ネタを訪ねて三万歩[66]期待と落胆のiPad騒ぎ
── 海津ヨシノリ ──

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●iPadで道具のない不幸を感じる

私がApple製品で初めて予約購入したiPadの話は、皆さんもう食傷気味でしょうから手短に済ませます。賛否両論のiPadは、私にとって想定外の「当たり」を出してくれました。前回少しだけ触れたように、購入目的はどうしても欲しいというものではなかったから、余計にそう感じてしまいました。とにかく使える機器です。

そこで最初に購入したソフトは、必需品の"Numbers"と"Keynote"。正確にはExcelが欲しかったのですが、Mac側で作成したものを表示・微修正するという流れであればNumbersでもまったく問題なし。デザイナーだって表計算ソフトがないと仕事できないですからね。学生の成績もこれで整理しています。

なお、iPad版Keynoteは配置した画像形式によっては表示されない問題があるので、頑張って修正しました。様々なファイル形式を適当に配置しても、問題なく表示されていたのが徒になった感じです。今後は仕様を厳守したいと思います。



続けて"GoodReader"と"i文庫HD"。PDFの取り扱いはAA戦争(Apple vs. Adobe)のために期待しておらず、常識的な流れでGoodReaderに落ち着きました。探し方が悪いのか、純正のAcrobat関連ツール類は「帯に短し襷に長し」であえなく撃沈。ちなみにAA戦争の当事者ではない私は【Adobeの主張<Appleの主張】であると率直に感じました。話を戻し、i文庫HDでiPad読書をいち早く味わっています。というか、i文庫HDでもPDFを扱うことが出来るので、読み物的な資料はこちらを利用するようにしています。

最後に"SketchBook Pro"という流れはありきたりかもしれませんね。問題はスタイラスペンです。なまじSketchBook Proの出来が良いので、どうしても指ではなくペンで描きたくなりました。しかし、一本だけどうしても品切れで入手困難であったペンを除き、色々と試した結果から市販品はiPadを考慮していないと悟り断念しました。iPhoneやiPodTouchで使えるからiPadで使える、というわけではないのです。iPhoneやiPodTouchでは「タップ」「ドラッグ」「フリック」を目的として設計されているからです。「描く」は本格考慮されていません。

最後の手段として、手作りも考えましたが指での描画に落ち着きました。妥協したくないと直感したからです。ワコムさんあたりが本気で発売してくれることを期待しています。そうすれば直感的に悪戯書きが出来るようになります。直感で使えると感じた天国から、道具のない地獄に転落してしまったので、落胆はかなり大きいです。

●直感と不条理とこだわり

とにかく、直感は常に大切にしたいと思っています。無意識に鞄からカメラを取り出し、気になった被写体を撮影してしまう軽薄さもそのせいかもしれません。反面、不思議と撮影する気分になれない場所があります。絵にならない空間や人混みというわけではありません。むしろ気になる被写体の塊だったりすることが多いので、何か不思議な壁のようなものではないかと感じ始めています。場の秩序を荒らしてはいけない雰囲気、とでも言うべきかもしれません。

もちろん神社仏閣の類とは無縁であり、なんだか自分でも良く解らない行動、あるいは癖なのかもしれません。ピクルスやケチャップは自発的に口にすることはありませんが、タルタルソースやトマトは大好きという自分でも理解出来ない私のわがままと同じなのかもしれません。

物は言いようで、こだわりと記せばアーティストになってしまいますが、自称するほど私の精神はまだ崩壊していません。まっ、不条理みたいなものかもしれませんね。しかし、それを突き詰めるほど暇ではないので、定期的に訪れるこの瞬間を案外楽しんでいたりします。

ところが、定期的ではなくて固定的なわがままが私にはあります。その最たるものが音楽鑑賞。iPodは常に2台持ち歩いている私は、とうとう音楽を聴かなくなりました。いや、正確に言うと移動中は聴かなくなりました。電車の中や歩行中です。

そもそも数人で実験して得た安全音量......つまり、満員電車の中であっても他人に迷惑を掛けない音量にすると、音楽を楽しむこと自体が無意味となることも影響しています。だからといって、ノイズリダクションは聴覚にたよる防衛が効かなくなるのが怖いので手付かず。ちょっと神経質過ぎるのかもしれませんが、どうしようもありません。

