歌う田舎者[10]ろくなもんじゃねえ
── もみのこゆきと ──

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郷土の英雄が嫌いだ。

郷土の英雄と言っても、明治維新の英雄、西郷隆盛とか大久保利通ではない。バルチック艦隊撃破の英雄、東郷平八郎でもない。ご長寿界の英雄、泉重千代でもなければ、フラメンコ界の英雄、西郷輝彦(※1)でもない。サラリーマン界の英雄、沢村一樹(※2)でもないのだ。

わたしが嫌いなのは、順子という女と付き合っていた男だ。順子に捨てられて、悲しい気持ちを抱きしめながら名前を呼んでいた、ナイーブな青年のことだ(※3)。え?誰 のことかわからない? その後、成長してギターをかき鳴らしながら結婚式場で♪き〜みに〜しあ〜わせ〜あれ〜♪とお歌いになった"あのお方"ですよ(※4)。

そして、ときには鋼のような肉体で国会議事堂にしょんべんひっかけたりするワイルドさも魅力の"あのお方"(※5)。だいたいわかってきましたか? 最初の奥さんはスタ誕出身のアイドル歌手で、狼なんか怖くないのに旦那のことは怖かったらしい(※6)。週刊新潮4月1日号によると、朝青龍、清原和博と3人ユニットで歌手デビューするんではないかと噂されている"あのお方"。あ、もういいですか? これ以上説明しなくても。



.........言ってしまった。これでわたしはSAT(Satsuma Ansatsu Tokusyubutai薩摩藩暗殺特殊部隊 ※7)に狙われる身の上になってしまった。薩摩藩では西郷隆盛の悪口よりも、"あのお方"の悪口言うほうがよっぽど恐ろしいのだ。ごめんなさい、ごめんなさい。わたし、こう見えて気が小さいんです。カエルの死体とか送らないでください。箱を開けたとたんに心臓マヒ起こして死にます。

えぇ、そうよ。わたし、小さな頃から言われていたわ。「人を噂や外見だけで判断してはいけないよ。自分の目で、耳で、心で確かめてから、判断はするものだ。それが我が家の家訓だよ」と。会ったこともない"あのお方"を悪しざまに言い募るなんて、天国のご先祖様が泣いているわ。だいたい本名で書いてないコラムに人の悪口書くなんて、卑怯以外の何者でもなくってよ。

でもね、正確に言うと、わたし"あのお方"が嫌いなんではないの。だって、"あのお方"がデビューしてから3枚目くらいまではアルバムも買ったのだもの。えぇ、もちろんCDじゃなくてLPよ。悪かったわね、年寄りで。あれは今思うとわたしの音楽人生最大の誤ちだったわ......あ、いえ、もちろんそんなことありませんとも。えぇ、今のは空耳です。

わたしが嫌いなのは、音楽など軟弱者の趣味だと思っているくせに"あのお方"のことだけは一神教のように信仰しているという男なの。

●"間違った男らしさ"とは

わたしのこれまでの人生の中に、"間違った男らしさ"を振りかざし周りを困らせていた男が3人いる。彼らはたくさんの共通点を持っていた。

1.「大きいことはいいことだ」という信念を持っている。

体格も標準以上だが、声も必要以上に大きい。いつも自信満々に自己主張する。自分をもっと大きく見せるため、王様のように肩をいからせそっくりかえって歩く。ひょっとすると巨根であるかもしれないが、見たことはない(見たくない)。蛇足ながら、巨根であるかどうかは男らしさとかモテ度とか気持ちよさには全く関係ない(多分)。好きな野球チームは「巨根」、いやいやもちろん「巨人」である。......「大きいことはいいことだ」って、そんな意味じゃないよぅ!と、草葉の陰から山本直純先生の泣き声が聞こえるような......(※8)。

2.肉体系自慢話が多い。

男らしさをアピールするためか、肉体系自慢話が多い。過去のスポーツ系勲章を、聞いてもいないのに繰り返し自慢する。筋肉を誇示することが男らしさだと思っているので、日々肉体改造に余念がない。

3.オシャレじゃない。

オシャレするのは男らしくないと信じているので、ファッショントレンドからは程遠い、"ダサい"の一歩手前くらいにいる。しかし"オタク"に比べれば相当ファッショナブルだと思っている。総じて女性の好感度は低いが、女に人気があるということは彼らにとって忌むべきマイナスポイントであるので、むしろ望むところだと肩で風を切っている。そのわりには女性の好感度が高い男を妬んでいたりする。

