[2902] 怪しいユーザー登録

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《ぜんぜん"かいつまんで"になっとらんやないか》

■ネタを訪ねて三万歩[68]
 怪しいユーザー登録
 海津ヨシノリ

■歌う田舎者[14]
 真夏の出来事
 もみのこゆきと

■セミナー案内
 MJクリエイティブ電子出版セミナーVol.1


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■ネタを訪ねて三万歩[68]
怪しいユーザー登録

海津ヨシノリ
< https://bn.dgcr.com/archives/20100825140300.html
>
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かつては「データをCD-Rに焼いてバイク便」というのが、デザイナーの納品の定番でしたが、今やデータ転送サービスに置き換わっています。

一定の関係にあるメーカーなら個別にサーバーのパスワードを発行してくれますが、スポットの仕事はデータ転送サービスがないと成り立ちません。そこで私がここ数年愛用していたのがsenduitです。とにかくシンプルで、直ぐに使えるのが気にいっていました。
< http://www.senduit.com/
>

ところが、7月あたりからsenduit自身の障害のためか? まともに使えなくなってしまい大迷惑。そこで色々と別の転送サービスを使ってみていましたが、企業が設定しているセキュリティーの関係で、一般的なデータ転送サービスが利用出来ないことを知り大混乱。

しかたなく先方が「これなら安全」と指定してきた、某転送サービスを利用することになったのですが、利用するには個人情報収集が目的としか思えない露骨なユーザー登録をクリアする必要があります。職業だけでなく、未婚か既婚か・子供の有無・年収と、あきらかに個人情報を収集しているとしか思えない情報記入を強制してきます。メールアドレスでは携帯メールアドレスまで要求するあつかましさ。しかも、すべて必修項目。

そうは言っても、仕事で先方に迷惑は掛けられないので、氏名とメールアドレス以外は丁寧なデタラメの情報を差し上げました。

1989年生まれ/北海道(最初に表示されるだけで選んでいますので深い意味はありません)とそれらしき適当な郵便番号/職業は無職(遊び人という項目がなかったので)/業種と職種はその他(オタクという項目がなかったので)/未婚/子供なし/年収300万以下(無収入が選べなかったので)/住宅形態は借家集合住宅/パソコン利用頻度は週1日以下。その他興味のあるジャンルをチェックしなくてはならず、ここも真剣に考えて適当に。

さてさて、どんなDM群が届くのか楽しみです。もっとも、DMは最初に届く一通目の情報をフィルタ登録し、あとは一網打尽で即刻ゴミ箱に直行。ユーザー登録なんて、名前とメールアドレスに郵便番号と電話番号で十分だと思いますけどね。

別にムキになっているわけではないのですが、過去にすごく嫌な思いをしているからこうなるのです。明らかにあるメーカーの個人情報を元にしたとしか思えない会社から、ひつこいDMや電話攻撃を受けたことがありました。

どうして確信を持ったかというと、登録した数日後から被害にあい始めた事と、登録時の遊び心が確固たる証拠というわけです。つまり、登録時にちょっとした記載変更遊びをしたのです。例えば普段なら「東京都弥生区縄文1-2-3」と記述すべき住所を「東京都弥生区縄文一丁目2番地3号」といった具合に登録していたわけです。それまではこの表記で届くDM類は皆無でしたから、情報源はバレバレというわけです。本当に信用できない世界ですね。

ここでネットがらみで別のイタイ話を思い出しました。オンラインアンケートです。メーカーがなんらかの個人情報をふるいに掛けて、メールで問い合わせしてくる「あれ」です。指定URLに飛ばされて、10分程度のアンケートに答えると運が良ければしょうもない景品がもらえるのですが、私は一度も運を使ったことがないわけです。最初はガチで答えようと努力するのですが、あまりにも馬鹿げた設問だらけに途中でページを閉じてしまいます。その確率90%。そもそも設問に該当する回答がないことも多いです。

だいたいこれを集計してユーザーの動向が正しくわかる? と思っていることがかなり不気味というか、頭悪すぎ。「どこで買ったのか?」「比較したメーカーは?」「適切価格であるか?」とか......正直ウザイ。仕方なくて買ってしまったソフトの場合だと「ふざけるな」と言いたくなります。最近コレが本当に多いですね。

