わが逃走[69]「東京のパキパキしたもの」の巻
── 齋藤 浩 ──

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デザイン事務所を営んでいるオレであるが、この不景気で貧乏暇だらけ状態が続いている。あまりにも仕事が減ってしまい、通帳に記載されている数字の額がどんどん減っていく。こわい!!!!!! 隣の部屋を見ると、手下のYとMが暇そうにしている。

オレが言うのもなんだが、奴らはスジがイイ。Yはシンプル&ソリッド路線でエッジの利いた美しいデザインが得意だし、Mはその真逆であるゆるくて安心系なデザインが売りだ。設計と表現の方向性が全員違うから、3人で仕事をしていると実に良いバランスなのである。

こうも完璧な役者が揃っているというのに、ステージが激減している。こりゃいかん、なんとかしなければ貴重なデザイナーが絶滅してしまう! そんな訳で日々営業活動にいそしんでいる齋藤です。仕事ください。

さて、今回は何を語ろうかなーと日々考えていたのですが、景気が悪いとどうにも気持ちも滅入る。シアワセな写真でもながめていればシアワセな気分になるかも、ということで、昔撮った写真の中から自分なりにグッとくる物件をセレクトしてみた。

すると、どの写真もパキパキしている! という訳で、今回は東京のパキパキしたもの、ということで手短にダラダラ語ることにする。



さて、今回のパキパキしたものとは何かというと、建築というか構造物というか、そういったものだ。これらをずらっと並べてみると、モダニズムとかアールデコとかキュビズムとかドイツ表現主義とかいう言葉が浮かぶのだが、ではそれらの言葉が何を示すのかと言われればよくわからんのです。なので総じてパキパキしたものと呼称する。

その1・マーキュリー像
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東京メトロという名前もすっかり定着したようだが、オレ的には営団地下鉄と言ってくれた方がしっくりくるね。で、その地下鉄の入口に昔こんな像があった。今では構内に移設されたものが多いようだが、まだいくつか残っているらしい。

この像、子供のころからなんか気になっていたのだ。スピード! って感じがする。と思ったら、マーキュリーはスピードと商業の神なのだそうだ。うーむ、かっこいい。スピードといえば未来派! そう思って見ると、なんかそれっぽい。しかし、年代的には1951年制作ってことらしいのでわりと最近。鼻から髪の毛へ流れる面と面が作り出す線が好みだ。立体としては上下方向の形状なのにもかかわらず、前後方向への流れを感じるってところがオレ的にグッとくるポイント。

その2・東京都庭園美術館の丸窓
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ご存知旧朝香宮邸。日本に現存する数少ないアールデコ建築として有名だが、この物件に関しては建物全体よりそのディテールが好きだ。柱やランプ、通気口など見所は多いが、中でもこの窓枠の美しさは群を抜いている! と私は勝手に思っている。

蝶つがいを含めた鉄の質感と、軽やかで繊細な形状との対比がイイ。季節ごとの植物や空を反射させるガラスとそれを区切る窓枠。かなりグッときます。

その3・小石川植物園本館
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この悪役な感じ! たまらなくカッコイイです。私はモダニズム建築に対してある種の上から目線を感じたら「モダニズムというよりナショナリズムというべきだね」とか知ったかぶりをするのですが、ホントかどうかは知りません。同様の悪役的建築に根岸競馬場一等貴賓席があります。あくまでもオレ基準ですが。装飾を排して面と線で魅せてるところがイイです。素晴らしい建築です。ぶっこわさないでほしい。

その4・東京大学のポンプ室のような建物
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三四郎池の近くにこんな建物があるのだ。なんか妙にアールデコな感じ。用途不明。小さいけど非常にリズミカルな構成で、どこから見ても面白い形状なのだ。これと対をなす感じでもう一件コンクリートの小屋があるのだが、こちらは階段と一体化したシンプルな造形美。残念なことに両者ともかなり状態が悪く、ぶっこわされないか心配である。この素敵な建築は何なのか? 知ってる人、おしえてください。

その5・公園のゾウ
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かっこいい! 実に見事なディフォルメ。ゾウに似せた遊具はよく見かけるが、これはゾウを想起させる遊具である。この想起させるってところが教育の根源なんじゃないか? クリエイティビティを刺激する、美しく無駄のない形状。曲線と曲面からなる全体のマッスと、シャープな階段+窓部分との対比が良い。ミニチュアがあったら欲しい。ないだろうから自分で作るか。と思い立ってメジャー片手に夜中の公園で寸法測ってたら近隣住民に通報された! なんてことになりそうなのでまだ実行していない。

以上、東京のパキパキしたものたちを紹介しました。
東京は広いので散歩しているうちにもっと見つかるかもしれない。
そのうちまた第2弾をやりたいなどと思う齋藤浩でした。

【さいとう・ひろし】saito@tongpoographics.jp
< http://tongpoographics.jp/
>

1969年生まれ。小学生のときYMOの音楽に衝撃をうけ、音楽で彼らを超えられないと悟り、デザイナーをめざす。1999年tong-poo graphics設立。グラフィックデザイナーとして、地道に仕事を続けています。

これと対をなす感じでもう1件コンクリートの小屋があるのだが、こちらは階段と一体化したシンプルな造形で、こっちもまた美しい。