[2940] iPadアプリを作ってみた

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《やはりユーザ視点に立たなければならないという話。》

■わが逃走[74]
 帰ってきたオリンパス・ペンの巻
 齋藤 浩

■電網悠語:日々の想い[170]
 国際舞台:韓国テクニカル・コミュニケーター協会
 三井英樹

■デジクリトーク
 iPadアプリを作ってみた
 出渕亮一朗



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■わが逃走[74]
帰ってきたオリンパス・ペンの巻

齋藤 浩
< https://bn.dgcr.com/archives/20101021140300.html
>
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治ったー! 直ったー!というべきか。ぶっ壊れたオリンパス・ペンSが修理から戻ってきたのです。

このカメラは私の"初めてカメラ"でして、幼稚園の頃から父に借りて使っていた。数年前実家に帰った際発見し、久々に使ってみたところ、ファインダーはぼやけているし、シャッターも錆びていたけど一応しっかり写る。

ネガフィルムで撮影すると、なんともいえないレトロな写真が撮れる。21世紀の東京も、昭和っぽく写るのだ。後から気づいたのだが、昭和っぽく写る理由は単にレンズがかびてただけのことだったが。ハーフサイズ版(通常の35ミリ版の半分のサイズ)だから、36枚撮りで72枚も撮れる。それゆえデジカメ感覚でバシャバシャいける。それはそれは楽しいカメラなのだ。

さて、冬のある日。私は風邪をひいて熱を出してしまい、もうろうとしながら窓の外を見ると、なんと外は雪ではないか! これは是非ともペンで記録せねば!と思い立ってあわてて外に飛び出したところ、何をどうしたことかうっかり手がすべって大切なペンをコンクリートの地面に落っことしてしまったのです。カメラを落としたことは、後にも先にもこれっきり。まさか人生でカメラを落とす日がくるとはね。病気なんだから素直に寝てればいいものを。ああ、取り返しのつかないことをしてしまった...。カメラを見ると、ちょうど底面後側の角が2カ所へこんでいる。
< https://bn.dgcr.com/archives/2010/10/21/images/fig1 >

機械的には問題なく作動はするようだが、落としたときに歪んだ影響か光が漏れてしまうらしく、中途半端にギラギラした露出オーバーっぽいへんちくりんな写真が撮れてしまう。

という訳で、熱出した日を境にペン熱は冷め、一応修理をしてくれる店は探し出したものの持って行く気力もなくし、底面のへこみを見ると人生そのものが嫌になって死にたくなるので、防湿庫の奥深くに見えないようにしまっちゃったのでした。

それから幾年かの歳月が過ぎ、先日カメラの整理をしていると、おお、あのときぶっ壊したペンが。心の傷もだいぶ癒えてきたので再度修理してくれそうな店を調べたところ、2つ隣の駅前に良さそうな店があるではないか!

という訳で『Tカメラサービス』に持ち込んでみた。駅を降りて商店街を進み、神社を左手にみながらさらに歩く。ほんとにこの道でいいの? と少し不安になりかけた頃、黄色い看板が見えてきた。

店内を見ると、1960〜70年代のものを中心に三方の壁がカメラで埋め尽くされている。すげえ! 引き戸を開け、店内に入ると初老の男性が「今日は、どうされましたか」的なことを聞く。おお、まるで小児科の先生のようだ。

「あのー。ぼくの大切なオリンパス・ペンが〜」
「ああ、ペンね、見せてごらんなさい。ほほう、きれいに使ってるねえ」
「ところが間抜けなことに落っことしてしまったのです」
「ほほう、なるほど。ショック品、と。」
"先生"は必要事項をカルテに書き込みながら細部をチェックしているようだ。

そして、まるで「お薬は一応5日分出しておきますので、とくに手洗い、うがいを忘れずにね」とでも言うがごとく「2週間くらいで直ると思いますよ、では、こちらに連絡先を書いてくださいね。たぶん1万5,000円くらいかな」と仰った。残念なことに保険は効かない。

ふと横を見ると、そこにもオリンパス・ペンSが値札付きで置かれている。しかも人気のf2.8バージョンが1万3,800円。どうやらここでは修理を終えたカメラの販売もしているらしい。「あ、それね。修理済みですから安心ですよ。しかもここまで状態のいいペンはなかなかないですね」"先生"は言う。