もっとも、必要な常用ソフトであっても短いサイクルで頻繁にアップデートされては「仕方なく買うソフト」と同じ。偶数バージョンあるいは奇数バージョンしかアップデートしないと割り切っても、仕事に支障はまったく出ないと思いますよ。

さて、アンケートと同じぐらいウザイのが、突然送られてくるメーリングニュース。どこかで名刺を交換したらしい(?)ぐらいの関係(多分)なのに、突然読みたくもないメーリングニュースを送りつけられるのは、歩行タバコよりも迷惑な話です。

最初に「メーリングニュースを始めました。宜しかったらココから申し込んで下さい」という案内メールを送ってくれる常識&センスがあればいいのですが、いきなり送ってくるわけです。でも、それで速攻退会すると相手が逆切れするのは必至なので、私はそのままゴミ箱直行設定してしまいます。こんな時代だからこそ、交友関係の常識ぐらいは身につけたいものです。

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■今月のお気に入りミュージックと映画

[涙のテディ・ボーイ]by キャロル in 1974

キャロルと言えば、切れのある矢沢永吉のボーカルと甘い歌声のジョニー大倉。この2人のキャロル(キャロルは4人組)は、私にとって特別でした。特にこの「涙のテディ・ボーイ」は、矢沢永吉による作詞作曲で本人のソロナンバーで、もっとも好きな曲。ちなみにジョニー大倉のソロで好きなのは、「彼女は彼のもの」かな。

とにかく、改めて振り返ってみると、この「涙のテディ・ボーイ」の転調の小気味よさは激しく新鮮です。「雪の世界の恋だから春風が溶かしたなんて〜」ということで夏の曲ではないのですが、あの当時のようにはまってしまいました。日比谷野音の解散ライブに行かなかったことを、今でも後悔しています。もっとも、私は未だに皮ジャンとリーゼントはやったことがありませんけどね。

[Tinker Bell]by Bradley Raymond in 2008(USA)
[Tinker Bell and the Lost Treasure]by Klay Hall in 2009(USA)

ディズニーの「ティンカー・ベル」と「ティンカー・ベルと月の石」を続けてみました。正直そんなに期待していなかったのですが、完全に打ちのめされました。特に第一弾の「ティンカー・ベル」は凄い完成度です。というか、完成度が高すぎるのです。もちろん「ティンカー・ベルと月の石」だって凄くいいです。絶対にオリジナル英語版に日本語字幕で見ないとダメですね。当たり前ですが。

で、子供向けの作品ではないことに注目です。ただし、気が付けばですが。最近の某スタジオの創り出す手描きに拘った絵は綺麗だけど、原作をいじりすぎたストーリが妙に難解で、説教臭く、変な頑固さも鼻につく作品を鑑賞するよりも100倍気持ちいいです。やっぱりディズニーは凄い会社だと思います。

ちなみに、もの作り妖精のまとめ役であるポッチャリ系おばさん妖精のフェアリー・メアリー(fairyは妖精だから、妖精メアリー)がキュートです。このキャラクターはどこかシンデレラに出てくる妖精フェアリー・ゴッドマザー(fairyは妖精だから、妖精ゴッドマザー?)に通じているかもね。もうすぐ公開される次回作「Tinker Bell and the Great Fairy Rescue」も楽しみです。

ところで妖精というと、1986年に制作された「ラビリンス/魔王の迷宮」の主役である16歳当時のジェニファー・リン・コネリーを思い出してしまいます。まさに妖精的なキュートさが印象的でした。

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■アップルストア銀座のセッション 9月20日(月・祝)19時より

Hands on a Macとして画像処理セッション
『海津ヨシノリの画像処理テクニック講座Vol. 50』
リリースされたばかりのAdobe CS5のうち、Adobe Photoshop CS5、Adobe Illustrator CS5を中心に他の製品との連携処理の可能性について独自の視点で整理予定しています。奇数月のセッションは予約不要・参加無料・退席自由です。

【海津ヨシノリ】グラフィックデザイナー/イラストレーター
yoshinori@kaizu.com
< http://www.kaizu.com
>(renewed)
< http://kaizu-blog.blogspot.com
>
< http://web.me.com/kaizu
>