4.反体制的な言動が男らしいと思っている。

「主流と異なる意見を堂々と主張できるオレってどうよ!」と自己陶酔している。反体制的意見を裏付ける情報は持っているが、主流派の意見と真剣に比較検討しようとはしない。なぜなら、反体制的ポーズを取ることこそ彼らのアイデンティティなので、どちらが正しいか、合理的であるかは関係ないのだ。主流派におもねる必要など全くないが、なんでもかんでも反対していると、文句言うしか能のない万年野党のような気がしないでもない。

5.自分の派閥を作ろうとする。

男らしい男はリーダーでなければならない。リーダーとは役割であって、リーダーシップとは問題解決に必要とあらばポジションに関係なく、人や組織を動かし引っ張っていく能力を言うのだが、彼らが目指すのは、なぜかリーダーシップを身につけることではなく、リーダーになることなのだ。

リーダーは手下を持っている。自分の命令に忠実な手下を。自分がリーダーであることを周囲に証明するためには、どこに行くにも(トイレに行くにも!)手下を従え、徒党を組んで行ってみせねばならないと思っている(ホントなんだってば!)。だから、立場の弱い人間や、断れないタイプの人間を力でねじ伏せ、手下に仕立て上げるのに必死だ。しばらく付き合ってみれば、多くの人間は底の浅さを見破り離れていってしまうので、春がくるたびに新人発掘に忙しい。

あぁ、ろくなもんじゃねえ(※9)。こういう"男らしい"人々はどう扱ったらいいんだろうなぁ。

"男らしい"人々は、ひとりでいることができない。孤独に耐える力も、孤独を楽しむ余裕も持たない。彼らが"男らしく"振舞おうとすればするほど弱さを露呈し、女々しく哀れな男になっていく。

男らしさって何だ? 強いことか? 大きいことか? 手下に囲まれ中心にいることか? じゃ、強いってどういうことだ?

世間の冷たい目を浴びながら、わが道を驀進しているオカマの方が、よほど強くて男らしいぞ。

そして"男らしい"人々の最後の共通点が、"あのお方"の狂信的信者であるということなのだ。

少ないサンプル数で過度の一般化を行うことは良くないと思うのだが、わたしの人生的には3人もいればおなかいっぱいである。そんなわけで、初対面の男が"あのお方"の大ファンだと聞くと、心の中でエマージェンシーランプが点灯するわたしなのだった。

※1「星のフラメンコ」西郷輝彦
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※2「サラリーマンNEO セクスィー部長」沢村一樹
< http://www.nhk.or.jp/neo/contents/topic/nyaon5.html
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※3「順子」"あのお方"
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※4「乾杯」"あのお方"
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※5「お家へ帰ろう」"あのお方"
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※6「狼なんか怖くない」石野真子
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※7「SAT」Special Assault Team 特殊急襲部隊
< http://ja.wikipedia.org/w/index.php?oldid=30508146
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普通はSATと言えばコレである。
※8「大きいことはいいことだ」山本直純
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森永YELLチョコレート、50円だったんですねぇ(遠い目)。
※9「ろくなもんじゃねえ」"あのお方"
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【もみのこ ゆきと】qkjgq410(a)yahoo.co.jp

働くおじさん・働くおばさんと無駄話するのが仕事の窓際事務員。かつてはシステムエンジニア。

4/6の編集後記に書いてあったコレ↓
< http://c.recruit.jp/library/travel/T20100330/docfile.pdf
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リクルートじゃらん ご当地調査(PDF)なるものを眺めていたら、薩摩藩は、地元の歌・歌手・音楽家に愛着を感じている人の割合が全国5位。ありえねぇ。いや、なんつーか、これ、間違いなく森進一とか坂上二郎に愛着を感じてるってことじゃないっすよね。ひょっとすると中島美嘉とか元ちとせとか、そういう人だと思いたいのだが、きっとやっぱり誰がなんと言っても間違いなく圧倒的に"あのお方"......。あな恐ろしや。

それにしても今回のコラムは怖かった。取りあえず歌詞の内容確認しようと検索したら、何度もパソコンが固まったのだ。去年の年末に買ったばかりの、バリバリのWindows7(64bit)機だと言うのに。SATの仕業かとマジびびった。暗殺される前に一度はGrowHairさんと浅草ロック座に行かなければ、死んでも死にきれない。はっ......うしろに人影が......。