うーむ、修理するよりも安く手に入るのか。しかもオレのはf3.5だからなー。買った方が安いというのはなんとも...と一瞬戸惑ったものの、脳裏に幼少の頃のペンとの思い出が走馬灯のように浮かんでは消え浮かんでは消え...。買いたい気持ちをぐぐっと抑えて「いや、修理をお願いします」。「ふふふ、みなさんそうおっしゃいますよ」。そうなんだよね。いわゆる愛着ってやつだ。デジカメにはこういうのってなかなかないですね。

8日後『Tカメラサービス』から電話があり、修理ができたという。意外に早かった。さっそく受け取りに隣の隣の駅まで向かった。"先生"からペンSを受け取り、ファインダーを覗くと「うわっ」と思わず声が出ちゃうほどクリア。ペンのファインダーってこんなに見やすかったんだ。心なしか持った感じも若々しい。ちゃんと動くなら底面のへこみも気にならない、わけでもないが、まあいい。

"先生"から修理項目の詳細を聞く。「モルトプレーン、張り替えました。レンズとファインダーは清掃してあります。シャッターも点検済みです。その他の部品もできる限り調整しました」とのこと。

うーん、満足だ。凹みの跡はそのまんまだけど、歪みも直ったことだしきっとスゲー美しい写真が撮れるに違いない! とはいえ、ああ、これで凹みさえなければな...。と思った私の目に、再びアレが目に入ってきた。修理済みのオリンパス・ペンf2.8「1万3800円」である。こいつのフタをそのまま付け替えれば...!

結局誘惑には勝てず、2台になったオリンパス・ペンSとともに家路についたのであった。
< https://bn.dgcr.com/archives/2010/10/21/images/fig2 >

ちなみにこのオリンパス・ペンSというカメラは、フィルムの装填の際、蓋を開くのではなく蓋(=裏蓋底面一体型の部品)を外すのだ。
< https://bn.dgcr.com/archives/2010/10/21/images/fig3 >

なので、同じカメラであれば差し替えが可能なはずなのだ。で、家に帰り早速蓋を交換してみたら、おお、ぴったり。これでなにもかも元通りだ。なのだが、しばらく眺めているとどうも違和感を感じてしまう。

事情を知らない第三者が客観的に見るのであれば、まったく以て美しいオリンパス・ペンSである。しかし、落っことして修理に出して蓋を交換した張本人から見れば、やはり他人のパンツ、しかも中古のパンツをはいてるようで無性に気持ち悪い。結局蓋は元通りに戻した。これはこれでまあ良しとする。カメラも直ったので心にもゆとりができたのであろうか。フィルムも用意したことだし、明日から早速撮影してみようと思う。うーん、楽しみだー。つづく。

と、本題は次回へ持ち越す訳ですが、もう少し語らせてください。この商品はソニー・ウォークマンやホンダ・スーパーカブと並んで賞賛される『日本の独創的工業製品』なのであります。

何がスゴイかといえば、ハーフサイズというアイデアの下、一切妥協のない優れたレンズと、工夫をこらし極限まで小さくシンプルにまとめあげたメカニズム─これらを高次元でバランスさせ、なおかつ低価格で販売可能にした設計がスゴイのだ。

それまで、どうしても舶来品をありがたく思ってしまっていた日本人はもちろん、世界中にメイド・イン・ジャパンというブランド(だと思う!)を信頼させた功績はとてつもなく大きい。設計とデザインは当時入社したての新人・米谷美久氏。やはり"伝説"になる商品からは作り手の顔がきちんと見えるのだ。

昨日、デロンギのコーヒーメーカーが突然壊れた。いつものように水を入れたらいきなり下から漏れてきて、床中水浸しだ。買ってから一年ちょっと。その前には、ハーマンミラーのアーロンチェアの軸が、突然ボキッという音とともに折れた。これも買ってから一年くらい。

普通に使っていてこれだ。ブランドはいずれも一流だが、どちらもメイド・イン・チャイナ。別に中国の悪口を言うつもりはないけど、一流ブランドならどこで製造しようが一定のクオリティはクリアしてもらいたいところ。メイド・イン・ジャパンだって、この信頼がいつまで続くか不安になる。