○MacProの購入のタイミングを外す

新型のMacProのリリースを待っていたのですが、とうとうしびれを切らして現行品を買ってしまいました。ところが、その数日後に新機種のアナウンスが出てがっくり。こんなことなら、iPod Touchが手に入る春に購入しておけば良かったと反省。とにかく落ち込んでもしょうがないです。ちなみにスペックは2×2.26GHz Quad-Core Intel Xeon/16GBメモリ。更に別途2TBのハードディスクを4基購入して搭載。AirMac Extreme Wi-Fi Card with 802.11nをオプション選択するのを忘れたことは大後悔。ただし、サードパーティー製が恐ろしく安いことを知って後悔は収まりました。

○合宿に参加してタイムスリップ?

今月末に、多摩美術大学造形表現学部デザイン学科デジタルデザインコース4年生の合宿に参加することになりました。私が学生の頃に利用した合宿所なので、相当テンションが上がっています。なにせ建物が当時のままですから、私はタイムスリップしてしまうかもしれません。もっとも頭の中はいつもスリップしっぱなしですけど。とにかく学校は色々と面白いことがいっぱいです。

○AM仙台PM品川

8月24日は午前中に仙台でセミナーがあり、午後は品川でもセミナーという強行軍。仙台は4月にも出かけましたが、やっぱり本当にじっくりと徘徊したい街です。本当は前日に仙台入りしてじっくりと徘徊出来れば良いのですが、そうもいかないのが現実のシビアさ。でも、ここのところ色々なセミナーに教え子が参加していることが多く、セミナー後にちょっとしたミニ同窓会になることが続いているので、疲れは一気に吹き飛びます。

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■歌う田舎者[14]
真夏の出来事

もみのこゆきと
< https://bn.dgcr.com/archives/20100825140200.html
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真夏の出来事と言えば、彼の車に乗って最果ての町に行くことに相場は決まっている(※1)。平山みき先生がそのようにおっしゃっているのだから、間違いはない。8月と言えばまごうかたなき真夏である。もちろんわたしも日本国民としての義務を果たすべく、車に乗って最果ての町に出かけた。

注意深い読者の皆さんは、ここで気付いたかもしれない。何かが足りない。何が? "彼の"だ。最果ての町には"彼の"車に乗って行かねばならないのだ。ふっ......悪かったな。自分の車で。仕事だ、仕事。真夏は地方巡業のシーズンなのだ。

意地汚いわたしにとって、地方巡業の楽しみと言えばランチタイムしかない。しかし、違いのわかる女は知っている。最果ての町でオシャレなメニューを頼んではならないことを。そんなところでカルボナーラなど注文したら、間違いなく炒り卵スパゲティが出てくるのだ。最果ての町で最も当たり外れがないのは、ラーメン・うどん・とんかつ定食である。海辺の漁村だと、刺身定食という選択肢もある。

しかし、あの夏の日、わたしの胃袋は、ラーメン・うどん・とんかつ定食の繰り返しに飽き飽きしていた。ネットで調べると、その最果ての町にはフランス料理店を標榜する店が一軒あることを確認し、違いのわかる女の看板を一時外して、その店に足を踏み入れてみることにした。

駐車場に車を入れて、おそるおそる店を覗いてみる。なんだか薄暗い。電気がついていないのだ。もしや潰れてしまったのか? ......しかし、営業中のカードはぶら下がっている。薄暗い店に入ってみると、おおよそ50歳くらいのオバチャンが出てきた。

「あら、お客さま?」「あ、はい」「まさかお食事?」
まさかって、その、まさかの食事です。
オバチャンはあわてて室内の電気と空調をつけ、BGMのスイッチを入れた。
流れ出るボサノバの調べ。来客は想定外だったようだ。

「ええと、どうしましょう」
え、どうしましょうって......だ、だいじょうぶですか?
「ランチですよね」
ディナーじゃありません。正午ですから。
「たとえば1,000円くらいとか、1,500円くらいとかでしょうか」
た、たとえば?

