えっと。いつぞや風の噂に聞きましたところでは、それは女性が意中の男性に愛の告白をする日であったような、気がしますな」
「え、女性が男性に」
「さようでございます。最近の女性は積極的になっておりますので、そういうこともごくまれにはあるらしいのです」

「なんとすばらしい。おまえはそういうものがあるということをこれまで私にちっとも言ってくれなかったぞ」
「王様にはちと刺激が強すぎるのではと思いまして。そういうことをする女性ははすっぱな女性に決まっております。かたぎの娘がそういうことをするわけがございません」

「大臣、おまえが私のことを心配してくれるのはありがたいが、少々過保護ではないか。私ももう49歳なのだ」
「え、49歳。いつのまにそんなおっさんに、いや、なんでもない。月日のたつのははやいものでございますな」

「うん。両親が死んでからおまえたちやさしい家臣に守られて40年。つまり、私はこの城から一歩も出ないまま40年を過ごしたことになる。ところで、バレンタインデーがどんな日かはわかったが、この『義理チョコ』というのは何なのだ」
「はあ。私もそれはさっぱりわかりません。しかし、もしこれが新しい言葉とすると、大臣2なら知っているかも知れません。私はもう79歳ですが、大臣2はまだ若い。72歳です」

というわけで大臣2が呼ばれた。ちなみに、最初の大臣を「大臣1」とする。

「ああ、大臣2か」
「はい、大臣2です」
「おまえならわかるかも知れないと思ってな。『義理チョコ』とは何だ」

「ははっ。義理チョコですか。義理チョコ。義理チョコ。義理チョコ。えー、その、あの」
「どうした。わからぬか。若い人ならわかるはず、と大臣が言っておったが」
「もも、もちろんわかりますとも。これはですね」
「うむ」
「これはもう、だれでも知っている、有名なものです」
「だからどうなのだ」

「話は変わりますが、世間ではインターネットというものがあるそうです」
「うむ」
「地デジというのもあるそうです」
「うむ」
「エコポイントというのもあるとか聞きます」
「だからどうなのだ」

「つまり、義理チョコというのもそういうものの一種でして。島倉千代子と奥村チヨを足したようなもので、人名です。二酸化マンガンを加えると酸素が発生することもありますが、世間ではよくあることなので反対してもどうにもなりません」
「さっぱりわからないが、それではホワイトデーとは何のことなのだ」

「はあ、それですが、さすがに私でもそこまではわかりかねます。義理チョコならなんとかなったのですが。でも、大臣3なら分かるかも知れません。私より若く、まだ69歳ですから」

というわけで大臣3が呼ばれた。

「ああ、大臣3か」
「はい、大臣3です」
「おまえならわかるかも知れないと思ってな。『ホワイトデー』とは何だ」
「ホワイトデーとは直訳すると白い日ですが、それは関係ありません」
「なら、何なのだ」

「これはお笑いコンビの名前です。『ホワイ』と『デー』なのです。『ホワイ』を大阪弁にすると『なんでやねん』となることからも明らかです」
「ほほう」

「ホワイです〜、デーです〜、二人合わせてホワイトデー! しかしまあなんですなあ、すっかり春になりまして。はいはい、そうでんがな。春といえば花粉症ですなー、はいはい、ぼくもすっかり花粉症になりましてね、ほー、そうかいな、君が花粉症に、ほんまかいな、ほんまやがな、うそやと思たらくしゃみしてみよか、カ、フンショ! あ、ほんまやほんまや、花粉症や〜てな感じですな〜〜〜。あ、王様、王様、どうなさいました」
「しくしく...しくしく...」

「ど、どうなさったのですか、おなかが痛いのですか、それともおなかがすいたのですか、食べ過ぎですか」
「うう、みんなして...私が何も知らないと思ってでたらめなことばかり...どうせ私は49歳にもなって、何も知らないんだ、義理チョコもホワイトデーも何も...う...う...うわ〜〜〜〜〜ん!」
「ああ、王様、王様、泣かないでくださいませ」

大臣1も大臣2もあわてて戻ってきた。

「もも、申し訳ございません。われわれも、決してでたらめを言うつもりはなかったのです」
「お許しください。王様と同じく、われわれも世間のことはよくわからないのです。くわしく教えてさしあげたいのは山々なのですが、なにぶん知らないことはどうにもこうにも」

「これでは隣の国の王にどう返信を書けばいいかわからないではないか。返事がなければ、きっと『わー、ホワイトデーとか義理チョコが何のことかわからないんだ、だから返事が書けないんだ。いい年をして何にも知らないんだ、わはははは』と笑われるにきまってる。どうしたらいいんだ。わ〜〜〜ん」
「泣かないでくださいませ。この返信についてはわれわれが何とか」
「知恵をしぼって」
「必ず書き上げてみせます」

王様の泣き声があまりに大きかったので、それは城中に響き渡った。そして、折しもじゃがいもを納めにきた、じゃがいも農家のじゃがいもそっくりな顔をした男の耳にも届くことになった。

「なんだいなんだい、大臣さまたち。いったい何の騒ぎでいらっしゃる」
「おお、そちの耳にも入ってしまったか。実はこれこれこういうわけで、返事をどう書けばよいものか悩んでおるのだ」
「なんだ、こんなものでどう悩むんだべ。おらなら寝てても書けるべえ」
「なんだと。ほんとうか」

「ああ、『バレンタインデーの成果は37』なんて、どうせさばを読んでるに決まってるから、こっちも負けずにさばを読めばいいこった。ホワイトデーにプレゼントするには、やっぱりピンクのパンティがよかんべなー」
「なな、なんだと!」

大臣3はあっけにとられ、大臣2は真っ赤になり、大臣1はぶっ倒れてしまった。

大臣たちはそれでもほかに手がかりもなかったので、このじゃがいも男のいうことを参考に、王様の手紙を代筆した。
「ぱ・・・ぱ・・・ああ、だめだ。私にはどうしても書けぬ」
「私にも無理です」
「さばを読むといってもどれくらいにすればいいのだろう」
「仮にも国王です。どうせなら大きくしないと」

大臣たちは三日三晩かかってああでもないこうでもないと悩み続け、やっと文面をまとめた。

貴殿におかれましてはお元気でお暮らしの由、何よりにて候。バレンタインデーの成果『37』個とのこと、慶賀の至りに候へども、当方においては控えめに見積もって『35624』個であったことをご報告させていただき候。なお、ホワイトデーにはピンクの

「ああ、だめだ」
「私には書けません」
「どうしたらいいんだ」

いまだに返事は書けていないらしい。

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