「不良品は新品と交換すればいい」という考えがあるのであれば、それは作り手の思想として問題だ。ここらで我々はオリンパス・ペンの伝説から、『メイド・イン・ジャパン』を築き上げた姿勢と情熱を学び直すべきかもしれない。

オススメの本を紹介します。
朝日ソノラマ刊 米谷美久著「オリンパス・ペン」の挑戦(絶版)
< http://www.amazon.co.jp/exec/obidos/ASIN/4257120363/dgcrcom-22/
>

【さいとう・ひろし】saito@tongpoographics.jp
< http://tongpoographics.jp/
>

1969年生まれ。小学生のときYMOの音楽に衝撃をうけ、音楽で彼らを超えられないと悟り、デザイナーをめざす。1999年tong-poo graphics設立。グラフィックデザイナーとして、地道に仕事を続けています。

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■電網悠語:日々の想い[170]
国際舞台:韓国テクニカル・コミュニケーター協会

三井英樹
< https://bn.dgcr.com/archives/20101021140200.html
>
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一つの夢が叶った。いつか日本以外の舞台で講演したい、実はずっと思っていた。それが三年越しの付き合いから、実現した。予期できぬ依頼から、思わぬ場所で。

三年前、日本のテクニカル・コミュニケーター協会(JTCA)から基調講演の話が来た。テクニカル・コミュニケータ(TC)という言葉さえ知らない状態だった。担当者は、トリセツ(取説)を作っています、と説明した。取扱説明書、或いはマニュアル、それらを専門にしている方々の団体だ。そこが「Rich Internet Application(RIA)」について語れという。正直少し驚いた。

  ▼テクニカルコミュニケーター協会
  < http://www.jtca.org/
>

Adobeさんからの紹介で、実は二年越しの計画だったと打ち明けられた。紙という立ち位置から、情報伝達の方法を工夫しようとする姿勢に惹かれた。Webから見た「紙」は、実はある意味「競合」や「駆逐すべきもの」というニュアンスがある。紙の辞書と電子辞書との比較が分かり易いものかもしれない。

しかし、電子書籍のブームを見ていても分かる通りに、デジタルと紙とは二者択一の関係にはない。紙で見た方が分かり易いものも、デジタルで見た方が使い易いものもある。逆もしかり。出版社の肩を持つ訳でもなく、共存した未来が、迎えるべき未来なのだろうと思える。

名だたる基調講演者の歴史を見せられ、汚点のように残ると尻込みした。でも、断る勇気もなく、話してみたい/交流したいという想いに押されて、引き受けた。RIAという考え方を、ユーザ中心の考え方として、使えないものを使えるように、使えるものを使い易いものに。いつものRIA論を話させて頂いた。

  ▼テクニカルコミュニケーター協会 > TCシンポジウム
  TCシンポジウム2008 プログラム詳細
  製品取扱情報を、より良いユーザ体験とするために
  〜WebのRIA技術から学ぶこと〜
  < http://www.jtca.org/symposium/2008/lecture.html
>

その講演直後に、韓国の方が近づいて来て、今回の話が生まれた。講演内容が全て理解されたようには感じなかったけれど、言葉の壁は、絵を多用していたので何とかなったようだ。その後、諸々のすれ違いや問題もあったけれど、この月曜日(2010/10/18)に形となった。


目の前に約130名。縦長のミーティングルーム。逐次通訳。こちらが笑って欲しいタイミングと、その理解が及ぶのに時間差が生まれる。そもそも台本は作らないようになっているので、アドリブが多い。時間を見て、反応を見て、それなりに話を操作することは多少はできる。しかし、その勘が通じない。誤訳や通訳者の負担を考えて、できる限り小さい単位に区切って言葉を選ぶ。自分のスタイルではない。少しもどかしい。

舞台で通訳者と二人で立つ。呼吸を合わせて行く。信頼関係が出来上がったのは、前日だ。プレゼン資料は予め送っていたが、その訳語などの調整がしたいと言われる。喫茶店で一時間、二時間分の講演サマリを話す。でも、その彼女の手には、私が今まで書いてきた記事の束があった。検索で見つけて、印刷し、この内容はこれかと問われた。