「えーと、そのたとえばなランチは、どんなランチなんですか」
「前菜の盛り合わせとか、メインとか、デザート、コーヒーですね」
「はぁ。じゃあ滅多にこのへん来られないんで、1,500円でお願いします」
「まぁ、かしこまりました」
オバチャンは笑みをたたえてキッチンに消えた。どうやらメニューというものはなかったようだ。

しばらくして、ワンプレートに盛りつけられた前菜が出てきた。ポタージュスープにベーコンのキッシュ。ブロッコリ・ニンジン・アスパラのゼリー寄せに、野菜サラダ。最果ての町とナメていたら、意外にちゃんとしたものが出てきたのであった。その後、メインに隠元とトマトのソースがかかったハンバーグ。

最後に運ばれたフルーツ添えムースが、まだ解凍されていなかったのは少なからず残念であったが、コーヒーとともに平和なランチタイムが終わろうとしていたその時......。

うっ、腹が痛い! 最果ての町などと失礼なことを言ったので罰が当たったのか? 下腹がぎゅるぎゅると鳴き出した。

こっ、この痛みは"アレ"か ......話せば長いことながら、かいつまんでお話すると、わたしは長年大変な月経困難症に苦しめられている。ちなみに、VRS(Verbal Rating Scale:痛みの強さを口頭で伝えるための評価スケール)では、最も強い痛みを『痛みのために動くのもつらく、一日中横になっている』と表現しているが、冗談ではない。『痛みのために横になることすらできず、転げまわっている』なのだ。

様々な治療を試みたが、なかなか良くならず、現在服用しているのは、漢方の桃核承気湯である。この薬、「体力のあるガッチリタイプもしくは肥満体質の人で、顔色がよくのぼせ気味、また下腹部が張り便秘がちの人に向く処方」(おくすり110番 ※2)というシロモノなのだが、わたしはもう少しで掛かり付けの婦人科医に「おまんは、わしのことをガッチリした肥満体質で下腹が出とると、そう思うとるがか」と詰め寄りたくなった。しかし、実は問題なのは"便秘がちの人に向く処方"と、ココなのである。

確かにわたしは便秘がちである。しかし便秘薬の成分には敏感なのだ。胃検診でバリウムを飲んだあとに貰う下剤など、激烈に効きすぎて仕事にならなくなるので、毎回午後半休することに決めている。

先日の検診の時など、職場のうら若き男子が、バリウム後、夕方まで客先回りという狂気の沙汰としか思えないスケジュールを入れていて、こいつはアホか、さもなくば鋼鉄の大腸小腸柔突起を持つ妖怪なのではないかと思っていたら、案の定、イオンのトイレで塗炭の苦しみに喘いでいたようである。

バリウム下剤を侮ってはいけない。読みが甘いわ。わたしなんぞ、この検診の時は何やら他の巡り合わせも悪かったのか、その後2日間、腹下しで家から動けず、デジクリの原稿も落としそうになったのだ。健康診断で健康を害するという笑えない話だ。

婦人科医から「桃核承気湯、一応、毎食前3回でお出ししときますけど、下剤が効きやすい体質だったら調整してくださいね」と言われ、実験した結果、1日3回飲むと、お腹ピーピーで日常生活が送れないということがわかったので、夕食前に1回だけ飲むことにした。以来、快適便通生活を送っていたのだが、たまたまその数日はリズムが悪く、前日2回飲んでいたのだ。......説明が、ぜんぜん"かいつまんで"になっとらんやないか。

「トっ......トイレ.........」
腹を押さえフランス料理店のトイレに駆け込み、苦悶の数分。その後、無我の境地で数か月ぶりにわが作品と対面した。

え? あんた、なんでそんな長い間、自分の作品と対面してないんですか? ふっ、屈辱的なその言葉。......話せば長いことながら、かいつまんでお話すると、わたしは、自らの作品を見つめることなどできない環境にあるのだ。

室井滋の書いた『幸菌スプレー』(※3)という本がある。デパートのトイレに長蛇の列ができているときに和式トイレが空いても、麗しき婦女子の方々は「和式苦手なんで、お先にどうぞ」と後に譲ってしまう人が多い。「私、和式、使わせてもらいます。お・さ・き・に!」と宣言して和式に入った室井滋は、眼下の金隠しを見つめながら「あんたも嫌われたもんだねぇ」と思った......と書いている。

