音喰らう脳髄[86]Something Better Change/モモヨ

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リザードIV1970年代まで日本のライブ会場は、すべて着席式のものばかりだった。スタンディング形式のものは皆無であり、クラシックなどの会場ではアンコールを求める際に立ち上がることが許されていたものの、ことロックコンサートにおいては自席ですら立ち上がる、腰を浮かすことすら許されなかったのだ。

......などと書くと、皆さん信じてくださらないかもしれないが、これは紛れもない事実である。私も実際、トイレに行こうとして立ち上がった際に、四方から駆けつけた数人のガードマンに無理やり押さえつけられたことがある。もちろん、トイレへ行きたいことを説明すれば許可されるが、時には暴力をふるわれる客すらあったのだ。これも事実。

当然ながら、当時のライブ現場のあちこちで、立ち上がる客とガードマンの小競り合いが見受けられたわけだ。



The UA Singles 1977-1982The Stranglersが初来日したのは、そんな時代だった。バンドの来日に先立ち空手修行のために来日していたベーシスト、ジャン・ジャック バーネルと邂逅した際に、私はそのことを訊ねられた。

「日本のファンは本当に音楽を楽しんでいるのだろうか?」
という彼の質問に、私は前述の体験を語ったのを憶えている。

......そして、彼らの初公演がおこなわれた後楽園ホール。

ジャンに招かれ私もその客席にいたが、その現場でも席を立とうとした客とガードマンの間での小競り合いがあちこちで見受けられた。

が、そうこうするうちに突如ジャンがベースを置いて客席に跳び下り、ガードマンと客の揉め事に介入した。というより、ガードマンをぼこぼこにしてしまったのだ。これを機に、会場内はアナーキー状態になり、客は椅子を蹴りだしてステージ前に殺到。まさに暴動寸前のパンキッシュな現場と成り果ててしまった。

その混乱状況の中でバンドは、Something Better Changeという代表ナンバーを三回繰り返し演奏して、その日のステージを終えた。

Something Better Change

その同じナンバーを、この4月5日の新宿ロフト、ジャンをヴォーカルに迎えた私達は演奏する。

EU、ヨーロッパ諸国、諸民族の協和を早くから求めたジャンは、その実現の結果に失望していた。統一後、そこに実現したのは、どこもかしこも同じような相貌をした街角でしかなかったから......。

彼が求めたのはポリフォニックな統一感だったといえる。多響的統一感、いうまでもなく音楽における美意識である。音楽内の美的概念とはいえ、私達はそれを認識できるのだ。この点が重要だ。人がそれを認識できる以上、同様の美意識の上に構築された何かが、現実の政治のうえで実現できないはずがない。多響的な統一を否定する世界を私もジャンも嫌忌する。少数派を無理やり暴力で押さえつける者を私達は嫌忌する。

Something Better Change

ジャンはヨーロッパで、私はアジアで、まだまだこの歌を歌わねばならないようだ。まだまだ変わらなくちゃいけないんだ、そうだろ?

Momoyo The LIZARD 管原保雄
< http://www.babylonic.com/ >

photo
Decades Apart
Stranglers
EMI Gold 2010-03-01
曲名リスト
  1. Retro Rockets
  2. (Get A) Grip (On Yourself) (1996 Digital Remaster)
  3. Peaches (1996 Digital Remaster)
  4. Go Buddy Go (1996 Digital Remaster)
  5. Something Better Change (1996 Digital Remaster)
  6. No More Heroes
  7. 5 Minutes (1996 Digital Remaster)
  8. Nice N' Sleazy
  9. Walk On By
  10. Duchess
  11. Nuclear Device (The Wizard Of Aus)
  12. Waltzinblack
  13. Golden Brown
  14. La Folie
  15. Strange Little Girl
  16. European Female (Edit)
  17. Skin Deep
  18. No Mercy
  1. Always The Sun
  2. Nice In Nice
  3. All Day And All Of The Night
  4. 96 Tears
  5. Heaven Or Hell
  6. Time To Die
  7. Sugar Bullets
  8. Golden Boy
  9. Lies And Deception
  10. In Heaven She Walks
  11. Coup De Grace
  12. Norfolk Coast
  13. Big Thing Coming
  14. Long Black Veil (Album Version)
  15. Unbroken
  16. The Spectre Of Love
  17. I Don't See The World Like You Do

by G-Tools , 2010/03/23