同じ話しかしていないのが丸分かりだ、と思いつつ、その熱意に驚き感動する。しかも、日本語は高校の時の第二外国語で学んだ後は、日本のアニメとTVドラマで独学したという。ニュアンス的な部分が伝わりやすかったのは、同じアニメをベースにしていたからかもしれない。

とにかく、舞台では二人三脚だ。私が中央に出て話すと、彼女も中央による。私が袖の机のところに寄ると、慌てて彼女も下がる。私のプレゼンはPDFだけれど、拡大縮小を繰り返す。しかも杖をつきながら、行ったり来たり、時に杖をポインタ代りにしてスクリーンを指し示したり。自分にしては約二時間の大活劇。

つまらない講演では、人は寝る。それは万国共通なのは分かっている。冷静な友人がカウントした限りでは、寝たのは二人だったとのこと。後ろの方まで、じっと見つめてくれている視線を感じる。逐次通訳の時差の分だけ、少し冷静になり易いのかもしれない。

言いたいことは、やはりユーザ視点に立たなければならないという話。マニュアルを先にダウンロードして、製品購入に至るという道筋は広まっている。つまり、マニュアル自体も宣伝媒体になりつつある。しかも操作説明だけでなく、活用情報が求められている。その製品がどれほど購入者の生活をハッピーにするのか。秀逸なiPhoneのCMを例に出し、Webとの連携の可能性に触れる。

  ▼YouTube - Apple iPhone 4 TV CM - バースデー
  <
>

前の晩、というか実際直前までかかった資料の修正作業で、何度も何度も脳内シミュレーションは済ませてある。鍵となる言葉はエキサイト翻訳でハングル化した。それをなぞるように進める。でも、直前に日本の現状分析データの発表もあったので、それらも取り混ぜる。途中から、腰の辺りに激痛が走る。寝ないでの準備や、直前までの負荷がたたった。でも、なんとかやり切れた。私の言うお礼と、拍手とが、やはりずれる。何度か滑稽なお辞儀を繰り返す。


正直に言うと、夢見ていたのは、英語の舞台だった。自分の英語力も顧みず、無謀な夢である。ユーザの立場に立てと言いながら、話を聞かされる相手のことを全く考えていない。なので、韓国で逆に良かったのだろう。

韓国。近くて遠い国、近くて近い国、日本語がかなりの場所で使える国、様々な文化的類似点、身内として迎えられた者への過度に思える歓待、されど苛立つほど無愛想な店員、複雑な歴史関係、複雑な国際関係。もてなしと遠慮との狭間に、様々な想いがよぎる。そして、様々な視点で様々なことを考えることができた数日間。

尖閣諸島問題も、中国の問題も、戦争問題も、日本では考え付かないことを学ぶ。文化や経済の浸透度、共通部分の広がりや、その意味するところ、諸々書けないような話も聞く。デジタルサイネージや電子書籍の話、デジタルアセット管理、マネージメント手法や業界の苦労話、今後の展望。夢物語のようなコラボレーション構想。話は広がる。話に行ったのに、学ばせて頂いている。言葉が自由にならないが故の緊張感と、一期一会の緊張感が、好奇心に火を灯す。

話し下手が、味をしめて講演好きになってしまった。そして抱いた国際舞台への憧れ。規模は大きくはなかったけれど、自分的には大きな舞台。そして、想像以上の収穫。思い続けて良かったと思う。荒唐無稽に思える夢でも、描き続けたからこそ実現したのだろうと。

Webに直結しない部分でも、溜め込んでいる幾つかの夢。次はどれが実を結ぶのだろう。楽しみにしつつ、精進精進。

【みつい・ひでき】感想などはmit_dgcr(a)yahoo.co.jpまで
・mitmix  < * http://www.mitmix.net/
>
・Twitter < * http://twitter.com/mit
>

・再々)RIAコンソーシアム・ビジネスセミナーXVII
 〜HTML5のインパクト:Web情報発信はどう変わる〜
< * http://www.riac.jp/2010/10/b-xviihtml5web.html
>
「The書道」の開発の裏側お見せします。

