歌う田舎者[16]君は軍国酒場を知っているか
── もみのこゆきと ──

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♪ここはお国を何百里
 離れて遠き満州の
 赤い夕日に照らされて
 友は野末の石の下♪(軍歌:戦友)

実は、今回のコラムは直前に差し替えております。あんた、またですか? のReduce Reuse Recycleであります。今後、3Rしたコラムひとつにつき、環境省からエコポイントがもらえるとか、薄型テレビと交換できるとか、少子化対策のために若い男をプレゼントとか、そのような施策を閣議決定してもいいのではないかと思う今日このごろであります。

そんなわけで軍国酒場であります。我が国固有の領土である尖閣諸島を、おめおめと他国に渡すようでは、ご先祖様に申し訳が立ちませぬ。しかしながら雇用状況も厳しい昨今、自衛隊に入隊するのも至難の技。誰だ、年齢制限オーバーとか言ったヤツは? 銃殺するぞ。

そんな我々庶民のために、軍国酒場は存在するのであります。この国を守る崇高な志に燃え、我が戦友J軍曹とともに体験入隊した軍国酒場を、国民の皆さんにも紹介するであります。



通信部隊による事前の諜報活動によると、現場は繁華街裏筋の寂れたビルの4階とのことでありましたが、そのビルの名前は「軍国会館ビル」。身も心も軍国なのであります。ちなみに裏筋という単語で別のものを想像した兵士は、銃殺に処されることになっているのであります。

1階の入り口には、巨大な白紙に書かれた「軍国酒場」の看板。4階に上る階段沿いの壁には「欲しがりません。勝つまでは」「農機具は農民の汗がしみこんでいる宝物」「強い日本軍魂」などのプロパガンダポスターが。4階までの階段はじっとりと暗く、微妙に漂うすえた匂い。既にその時点で入隊する勇気がくじけそうになる腰抜けな我々なのでありますが、突然、軽快に階段を上がる若者の姿が。......酒のディスカウントショップ従業員の配達であります。

現実に引き戻された我々は、気を取り直して4階の入り口を通過。すると鳴り響くけたたましい警報。「欧米か?」(古っ!)いや「空襲か?」。店の奥には本日の上官となる大日本帝国陸軍部隊長の威厳を湛えた姿が。どうやら我々は本日初の入隊者のようであります。しかし、大日本帝国婦人部隊長の姿が見えないのであります。部隊長曰く、銃後を守る婦人部隊長は本日風邪のため休んでいるとのこと。おいたわしい。

さっそく部隊長からは焼酎の投下と食糧の配給が。食糧はカンパン・金平糖・落花生。それに「爆弾投下!」の声とともに、ゆで卵の配給もされたのであります。

店内には軍服や機関銃のレプリカ、帝国軍人の写真などのディスプレイ。BGMはもちろん軍歌であります。ド演歌以外は何でも歌う私でありますが、世に軍歌というジャンルがあることをすっかり忘れていたのであります。それでも、「ラバウル小唄」や「月月火水木金金」「戦友」「加藤隼戦闘隊」程度はなんとか判別できたのであります。加藤鷹と間違った兵士は銃殺です。チョコボール向井でもありません。

部隊長は齢75歳。軍国酒場を始めて40年。国のために戦い散っていった同胞を供養するために、この酒場を始めたそうであります。着用している軍服も、亡くなった兵隊さんの軍服を着るような失礼なことはできないと、名古屋で生地を調達し新規に縫製してもらったものだそうであります。しかし店名が店名だけに、たまには右翼が来たり左翼が来たり、ヤクザものが流れてきたりで、緊迫した状況になることもあるらしいのであります。

ちなみにこの日は、我々が19時過ぎに入隊したあと、次の入隊者が来たのは21時過ぎ。その間、入り口の空襲警報で逃げ帰った腰抜け兵士が一人。新規入隊者は50代と思しき男で、「なぜ女二人でこんなところに来ているのであるか!」と詰問されたのでありますが、聞くところによると、この新規入隊者の入隊前の所属は富士通駐屯地であるとのこと。自分と同じエンジニア出身ということで、気が付けばCOBOLのコンパイラとラインプリンタというオールドファッションな話題で盛り上がってしまった我々だったのであります。

