WEBディレクター養成ギブス[02]【自己研鑽編】自ら動いて人を動かせ!
── 蓮井慎也 ──

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WEBディレクターの惨状には、WEBディレクター自身のスキル不足の側面と、所属するWEB制作会社側の非協力的側面にあると前回の危機感編で述べました。今回は、WEBディレクターの惨状をいかに埋めるかについて、自己研鑽編として制作と営業の両面から2つに分けて述べてまいります。

このスキル不足と非協力の関係は、5:5にあるように思えますが、仮に7:3くらい(割合はどうでもよくて8:2でも6:4でも構いません)のスキル不足に比重を置いた考え方をしたい思います。結局のところ、WEBディレクターのスキル次第で案件を終わらせることができますし、所属するWEB制作会社内での非協力を、協力的にまでひっくり返せるようになるからです。

では、非協力を解消(協力的に)するにはどうすればよいのかを見ていきます。答えは簡単で「営業力をつける」ことです。WEBディレクターの仕事は、一に調整、二に調整です。営業と言えば外回りをイメージするでしょうが、"社内営業"という言葉もあるくらい、社の内外に係らずWEBディレクターには制作力以上の営業力を必要とされます。

制作力は営業力の裏付けになる部分であり、重要な要素を占めますが、WEBディレクターにとっての制作力は、あくまでも社内外で営業していく上で裏付けとなる商品知識くらい思っておいてください。



そこで制作力から話を進めますが、WEBディレクターにとって必要な制作力は、どうやれば作れるか? どれくらいの人員と期間とコストを割り当てるか?というところまでを大まかでもよいので、ざっくりと工数計算できるレベルまでで結構です(もちろん、少数精鋭の組織においては自らがWEBディレクションし、制作するところまでを求められる場合もありますので、このあたりは組織の考え方・方針に従ってください)。

よって、WEB制作経験のないWEBディレクターは、自分も作れたほうがいいのではないか? と、WEB制作スキルを磨くより、工数計算できる程度の基礎的なWEB制作スキル習得程度にとどめ、ドキュメント類の整備やSEO、アクセスログ解析の考え方や最新のトレンドを追いかけたほうが得策と言えるでしょう。

一方、WEB制作経験のあるWEBディレクターは、これまで制作のための学習や研究に費やしてきた時間が1/10〜1/5程度と一気になくなりますので、余った時間を有効にドキュメント類の整備やSEO、アクセスログ解析を押さえるのはもちろんのこと、クライアントの業界知識や、そのユーザを意識したIA/UI設計に手を伸ばすことをお勧めします。

WEB制作経験のあるWEBディレクターの落とし穴は、納得のいかない制作物を前にした時、「自分でやったほうが...」と思い込むことで、もちろん、ある局面では自分でWEB制作をやってしまったほうが確かに早いのですが、得られるのはその一瞬のスピードだけでしかありません。

WEBデザインやマークアップ作業に一旦手をつけてしまった結果、そのWEB制作物を最後まで面倒をみなければならないケースも発生し、後々のボトルネックを自らが招いては、結果的に最終防衛ラインで戦う羽目になります。むしろ自分のポジションは比較的高いところを保ち、いつでもクライアントと対峙し、ときには制作者のフォローに回れるポジション取りが重要になってきます。

それでも「自分でやったほうが...」と思ってしまったときにやるべきは、手を動かすのではなく、WEB制作者との対話を心がけることです。WEB制作者に、クライアントやクライアントの向こう側にいるユーザを考える"姿勢"や"こだわり"をとことん示すこと。そして、WEB制作者を甘やかさずに最後までやらせると同時に、自らが制作を"捨てる"勇気を持つことです。

トータル的に見て、WEB制作者が成長による納品物のスピードも含めた品質向上や、ああでもないこうでもないと繰り返す対話によってのみ、WEB制作者との信頼関係や共通言語が生まれ、以降のプロジェクトからは"あ、うん"の呼吸でスピードのある、品質の高いWEB制作を望めるようになります。

以上のようなことができれば、プロジェクトは一応のカタチで終えられますが、それでは波風の立っていないプロジェクトが淡々と回るに過ぎず、首の回らないボリュームの案件を頼まれたり、小さなトラブルが発生してしまうと、WEB制作知識だけではたちまちうまくいかないことになるでしょう。そして、ようやく営業力が重要になってきます。