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■セミナー案内
PROJECT UX: Internet Explorer 9 Beta 版セミナー
< http://bit.ly/clMysW
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< https://msevents.microsoft.com/CUI/EventDetail.aspx?EventID=1032464632&Culture=ja-JP
>
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日時:2010年10月25日(月)13:00〜18:00(受付開始時間12:30)
会場:マイクロソフト株式会社 新宿本社 5FセミナールームA&B(東京都渋谷区代々木2-2-1 小田急サザンタワー)
IE 9の概要はもとより、ピンド モードやジャンプリストといった新機能の実装方法、さらにはThe ShodoのbAさんとTRENDLINEのヤフーさんをお迎えして、それぞれのHTML 5コンテンツの開発の裏側をお伝えします。
・Internet Explorer 9の概要と新機能
・Internet Explorer 9のWeb制作者向け新機能の活用
・コンシューマ向けクラウド、Windows Live の最新サービスの活用
・The Shodo(書道)開発の裏側
・TRENDLINE by Yahoo! JAPAN開発の裏側
・懇親会"Happy Hour"(ここまで主催者情報)

ここで三井も「The書道」のお話をさせて頂きます。11/2のRIACセミナーとかなり似ているキャスティングです。でも、こちらは無料w。たかがブラウザ、されどブラウザ。お時間ある方は是非!

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■デジクリトーク
iPadアプリを作ってみた

出渕亮一朗
< https://bn.dgcr.com/archives/20101021140100.html
>
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今年5月、iPadが解禁になった日に速攻で予約に行った。というのも、この手のものが現実となる日が来ることは、けっこう私には思い入れがあったからだ。

インプレス社発行の「デジタルイメージ ギャラリー 2000」に、私は未来のデジタル機器のアイデアスケッチを、CGコミック風にした作品を掲載した。「News Receiver(TM)」と名付けたその機器は、折りたたみ可能なダブル液晶見開きA4サイズ、カバンに入っていつでもどこでも見ることができる。余計なボタンやキーボードは一切なし、すべてタッチスクリーン操作、無線ネットから購読している新聞や雑誌の情報が転送されてくる。もちろんマルチメディア、画面は拡大縮小自由自在といったものだった。

今のiPadとニンテンドーDSを足して2で割った感じ(?)をもっと薄くて大きくして軽くして、2画面の継ぎ目をなくしたものだろうか。この漫画自体がそのデジタル機器に表示されているという設定で、どんなページめくりのUIになるかとか想像を膨らませていました。
< https://bn.dgcr.com/archives/2010/10/21/images/digitalimage2000 >

また、以前、ひつじ書房の松本功さんらによる「投げ銭システム」の話があった。今はインターネットはタダ見のものだけど、良い、役に立ったと思ったものに10円でも100円でも投げ銭できればいいんじゃないだろうか、といったものだったと思う。iTuneやAppストアのシステムは、それに近いものを実際うまく実現していると思う。

そこで、iPad/iPhoneのアプリって実際どんなふうに開発するんだろう? と体験したくなり、ひとつ挑戦してみることにしたのだ。

まず、iPhoneデベロッパプログラム(有償)に登録しなければならない。Appストアに登録しているIDで、このプログラムをクレジットカードで購入するのであるが、開発者名の日本語表記、ローマ字表記の問題でうまくいかず、Appleの日本支社に連絡して対応してもらった。

そして、iPhone SDKをダウンロードする。最新版はiOS SDK 4.1 Xcode 3.2.4(2010/10/17現在)である。

Xcode(開発ツール)のプログラミング言語は基本、Objective-Cというものである。ここでざっくりとプログラミング言語の話をすると、ネイティブなアプリケーション開発言語は、WindowsはおもにC++、話題のAndroid OS等はJava、MacやiPhoneはObjective-Cということになるが、実はすべて、C言語の子孫だと言える。オブジェクト指向言語(プログラミング用語です)に進化するときに、個々にまあこだわりというか主張があって微妙に異なってきたものなのだ。

iPhoneプログラムを始めてわかったことは、実は、Xcodeは、C++も使えるということだ(これをObjective-C++と呼ぶこともある)。そのため、Windowsで開発したアプリのソースコードをごっそり移植することができるのだ。

