Webディレクター養成ギブス[05]スピードと判断力
── 蓮井慎也 ──

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思わぬ見落としや、意識のズレ、勘違い、もしくはWEB制作スタッフの急病による離脱など、WEB制作現場にはトラブルがつきものです。クライアントから到着した原稿ミスにより発生した誤植など、些細なことに目をやれば、日常茶飯事といっていいほど、小さなトラブルから大きなトラブルにまで、頭を悩まされる毎日を送っているのがWEBディレクターでしょう。

さて、これらトラブルや難題に対して、重要なWEBディレクターの能力は"判断力"です。その判断が早ければ早いほどよく、しかも本質を見抜いており正確かつ、その後の行動レベルにまで落とし込みができている判断力。この判断力こそが、最後は駆け込み寺のようになってしまうかもしれませんが、いずれにせよWEB制作スタッフから頼られ、安心して制作業務に邁進できる環境づくりに繋がり、結果としてより良い納品物につながる求心力であると言えます。

この判断力を培うには、それ相当の経験や訓練が必要で、一朝一夕に身につく能力ではありません。刻一刻変化する制作環境においては、ディレクターに関する本をいくら読んだところで、基本的に机上の空論で役に立たず、それでもそれを推進しようとしたら、杓子定規なWEBディレクションとなってしまい、クライアントや自社の営業マン、制作スタッフからも却って反感を買う羽目に遭うかもしれません。



社内に必ず一人はいるかもしれない「この人!」というWEBディレクターに付いて、その都度トレーニングしてもらうのが一番ですが、社内事情によっては難しいかもしれません。また、ケースごとに「どうやればよかったのか?」を質問したり、教えを乞うのもよいのかもしれません。

WEBディレクターとしての自分が考えていることと、トレーナーとしてのWEBディレクターが考えていることのギャップを考え、まずはトレーナーの言うことがどれだけ正しいのか、クライアントの反応をみながら体感するのが自身の成長の近道です。

大事なことは、まず自分自身で考えること。次にトレーナーの意見を聞いて、ギャップを埋めてください。自分で考えることを疎かに、ただ指示を待ったり、意見をもらっているだけでは、自身の成長は期待できません。自身で考え、ギャップを埋めることで得られる本質を見抜く力や、目的と手段を見誤らない結果につながるからです。

中にはトレーナーなんて存在しない、というWEBディレクターもいらっしゃるでしょう。そんな方に自身のトレーニング方法の実践方法を紹介したいと思います。

クライアントからの修正原稿をもとに、イチイチ画面キャプチャーをExcelやPowerpointに貼り付け、図を入れたり、線を引っ張ったり...修正原稿が見やすく分かりやすい資料作りに励んでいるWEBディレクターを極たまに見かけることもあります。

これは誤解や意識違いがないように、という配慮なのかもしれませんが、これこそが本末転倒で、前回でも述べた「手段で仕事をする」タイプです。これが悪いのは、丁寧な資料作りに満足してしまい、丁寧な反面、制作スタッフの時間を奪ってしまっていることです。

伝達手段は、メール、電話、IM、FAX...と様々に存在します。目的と手段をはき違えなければ、判断できることでしょうが、日々のやり方に捉われてしまっていると、それがなかなか難しい場合もあります。そこでまず、自分の頭の中の風呂敷に手段を広げ、これら手段の中から、伝達するにはどの手段がもっとも的確で、早いのか? を目的に、手段を選択していくと、自ずと判断スピードや、判断力というのは自然に磨かれていくと思います。

例えば、客先の打ち合わせで、朱入れの訂正原稿を受け取ったと仮定しましょう。この場合、多くの方がこの訂正原稿をカバンの中か大事に抱え、電車に揺られて帰るものと思われます。

電車に揺られている時間、電車を待っている時間がそもそもの無駄で、帰社してから打ち合わせに時間を割くこともハッキリ言って無駄です。WEBデザイナーを客先に同行するWEBディレクターも多いと思いますが、クライアントの顔を見せて、やる気にさせるという目的以外では、非生産的な行為としてしか思えません。WEBデザイナーは、打ち合わせに参加していることで仕事をした気になっているかもしれませんが、彼らは作ってナンボの商売です。

WEB制作スタッフの時間を無意味に割くことは、自分が楽をしたいという自分中心的な発想でしかなく、移動にかけるたかが数時間も、クライアントにとっては数時間分のコストとして跳ね返り、修正作業が遅くなる上に、遅くなった時間分が費用として計上される迷惑行為です。

丁寧なドキュメント作成で時間をかけている、先ほどの例でも同じことが言えます。プリントアウトして手で朱を入れて渡せばいい。最も早い手段が何であるか考えるべきです。紙の無駄を問題にする人もいるかもしれませんが、白黒印刷の1枚10円のコストを考えれば、丁寧に作りこんでいる時間のほうがコストとしては高くついているはずで、時間こそが最も高いコストであると言い返してしまえば、誰もが納得する答えです。

私がよく選択した手法は、(大阪での話になりますが)淀屋橋で打ち合わせをし、客先のFAXを借りるか、近所のコンビニに飛び込んで、会社にいるWEB制作スタッフに制作資料や朱入りの修正原稿をFAXで送ります。その後、大阪駅までの地下鉄1駅分を歩いて移動し、歩いている間はケータイから細かな修正指示を行います。

帰社する頃には「修正完了!」のメールが届くこともしばしばで、帰社すると同時に修正内容の反映を確認し、クライアントにメールを送信すると、「早い!」と感嘆の声とともに、クライアントから自社の制作スタッフの評価・信頼もアップしました。

要するに、とことんスピードを優先した手段選びは、自分自身をボトルネック化しない手法でもあります。この"早くする"を目的とした手段選びの判断力向上は、結果的にクライアント側の意向を汲み取ったり、目的と手段をはき違えない、本質をみるためのよい訓練になっていきます。

逆に制作スタッフを混乱させたり、意識違いなど伝達ミスなど、かけてしまう迷惑に対して臆病にならないことです。迷惑をかけてしまったとしても、次回繰り返さないようにアジャストしていくことも経験になります。

もしも判断に迷うシーンでもスピード重視。然るべき人物に判断を仰ぎ、バカのひとつ覚えと言われようが、スピードに勝る武器はありません。社内外の利害関係者をスピードで圧倒できますし、いずれは緩急を覚えていきます。

若手のプロ野球投手や、プロサッカー選手が(ペース配分を無視してはプロ失格でしょうが...)最初から飛ばしていくイメージです。ベテランにもなれば、体力を補うために配球を考えたり小技を駆使して体力を温存したり、ここぞ!というシーンやタイミングでスピードアップしているのと同じです。

訓練し経験を長年積んでも、緩急をつけるポイントが見つからないかもしれません。そんな場合も、やはりスピード重視。スピードで周囲を圧倒するという判断だけは、決して間違いではありません。

スピードを求めるあまり、雑にだけはならないよう、十分にご注意ください。

【蓮井慎也 / Shinya Hasui】WEBディレクター
地元のWEB制作プロダクションに所属。大手通販企業に常駐しWEB制作をしています。
オンライン名刺 < http://card.ly/hasui/
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