Webディレクター養成ギブス[06]曖昧を排除する
── 蓮井慎也 ──

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「フレキシブル(柔軟)に対応します!」今やどこのWEB制作現場でも標語のようになってしまっているこの"柔軟性"は、WEB制作プロダクションにとって、クライアントから求められているポイントです。クライアントの競合企業の動きに合せたり、社会情勢に合わせるこの柔軟さは、企業としてだけではなく、個人にもますます求められる要素ですが、この柔軟であることの裏側にはファジー(曖昧)という意味を併せ持ってることをご存知でしょうか。

当然、ファジー(曖昧)は求められていません。よってファジー(曖昧)を徹底的に排除しつつ、できる限りフレキシブル(柔軟)に対応することが、受注側の制作時間(リードタイム)を短縮し、発注側への請求額と受注側のリソースを抑えることになります。

いくら「フレキシブル(柔軟)に対応します!」と謳っていたとしても、曖昧がまかり通るWEB制作現場では、WEBディレクターがクライアントの言いなりとなり、聞いたことを右から左に流すようにWEB制作者に連絡し、意識違いがさらなる意識違いを生み、手戻りも多くなり、結果的に納期に間に合わない、あるいはギリギリ、連絡の行き違いや、様々な勘違いを生み、泥沼にハマるように負の連鎖が襲ってきます。

クライアントの考えや意図、好みの部分を読み解き、それをWEB制作者に理解できる言葉で的確に言い換えていくことが、WEBディレクターの役目であり、先に述べた受注側の制作時間(リードタイム)を短縮し、発注側への請求額と受注側のリソースを抑える役目も担っているのが、WEBディレクターと言えるでしょう。

では、このフレキシブル(柔軟)と相反するファジー(曖昧)を、一体どのように排除していくか、WEB制作現場から離れ、私たちの生活の中から見ていきたいと思います。



例えば、どこかで待ち合わせをするとき、どういった約束をするのか想定してみると、「○○(ランドマーク付近)で○時ごろ」こういった場所と時間指定をしていると思います。これは携帯電話の普及によって、およその時間にその場所付近に到着すれば、携帯電話を用いて連絡を取り合い、細かい場所を決めていくことができるようになったからです。

携帯電話が普及する前は、一旦外出してしまえば連絡を取り合って、あとで細かい場所指定をすることが難しいため、外出する前から「ランドマーク付近で○時」などと、より具体的な時間と場所の約束がなされていました。待ち合わせ場所に遅れるなどご法度で、携帯電話はメールで「遅れます」など連絡手段もほぼなかったため(待ち合わせ場所が喫茶店なら可能でしたが)、なおさら移動手段や径路、到着するまでの時間など相当な段取りがあったのだろうと想像します(私が社会人になった頃、すでに携帯電話は普及していましたので)。

携帯電話の普及に伴い、私たちは利便性を手に入れた反面、事前の段取りというものを失ったのだ、と言えると思います。

日本人は、特性として、TPOによって言葉を濁した表現と、その場を取り繕う言い回しを好む基本的性質があるようです。だからといってWEBディレクター自身が曖昧であってはいけません。むしろ柔軟なWEBディレクションが求められるために、「○時頃」「大体○○な感じで」と、相手に語尾を濁されることは甘受し、自分自身はなるべく語尾を濁さない表現を心がける必要があります。

これをWEBの制作現場に置き換えて考えてみると、簡単なところでは、色と時間が思い当たります。もっと複雑なシーンもありますが、よくあるシーンとして色と時間の問題で考えてみたいと思います。

「赤っぽく」と聞いて、"真っ赤"を連想する人がいる中で、一部の人は"朱"だったり、"ワインレッド"を連想する人もいるかもしれません。人によって感覚の違いがあってもよいのですが、ビジネスにおいてはクライアントという発注者が指定する「赤っぽく」が、どういった赤を連想しての赤なのか、具体的に聞き出し、その赤を的確にWEB制作者に伝えることが重要です。「ワインレッドで」と伝えるでも構いませんし、16進数で置き換えた指定でもいいのかもしれません。

また、「夕方」も人によってバラつきがあります。おおよそ15:00〜19:00の間に限定されるようですが、クライアント側は15:00だと思っていて、WEB制作側19:00だと思っていたと仮定すると4時間もの開きがあります。待ち合わせ場所で4時間待たされた感覚とイコールの待たされた感はないにせよ、不信感が募る一方です。「夕方とは何時ですか?」と、その人にとっての時間をなるべく正確に掴むことが重要になってきます。

勘違いしていただきたくないのは、杓子定規になってください、というのではありません。

自分(を含めたWEB制作者)には曖昧に厳しく、クライアントにとっては曖昧に優しく、という意味で捉えてください。

A社のOさんの夕方は17:00だけれど、B者のPさんの夕方は16:00と、相手によって合わせていくのは混乱しそうですが、意識しながら案件をひとつでも多くこなしていけば身につく内容ばかりです。曖昧を排除していくことは、クライアント担当者から「分かってるね!」と重宝がられ、競合他社の参入障壁になります。

より意識違いをなくす意味でも、5W1Hで話す心がけも大事です。曖昧の排除した表現に加え、5W1Hを明確にすることで、さらに意識違いをなくすことができます。

なお、WEBディレクター自身がいくら気をつけたとしても、WEB制作者の納品物のテストアップ時間が曖昧だったとしたら元も子もありません。よって、一緒に働くWEB制作者には、この曖昧を排除してした表現を求めるべきで、いずれはWEBディレクターにキャリアアップしたり、時にはクライアントとの電話による窓口折衝をするシーンを想定するならなおさら、制作プロダクション内では徹底した訓練が必要であると思われます。

曖昧とは、WEB制作現場に混乱をもたらし手戻り作業を増やすとともに、曖昧な時間設定がクライアントに不信感を抱かせます。多くのWEBサイトを捌くことが求められるWEBディレクターは、曖昧な表現を使うことが、その場をしのぐ意味では有効な場合もありますが、結果的には非効率につながるため、曖昧を使い分けられるレベルに到達するまでは、徹底して曖昧を排除していくことが得策です。

フレキシブル(柔軟)≠ファジー(曖昧)を念頭に、フレキシブル(柔軟)を追求するとともに、ひとつでも多くのファジー(曖昧)をWEB制作現場からなくし、クライアントとの良好な関係構築、意識違いのないWEB制作進行を実現いただきたく思います。

【蓮井慎也 / Shinya Hasui】WEBディレクター
地元のWEB制作プロダクションに所属。大手通販企業に常駐しWEB制作をしています。
オンライン名刺 < http://card.ly/hasui/
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