ただ、OSやハードに依存するコアな部分はObjedtive-Cで記述する必要があるが、自分の作りたい部分のクラス(プログラミング用語です)はそのまま使うことができた。

OSやハードに依存するものとは、この場合、
・基本ループの部分、描画ルーチンのイニシャライズ
・デバイスの扱い、例えば、マウスをマルチタッチに変更
・描画ルーチンのOpenGLを OpenGL ES に変更(OpenGLは3Dを描画するためのプログラム規約、ESは組み込み用に特化させたもの)
・サウンド等のメディアの扱い
・iPad固有の加速度センサーの処理等
などである。

Objective-Cを使うことは、C++やJavaと違ってここがいいんだ! みたいなことは、何かというと、抽象的な表現となるのですが、ここで「スタートボタンを押す」とプログラムしておけば、動作中にカメラでも、CDプレイヤーでも、洗濯機でも、掃除機でも何がきてもそれをスタートさせることができるという点かな。あたり前のようですが、このあたりの人間の感覚に近いことが他ではなかなかできなかったのです。

このように、プログラミングは意外とすんなりといったが、実はそれよりも、アプリを実機のiPad本体で動作させたりする手続きにすごい時間が取られたのだ。アプリの開発には何重もの関所が設けられており、また、この辺りはすべてデベロッパーサイトの英文を読みこまなければならないのだ。

例えば、アプリのIDは固有なものとするために、<ドメイン名>.<アプリ名>とすることが推奨されており、このために、自分のドメインを取得することにした。アプリサポートのURLが必要ということもあったのだが。

アプリが完成したら、Apple社にネット経由でアプリ情報とともに提出するのだが、ここで巷で問題にされている審査がある。私のアプリは8月の段階ではあっさりと審査を通った(審査開始と合格メールから推定すると審査時間2分!?)。だが、今はまた状況が変わったようである。(後述)

ここで、iPhone/iPadアプリ開発の参考本をいくつか紹介します。

・徳井直生著「ユメみるiPhone クリエイターのためのiPhone SDKプログラミング」
イラストや文体等、初めての人でも楽しく読めるように工夫されています。
< http://www.amazon.co.jp/exec/obidos/ASIN/486267058X/dgcrcom-22/
>

・横江宗太著「OpenGLで作るiPhone SDKゲームプログラミング」
中級者向け、3Dに挑戦したい人に。
< http://www.amazon.co.jp/exec/obidos/ASIN/4844328085/dgcrcom-22/
>

・橋本佳幸著「iPad プログラミングの作法」
中級者向け、iPad対応本。
< http://www.amazon.co.jp/exec/obidos/ASIN/4798026417/dgcrcom-22/
>

・大津真著「Xcodeによる、Objective-C入門」
初心者向け、そもそもプログラミングは? という人に。iPhoneアプリは作れないが、Macのアプリは作れます。
< http://www.amazon.co.jp/exec/obidos/ASIN/4839931879/dgcrcom-22/
>

但し、OSの仕様やサンプルコードはどんどん変わっていくので、常に最新情報はデベロッパーサイトでチェックすることがやはり必要だ。

●最近の状況

この9月にiPhone/iPadアプリ開発の状況が変わってきたようだ。まず、今までブラックボックスであったアプリ審査であるが、Appストア審査ガイドラインというものがApple社から公開された。

その中で気になるのが、「特に役に立つか、長続きするエンタメアプリでないとだめ」という項目である。実用的なアプリかゲームアプリ以外は締め出すということかもしれないのだ。携帯アプリアート(mobile app art)というシーンも盛り上がってきそうだったのだが、水をさされるかもしれません。

また、今までは、iPhone/iPadアプリ開発はXcode等のみしか使えなかったのだが、サードパーティのものでもOKとしている。たぶん、ウイルスを恐れてFlash非対応だったのだが、今後は変わっていくのだろう。HTML5を使ってウェブアプリを作れば、iPhone/iPadアプリと同じようなものができるとのコメントもある。

携帯タブレット、スマートフォン業界は、Apple社のiOS、Google提供のAndroid OS、MicrosoftのWindowsPhone 7と三つ巴の戦いとなり、今後どうなっていくか目の離せないシーンではありますね。