しかしな、これって、選択肢は和式水洗と洋式水洗の二択だよな、間違いなく。そんな素敵な選択肢を前に、贅沢云ってるんじゃねぇや。日本国民は、トイレという構造物の多様性を忘れちまったんじゃないのか。「あら、もちろんウォシュレットだってあるわよね」ちがーう!!! そんなたわけたことを云う輩は、獄門さらし首にしてやる。なに? うちか? うちのトイレを知りたいのか? ......おほ、おほほほほほほ。そんなに知りたいなら教えてあげてもよくってよ。うちのトイレはね、おフランス風に云うと、ド・ヴォン式ですの。皆さまご存じかしら、ド・ヴォン式。『ド』が付くってことは、もちろん、貴族にしか使えないことを表していますの。

[ド・ヴォン式]用を足したあとの作品は、奈落にどぼんと落下するのみ。落下式とも云う。別名としては、ポットン、ボットン、スットン、ドッポンなど、様々な名称がある。

わかったか、ゴルァ。だからな、作品を感慨深く観察することなんかできんのだ。観察する間に、奈落に落ちていくんだからな。文句ある奴、出てこい! おまいら東京モンにはわかるめぇ。華麗なる水洗トイレの恩恵に浸りきり、そのありがたみなど思い出しもしない奴等にはな。

あまつさえ『成功者は皆トイレ掃除をしている』などとしたり顔で語り、その上、『素手で掃除するともっと運気がつく』などと書きつらねる輩までいるが、まったくトンでもないうつけ者だ。君らの頭には水洗トイレしかないのであろう。ド・ヴォン式のトイレを素手で掃除したら、つくのは運気じゃなくてウンチである。

しかし、最果ての町などと言っていたフランス料理店のトイレすら、和式水洗だったのだ。うぅぅ、わたしの家の方がよほど最果てではないか。いや、しかし、わたしだって好き好んでド・ヴォン式に甘んじているわけではない。世間様並みのトイレにしたいのだ。そうならないのは、ひとえに都市計画課の職務怠慢だ。わが住処は、お上より区画整理で立ち退きを宣告されておるのだ。

それなら移転先で、黄金の茶室ならぬ、黄金の水洗ウォシュレット御殿を建ててやる! それまでは耐えがたきを耐え、忍びがたきを忍ぶのだ......と密かな野望を抱いていたのに、宣告されてから何年も放置プレイされている。責任者出てこい! ......説明が、ぜんぜん"かいつまんで"になっとらんやないか。

悔しさを胸に、まじまじと作品を見つめるわたし。保健所は云う。
「色や硬さを観察し、自分の体調管理に役立てましょう」
保健所様のおっしゃることは絶対だ。わたしも自分の体調管理のために、ここぞとばかりに詳細に観察を行った。「......あ、あれ? これは何だ? 何やら小さな赤いものがちらほらと散りばめられているが......」

こ、これは、もしや......話せば長いことながら、かいつまんでお話すると、それは昨晩のディナータイムに遡る。冷蔵庫を開けたわたしは、保存食タッパーの後ろに見慣れない瓶を見つけた。「あれ、なんだっけ、これ」

取りだすと、それは横浜中華街・萬珍楼の香辣脆(シャンラーツイ ※4)である。話題の食べるラー油に近いものだが、大量の鷹の爪が暴君ハバネロ並みの暴れん坊ぶりを発揮する、痺れる辛さの激辛調味料で、辛いもの好きのわたしに妹旦那が送ってくれたものだ。

「しまったなー、何かの拍子に、後ろにしまい込んじゃったんだな」
半分食べた状態でしまい込まれていたのだが、賞味期限を見ると、既に2週間過ぎている。しかし、わが胃袋の強靭さと香辣脆の原材料を鑑みたとき、これは間違いなく、あと3か月はイケる。何、死にゃあしない。味見したが、開栓時と同様にうまいではないか。大丈夫。かまへんかまへん(良い子はマネしないでね)。

