わが逃走[71]「あぜ道を撮りたい」その2 の巻/齋藤 浩

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暑い。暑いなあ。
前回もこんなこと言ってたけど、まだまだ暑い今日この頃です。みなさまいかがお過ごしでしょうか。

巷では熱中症で百何十人も死んじゃったり、非実在高齢者が次々と発見されたりと、いつになく異常な夏です。

21世紀の1/10が終わってしまう訳なので、その節目として思い出に残る演出を考えてくれているのであれば、もう少しまともなのがよいです、神様。

そう、節目っていえば、少し前にライカが「フィルムカメラはすでに製造してないよ宣言」をしちゃいました。カメラの祖ともいうべきライカカメラ社自身がそういうことを言っちゃった。ということは、もうホントになくなっちゃうかもしれないな、フィルム。私のいる業界を振り返っても、写植や版下が消滅したのはあっという間だった。

そもそもレコードジャケットに憧れてデザイナーになったらすでに30センチ×30センチの世界は過去のものとなっていた、と思ったら今や12センチ×12センチまでもが消滅しようとしている。何事も消えるときは早いなあ。

とはいえ、アナログレコード用の針も、プレイヤーも今なお販売されていることもまた事実。そんなことを心の支えにしつつ、フィルムのあるうちにフィルムカメラを使おうキャンペーンがオレの中で絶賛開催中なのだ。



その一環として、子供の頃から好きで撮ってたけどイマイチうまく撮れなかった被写体『あぜ道』をフィルムで撮影することにした。

ここでは『あぜ道』と言ってるけど、極端な話、風情のある田んぼや畑のまわりの道なら何でもOK。さらには林道的な未舗装路も好きなので、そんなものも含めてじわじわと撮っていこうと思う今日この頃だ。

で、7月のある日、思い立ったが吉日ってことで信州は蓼科なるところに向かう。今回使ったカメラはCONTAX G2。今はもうカメラ事業から撤退してしまった京セラが、最後っ屁のごとく世に放った究極の変なカメラだ。

いわゆるレンジファインダーカメラと銘打っているもののオートフォーカス採用、しかも距離計用の測距窓とフレーミング用のファインダーがそれぞれ独立していて、ピントの合焦が確認できない。つまり、レンジファインダーカメラのいいところが全て機械めの手中にあり、使い手は機械の言うことを信じて構図を決めてシャッターを押すだけ。

こんなアホなカメラのどこがいいんだ?しかも重いし。

えー、何事も(とくにカメラは)一度惚れてしまったら最後、いかなる欠点も美しく見えてしまうものです。「だって写りが良くてカッコいいんだもん」。G2の魅力を語るなら、このひと言に尽きる。

とにかくスゴイその1として、レンズがスゴい!

このカメラのためにラインナップされたレンズは全てカールツァイスレンズ。まあCONTAXにはツァイスと相場は決まっているのだが、あの天下のツァイスレンズが16mmから90mmまでずらっと揃ってる。しかも中古価格が安い!

ただでさえお値ごろ感あふれる当時の定価の半額以下〜1/4程度の値段で買えちゃうのだ。言うなれば、ライカ用のツァイスレンズを1本買う値段で4本くらい買えちゃう。G2は今最もリーズナブルにツァイスのシステムを組めるプラットフォームと言えましょう。

ちなみにツァイスレンズのすごさについては『わが逃走[38]ツァイスがスゴいの巻』も参照のこと。
< http://bn.dgcr.com/archives/20090212140300.html >

今回は具体例としてこんな写真を紹介します。信州は佐久市臼田町の"うすださん"ことJAXAのパラボラアンテナ。
fig01.jpg

明るい青空をバックにした白いパラボラの写真ですが、パラボラが白いのに空が青い! しかも階調に黒ツブレもなければ白トビもない。

普通、一般的なレンズで一般的に撮ってもこんな絵にはなりません。ところが、G2で露出オートにして普通に撮っただけで、こんな写真が撮れてしまう。おそるべし、ツァイス。

しかもこのスゴイレンズ群に、デジタル時代の救世主・マウントアダプターが登場した。これにより、マイクロフォーサーズやソニーαEマウントでもG2用のレンズが使えるようになった。そんな訳でCONTAXのGマウントレンズはお買い得です。あ、話が少しそれた。

さてスゴイその2はスタイルの美しさだなあ、オレ的に。

G2のチタン外装+丸みを帯びたデザインは、カメラが正常進化した形状だと断定する。オレ的に。

最近のフィルムカメラ(とくにレンジファインダーカメラ)のスタイリングが軒並みノスタルジック路線なのに対し、G2は過去の名機の意匠を継承しつつもCONTAXが提案する(当時における)カメラのありかたを具現化している。このへんの突っ走ってる感じがまたイイ。

まあ結果としては突っ走ったまま5年前に製造を終え、デジタル化の波に乗り遅れた京セラはカメラ事業から撤退してしまう訳だが。

と、機材の紹介が長くなってしまった。さて撮影だが、朝5時半に起きて、田んぼや畑のまわりを散歩しつつ撮影する。

今回のテーマはあくまでも道であり、状況説明ではない。なのだが、つい癖で道を脇役としたありがちな構図になっちゃうんだなあ。未舗装の轍を見てるだけで嬉しくなっちゃって、つい勢いでシャッターを切っちゃう。テーマを決めて写真を撮るには強い意志が必要ですね。で、撮ってみたのがこちら。
fig02.jpg

なにやら道を撮るんだ! という無駄に強い意志を感じて逆に不自然。これならもう少しカメラ位置を低くして、レンズを地面に対して水平に持っていった方がよかったかも。

次。
fig03.jpg
色はきれいなんだけどもっと絞るべきだったなー。被写界深度が中途半端でした。手前のボケはいいとして、奥をもう少しシャープに見せられればそれなりに気持ちよかったかも。

次。
fig04.jpg

望遠レンズで緑を圧縮し、草の臭いみたいなものが定着できれば...なんて思いながら撮った。こちらも、もう少し深度が深くてもよかったかも。ツァイスレンズだー! って嬉しくなると、つい絞りを開けたくなる。このあたりの自制心が必要ですね。

また、圧縮された分どこかにヌケを作ってあげないと息苦しい。空を入れるべきだった。また、画面中央に、構図を2分割する電信柱に気づかなかったのは愚か。

fig05.jpg
田んぼの緑と舗装路の動物の足跡。
うーん、つまんないですね。

以上、張り切って撮影した割にはたいした成果は得られませんでした。今気がついたのだが、幼少の頃の原体験としてのあぜ道ってのが根底にあるのだとすれば、いずれも視点を低くすべきだったのかも。

そのへんを踏まえた上で、再度チャレンジしようと思う。でも撮ってるときはとても楽しかったし、次の撮影のときはどこを気をつけるべきかなんとなくわかったのでとても満足。趣味は仕事と違って気楽でいい。

【さいとう・ひろし】saito@tongpoographics.jp
< http://tongpoographics.jp/ >

1969年生まれ。小学生のときYMOの音楽に衝撃をうけ、音楽で彼らを超えられないと悟り、デザイナーをめざす。1999年tong-poo graphics設立。グラフィックデザイナーとして、地道に仕事を続けています。