どうやら、iPodで音楽を聴かなくなった最大の理由は読書かもしれません。とにかく、今まで以上に読書熱が高まっています。授業の肥やしにしたいネタ収集が根底にあることは否定しませんが、だからと言って芸術・美術・デザイン・コンピュータ関連の本ではありません。もう節操なく色々な分野の本に手を出しています。当面はブックオフの100円やアマゾンの1円が標的ですね。もっとも、それすらiPadの出現でいつまで続くかわかりませんね。

要するに、私は「ながら族」にはなりきれないということ。音楽聞いていると別の行動が鈍くなってしまうのです。ですから、仕事中に音楽を聴くことはまったくありません。というよりできないので、音楽を聞きながら本を読むことも苦手です。ただし、室内照明を全て消し手元の小さな明かりだけで推理小説を読むのは昔から大好きです。でもそこに音楽が入ってくると神経を集中できません。雰囲気にあった曲でも。

とにかく、それでなくても乗車中の読書は問題山積です。走行音は雑音なので気になりませんが、大きな声や妙な臭いに過敏に反応してしまうために、どうしても集中できません。ですから、よほど空いていないかぎり座席に座ることはありません。うるさすぎに苛ついたら迅速に移動できないからです。

高校生の頃はラジオの深夜番組を聴いて勉強していましたが、効率は最低でした。そのため、デザイン学科の課題制作は毎晩無音の部屋に籠もって格闘していました。ところが、勤めだした会社はラジオを付けっぱなしでしたので、かなり気疲れの溜まる毎日でした。私自身のこの反応が神経質であることは否定しません。

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■今月のお気に入りミュージックと映画

"Brain Salad Surgery" by Emerson, Lake & Palmer in 1973
エマーソン・レイク・アンド・パーマの「恐怖の頭脳改革」(1973年11月発表)。最後の「悪の教典#9 第三印象/Karn Evil 9: 3rd Impression」の中間部分がどう聞いても宇宙戦艦ヤマト(1974年10月放映)で使われた曲に「最低でもそっくり」。当時その問題がかなり話題になりましたが、インターネットのない時代でしたからウヤムヤとなりました。ちなみに作曲者は後年コンサートにて展覧会の絵(Pictures at an Exhibition by Emerson, Lake & Palmer in 1971)を奏でていました。

"Sabrina, The Teenage Witch" in 1996〜2003(USA)
NHKで放映されていた「サブリナ」。ちなみに監督名は複数存在するので記名しませんでした。日本での吹き替えはほとんど完璧の域でしたが、主人公のメリッサ・ジョーン・ハート(サブリナ・スペルマン役)の声に違和感があり、もっぱら字幕で見続けています。多分オリジナルを字幕で見てしまったから余計かもしれません。とにかく、サブリナ、ゼルダ(サブリナの叔母)、ヒルダ(ゼルダの妹)、セーラム(元人間の猫)の掛け合いは絶品です。

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■アップルストア銀座のセッション 7月19日(月/海の日)19時より

Made on a Macとして画像処理セッション
海津ヨシノリの画像処理テクニック講座Vol. 48
『Adobe CS5による画像処理テクニック/前編』Adobe Photoshop CS5の可能性として、リリースされたばかりのAdobe Photoshop CS5に搭載された新機能の検証と、それらの可能性を独自の視点で整理いたしました。Photoshop CS5はどこが変わったのかを検証してみます。予約不要・参加無料・退席自由ですので、気軽に参加してください。

【海津ヨシノリ】グラフィックデザイナー/イラストレーター
yoshinori@kaizu.com
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>(renewed)
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iPadは手書き系メモソフトなども充実しており、もうノートを持ち歩くのは今年限りと感じていたのですが、まともなペンがないのでiPadでの手書きメモは断念。愛用している無印良品のノートは当分待ち歩くことになりそうです。そして、これを機会に万年筆を購入することにしました。既に細字は愛用しているので、太字を狙っています。これで手書きノートも持ち歩く大義名分が出来ました。