しかも、この夏、妹一家が3年ぶりに帰省することになっていた。もし、賞味期限の切れた香辣脆が冷蔵庫に鎮座ましましているのを発見したら、妹旦那の悲嘆はいかばかりか。「お義姉さん。辛いものが好きだって言ってましたよね。あの冬の日、横浜は氷点下でした。香辣脆をお義姉さんにプレゼントしようとポケットをさぐれば、小銭が少し。中華街に立ち並ぶ店を覗くと、おいしそうに湯気を立てる饅頭や炒飯の匂い。僕は買いたい気持ちを我慢して街角に座り、かじかむ指先でマッチを売り続けました。やっと何人かのメリケンさんに買ってもらうことができた頃には、僕の指はしもやけで真っ赤でした。天津甘栗の売り子をかわしながら萬珍楼に辿りつき、ポケットの小銭と、マッチを売って手に入れたお金を足して、やっと買った香辣脆。♪あゝそれなのに それなのに ねえ おこるのは おこるのは あたりまえでしょう(※5)」

いったい何の話なんだかわけがわからなくなってきたが、細かいことは気にしなくてもよろしい。とにかく、冷蔵庫に賞味期限切れの香辣脆を置いておくようなことは、人として決して許されないのだ。なんとしても妹一家が来る前に食べ尽くさねばならぬ。そんな食べ残し、捨てちゃえばだと? 何を云うか。わが家は農家の家系だ。そのようなことをしてはお百姓さんに顔向けできねぇべさ。

そして、前日の夕餉。白ご飯に香辣脆。冷や奴に香辣脆。マカロニサラダに香辣脆。餃子に香辣脆。「いやー、何につけてもうまいべさ。いくらでも食えるでねえか。うますぎて止まらないべ」そんなホットな夕餉の時間を過ごしたのだった。おそらく激辛調味料の摂取量としては、通常の5倍は取ったであろう(当社比)。そうか、そうだったんだな。わたしの作品に散りばめられた赤いものは。せっかくだから作品に『鷹の爪のロンド』とでも命名しよう。......説明が、ぜんぜん"かいつまんで"になっとらんやないか。

鷹の爪よ。こんなところでまた再会するとは。会いたかったぜ。いや、あまり会いたくなかったかもしれない。こんなところでは。思わぬ再会ではあったが、芸術作品とは儚いもの。惜しまれて去ることこそが美学であり、芸術の役割だ。わたしは涙をぬぐい、水洗のレバーを押した。さらば『鷹の爪のロンド』。また会う日まで。いや、会わなくていいけど。

感傷を胸に秘め、立ち上がった。「......うぉ、ちょっと待て」な、なにやら作品の出口がヒリヒリするのだが......熱い! しっ、尻から火が、火の手が上がっておる! これは鷹の爪の残党か。激辛が尻に良くないというのは本当だったのだ。さ、さすがに食べ過ぎたか。

「どうもありがとうございます〜。またおこしくださいませね」フランス料理店のオバチャンの涼やかなお見送りも、熱く燃え上がる尻を冷やすことはできなかった。しかし、松岡修造なら言うだろう。「人間熱くなったときがホントの自分に出会えるんだ!だからこそ、もっと熱くなれよ!!!(※6)」
......ホントの自分ってどこ?

職場の女子に、あの夏の日の報告をしたのは、昼下がりのランチタイムである。鷹の爪との劇的な再会を涙ながらに語ったものだが、うら若き女子たちも、自らの作品について語ってくれた。中には『もやしのエチュード』だとか、『ひじきのコンチェルト』などという妙なる調べの作品を生み出した女子もいた。ガールズトークはいつもエレガントだ。芸術の世界は深い。

※1「真夏の出来事」平山みき
<
>
※2「おくすり110番 桃核承気湯」
< http://www.interq.or.jp/ox/dwm/se/se52/se5200106.html
>
※3「幸菌スプレー」室井滋
< http://www.amazon.co.jp/exec/obidos/ASIN/4167179156/dgcrcom-22/
>
※4「横浜中華街・萬珍楼の香辣脆」 ←いや、うまいです。ほんとに。
< http://www.manchinro-shop.com/SHOP/74.html
>
※5「あゝそれなのに」美ち奴
<
>
※6「松岡修造名言集」
<
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【もみのこ ゆきと】qkjgq410(a)yahoo.co.jp
働くおじさん・働くおばさんと無駄話するのが仕事の窓際事務員。かつてはシステムエンジニア。食事しながら読んでた方、スミマセンスミマセン。

