気になるデザイン[42]エコエコエコエコ......
── 津田淳子 ──

投稿:  著者:


先週かな? テレビを見ていて気になるCMがあった。野球選手のイチローが出演しているNTTグループのCMで「つなぐ。それは、ECOタウン」というもの。いくつかパターンがあるようだが、私が気になったのは、イチローがCDを買いにいくのをやめて音楽データをダウンロード。それがエコ。というような流れのCM。

詳しく見てみようと思ったけど、NTTのサイトにはこのパターンのCMは載ってないなぁ。
< http://www.ntt.co.jp/eco/cm.html
>

で、気になって検索したらyoutubeにアップされていました。
<
>

......これって、CDっていう物質をなくして、音楽配信にすれば、環境にいいってことなのかしら? なんか安直なような......。



まあ、これはホンの一例なのですが、他にもCMだけでなく、さまざまな印刷物でもそれ以外でも、「環境対応」とか「エコ」とか謳っているものに、いつもちょっと斜に構えて見てしまっている。それって本当に環境にいいものなの?

数年前、製紙業界、印刷業界はもとより、一般にも広く問題となった「(年賀状に端を発する)古紙偽装問題」。まだご記憶にある方も多いと思うが、古紙の配合率が、実際は公称の配合率より低いものがかなりたくさんあった(酷い物だとゼロなんてものも)。

それまで、私も含め多くの人は「古紙をリサイクルしていて、古紙配合率が高ければ高いほど、環境に配慮してるんだ」と思い込んでいた。確かになんとなーく、使い終わった紙をもう一度紙にするっていうイメージは、エコっぽい感じに思える。でも、実際には脱墨の問題などもあり、一概にそう言えないこともわかり、今では古紙配合率が高ければ高いほど環境にいい、という考えはなくなっているだろう。

現に、グリーン購入法も今年見直しが行われ、コピー用紙は古紙100%品でなければダメだったものが、印刷用紙も含め、古紙配合率が引き下げられ、従来の古紙だけ重視の姿勢から変更がなされている(まだ古紙重視ではあるようだけど)。
< http://www.env.go.jp/press/press.php?serial=12078
>

そしてこのような状況になって、古紙に変わって環境にいい、エコな紙、という代名詞のように使われだしているのが、FSC森林認証紙だ。大手企業が毎年発行するCSR報告書なんかを見ると一番わかりやすいが、「我々はこのような紙やインキ、印刷を使って、環境に配慮した印刷物をつくっています」ということが、巻末付近に書かれていることが多く、ここ2〜3年は、「FSCミックス品」というマークのオンパレードだ。もちろん他のマークもあるけれど。

FSC森林認証紙について、詳しいことはWebで検索してもズラーッと出て来るので割愛するが、簡単に言えば、適切に管理された森林から生産された木材を使って、加工・流通行程も管理してつくられた紙のこと。そうした原料が使われた紙は「FSC森林認証紙」や「FSCミックス品」と銘打たれている。

確かに過度の森林伐採で、環境破壊している現実があり、このような動きはいい面もたくさんある。だから世の中でも、FSC森林認証紙が広まっているのだろう。でも、ちょっと調べてみると、なんだか解せない部分も出てくる。

そのひとつが、「クレジット方式」というもの。FSC森林認証紙は、現状、クレジット方式と呼ばれる方法で「FSC認証紙」のラベルをつけることができる。これは、例えばFSC認証された原料が50、それ以外の材料が50入った紙をつくるとする。すると出来上がった紙100は、すべて両方の材料が混ざった紙になる。でもそのうち50に「FSC森林認証紙」というクレジットができ、それ以外は同じ紙だけどその表記はできない。

確かに原料の半分が認証されたものなんだから、理にかなっているのかなぁ、とも思うけど、なんだかもやもやした感じも残る......。だって、実際、FSC認証紙(ミックス品)と謳っていても、そのうち何割かは認証材じゃないわけでしょ......とか。あと認証されてない材料ってどんなものだろう、とか。

誤解しないで欲しいのは、FSC森林認証紙が悪いと言っているわけでは決してない。逆に基本的にはいいものだと思っている。でも、古紙問題のときと同じ轍を踏まないためにも、それがどんなもので、どう環境に配慮しているのか、ということを、自分でも今一度確かめてみる必要があるのではないか、と思っているのだ。

そして、FSC森林認証紙と銘打たれていなくても、環境に配慮してつくられた紙はたくさんある(というか、環境を考えずにつくっている紙なんて現状あるんだろうか? っていうくらい、製紙会社の人の話を聞いていると、材料も製造工程でも環境に配慮している気がするんだけど......)

環境に配慮した印刷物というのは、どんな面から環境に配慮しているのか、という、見方、考え方の角度を変えてみると、さまざまな答えがでてくるのではなかと思っている。

というわけで、今回はちょっとだけマジメに、環境問題と印刷物のことを書いてみた。気になってずっと調べているけど、なかなか難しい問題ですね。

【つだ・じゅんこ】tsuda@graphicsha.co.jp

日本全国の見た目も機能もすぐれた紙袋をズラッとご紹介した『見た目よし!機能よし!のショッピングバッグ・コレクション」は好評発売中! 他にも「紙の魅力をもっと知る」特集を掲載した『デザインのひきだし9』、『グッズづくりのイエローページ』、表紙が全部シール(!)になった『デザインのひきだし8』全国書店で好評発売中です!
デザインのひきだし・制作日記 < http://dhikidashi.exblog.jp/
>