◎AL Volvox こうして完成したiPad向け無料アプリ
< http://itunes.apple.com/jp/app/al-volvox/id386460460
>

AL Volvox(エイエル ボルボックス)は顕微鏡で覗いたミクロワールドをイメージしてみました。ボルボックスは隠れファンも多いという、小さなマリモのような美しい微生物です。しかし、ほっておくとちょっとリアルな敵の微生物、プロトゾアにどんどん食べられてしまいます。特に何をするというアプリでもないのですが、熱帯魚を眺めるようにのんびりと楽しんでいただければと思います。

参考:iPad/iPhoneアートがいろいろ紹介されているサイト
CreativeApplications.net
< http://www.creativeapplications.net/
>

【出渕亮一朗】ryoichiro.debuchi(a)gmail.com
コンピューターグラフィックス、インタラクティブアート分野のアーティスト、グラフィックス分野のプログラマー
< http://www.debuchi.com
>

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■編集後記(10/21)

・SFマガジン3月号の、創刊50周年特別企画「オールタイム・SF映画ベスト50座談会」をあらためて楽しく読む。参加者は高橋良平、柳下毅一郎、鷲巣義明、渡辺麻紀、司会/添野和生の各氏。約1,200本のリストから、各氏が自分のベスト50をあげ、集計リストをもとに合議で順位を確定した。昨年11月の収録なので、「アバター」など最近一年のSFは含まれない。1位から10位までは、ブレードランナー、キング・コング(1933)、メトロポリス(1927)、スターウォーズ・帝国の逆襲、2001年宇宙の旅、エイリアン、ヴィデオドローム、ターミネーター、ゴジラ(1954)、未来世紀ブラジルとなる。じつに納得できるベスト10だ。わたしはすべてを見ており、なんとなく誇らしい。また、11位から50位までのうち25本見ているから、ベスト50のうち35本、けっこう成績がいいかも。告白するが、映画史上最高と言われている「2001年」は、何度も見ているが未だによくわからない。「惑星ソラリス」も同様だ。わたしのお気に入りの「バック・トゥ・ザ・フューチャー」「E.T.」「トロン」が入っていないのはなぜだ。まあ、ベスト何とかなんてお遊びだからいいけど。座談会の勝手きままな丁々発止のやりとりはおもしろい。「ブレードランナーはワン&オンリーだった。提示したのが技術じゃなくて世界観だったからだろう」という渡辺説に同意。週末、ベスト50リストを持ってレンタルショップへ行くぞ。(柴田)
< http://www.amazon.co.jp/exec/obidos/ASIN/B003374SA0/dgcrcom-22/
>
→アマゾンで見る(レビュー1件)

・今月のセゾン・アメックス請求書同封冊子を見て驚いた。表紙からいきなりiPhoneアプリアイコン群。「快適アプリケーションライフ!」とある。え? これ、何の冊子だっけと確認したぐらい。巻頭4ページが分野別おすすめアプリ。スケジュール、教育、マネージメント、エンタメ、グルメ、旅行。5,600ポイントでiPod touch交換できますよ、1,000ならiPod Shuffle、3,500ならiPod nano、そしてiTunesカードのプレゼントありますよ、に続くんですけれどね。いやいや、私はそのアプリより、紹介されていないこっちの方がいいと思うけどな〜なんて思いつつ読む。サイトでも「秋・アプリ2010」として特集があって、違うアプリが紹介されていた。分野は重なるものもあって、旅行、アート、美と健康、本、グルメ、教育。一般向け冊子なら、まずはiPhoneやiPod touchの紹介から入り、そこからアプリの話だと思うんだけど、アプリから入るのって、一般に浸透しているってことよね。/MacBook Air薄っ! 安っ! 小さっ!/出渕さんのアプリ、インストール中。(hammer.mule)
< http://www.cspresse.net/article/amex/appli/
>  秋・アプリ2010
< http://www.apple.com/jp/macbookair/
>  MacBook Air
< http://www.apple.com/jp/macosx/lion/
> タッチパネルのマックが出る?
< http://vipvipblogblog.blog119.fc2.com/blog-entry-289.html
>
【プログラマー板】印象に残ったコメントを晒せ