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■セミナー案内
MJクリエイティブ電子出版セミナーVol.1
< http://book.mycom.co.jp/event/digipub0908.shtml
>
< https://bn.dgcr.com/archives/20100825140100.html
>
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雑誌「Web Designing」、雑誌「+DESIGNING」、マイコミジャーナルの3媒体合同主催による電子出版をめぐる現状や課題についての理解を深めることを目的としたセミナー。参加対象者は、編集者、デザイナー、DTPオペレーターなど制作者を中心とした、電子出版に関わる人々。(主催者情報)

日時:9月8日(水)15:00〜18:30
会場:毎日コミュニケーションズ マイナビルームA(東京都千代田区一ツ橋1-1-1 パレスサイドビル9F)
< http://www.mycom.co.jp/company/map/01.html
>
定員:120名
参加費:8,000円。
申し込み:サイト参照

「電子出版の今と出版業界の課題」村瀬拓男(弁護士)
「電子書籍フォーマットの基礎知識」境祐司
「InDesignからePubの書き出しの実際」森裕司(有限会社ザッツ代表)

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■編集後記(8/25)

・1990年に始まった1泊2日の"修学旅行"と称する中学校のクラス会は、隔年開催でいつも15人前後が参加する。20年前の第1回では、わたしが手がけた"なつかし写真"の上映が好評を得た。学校行事のスナップを中心に、古い写真をVHSビデオカメラで複写しただけのものだ。再生の手段は考えていなかったが、ラッキーなことにホテルのカラオケセットの大画面に投映できた。当時のパソコンやプロジェクターなどの機材を使わないで、安上がりでそこそこ効果的なイベントが実現できたのである。その後も、写真投映イベントのリクエストはあったが、素材つくりがめんどうなのでやらなかった。そしていま、プロジェクター内蔵のニコンCOOLPIX S1100pjの進化がとても気になる。投影画像の明るさとサイズが向上し、パソコンに接続するとパソコンのモニタで表示しているデータが投映できるようになった。スキャナで取り込んだ古写真なども効果的に投映できるわけで、わが"修学旅行"のスライドショーにぴったりではないか。しかし、古くて重いノートパソコンを持って行くのは抵抗がある。デジカメのSDメモリーカードに、パソコンにあるJPEGデータが入りさえすればいいのだが、たぶんこれは不可能だと思う。だが、S1100pjではパワーポイントデータをJPEGに変換し、SDメモリーカードに保存、投映が可能とある。サポートに電話で聞いたら、この機種はパソコン上のJPEGをSDメモリーカードに保存が可能との回答。画像処理した写真もカメラに戻せるという。おお、望んでいたことが実現した。11月の"修学旅行"に間に合うではないか。大問題は購入するための金だな。(柴田)
< http://www.nikon-image.com/products/camera/compact/coolpix/style/s1100pj/
>
ニコン COOLPIX S1100pj

・スーパーマリオブラザーズのテーマソングをテスラコイル(高周波・高電圧を発生させる共振変圧器)やら、ラジコンカーを走らせてのボトル演奏やらで。ボイスパーカッション(ヒューマンビートボックス)は、中盤〜後半がいい。レーザーカッターの仕組みはよくわからない。定規では「おーまーえーはーあーほーかー」を思い出した。ぜひ横山ホットブラザーズにやってもらいたい。バイオリンは効果音入り。コインの音が好き。フルートはクラシック音楽な雰囲気かと思いきや、ボイスパーカッションつき。ピアノは最初目隠しで。楽器演奏の場合は小技が入ったり、独自アレンジだったり。オーケストラではマリオ動画が出た時のどよめきが好きだなぁ。(hammer.mule)
< http://www.walyou.com/blog/2010/08/23/super-mario-bros-theme-remakes/
>
マリオ曲演奏21選。
< http://ja.wikipedia.org/w/index.php?oldid=32761617
>
テスラコイル
< http://ja.wikipedia.org/w/index.php?oldid=33600814
>
ヒューマンビートボックス
<
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改めて見ると凄い。見慣れて何とも思ってなかったわ。さすがプロ。YouTubeで海外に広めるべき!?