装飾山イバラ道[65]文化祭と「なお君のクレヨン」
── 武田瑛夢 ──

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秋も深まり、文化祭や学園祭のシーズンだ。中学の頃は文芸部かなにかで絵本を作り、コピーで製本した冊子を無料で配布した。同じクラスの女の子と二人で作った絵本のタイトルは、確か「なお君のクレヨン」で、思いのほか評判が良く、あっという間に用意した本がなくなって嬉しかったのを覚えている。

絵本のストーリーは私が考えて、絵を私が描いた。アレ? 友達の出番は? 確か、私の構想した話を横で聞きうなずいてくれたんだ。何にもしなくてごめんね的なことも言われたけれど、横でうなずいてくれる人がいることがクリエイターにとってどれだけ大事かは言うまでもない。中学生の私にとってそれは二人の共作だった。

「なお君のクレヨン」のあらすじを、思い出せる程度に紹介したい。幼稚園児のなお君が持っているクレヨンは、なぜかみどり色だけが短くてボロボロ。他の色に比べても一番みすぼらしくて、いつも箱の中では下の方に追いやられている。

ある日の夜中、誰もいなくなった教室のお道具箱の中で、クレヨン同士のいじめが起こる。綺麗でピカピカのオレンジ色のクレヨンがボス格となり、短いみどり色のクレヨンに「やーい、短くて汚くてみっともない!」とひどい言葉をあびせる。みどり色は言い返さない。



秋になり、なお君が朝幼稚園に行くと、どこからかすばらしく良い匂いが漂って来る。幼稚園の庭のなお君が好きだったみどり色の木に、たくさんのオレンジ色の小さい花が咲いていた。先生に聞いてみるとそれはキンモクセイの花だと言う。

なお君は、さっそくそのキンモクセイの花の絵を画用紙いっぱいに描く。今までみどり色のクレヨンばかりが使われた理由は、なお君が木の絵を描くのが大好きだったからなのだ。

それまで出番のなかったオレンジ色のクレヨンは、満開のキンモクセイの花の絵となり、すっかり短い姿のクレヨンとなる。そしてオレンジ色のクレヨンは、絵になる喜びをみどり色と分かち合い、今までのことを謝って仲直りする。平和解決だ。

ちょっとクサいけれど、今思えばいじめ問題やアイデンティティー、生き甲斐などのテーマが入っている感じだ。どこまで意図していたかは覚えていないけれど、中学生にしてはなかなか深い。文化祭の季節が、ちょうどキンモクセイの花の咲く時期とも重なるのが周囲に受けたのかもしれない。

高校の文化祭ではオバケ屋敷の幽霊役をやったし、友達と特撮映画も撮った。大学では何もしていなくて、ちょっともったいなかったな。たぶんその頃は、バイトのおもしろさを覚えてしまったからだと思う。ロボット製作会社やステンドグラスの会社で、物を作りながらお金がもらえた。

他の大学の学園祭にも出かけたけれど、やっぱり自分で何かを作らないと記憶には残らないものだ。芝居を作ったり、イベントを開催したり、自分の責任において何かを作って結果を出すということ。学園祭を盛り上げていた皆はそういうことをひとつひとつ積み重ねていたんだと思う。若いうちに経験しておいた方がいいことだ。

うちの最寄り駅にも学校がいっぱいあるので、学園祭のシーズンは駅前が騒がしい。酔っぱらいは嫌いだけれど、短い学園生活なのだし、おおらかな目で見たい。

【武田瑛夢/たけだえいむ】eimu@eimu.com
装飾アートの総本山WEBサイト"デコラティブマウンテン"
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前回紹介した多摩美版画の展覧会へでかけた。今回は搬入等一切お任せだったので、はじめて展示されている自分の作品を見た。マットも額装もそれぞれの作品に合わせて、主催者側で整えるスタイル。目新しさはないけれど、それぞれの絵に合わせたあしらいにきちんとコーディネイトされていて、さすがな見せ方。懐かしい同級生の作品や、教授の作品、様々な種類の版画をたくさん見てゆっくりと楽しむことができた。今回レセプションに参加できなかったのは残念だったけれど、出展できたのは良かったと思う。インクジェットの作品も何点かあったし、ミクストメディア風に仕上げてあるものなどいろいろ。150点以上の作品があるので見応え充分です。ぜひお出かけ下さい。

「Print Composition 2010 多摩美術大学版画の40年」
会期:2010年10月23日(土)〜11月21日(日)10:00〜18:00 火休
会場:多摩美術大学美術館(東京都多摩市落合1-33-1)
< http://www.tamabi.ac.jp/museum/exhibition/next_default.htm
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