その傍らで、J軍曹は部隊長の軍服について「その軍服の階級は大佐ですね」と鋭い指摘。星の数で階級が決まっているそうなのであります。

さて、それではせっかくなので当日の部隊長の訓示エッセンスを皆様にも開示するであります。しかし、本日の訓示内容は大日本帝国婦人部隊長が風邪だったからこその話題だったかもしれないであります。

●男はモテる男でなければ生きる資格がない

部隊長は自称モテる男であります。戦後、軍国酒場を始めるまでにも様々な商売をして儲けていたそうなのでありますが、商売とは女心を掴むことができなければ、うまくいかない。そして、あちこちに人的ネットワークを構築することが大切で、それが商売の下支えをしてくれる。だから男はモテる男、それも男にも女にもモテる男でなければならんのだということなのであります。部隊長がマーケティングや経営の本を読んでいるとは思えないのでありますが、長年の商売実践で勘所を身につけておられるのでせう。なめたらいかんのでありました。

●赤線がなくなったから離婚が増えているのである

かつて、この繁華街にも赤線なるものがあったそうであります。いにしえの男たちは、そこで女を悦ばせる様々なテクニックや駆け引きを磨いていたのに、それがなくなった今、現代の男たちは練習する間もなく女と対峙せねばならない。十分な訓練もできず結婚することになるので、現代人は離婚が多いのである......なのだそうであります。ぶ、部隊長、そ、そ、そうでありますか!。

●女はウソをつかない動物である

部隊長曰く「女はウソをつかない動物である」なのだそうであります。しかし、一般的には女の方がウソつきだろうと思うのでありますが、部隊長、お説をガンとして譲らないのであります。そして、「男は女の三倍稼いで女を養い、守らねばならない。そんな甲斐性のある男が最近はめっきり少なくなった」と嘆いておられます。部隊長は究極のロマンティストやもしれませぬ。夢を壊さぬように「そ、そ、そうでありますか」と、とりあえず頷く我々でありました。

右翼と左翼の激突も見られる、スリルとサスペンスに満ちた軍国酒場。2000円ポッキリ飲み放題食べ放題で貴殿もいかがでありますか? 部隊長に大和魂を注入されること請け合いです。なお、婦人部隊長がお休みだったせいか、食べ放題はカンパン・落花生だけで、お腹をすかせて行った我々としては、少々ひもじかったのでありました。しかし教育的観点からいくと、カンパンが食べ放題というだけでも、戦時中を思えば非常にありがたいことであります、ハイ。欲しがりません、勝つまでは。


※「ラバウル小唄」
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※「月月火水木金金」
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※「戦友」
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※「加藤隼戦闘隊」
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【もみのこ ゆきと】qkjgq410(a)yahoo.co.jp

働くおじさん・働くおばさんと無駄話するのが仕事の窓際事務員。かつてはシステムエンジニア。わしは右翼でも左翼でも軍国でもありません。ただのミーハーであります。

ところで、出張先の奄美大島で事故った。時代遅れの昭和の女はいつまでたってもiPhoneの使い方に慣れず、「ちきしょー、今度のデジクリでは散々悪口書いてやる!」と罵詈雑言吐いていたので、これはiPhoneの呪いに違いない。レンタカー会社の保険のおかげで、修理費用は20,000円で済んだといえども口惜しや。島の山中に分け入って、ハブを5匹捕獲し役場に持っていけば4,000円×5匹=20,000円で買い取ってくれるので、出費はチャラになるのだが、このわたしの色気でハブを悩殺するよりも、ハブに毒殺される確率の方が高そうなので諦めた。

来週は久々のお江戸行幸である。出張期間、ブルーノート東京ではミシェル・カミロのライブがあるし、日本青年館では鳥肌実時局講演会、浅草ロック座では「花と蛇3公開記念特別公演」があるのだが、わしはいったいどれに行ったらええがじゃ。