WEBディレクターの営業活動とは、通常のディレクション業務の中の延長線上にあります。現実にクライアントと金額折衝をしたり、納期調整をしたりしている、まさにそのシーンを思い浮かべてください。営業という言葉を聞いただけで、何か別物の業務であると捉えてしまい、営業マンではないから...とか、クライアントに上手く説明できるかなぁ...などと不安に思っているとしたら、とてももったいない話です。

過去に私が所属したコンサルティング会社が、クライアントに実施したアンケート結果第1位は「もっと提案してほしい」でした。クライアントは、有利な提案を常に受け付ける準備はできており、制作したWEBサイトの効果や結果を求めているのであり、運用段階においては、美しいとされるデザインや上手いプレゼンまで求めていません。

クライアントとの各種折衝を営業マンに任せるのではなく、少しずつ日々の運用からクライアントが求めるレベルのひとつ上を提案してください。電話の雑談レベルででも、打ち合わせで訪問した際にでも、日々勉強した最新のWEBのトレンドを話すことはできるはずです。

営業マンからは「勝手なことをするな!」と怒られるかもしれませんが、クライアントの利益と自社の利益を考えて何が悪い! と堂々と喧嘩するくらいの気構えも必要です。一回の提案がクライアントに断られても、見送られても、常にクライアントのスタンスは「もっと提案してほしい」なので、たまたま雑談で提案した内容にクライアントが響かなかっただけ、と開き直るくらいがちょうどよいです。

もしも提案した中から、クライアントの担当者にピンとくるものがあれば、担当者は上長に相談し、予算を捻出します。年間予算が決まっているから...と最初から諦めるのは早計です。クライアントも常に今以上に売上を上げたいわけですから、期待以上の提案であれば、予算作りを始めるでしょう。そして、上長のレベルでは判断がつかないような提案をし、上長のさらに上の課長クラス、部長クラスを引っ張り出すことが重要になります。ひとつ上の提案をすれば、必ず自分のひとつ上の役職が出てきますので、狙うのは提案も役職も常にひとつ上です。

それでも最終的に受け入れられなかったとしても安心してください。次年度や次々年度に行われるリニューアル提案で、ニーズは把握しているわけですから、ボツ理由に改良や修正を加えれば十分なアドバンテージになることは明白です。提案を受け入れられないことが恥なのではなく、提案しないことが恥と思ったほうがよいと思われます。

こうして社内のプロジェクトをなんとか回し、営業マンに代わって日々の運用レベルの営業活動も行っていくと、自分の中で何かを掴んでいるはずです。それは自信だったり、調整のコツだったり、提案のポイントだったり...。

私のやり口を暴露しますと、社内がどんなに非協力的であったとしても、調整してクライアントを味方につけて、自分の言葉ではなくクライアントの言葉として発信してもらうなど、非協力的なところを協力せざるを得ない状況を創り出します。自社の上長や部長クラス、役員クラスでも同様で、自分に反対する人物よりひとつ上の役職の人間を味方につけて、命令させるやり方にも応用できます。この自分より役職の人間を引っ張り出しては、社内外で自分を立ち回りやすくするのが営業力・調整力であるとご理解いただけると思います。

WEBディレクションの勉強といっても、力のかけ方ひとつで随分と違ってきます。もちろん机上の勉強は大事で、ワークフローやプロジェクト管理の手法など学ぶことも多いはずです。しかしそれだけでは不十分で、WEB業界や他の職種からもテクニックやノウハウをどんどん取り入れて、WEBディレクションに応用していただければと思います。

人にお願いするために頭を下げてばかりだったこれまでのWEBディレクションに、営業力・調整力というスパイスを効かせ、自分の思い通りに人を動かしていきましょう。こき使われるだけだった上長や、クライアントをも自らの手のひらの上で動かすのが、真の意味でのWEBディレクションであり、思い通りにコントロールできたときには、これほどまでに面白いと思える仕事はなかなかない巡り会えないと思います。

次回、WEBディレクター自身ではどうにもならない、WEB制作会社の人材育成面について切り込みます。しかし、経営側が動いてくれると期待せず、まずは自分で自分の身を守り、そして攻撃に転じられるよう、日々自己研鑽に励んでください。(→次回、教育編につづく)

【蓮井慎也 / Shinya Hasui】WEBディレクター
地元WEB制作プロダクションに所属。大手通販企業に常駐しWEB制作をしています。
オンライン名刺 < http://card.ly/hasui/
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